就業規則の周知義務|周知方法と入社前に見せるかの判断

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

就業規則は、作って労働基準監督署に届け出れば役目を終える書類ではありません。労働基準法では、作成した就業規則を働く人に周知することが使用者の義務とされています。周知とは「渡した」ことではなく「いつでも見られる状態にしてある」こと。この記事では、どの周知方法を選べばよいか、入社前に見せるべきか、周知していないとどうなるかを、判断の順番で整理します。

この記事の結論

  • 就業規則の周知義務とは、労働基準法にもとづき、作成した就業規則を従業員がいつでも確認できる状態に置く使用者の義務のことです。
  • 周知方法は、事業場の見やすい場所への備付け、書面の交付、パソコンやスマートフォンから常時閲覧できるデータでの共有のいずれかが基本とされています。
  • 就業規則は届出だけでは足りず、周知されていない場合は労働契約の内容としての効力が争われることがあるため、周知した記録を残しておくことが大切です。

就業規則の周知義務とは?届出とは別の義務です

就業規則をめぐる義務は、大きく「作成」「届出」「周知」の3つに分かれます。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、過半数代表者などの意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出ることとされています。周知義務は、これとは別に定められた義務です。

労働基準法では、就業規則や労使協定などを、常時各作業場の見やすい場所に掲示する、備え付ける、書面を交付する、または電子的な方法で従業員がいつでも確認できるようにすることが求められています。つまり、金庫や社長の引き出しにしまってある状態は、周知したとは言いにくいということです。

注意したいのは、10人未満の事業場です。届出義務がなくても就業規則を作ることはでき、作って運用している以上は、その内容を従業員が確認できる状態にしておくことが前提になります。「うちは小さいから周知しなくてよい」と考えるのは避けたほうが無難です。

就業規則の周知方法は3つ|自社に合う方法の選び方

周知方法は、おおむね次の3タイプに整理できます。(1)事業場の見やすい場所に掲示・備え付ける、(2)従業員一人ひとりに書面を交付する、(3)社内の共有フォルダやクラウド、社内ポータルなど、各自の端末から常時閲覧できるデータとして置く、という方法です。どれか1つで足りますが、実務では複数を組み合わせている会社も多く見られます。

選ぶ順番はシンプルです。まず、全員が同じ場所に出社する働き方なら、オフィスの共有スペースに紙のファイルを常置するのがいちばん確実です。次に、テレワークや直行直帰、複数拠点がある場合は、全員がアクセスできるクラウド上に置く方法が現実的です。そのうえで、入社時に本人へPDFを渡すなど、書面交付に近い運用を重ねると抜けが減ります。

データで周知する場合の要点は「常時閲覧できるか」です。特定の役職者しか開けないフォルダ、パスワードを毎回申請しないと開けない場所、退職者や休職者が見られない場所は、周知として弱くなります。閲覧権限を全従業員に付与しているか、入社時にアクセス方法を案内しているかを確認してください。

就業規則をメールで送るのは周知になる?

就業規則をメールで送る運用は、それ自体が否定されるものではありません。ただし「1回送って終わり」だと、後から入社した人には届かず、本人がメールを削除したり検索できなくなったりすると、いつでも確認できる状態とは言いにくくなります。メールは通知の手段、閲覧できる場所の確保は別、と分けて考えるとうまくいきます。

おすすめしたいのは、置き場所を1つ決めてから、その場所をメールやチャットで案内する形です。たとえば共有ドライブの決まったフォルダに最新版を置き、入社時とルール改定時に「ここにあります」と全員へ案内する。改定履歴と施行日をファイル名や表紙に入れておくと、どれが今の規則か迷わなくなります。

記録の残し方も決めておきましょう。配付・案内したメールの控え、閲覧案内を行った日付、入社時に渡した書類のチェックリストなどを残しておくと、後から「聞いていない」と言われたときの説明がしやすくなります。署名や受領確認まで取るかは会社の運用次第ですが、入社時だけでも受領サインを取っている会社は多いです。

就業規則を入社前に見せるべき?応募者への開示の判断

法律上の周知義務の対象は、基本的に雇い入れた従業員です。応募者や内定者に必ず全文を開示しなければならない、という形にはなっていません。一方で、労働条件の明示は別のルールとして定められており、賃金・労働時間・休日・契約期間などの主要な労働条件は、雇い入れの際に書面等で明示することとされています。

