就業規則を守らない社員への対応|違反したときの手順と注意点
遅刻が続く、報告をしない、副業の届出を出さない——就業規則を守らない社員が出てきたとき、いきなり処分に踏み切るとかえって会社側が不利になることがあります。この記事では、事実確認から注意指導、懲戒処分の検討までを「どの順に何をするか」で整理します。小さな会社でもそのまま使える進め方を、注意点とあわせてまとめました。
この記事の結論
- 就業規則を守らない社員への対応は、①事実確認 ②本人への聴き取り ③口頭・書面での注意指導 ④改善が見られない場合に懲戒処分の検討、という順で進めるのが基本です。
- 懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の事由と種類が定められ、その内容が社員に周知されていることが前提になります。根拠規定がないまま処分すると、後で無効と判断されることがあります。
- 違反の程度に対して重すぎる処分や、同じ違反なのに人によって扱いが違う処分は、争いになったときに会社側が不利になりやすいため、記録を残しながら段階的に対応することが大切です。
就業規則を守らないとどうなる?まず押さえたい前提
就業規則は、会社と社員の間のルールブックです。労働時間や休暇といった労働条件だけでなく、服務規律(遵守事項)として「無断欠勤をしない」「業務上知り得た情報を漏らさない」「会社の物品を私的に使わない」といった行動のルールが書かれているのが一般的です。社員がこれに反した場合、会社は注意・指導を行い、程度によっては懲戒処分を検討することになります。
ただし、就業規則に違反したからといって、すぐに重い処分ができるわけではありません。処分が有効と認められるには、就業規則に懲戒の事由と種類が定められていること、その規則が社員に周知されていること、違反の内容に対して処分が重すぎないこと、同じような事案と比べて不公平でないこと、といった点が問われます。手順を飛ばした処分は、後から無効と判断されることがあります。
逆に、ルール違反を放置し続けるのもリスクです。「これまで誰も注意されなかった」という状態が続くと、いざ処分しようとしたときに「会社が黙認していた」と受け取られかねません。小さな違反ほど、早い段階で軽い形で指摘しておくことが、後の判断をしやすくします。
就業規則に違反した場合の対応手順(①事実確認から順に)
最初にやるのは、処分の検討ではなく事実確認です。「いつ・どこで・誰が・何をしたか」を、日報、勤怠記録、メールやチャットの履歴、関係者の話など、確認できる材料から整理します。この段階では推測と事実を分けて書き出しておくと、後の判断がぶれにくくなります。噂や印象だけで動くと、事実関係が違っていたときに取り返しがつきません。
次に、本人からの聴き取りです。会社側が把握している事実を伝えたうえで、本人の言い分を聞きます。弁明の機会を与えることは、手続きの公正さを示すうえで重要な意味を持ちます。聴き取りは複数人(できれば上長と人事・総務の担当者)で行い、日時・出席者・やりとりの要点をメモに残しておきます。
事実が確認できたら、まずは注意指導です。軽微なものは口頭注意から始め、改善が見られない場合に注意書・指導書といった書面に切り替えます。書面には、違反した行為、就業規則のどの条項に関わるか、いつまでにどう改めてほしいかを具体的に書き、本人に受領してもらいます。この積み重ねが、後で懲戒処分を検討するときの土台になります。
注意指導と懲戒処分、どちらを選ぶかの判断基準
迷ったら、まず「違反の重さ」と「繰り返しかどうか」の2軸で見ます。遅刻が数回、報告漏れが一度といった軽微で初回のケースは、口頭注意と改善の約束から始めるのが一般的です。同じ指摘を何度もしているのに改善しない場合は、書面での注意に切り替え、それでも変わらないときに懲戒処分の検討に進みます。
一方で、金銭の不正、情報の持ち出し、ハラスメント、暴力、重大な安全ルール違反などは、一回でも会社や他の社員に与える影響が大きく、初回から懲戒処分の検討対象になり得ます。この種の事案は、事実確認の段階から慎重さが求められ、社内だけで判断せず早めに弁護士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
懲戒処分の種類(けん責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇など)は、就業規則に書かれている範囲でしか行えません。減給には労働基準法上の上限の考え方があるなど、種類ごとに注意点があります。自社の規則にどの処分が定められているかを確認したうえで、違反の程度に見合ったものを選ぶという順番で考えてください。
