退職金規程の作り方|支給条件と計算方法の書き方
退職金は、法律で支給が義務づけられた制度ではありません。ただし「出す」と決めた瞬間から、その内容は労働条件の一部になり、就業規則に定めることが求められます。この記事では、退職金規程に何を書くべきか、支給条件と計算方法をどう決めるか、作成の順番にそって整理します。
この記事の結論
- 退職金は法律上の義務ではありませんが、制度を設ける場合は就業規則の相対的記載事項として、適用される労働者の範囲・計算方法・支払方法・支払時期を定める必要があります。
- 退職金規程で最低限決めるべきは、①支給対象者(勤続年数の下限など)②計算方法(基礎額×支給率など)③自己都合と会社都合の差④不支給・減額の事由⑤支払時期の5点です。
- いったん定めた退職金制度は労働条件になるため、後から引き下げる変更は手続きが厳しくなります。最初は小さく設計し、外部積立の活用も含めて社会保険労務士に相談するのが安全です。
そもそも退職金は就業規則に書かなければいけないのか
退職金は、すべての会社に支給が義務づけられているものではありません。制度を設けない会社も多くあります。一方で「退職金を出す」と決めた場合は、労働基準法でいう相対的記載事項にあたり、就業規則に定めておくことが求められます。相対的記載事項とは、制度を設けるなら必ず書かなければならない事項のことです。
相対的記載事項には、退職金のほかに、賞与や臨時の賃金、食事代などの負担、安全衛生、表彰や制裁、休職など、福利厚生に関わるものが広く含まれます。「うちは福利厚生だから自由に決めていい」と考えて口約束で運用すると、支給基準があいまいになり、退職時にトラブルの原因になりがちです。
書き方としては、就業規則の本体に退職金の条文を置く方法と、本体には「退職金については別に定める退職金規程による」と書き、別規程として切り出す方法があります。計算方法が細かくなりやすいので、別規程にしている会社が一般的です。別規程も就業規則の一部として扱われるため、作成・変更の手続きは本体と同じように必要になります。
退職金規程で決めるべき項目は5つ
最初に決めるのは「誰に払うか」です。正社員のみか、契約社員やパートタイム労働者を含めるか。勤続何年以上から対象にするか。試用期間を勤続年数に通算するか。ここをあいまいにすると、短期で辞めた人への対応が都度判断になってしまいます。同一労働同一賃金の考え方との関係もあるため、雇用形態で差を設ける場合は理由を説明できるようにしておきたいところです。
次が「いくら払うか」、つまり計算方法です。そして「どういうときに払わないか」という不支給・減額事由、「いつ払うか」という支払時期、「どうやって払うか」という支払方法が続きます。この5つが揃えば、規程としての骨格はできあがります。
加えて、死亡退職の場合の受取人の順位、休職期間や育児休業期間を勤続年数に算入するかどうか、定年再雇用後の取り扱いなども、後から必ず問題になる論点です。最初の段階で条文にしておくと、運用が楽になります。
支給対象者と勤続年数の決め方
勤続年数の下限は、短期離職者に支払う負担をどこまで受け入れるかで決まります。入社後すぐ辞めた人にも支払う設計は、会社の資金繰りを圧迫しやすい一方で、下限を長く設定しすぎると制度としての魅力が薄れます。迷ったときは、自社の平均的な在籍期間を見て、そこより手前に区切りを置くか奥に置くかを考えると判断しやすくなります。
勤続年数の数え方も明記します。入社日から退職日までを暦で数えるのか、1年未満の端数を切り捨てるのか月割にするのか。休職期間を算入するかどうか。ここを書いていないと、退職時に本人と会社の計算が食い違います。
有期雇用の社員や、週の所定労働時間が短い社員を対象にするかは、慎重に決めたい論点です。雇用形態による待遇差については法令上の考え方が整理されており、不合理な差とされることがあります。対象から外す場合も、その理由を説明できる形にしておくとよいでしょう。判断に迷う場合は社会保険労務士に確認してください。
計算方法の書き方:3つの型から選ぶ
よく使われるのは、退職時の基本給に勤続年数ごとの支給率を掛ける「基本給連動型」です。計算式が分かりやすい反面、昇給するたびに過去の勤続分まで退職金が膨らむため、将来の負担が読みにくいという面があります。
もうひとつが「ポイント制」です。勤続年数に応じたポイント、役職や等級に応じたポイントを毎年積み上げ、合計ポイントにポイント単価を掛けて算出します。貢献度を反映しやすく、基本給の上昇と退職金が直結しないため負担の見通しを立てやすい設計です。ただし、ポイントの付与ルールと単価を規程にきちんと書き込む必要があります。
