就業規則のハラスメント規定|パワハラ・カスハラ対応の記載例

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「パワハラ防止の規定を就業規則に入れないといけない」と聞いたものの、どこに、どんな文言で書けばいいのか分からない。小さな会社ほど、就業規則をいじる機会が少なく、ここで手が止まります。この記事では、ハラスメント規定を就業規則のどこに置くか、パワハラ・セクハラ・カスハラをどう書き分けるか、懲戒規定とどう紐づけるかを、順番に整理します。

この記事の結論

  • 就業規則のハラスメント規定は、「禁止行為の定義」「相談窓口」「相談者・行為者への対応」「懲戒との紐づけ」の4点セットで書くと、実務で使える形になります。
  • パワハラについては、事業主に方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備などの措置が求められており、その根拠として就業規則に規定を置くのが一般的な進め方です。
  • 就業規則を変更したら、従業員代表の意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出て、社内に周知するところまでが1セットです(常時10人以上の事業場の場合)。

就業規則にハラスメント規定は必要?パワハラ防止の義務との関係

パワハラ防止については、事業主に対して、方針の明確化と労働者への周知・啓発、相談に応じる体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などの措置を講じることが求められています。中小企業も対象に含まれる形で段階的に適用が広がってきました。

この「方針の明確化」を形にする一番わかりやすい方法が、就業規則にハラスメント禁止の条文を置くことです。社内掲示やハラスメント防止規程(別規程)でも方針の周知はできますが、違反者に懲戒処分を行う可能性を考えると、就業規則側に根拠を置いておくほうが実務では扱いやすくなります。

なお、措置義務の具体的な内容や対象範囲は所管官庁(厚生労働省)の指針で定められています。自社が何をどこまで求められるかは、最新の資料で確認してください。

どこに書く?本則に入れるか、別規程にするかの判断

迷ったら、まず会社の規模と条文の量で決めます。従業員が数人〜十数人で、条文を長くしたくないなら、就業規則の本則(服務規律の章)に「ハラスメントの禁止」として数条を置く形がシンプルです。改定時の届出も本則1本で済みます。

一方、相談窓口の運用手順、調査の流れ、プライバシー保護、カスハラ対応のマニュアル的な内容まで書き込みたい場合は、本則に「詳細は別に定めるハラスメント防止規程による」と委任条文を置き、別規程に切り出すほうが読みやすくなります。人数が増えて教育や運用を回す段階になったら、この形に移行する会社が多い印象です。

どちらの形でも、別規程は就業規則の一部として扱われます。作成・変更したら本則と同じように意見聴取と届出、周知が必要になる点は押さえておいてください。

パワハラ規定の記載例|定義・禁止行為・相談窓口の書き方

パワハラの条文は、①定義、②禁止、③相談窓口、④相談者の不利益取扱い禁止、⑤懲戒への接続、の順で書くと迷いません。定義は、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境が害されること」という一般的な整理に沿って書くのが無難です。

記載例としては、次のような形が考えられます。「第◯条(パワーハラスメントの禁止) 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動により、他の従業員の就業環境を害する行為をしてはならない。2 前項の言動には、身体的・精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大または過小な要求、私的なことへの過度な立ち入りを含む。」

そのうえで、「第◯条(相談窓口) ハラスメントに関する相談および苦情の窓口は◯◯部(担当者名または役職)とし、社外相談先を併せて設ける場合はその連絡先を周知する。2 相談したこと、事実確認に協力したことを理由として、不利益な取扱いをしない。」を置きます。ひとり社長に近い規模なら、窓口を代表者本人にするしかない場面もありますが、その場合は顧問社労士や外部窓口を併記しておくと、相談のハードルが下がります。

セクハラ・マタハラ(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)についても、それぞれ措置が求められています。パワハラと同じ章にまとめ、「第◯条から第◯条までの規定は、セクシュアルハラスメントおよび妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについても準用する」と一文入れると、条文が膨らみません。

カスハラ(顧客等からの著しい迷惑行為)は就業規則にどう書くか

カスハラは、加害者が社外の顧客や取引先である点がパワハラと違います。したがって「従業員に禁止する」条文ではなく、「会社が従業員を守る」条文として書くのが基本の形です。近年は、顧客等からの著しい迷惑行為への対応も、事業主に求められる取り組みとして位置づけが進んでいます。最新の取り扱いは厚生労働省や自治体の資料を確認してください。

記載例としては、「第◯条(顧客等からの著しい迷惑行為への対応) 会社は、顧客、取引先その他の第三者による暴言、暴力、脅迫、不当な要求、長時間の拘束等の著しい迷惑行為から従業員を保護するため、必要な体制を整備する。2 従業員は、前項の行為を受けたときは、速やかに上長または相談窓口に報告するものとする。3 会社は、報告を受けた場合、事実確認のうえ、対応の引き継ぎ、対応の打ち切り、記録の保存、必要に応じた外部専門家への相談など、適切な措置を講じる。」といった形が考えられます。

