定款の事業目的を追加・変更する手続き|必要書類と登記費用の目安
「登記した事業目的に書いていない仕事を受けてしまいそう」「許認可を取りたいが、目的の文言が足りないと言われた」。設立から少し経つと、この相談がぐっと増えます。事業目的の追加・変更は、株主総会で定款を変え、法務局に変更登記を出す、という流れ自体はシンプルです。ただし、決議の要件・書類の書き方・費用の見積もりでつまずく人が多いのも事実です。この記事では、いつ・何を用意して・どこに出すかを順番に整理します。
この記事の結論
- 定款の事業目的を追加・変更するには、株主総会の特別決議で定款を変更し、原則として2週間以内に本店所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請します。
- 主な必要書類は、株主総会議事録、株主リスト、登記申請書で、登録免許税は登記事項の区分ごとに定められた額を収入印紙などで納めます(最新額は法務局・国税庁の案内で確認してください)。
- 定款そのものを法務局に提出する必要は通常ありませんが、会社に保管する定款(原始定款とは別の現行定款)は自社で更新して管理しておきます。
そもそも定款の事業目的は、追加・変更しないとどうなる?
会社の事業目的は、定款に書かれ、そのまま登記事項として登記簿に載ります。つまり、取引先や金融機関、許認可の窓口から見える「この会社が何をする会社か」の公的な表示です。新しい事業を始めるとき、その内容が登記された目的の範囲に収まっているかどうかが、最初の確認ポイントになります。
目的に書いていない事業を行ったからといって、それだけで取引が無効になるとは限りませんが、実務上は不都合が起きやすくなります。たとえば、建設業・宅建業・人材派遣・古物商・旅行業などの許認可では、申請時に「目的にその事業の記載があるか」を確認されることが一般的です。また、融資審査や新規の取引開始時に、登記簿の目的と実際の事業内容が食い違っていると、説明を求められることがあります。
逆に、目的を増やしすぎるのも考えものです。実態とかけ離れた目的が大量に並んでいると、何をしている会社か伝わりにくくなります。「今やっている事業」「1〜2年以内に始める可能性が高い事業」「許認可で必要な文言」を基準に、必要な範囲で追加するのが落ち着いた選び方です。
設立にかかる法定費用
どちらの形態でもかかる、国が定めた費用です。設立代行サービスの手数料は、これとは別にかかります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税(設立登記) | 資本金の額の1,000分の7。15万円に満たないときは1件につき15万円 | 資本金の額の1,000分の7。6万円に満たないときは1件につき6万円 |
| 定款の認証手数料 | 資本金100万円未満 3万円/100万円以上300万円未満 4万円/300万円以上 5万円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
| 定款の謄本(同一の情報の提供) | 1枚につき250円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
| 収入印紙(紙の定款の場合) | 4万円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
手続きの全体像|株主総会 → 定款変更 → 法務局へ変更登記
流れは大きく3ステップです。第一に、株主総会を開いて定款変更の決議をします。事業目的の変更は定款変更にあたるため、原則として特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成。定款で要件が加重されている場合はその定めによる)が必要です。ひとり株主の会社でも、決議をした事実を議事録に残すという手順は変わりません。
第二に、定款変更の効力が生じます。決議で効力発生日を定めればその日、特に定めなければ決議の日が基準になるのが通常です。第三に、効力が生じた日から原則2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ変更登記を申請します。この2週間という期間は会社法に定められた登記期間で、遅れた場合に過料の対象となることがあります。
なお、合同会社の場合は株主総会ではなく、総社員の同意などの社内手続で定款を変更し、同じく変更登記を申請します。株式会社と書類の名称が変わるため、自社の会社形態に合わせて準備してください。
必要書類は何をそろえる?
株式会社の事業目的変更で、一般的に必要になるのは次の書類です。①登記申請書(変更の内容と変更後の目的をすべて記載する形が一般的です)、②株主総会議事録(開催日時・場所、出席状況、決議の内容と結果を記載)、③株主リスト(議決権数の上位株主などを代表者が証明する書面)。代理人に依頼する場合は委任状が加わります。
見落としやすいのが株主リストです。一定の登記申請で添付が求められるもので、これがないと補正になります。また、議事録には、変更後の事業目的を「第◯条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。1.〜」の形で、条文まるごと書き換える形式で記載しておくと、登記官にも社内にも分かりやすくなります。
定款そのものは、通常は添付書類になりません。ただし、会社側では「変更後の現行定款」を作り直して保管します。設立時の原始定款だけを持っていて、その後の変更が反映されていない会社は少なくありません。許認可申請や金融機関から定款の写しを求められたときに困るので、変更のたびに更新しておくのが安全です。
費用の目安はどう見積もる?