三つめが「定額型」で、勤続年数の区分ごとに金額表を定める方法です。もっとも単純で、少人数の会社では管理しやすい形です。選び方としては、人数が少なく制度をシンプルに保ちたいなら定額型、評価や役職を反映したいならポイント制、既存の給与体系に沿わせたいなら基本給連動型、という順で検討すると整理しやすくなります。いずれの型でも、自己都合退職と会社都合退職で支給率に差を設けるかどうかを合わせて決めます。
不支給・減額事由と支払時期をどう書くか
懲戒解雇の場合に退職金を支給しない、または減額するという条項を置く会社は少なくありません。ただし、規程に書いてあれば常にそのとおりに扱えるとは限らず、事案の重大さによっては全額不支給が認められないと判断されることもあります。条文は置きつつ、実際に適用する場面では弁護士や社会保険労務士に相談する前提で考えておくのが現実的です。
競業避止に関する条項を入れる場合も同様です。退職後の就業を広く制限する内容は、有効性が争われることがあります。範囲や期間を限定した書き方にとどめ、専門家の確認を受けてください。
支払時期は「退職日から○か月以内」といった形で定めます。退職金の支給額確定には社内手続きに時間がかかるため、給与と同じ日に支払うのが難しいこともあります。支払方法(口座振込か、分割払いを認めるか)とあわせて明記しておきましょう。なお退職金は税務上、給与とは異なる取り扱いがなされ、所定の申告書の提出有無によって源泉徴収の扱いが変わることがあります。処理方法は顧問税理士に確認してください。
作成から届出までの手順と、変更するときの注意
手順は、①制度の型と金額水準を決める ②規程案を作る ③従業員代表(労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数を代表する者)の意見を聴き、意見書を書いてもらう ④就業規則本体に退職金規程を参照する条文を入れる ⑤常時10人以上の労働者を使用する事業場であれば、就業規則変更届・意見書を添えて所轄の労働基準監督署へ届け出る、という順です。届出が不要な規模でも、書面で定めて社員に周知しておくことをおすすめします。
注意したいのは、いったん定めた退職金制度は労働条件そのものになるという点です。後から支給水準を引き下げる変更は、労働者にとって不利益な変更として扱われ、合理性や個別の同意が問われます。最初から背伸びした水準を書かないほうが、結果的に長く続けられます。
社外に積み立てる仕組み(中小企業退職金共済など)を使う方法もあります。自社で積み立てるか外部制度を使うかで、規程の書き方も変わります。制度の要件や掛金の取り扱いは所管機関の公式資料で最新の情報を確認してください。
退職金規程は、就業規則のなかでも金額の計算と法的な効力が絡み合う部分です。雛形をそのまま使うと、自社の給与体系と噛み合わないまま運用が始まってしまうことがあります。制度設計と条文の書き方は社会保険労務士に、退職金の税務上の取り扱いは税理士に、懲戒時の不支給や競業避止の条項は弁護士に、それぞれ相談したうえで固めることをおすすめします。
よくある質問
退職金制度は作らなくても問題ないですか。
退職金の支給は法律で一律に義務づけられたものではなく、制度を設けない選択もできます。ただし制度を設ける場合は就業規則に定めることが求められ、採用時の説明と実際の運用が食い違うとトラブルになりやすいので、方針をはっきりさせておくことをおすすめします。
就業規則の本体に書くのと、別の退職金規程にするのはどちらがよいですか。
どちらでも就業規則の一部として扱われます。計算方法や支給率の表が長くなりやすいため、別規程に切り出し、本体には「退職金については別に定める」と書く会社が多く見られます。別規程にしても、作成・変更・届出の手続きは同じように必要です。
パート社員を退職金の対象から外してもよいですか。
雇用形態による待遇差については、不合理な差を設けないという考え方が法令上整理されています。対象から外す場合は、職務の内容や責任の範囲の違いなど、説明できる理由を用意しておく必要があります。判断に迷う場合は社会保険労務士にご確認ください。
退職金の支給額を後から下げることはできますか。
引き下げは労働条件の不利益変更にあたり、変更の合理性や個別の同意が問われます。手続きが厳しくなるため、制度を作る段階で無理のない水準に設定しておくことが大切です。変更を検討する際は、事前に社会保険労務士や弁護士に相談してください。