判断の順番としては、まず「明示すべき労働条件は労働条件通知書で伝える」。そのうえで、応募者から就業規則を見たいと言われた場合に、どこまで見せるかを決めます。入社後のミスマッチを減らしたいなら、労働時間・休暇・休職・服務規律といった働き方に直結する部分を抜粋して示す方法があります。賃金テーブルや評価の詳細、機密性の高い運用ルールは、入社後の開示にとどめる会社もあります。

内定者には、入社日前に配付しておくと初日の手続きが軽くなります。入社当日にまとめて説明する場合でも、「就業規則の所在と閲覧方法」を初日オリエンテーションの項目に入れておくと、周知の抜けが起きにくくなります。

就業規則を周知していないとどうなる?「もらってない」と言われたら

周知義務に違反した場合、労働基準法上の罰則の対象となることがあります。労働基準監督署の調査で指摘を受け、是正を求められるケースもあります。金額などの詳細は法令の条文や厚生労働省の資料でご確認ください。

実務上より影響が大きいのは、就業規則の内容が労働契約の内容として認められるかという点です。就業規則は、合理的な内容であり、かつ労働者に周知させていた場合に労働契約の内容になる、という考え方が労働契約法で示されています。周知が不十分だと、懲戒処分や退職金の減額、服務規律違反への対応などの場面で、「その規定は適用できるのか」が争われることがあります。

従業員から「就業規則をもらってない」「どこにあるのか分からない」と言われたら、責めるのではなく、まず閲覧できる状態を作るのが先です。所在と閲覧方法を全員へ再案内し、必要なら紙のファイルを共有スペースに置く。そのうえで、入社時の案内フローと改定時の通知フローを見直しておくと、同じ問い合わせが減っていきます。

周知を仕組みにする|改定時にやることの順番

就業規則は一度作って終わりではなく、法改正や実態の変化に合わせて改定していくものです。改定時の流れは、(1)改定案を作る、(2)過半数労働組合または労働者の過半数代表者から意見を聴き意見書をもらう、(3)届出義務のある事業場は所轄の労働基準監督署へ届け出る、(4)従業員へ周知する、という順になります。周知は最後の工程で、ここを飛ばすと改定の効力が問題になりかねません。

特に、労働条件を引き下げる方向の変更は、手続きだけでなく内容の合理性も問われやすい領域です。賃金・退職金・労働時間に関わる変更を検討している場合は、案の段階で社会保険労務士や弁護士に相談しておくと、後のトラブルを避けやすくなります。

日々の運用としては、年1回、就業規則の最新版が正しい場所に置かれているか、全員がアクセスできるか、附属規程(賃金規程・育児介護休業規程など)も揃っているかを点検する時間を作るとよいでしょう。附属規程も就業規則の一部として扱われるため、本体だけ共有して別規程が見られない状態は避けたいところです。

周知の方法や入社前の開示範囲、改定手続きの進め方は、会社の規模や働き方によって適切な形が変わります。自社のケースでどこまで整えるべきか迷うときは、社会保険労務士に相談し、懲戒や労働条件の不利益変更が関わる場面では弁護士にも確認しておくと安心です。

よくある質問

就業規則は労働基準監督署に届け出ていれば周知したことになりますか。

届出と周知は別の義務とされているため、届け出ただけでは周知したことにはなりにくいです。事業場への備付け、書面交付、常時閲覧できるデータの共有などで、従業員がいつでも確認できる状態にしてください。

従業員が10人未満でも就業規則の周知は必要ですか。

10人未満の事業場には作成・届出の義務はありませんが、就業規則を作って運用している以上、その内容を従業員が確認できる状態にしておくのが基本です。周知されていないと、規定の効力が争われることがあります。

就業規則をクラウドに置くだけで周知になりますか。

全従業員がいつでもアクセスできる状態であれば、周知の方法として認められる形です。ただし閲覧権限が限られていたり、場所が案内されていなかったりすると不十分になりやすいため、入社時と改定時に所在を案内し、記録を残しておくとよいでしょう。

就業規則を見せてほしいと従業員に言われたら、断ってもよいですか。

周知義務がある以上、断るのは避けたほうがよい対応です。閲覧できる場所を案内するか、写しを渡す形で対応し、あわせて全社への再案内を行うことをおすすめします。個別の対応に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。

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