就業規則を変更する手順|同意・意見聴取・周知・届出の順番

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

就業規則は、一度つくって終わりではありません。人が増えた、手当を見直した、テレワークを始めた——そのたびに中身を直す必要が出てきます。ただ、社内で文面を書き換えただけでは変更が有効に扱われないことがあります。この記事では、変更案の作成から意見聴取、周知、労働基準監督署への届出まで、進める順番と、どんなときに従業員の同意が問題になるのかを整理します。

この記事の結論

  • 就業規則の変更は、①変更案の作成 →②従業員代表からの意見聴取 →③従業員への周知 →④労働基準監督署への届出、の順に進めるのが基本の流れです。
  • 労働条件を従業員にとって不利な方向へ変える場合は、意見聴取だけでは足りず、個別の同意を得るか、変更内容の合理性を説明できる状態にしておく必要があると考えられています。
  • 賃金規程や別表など本則以外の部分だけを変える場合も、就業規則の一部として同じ手続き(意見聴取・周知・届出)の対象になるのが一般的です。

就業規則を変更するには、どんな手続きが必要か

就業規則の変更は、社内の文書を書き換えるだけでは完結しません。労働基準法では、常時一定人数以上の労働者を使用する事業場について、就業規則の作成と変更の際に、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴き、意見書を添えて労働基準監督署へ届け出ることが定められています。さらに、就業規則は従業員に周知して初めて効力を持つものとして扱われます。

つまり、変更にあたって押さえるべきは「意見聴取」「周知」「届出」の3点です。どれか一つが抜けると、後から「その規定は知らなかった」「聞いていない」というトラブルにつながりやすくなります。

届出義務の対象になるかどうかは事業場単位で判断されます。義務の対象外の規模であっても、規則を整えて周知しておくことは、採用や労務管理の場面で役に立ちます。自社が届出義務の対象かどうかは、厚生労働省や労働局の資料で確認してください。

変更の流れ:案の作成から届出までの順番

まず、変更したい箇所を洗い出し、新旧対照表の形で整理します。「第◯条をこう変える」「別表2の手当区分を追加する」と一覧にしておくと、この後の説明も届出も進めやすくなります。施行日をいつにするかも、この段階で決めておきます。給与に関わる変更なら、給与計算の締め日・支払日との関係を確認しておくと混乱が減ります。

次に、従業員代表から意見を聴きます。過半数組合があればその組合、なければ過半数代表者を、投票や挙手など民主的な方法で選びます。使用者が指名した人や、管理監督者に当たる人は代表者になれないとされている点に注意してください。意見は「意見書」という書面にまとめてもらいます。

意見を聴いたら、従業員へ周知します。事業場の見やすい場所への掲示、書面の交付、社内サーバーや共有ツールでいつでも閲覧できる状態にする、といった方法があります。最後に、変更後の就業規則(または変更部分)と意見書、就業規則変更届を、事業場を管轄する労働基準監督署へ提出します。電子申請が使える場合もあるため、提出方法は労働局のページで確認してください。

従業員の同意は必要?意見聴取との違い

よく混同されるのが「意見聴取」と「同意」です。意見聴取は、法律上求められている手続きで、内容に反対の意見であっても、意見を聴いて意見書を添付していれば届出そのものは受理される扱いが一般的です。反対意見があるから変更できない、というわけではありません。

一方で、労働条件を従業員にとって不利益な方向へ変える場合は、話が変わります。労働契約法では、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更するには、変更後の就業規則を周知し、かつ変更内容が合理的であることが求められる、という考え方が示されています。合理性は、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労使の交渉状況などを総合して判断されるとされています。

実務としては、賃金・手当・退職金・労働時間など、待遇に直接関わる部分を下げる方向で変える場合は、個別に説明の場を設けて同意書を取る、代償措置や経過措置(段階的に移行する期間を設ける)を用意する、といった対応を検討します。同意を取る際も、内容を理解したうえでの同意といえる状態かどうかが問われることがあるため、説明資料を残しておくと安心です。不利益変更に当たるかどうかの判断は個別性が高いので、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

大幅に変更するとき・全面改定するときの進め方

条文を数か所直すのではなく、モデル就業規則をベースに全面的に作り直す、というケースもあります。この場合も手続きの流れは同じですが、変更点が多いぶん、従業員が「何がどう変わったのか」を把握しにくくなります。新旧対照表と、変更理由を書いた説明資料をセットで用意してください。

進め方としては、①経営側で改定案をまとめる →②管理職に先に共有して運用面の支障を確認する →③従業員向けの説明会を開く →④意見聴取 →⑤周知 →⑥届出、という順にすると、現場の反発や運用漏れを減らせます。説明会の質疑は記録に残しておくと、後から経緯を確認できます。