費用は大きく2種類に分かれます。1つは法務局に納める登録免許税で、これは法令で区分ごとに定められた額です。金額は改正されることがあるため、申請前に法務局または国税庁の公式案内で最新の額を確認してください。納付は収入印紙を申請書に貼る方法などによります。
もう1つは、司法書士に依頼する場合の報酬です。報酬額は事務所ごとに異なり、他の登記(本店移転、役員変更など)を同時に行うかどうかでも変わります。金額を知りたい場合は、複数の事務所に見積もりを取り、何が含まれる金額か(登録免許税は別か、登記事項証明書の取得費用は含むか)を確認するのが確実です。
そのほか、変更後の登記事項証明書を取得する費用、目的変更にともなって許認可の変更届が必要になる場合の手数料などが発生することがあります。「登記だけ終われば完了」とは限らないので、許認可を持っている会社は、所管窓口に届出の要否をあわせて確認しておきましょう。
自分で申請するか、司法書士に頼むか|判断の順番
迷ったら、次の順に見てください。第一に、同時に行う登記が他にあるか。役員変更や本店移転、増資などと重なるなら、書類の整合性を取る手間が増えるため、専門家に一括で依頼したほうが結果的に早いことが多いです。第二に、株主が複数いて、決議要件や委任状の扱いに不安があるか。ここでつまずくと議事録の作り直しになります。
第三に、許認可の取得・更新が目的の場合。許認可の窓口が求める文言と、登記できる目的の表現をすり合わせる必要があるため、許認可に詳しい専門家(行政書士・司法書士)に事前相談したほうが手戻りが減ります。反対に、ひとり株主・ひとり役員で、目的を1〜2行追加するだけ、期限にも余裕がある、という場合は、法務局の記載例や相談窓口を使って自分で申請する選択肢も現実的です。
自分で進める場合は、申請前に管轄法務局の登記相談(予約制のことが多い)を利用し、目的の文言と書類一式を見てもらうと安心です。申請後に不備が見つかると補正の連絡が来ますので、連絡が取れる電話番号を申請書に記載しておきましょう。
よくあるつまずきと、事前にできる確認
1つ目は、目的の文言があいまいで受理されにくいケースです。事業目的には、内容が明確であることが求められます。造語や社内用語のままではなく、一般的に意味が通じる表現に直す必要があります。同業他社の登記簿(登記事項証明書)やオンラインの登記情報で、似た事業の記載例を確認すると書きやすくなります。
2つ目は、「前各号に附帯関連する一切の事業」という条項を忘れることです。多くの会社が最終号に入れている定番の文言で、これを残さずに書き換えてしまうと、後から不便になることがあります。条文をまるごと差し替える形式で議事録を作るときは、削除してよい号かどうかを1つずつ確認してください。
3つ目は、登記だけ終えて社内の書類を更新しないケースです。現行定款の更新、許認可の変更届、取引先や金融機関への案内、ウェブサイトの会社概要など、登記後にやることをリスト化しておくと抜けが減ります。税務上の取扱い(新規事業に関する消費税や経費の扱いなど)が気になる場合は、あらかじめ顧問の税理士に相談しておくとよいでしょう。
よくある質問
定款の目的変更は、登記しないままでも大丈夫ですか?
事業目的は登記事項なので、定款変更の効力が生じた日から原則2週間以内に変更登記を申請することが会社法で求められています。遅れた場合に過料の対象となることがあるため、決議をしたら早めに申請してください。判断に迷う場合は司法書士にご確認ください。
事業目的を追加するとき、定款も法務局に提出しますか?
通常、変更登記の添付書類は株主総会議事録と株主リストなどで、定款そのものの提出は求められないのが一般的です。ただし、会社側では変更後の内容を反映した現行定款を作成・保管しておくと、許認可申請や金融機関の手続きで役立ちます。
ひとり社長の会社でも株主総会の議事録は必要ですか?
株主が自分ひとりでも、定款変更は株主総会の決議事項ですので、決議をした事実を記した議事録が必要です。開催日・決議内容・結果を記載し、変更後の事業目的を条文の形で書いておくと、登記申請でも社内保管でも使いやすくなります。
目的を追加すれば、その事業をすぐ始められますか?
登記上の目的が整うことと、実際に事業を行える状態になることは別です。許認可が必要な事業では、目的の記載に加えて所管官庁への申請・届出が必要になります。要件は事業ごとに異なるため、所管官庁の資料を確認し、必要に応じて行政書士や司法書士に相談してください。