ポイントは、「従業員が自分の判断で対応を打ち切っても、会社が責任を持つ」と読める書き方にすることです。現場が一人で抱え込む原因は、規定がないことより「引いていいのか分からない」ことにあります。接客・電話対応がある会社では、この一文の有無が効いてきます。

懲戒規定と紐づける|禁止条文だけでは処分の根拠になりにくい

ハラスメント禁止の条文を置いただけでは、実際に処分を行う段になって根拠が弱くなることがあります。懲戒の章に「第◯条(懲戒事由)」の一項目として、「第◯条に定めるハラスメント行為を行ったとき」を明記し、けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇といった処分の種類と対応関係を整理しておきます。

処分の重さは、行為の内容、継続性、被害の程度、反省の有無などを踏まえて個別に判断されます。就業規則に書いてあるからといって直ちに重い処分が有効になるわけではなく、手続きの適正さ(本人への弁明機会など)も見られます。実際の処分を検討する場面では、社会保険労務士や弁護士に事前に相談してください。

また、相談を受けたあとの流れ(事実確認、関係者のプライバシー保護、記録の保存、再発防止)も、簡潔でよいので条文か別規程に書いておくと、いざというときに担当者が迷いません。

ストレスチェックは義務?就業規則との関係と改定の手順

ストレスチェックは、これまで常時使用する労働者が一定規模以上の事業場に実施義務があり、それ未満の事業場は努力義務という整理でした。対象範囲の見直しも進められているため、自社が実施義務の対象かどうかは、厚生労働省の最新の資料や労働基準監督署で確認してください。ハラスメント規定とは別の制度ですが、メンタル不調の早期把握という点でセットで整えておくと運用しやすくなります。

就業規則を改定する手順は、①条文案を作る、②従業員代表(労働者の過半数を代表する者)を選出して意見を聴き、意見書をもらう、③就業規則変更届と意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る、④従業員に周知する、の順です。常時10人以上の労働者がいる事業場が届出の対象で、それ未満でも作成・周知しておくと運用の根拠になります。

周知は、配布、社内での掲示、共有フォルダやクラウド上での閲覧など、従業員がいつでも見られる状態にすることが求められます。作って届け出たのに誰も見たことがない、という状態だと効力が争われる場面もあります。改定したら、朝礼や入社時オリエンテーションで一度説明する機会をつくっておくと安心です。

最初に何から手をつけるか

今日から動くなら、まず現行の就業規則を開いて、「ハラスメント」「相談窓口」「懲戒事由」の3語で検索してみてください。ひとつも出てこなければ、パワハラ・セクハラ・マタハラをまとめた章の新設と、懲戒事由への追記が最初のタスクになります。

次に、相談窓口を誰にするかを決めます。社内で1名、可能なら社外にもう1つ。ここが決まらないと条文が書けません。最後に、カスハラ対応の条文を入れるかどうかを、顧客対応の有無で判断します。

ハラスメント規定は、書き方ひとつで「処分の根拠になる規定」にも「飾りの規定」にもなります。自社の実態に合った条文にするため、また改定手続きや届出の進め方について、社会保険労務士にご相談ください。個別の処分や法的紛争が想定される場面では、弁護士への相談もあわせて検討することをおすすめします。

よくある質問

従業員が10人未満でも、就業規則にハラスメント規定は必要ですか?

常時10人未満の事業場は就業規則の作成・届出義務の対象外ですが、パワハラ防止のための方針の明確化や相談体制の整備は、規模にかかわらず求められる取り組みとされています。就業規則がない場合は、ハラスメント防止規程や社内ルールとして文書化し、従業員に周知しておく方法が考えられます。詳しい適用範囲は社会保険労務士にご確認ください。

ハラスメント規定を追加する変更は、従業員の同意が必要ですか?

禁止行為や相談窓口の追加は労働条件の不利益変更にあたらないと整理されることが多いものの、懲戒事由の追加を含む場合は慎重な検討が求められます。いずれにせよ、従業員代表からの意見聴取と労働基準監督署への届出、周知の手続きは必要です。判断に迷う場合は専門家に確認してください。

カスハラ対応を理由に顧客との取引を断ることは、就業規則に書いていいですか?

会社としての対応方針(対応の打ち切り、記録の保存、外部専門家への相談など)を規定に書いておくこと自体は一般的に行われています。ただし、実際に取引を断る判断は契約内容によって影響が異なるため、継続的な取引先が相手の場合は、事前に弁護士に相談しておくと安心です。

就業規則とは別に「ハラスメント防止規程」を作る必要はありますか?

必須ではありません。条文が少なければ就業規則本則にまとめて差し支えありませんが、相談窓口の運用手順や調査の流れまで書きたい場合は、本則に委任条文を置いて別規程に切り出すと読みやすくなります。別規程も就業規則の一部として、意見聴取・届出・周知の対象になります。

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