定年再雇用と75歳到達時の社会保険手続き|同日得喪の進め方

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

定年を迎えた社員をそのまま再雇用したとき、給与が下がったのに社会保険料が高いままだと、本人からも「これはどうにかならないのか」と聞かれます。ここで使えるのが「同日得喪」と呼ばれる手続きです。あわせて、社員が75歳になったとき、70歳を超えたとき、そして高齢の社員が退職するときに会社が何を出すのかを、順番に整理します。手続きそのものは難しくありませんが、「いつ気づくか」で手間がまったく変わる分野です。

この記事の結論

  • 定年後に退職と再雇用が途切れずに続く場合は、同じ日付で資格喪失届と資格取得届を同時に提出する「同日得喪」により、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額へ早期に見直すことができます。
  • 社員が75歳になると健康保険の被保険者資格を失い、後期高齢者医療制度に移ります。会社は健康保険の資格喪失届を提出し、保険証(資格確認のための書類)を回収して返納しますが、厚生年金は要件を満たす限り継続します。
  • 75歳以上の社員が退職する場合、健康保険はすでに脱退済みのため、会社が行うのは主に雇用保険の資格喪失手続きと、在職中の届出内容の整理になります。

定年再雇用で会社が最初に確認する3つのこと

定年を迎えた社員を継続して雇う場合、会社側でまず確認するのは「①雇用が途切れずに続くか」「②再雇用後の労働時間・日数が社会保険の加入要件を満たすか」「③給与が下がるか」の3点です。この順に見ていくと、必要な手続きが自然に決まります。

①で雇用が継続し、②で加入要件も満たすなら、保険関係は原則として続きます。そのうえで③で給与が下がるなら、同日得喪という方法で標準報酬月額の見直しを検討します。②の要件を満たさなくなる働き方(大幅な時間短縮など)に変わるなら、資格喪失の手続きが必要になり、本人は国民健康保険や家族の被扶養者などへの切り替えを検討することになります。

③で給与が変わらないなら、社会保険についてはとくに手続きが生じないこともあります。まず「変わったのは何か」を書き出してから届出を考えると、漏れが減ります。

同日得喪とは何か、どんなときに使えるか

通常、給与が下がったときの標準報酬月額の改定は、変動後の数か月の給与をもとに行う随時改定によります。そのため反映まで時間がかかり、給与が下がった直後の数か月は、以前の高い報酬をもとにした保険料が続いてしまいます。

そこで、定年などで退職し、同じ日付で引き続き再雇用される場合には、いったん資格を喪失し同じ日に再取得したものとして扱い、再雇用後の給与で標準報酬月額を決め直す取り扱いがあります。これが実務で「同日得喪」と呼ばれるものです。対象となる年齢や取り扱いの範囲は運用によって整理されているため、日本年金機構の案内や、加入している健康保険組合の資料で最新の内容を確認してください。

ポイントは、退職と再雇用のあいだに空白がないこと、そして雇用契約が新しく結び直されていることです。就業規則上の定年に達し、新たな嘱託契約に切り替わるといったケースが典型です。判断に迷うときは、年金事務所や社会保険労務士に事前相談すると安全です。

同日得喪の進め方|いつ・何を・どこに出すか

タイミングは、再雇用が始まったあと速やかに、が基本です。定年日と再雇用開始日が決まった時点で準備を始め、再雇用後の給与額(基本給、役職手当、通勤手当などを含む見込み)を確定させておきます。

用意するのは、被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届の2点を同じ日付で作成したもの、そして退職と再雇用が連続していることが分かる書類です。一般には、退職辞令の写しと新しい雇用契約書の写し、あるいはその事実を確認できる事業主の証明が求められます。必要書類の組み合わせは提出先によって異なるため、提出前に確認してください。

提出先は、協会けんぽ加入の会社であれば事務センターまたは管轄の年金事務所です。健康保険組合に加入している場合は、健康保険分は組合、厚生年金分は年金事務所という二本立てになることがあります。電子申請にも対応していますので、届出が多い会社は電子での運用に寄せると管理が楽になります。

被扶養者がいる場合は、資格取得にあわせて被扶養者の届出も出し直します。健康保険証(または資格確認に使う書類)の扱いも変わりますので、本人に事前に説明しておくと、病院にかかるタイミングでの混乱を防げます。

70歳・75歳の節目で会社がすること

70歳になると、厚生年金保険の被保険者としての資格は原則として失われ、要件を満たす働き方を続ける場合は70歳以上被用者としての扱いに移ります。健康保険は続きます。この切り替えは届出が必要になる場面があり、給与額が変わるタイミングと重なると処理が複雑になりがちです。

