就業規則の作成は誰に依頼するか|社労士・行政書士・弁護士の違い
人を雇いはじめると、どこかのタイミングで「就業規則をつくらないと」という話が出てきます。ところが、いざ依頼先を探すと社労士・行政書士・弁護士の名前が並び、どこに頼むのが筋なのかが見えにくい。この記事では、士業ごとにできることの範囲がどう違うのか、自社の状況からどう選べばよいのかを、判断の順番に沿って整理します。
この記事の結論
- 就業規則の作成や労働基準監督署への届出を報酬を得て代行できるのは、社会保険労務士の業務とされており、行政書士は他士業の独占業務にあたる部分は取り扱えません。
- 弁護士は法律事務全般を扱えるため就業規則の作成・チェックに対応できますが、届出の代行や日常の労務手続まで含めるなら社労士との役割分担を考えるのが現実的です。
- 就業規則そのものは会社が自社で作成しても差し支えなく、ひな形をもとに自社で作り、専門家にレビューと届出だけ依頼するという選び方もあります。
そもそも就業規則は誰が作るもの?
就業規則は、会社(使用者)が自社のルールとして定めるものです。作成の主体はあくまで会社であり、「この資格がなければ作ってはいけない」というものではありません。社長が自分で書いても、人事担当者が原案をまとめても構いません。
ただし、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出ることが労働基準法で求められています。届出の際には、労働者の過半数を代表する者などの意見を聴き、その意見を記した書面を添える取扱いとされています。人数の数え方や事業場単位の考え方は判断に迷うところなので、厚生労働省や労働基準監督署の案内を確認してください。
つまり「誰が作るか」は自由度がある一方、「内容が法令に沿っているか」「届出の手続を踏んでいるか」は自由ではありません。ここに専門家へ依頼する理由があります。
社労士・行政書士・弁護士は何が違うのか(独占業務の範囲)
社会保険労務士は、労働・社会保険に関する法令に基づく書類の作成や、行政機関への提出代行を業務としています。就業規則の作成代行や労働基準監督署への届出代行は、この範囲に含まれるものと整理されています。日常の労務相談、雇用契約書、賃金や労働時間の設計まで一貫して相談しやすいのが特徴です。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成などを幅広く扱いますが、他の士業の独占業務とされている領域は取り扱えません。就業規則の作成代行や労基署への届出代行は社労士の業務にあたるため、行政書士に依頼する先として検討するのは適切ではないとされています。会社設立関連の書類や許認可でお世話になった行政書士に、そのまま就業規則も、という流れになりがちですが、ここは分けて考えてください。
弁護士は法律事務全般を扱う立場にあり、就業規則の作成やリーガルチェックに対応できます。とくに解雇・懲戒・ハラスメントなど、紛争になったときの効力が問われる条項の設計に強みがあります。一方で、労基署への届出や社会保険の手続といった日常業務までカバーするかは事務所によって異なるため、依頼前に対応範囲を確認しておくとよいでしょう。
迷ったら、この順に考える
まず「今、労務トラブルを抱えているか」を見ます。特定の従業員との間で解雇・残業代・ハラスメントなどの争いが起きている、あるいは起きそうなら、弁護士への相談を先に検討します。紛争を前提にした条項の作り込みや、実際に主張を戦わせる場面まで見据えられるためです。
次に「これから継続的に人を増やすか」を見ます。採用が続く、社会保険や給与計算の手続が定期的に発生する、という状況なら社労士が中心になります。就業規則の作成と届出、賃金規程や育児介護休業規程などの関連規程、入退社手続までを一つの窓口でまとめられる点が実務では効きます。
最後に「今回は届出のためにひととおり整えたいだけか」を見ます。従業員数が10人に近づいてきて届出が必要になった、というタイミングであれば、社労士に作成と届出をまとめて依頼するのが素直です。規模が大きくなり、両方の視点が必要になったら、社労士と弁護士が連携している事務所や、両方に関与してもらう形も選択肢になります。
自社で作る場合と依頼する場合、どう線を引くか