全面改定では、不利益変更に当たる部分と、そうでない部分が混ざりがちです。「テレワーク規定を新設する」は従業員にとって不利益とは限りませんが、「固定残業代の運用を変える」「手当を統合する」は待遇の増減につながります。増える人・減る人が出る変更は、個別に影響額を示して説明する形が望ましいでしょう。

賃金規程や別表だけを変えるときはどうする

就業規則は、本則のほかに賃金規程、育児・介護休業規程、退職金規程、別表(手当の区分表、等級表など)といった付属文書で構成されていることがよくあります。これらも就業規則の一部として扱われるのが一般的で、変更するときは本則と同じく意見聴取・周知・届出の対象になると考えられています。

「別表の金額を少し直すだけ」「通勤手当の上限を変えるだけ」でも、労働条件に関わる内容であれば同じ手順を踏むのが安全です。逆に、明らかに誤字の訂正や条番号のずれの修正だけであれば、実務上の取り扱いを管轄の労働基準監督署に確認してから進めるとよいでしょう。

運用の工夫として、頻繁に変わる数値(手当額、対象職種の一覧など)は別表にまとめておくと、改定のたびに本則を直さずに済み、変更履歴も追いやすくなります。ただし「別表だから届出不要」ということにはならない点は押さえておいてください。

変更後にやること:周知の徹底と記録の保管

届出が終わったら、受付印のある控えを保管します。あわせて、変更後の就業規則を従業員がいつでも見られる状態にしてください。イントラネットに置く場合は、実際に全員がアクセスできるか、パートやアルバイトも含めて確認します。周知されていないと、変更が有効に扱われないおそれがあります。

保管しておきたいのは、新旧対照表、説明資料、説明会の記録、意見書、個別同意書(取得した場合)、届出の控えです。数年後に「いつからこの規定になったのか」を確認する場面は意外と多く、施行日ごとの版を残しておくと助かります。

労働条件通知書や雇用契約書との整合も忘れずに確認します。就業規則を変えたのに個別契約書が古いままだと、どちらが適用されるのかで争いになることがあります。新しく採用する人の書式も、同じタイミングで差し替えておきましょう。

専門家への相談を検討したいタイミング

自社だけで進めやすいのは、法改正に合わせた条文の更新や、新しい制度を追加するタイプの変更です。一方で、賃金・手当・退職金を下げる方向の変更、労働時間制度の切り替え、全面改定など、待遇に影響が及ぶ変更は、手続きの踏み方ひとつで後の評価が変わることがあります。

また、変更内容によっては、社会保険や労働保険の手続き、給与計算の設定変更が連動することもあります。就業規則だけを直して他が追いつかない、という状態は避けたいところです。

就業規則の変更手続きや不利益変更の進め方は、社会保険労務士に相談するのが一般的です。紛争の可能性がある場面や、個別同意の取り方に不安がある場合は、弁護士への相談も検討してください。自社の状況に合わせた進め方は、専門家と一緒に確認しながら決めていくと安心です。

よくある質問

従業員が反対しても就業規則は変更できますか。

意見聴取は「意見を聴く」手続きであり、反対意見であっても意見書を添えて届け出ること自体は可能とされています。ただし、労働条件を不利益に変更する場合は、周知と変更内容の合理性が問われるため、反対の声があるまま進めるのはリスクがあります。事前に説明の場を設け、経緯を記録に残したうえで、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。

就業規則を変更したら、毎回労働基準監督署に届け出る必要がありますか。

届出義務の対象となる事業場では、変更のたびに、変更後の就業規則と意見書を添えて届け出るのが原則とされています。別表や付属規程のみの変更でも、就業規則の一部であれば同じ扱いになるのが一般的です。提出方法や電子申請の可否は、管轄の労働基準監督署や労働局のページで確認してください。

周知はどの方法で行えばよいですか。

事業場の見やすい場所への掲示・備付け、書面の交付、パソコンなどで常時確認できる状態にする、といった方法が挙げられています。重要なのは、全従業員が実際にアクセスできる状態かどうかです。共有フォルダに置く場合は、パート・アルバイトを含めて閲覧できるか確認しておきましょう。

変更の施行日はいつに設定すればよいですか。

届出や周知が完了した後の日付にするのが一般的で、給与に関わる変更であれば給与計算の締め日に合わせると運用が楽になります。従業員への説明期間も見込んで、余裕を持った日付にしておくと安心です。遡って適用したい事情がある場合は、扱いが難しくなるため専門家に確認してください。

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