75歳になると、健康保険の被保険者ではなくなり、後期高齢者医療制度に移ります。会社は健康保険の資格喪失届を提出し、本人と被扶養者の保険証(資格確認のための書類)を回収して返納します。ここで見落としやすいのが被扶養者です。配偶者などが被扶養者になっていた場合、本人の資格喪失にともなって被扶養者でもなくなるため、その方は国民健康保険への加入など別の手続きを自分で行う必要があります。会社から早めに案内しておきたい点です。

誕生日の前日に年齢が到達するという数え方をするため、月末月初が誕生日の社員は保険料の計算月がずれることがあります。給与計算担当者と共有しておきましょう。健康保険組合に加入している場合は、組合独自の様式や期限が設けられていることもあります。

75歳以上の社員が退職するときの手続き

75歳以上の社員が退職する場合、健康保険についてはすでに後期高齢者医療制度に移っているため、会社が改めて健康保険の資格喪失届を出す場面は通常ありません。厚生年金も70歳で被保険者ではなくなっているため、70歳以上被用者としての届出を出していた場合は、その不該当の届出を行います。

実際に会社が行うことが多いのは、雇用保険の資格喪失手続きと離職票の交付です。雇用保険は年齢による上限がないため、要件を満たして加入していた場合は、退職時に通常どおりの手続きが必要になります。離職票を希望するかは本人に確認しましょう。

そのほか、給与計算上の締め、社内の備品や身分証の回収、住民税の異動届など、社会保険以外の事務も同じタイミングで発生します。退職日が決まった段階でチェックリストを作り、健康保険・厚生年金・雇用保険・税の4本立てで確認すると抜けにくくなります。

よくあるつまずきと、社内の仕組み化

つまずきの多くは、「気づくのが遅い」ことから生じます。定年日や75歳の到達日は、入社時点で分かっている情報です。人事データに生年月日から逆算した節目の月を持たせ、3か月前にアラートが出るようにしておくと、手続きが後追いになりません。

次に多いのが、再雇用後の契約内容があいまいなまま手続きに入ってしまうケースです。労働時間、日数、給与額、契約期間を書面で確定させてから届出を作ると、やり直しが減ります。本人への説明も、保険料と手取りがどう変わる見込みかを含めて、契約の話と同じ場でしておくのが親切です。

高齢の社員が増えると、在職中の年金との関係、健康保険の被扶養者の扱い、介護保険料の徴収終了など、個別の判断が混ざってきます。制度の要件は改正されることがあるため、日本年金機構や所管官庁の最新資料を確認し、判断に迷う点は社会保険労務士に相談してください。自社の就業規則や再雇用制度の設計そのものを見直す場合も、労務の専門家と一緒に整理すると、手続きと制度の整合が取りやすくなります。

よくある質問

定年再雇用で給与が下がりました。同日得喪をしないとどうなりますか。

同日得喪を使わない場合、標準報酬月額の見直しは通常の随時改定によることになり、反映されるまでに数か月かかることが一般的です。その間は下がる前の報酬をもとにした保険料が続くため、本人の手取りに影響します。要件に当てはまるかどうかは年金事務所や社会保険労務士にご確認ください。

75歳になったら、社員本人が何かする必要はありますか。

後期高齢者医療制度への加入は、多くの場合お住まいの市区町村から案内が届き、本人の申請を要しない取り扱いが一般的です。ただし、被扶養者だったご家族は自分で国民健康保険などへの切り替えが必要になります。会社からは、保険証(資格確認のための書類)の返却と家族の手続きについて事前に案内しておくと親切です。

再雇用後にパート勤務になった場合も、社会保険は続きますか。

労働時間や日数などの加入要件を満たすかどうかで判断が分かれます。要件を満たさなくなる場合は資格喪失の手続きが必要で、本人は国民健康保険や家族の被扶養者への切り替えを検討することになります。要件は改正されることがあるため、所管官庁の最新資料を確認するか、社会保険労務士にご相談ください。

70歳を過ぎた社員の厚生年金保険料はどうなりますか。

70歳到達により厚生年金保険の被保険者資格は原則として失われ、保険料の負担も終了する扱いが一般的です。ただし、要件を満たす働き方を続ける場合は70歳以上被用者としての届出が必要になることがあります。在職中の年金額への影響も含め、個別の取り扱いは年金事務所または社会保険労務士にご確認ください。

あわせて読みたい

「採用・労務」の記事をすべて見る →

次に決めること

記事をすべて見る(1087本)→

この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。