自社で作ることに向いているのは、従業員数が少なく、働き方のパターンも単純な会社です。厚生労働省が公開しているモデル就業規則などを土台に原案をつくり、自社の実態に合わない部分を書き換えていく進め方が現実的です。ここで大事なのは、ひな形をそのまま使わないこと。書いてある休暇や手当を実際には運用していない、という状態は後で火種になります。
一方、シフト制や変形労働時間制を使う、固定残業代を導入している、テレワークや副業を認める、パート・アルバイトと正社員で条件が大きく違う——こうした要素が一つでもあるなら、専門家に見てもらう価値があります。制度設計の前提を間違えると、規程の文言だけでは救えない問題になることがあります。
費用を抑えたい場合は、「原案は自社で作り、レビューと届出だけ依頼する」という頼み方もできます。依頼範囲を作成一式にするか、チェックのみにするかで見積りは変わるので、問い合わせの段階で希望を伝えてください。料金は事務所ごとに異なるため、各事務所の公式サイトや見積りで最新の条件を確認しましょう。
依頼から届出までの流れと、準備しておくもの
流れとしては、①現状のヒアリング、②原案の作成、③会社側の確認と修正、④従業員代表からの意見聴取、⑤労働基準監督署への届出、⑥従業員への周知、という順になります。周知まで済ませてはじめて機能するものなので、作って終わりにしないでください。
依頼前に手元にそろえておくとスムーズなのは、雇用契約書や労働条件通知書の雛形、給与の締め日・支払日が分かるもの、実際の勤務時間や休日のパターン、現在使っている手当や休暇の一覧、既存の規程があればその写しです。「書面にはないが実際にはこう運用している」という慣行も、メモにして共有すると精度が上がります。
届出後も、法改正や社内の運用変更に合わせて見直しが要ります。変更したときも意見聴取と届出、周知という同じ流れをたどります。顧問契約の中で改定まで見てもらうか、都度スポットで頼むかは、改定の頻度と社内の体制から決めるとよいでしょう。
依頼先を選ぶときに確認したい3点
一つ目は、対応範囲です。作成だけなのか、意見聴取のアドバイスや届出代行、従業員への説明資料まで含むのか。含まれない作業は自社で引き取ることになるので、最初に線を引いておきます。
二つ目は、自社の業種・働き方への理解です。飲食や小売のシフト制、建設業の現場、ITの裁量的な働き方では、論点が変わります。似た規模・業種の関与経験があるかを聞いてみてください。
三つ目は、その後の相談先になるかどうかです。就業規則は、実際に人が辞めたり揉めたりしたときにはじめて読まれます。そのときにすぐ相談できる関係があるかは、規程の完成度と同じくらい重要です。
なお、就業規則の内容は労働時間・賃金・解雇といった法令の解釈に直結し、書き方によっては会社の想定と異なる効力を持つと扱われることがあります。自社の状況に沿った判断は、社会保険労務士に、紛争が絡む論点については弁護士にご確認ください。
よくある質問
就業規則の作成を行政書士に頼めますか?
就業規則の作成代行や労働基準監督署への届出代行は社会保険労務士の業務とされているため、行政書士に依頼する先として検討するのは適切ではないと整理されています。会社設立や許認可でお世話になった行政書士がいる場合は、社労士を紹介してもらえないか相談してみてください。
社労士以外に頼む選択肢はありますか?
弁護士は法律事務全般を扱う立場から、就業規則の作成やリーガルチェックに対応できます。解雇や懲戒など紛争リスクの高い条項を重点的に固めたい場合に向きますが、届出代行や日常の労務手続まで含むかは事務所によって異なるため、事前に対応範囲を確認してください。
従業員が10人未満なら就業規則は作らなくてよいですか?
常時10人以上の労働者を使用する事業場には作成・届出が求められる一方、10人未満であっても作成すること自体は妨げられません。ルールを明文化しておくと採用や労務管理の場面で判断がぶれにくくなるため、早めに整えておく会社もあります。人数の数え方は事業場単位で考えるなど注意点があるので、労働基準監督署の案内を確認してください。
依頼費用はどのくらいかかりますか?
作成一式を頼むか、レビューだけ頼むか、関連規程を含めるかで大きく変わります。金額は事務所ごとに設定が異なるため、複数の事務所の公式サイトを見たうえで、依頼したい範囲を伝えて見積りを取るのが確実です。