就業規則の「遵守事項」を実際に機能させるには
ルールを守ってもらううえで土台になるのが、周知です。就業規則は、作成・変更して労働基準監督署に届け出るだけでなく、社員がいつでも見られる状態にしておくことが求められます。紙を事務所に備え置く、社内の共有フォルダやグループウェアに置くなど、方法は会社の実情に合わせて構いませんが、「どこにあるか全員が知っている」状態にすることが大事です。
次に、遵守事項の中身が今の働き方に合っているかを見直します。テレワーク中の勤務時間の扱い、私物端末での業務利用、SNSでの発信、副業の届出など、以前の規則には書かれていない論点が増えています。ルールに書いていないことは指導の根拠にしにくいため、実態とずれてきたら規則の見直しを検討してください。変更の際は、内容や手続きによって社員への説明や意見聴取が必要になる場合があります。
運用面では、管理職の足並みをそろえることも欠かせません。同じ違反でも、部署によって注意したりしなかったりすると、「あの人は許されている」という不公平感が生まれ、処分の妥当性も揺らぎます。どの程度でどう対応するかの目安を社内で共有しておくと、現場も判断しやすくなります。
対応でよくある落とし穴と、記録の残し方
まず避けたいのが、感情的なその場の対応です。人前で叱責する、退職を迫るような言い方をする、といった対応は、指導のつもりでもハラスメントと受け取られることがあります。指導は原則として個別の場で行い、人格ではなく行為について話す、という点を意識してください。
次に、同じ行為に対して二重に処分しないこと、処分の理由を後から付け足さないことです。処分を決める際は、その時点で確認できている事実と根拠条項を明示し、本人に通知します。また、「以前から態度が悪い」といった漠然とした評価だけを理由にすると、後で説明が難しくなります。
記録は、対応の各段階で残します。事実確認のメモ、聴き取りの記録、注意書の控えと受領の記録、改善状況の経過。これらが時系列でそろっていると、仮に争いになったときに会社の対応の経緯を説明しやすくなります。保存の方法や期間は、社内の文書管理ルールに沿って決めておくとよいでしょう。
社内で判断しきれないときは専門家へ
就業規則に関する対応は、条文の書き方ひとつで結論が変わることがあり、個別の事情によって適切な進め方も異なります。特に、懲戒解雇を含む重い処分を検討する場面、ハラスメントや不正が絡む場面、退職をめぐって話し合いが難航している場面では、社内だけで進めると後のリスクが大きくなりがちです。
就業規則の作成・見直しや、日常の労務運用、注意指導の進め方については社会保険労務士に、懲戒処分の有効性や解雇をめぐる法的な争いの見通しについては弁護士に相談するのが一般的です。処分を決めてしまう前の段階で相談したほうが、選べる選択肢は多く残ります。
はじめて相談するときは、就業規則の該当条項、これまでの注意指導の記録、勤怠や業務の記録など、手元の資料をまとめて持参すると話が早く進みます。自社の状況に合った判断は、必ず社会保険労務士や弁護士にご確認ください。
よくある質問
就業規則を守らない社員に、いきなり懲戒処分を出してもよいですか?
違反が軽微で初回であれば、まずは口頭や書面での注意指導から始めるのが一般的です。手順を踏まずに処分すると、後で無効と判断されることがあります。不正や重大な安全違反など影響の大きい事案は例外もあるため、弁護士や社会保険労務士にご確認ください。
就業規則を社員に見せていない場合でも、違反を理由に処分できますか?
就業規則は社員が内容を知ることができる状態にしておくことが前提とされており、周知されていないと処分の根拠として認められにくくなります。まずは備え置きや社内共有など、いつでも確認できる形を整えてください。届出や周知の要件は所管官庁の資料もあわせてご確認ください。
注意しても改善しない社員には、最終的にどうすればよいですか?
注意指導を書面に切り替え、改善期限と求める行動を具体的に示したうえで経過を記録していくのが基本の流れです。それでも改善しない場合に、就業規則の定めに沿って処分を検討することになります。解雇を含む判断は影響が大きいため、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
就業規則に書いていない行為でも注意できますか?
業務上必要な範囲の指示であれば注意すること自体は可能ですが、懲戒処分の根拠にするには就業規則の定めが必要とされるのが一般的です。実態に合わない規則は見直しを検討し、内容や変更手続きについては社会保険労務士に相談すると安心です。