外国人社員向けの英語版就業規則|翻訳するときの範囲と注意点

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

外国人社員を採用すると、ほぼ必ず「就業規則の英語版はありますか」と聞かれます。ところが、全文をそのまま英訳すればいいのか、日本語版と英語版のどちらが優先するのか、翻訳は誰に頼むのか——決めることは意外と多いものです。この記事では、英語版をつくる前に決めておく論点と、翻訳の範囲の決め方、誤解が生まれやすい条文の扱いを、進める順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 就業規則(読み方:しゅうぎょうきそく)の英語化に法律上の決まった様式はありませんが、内容を理解できる形で周知することが求められるため、外国人社員がいる会社では英語版の用意が実務上有効です。
  • 英語版をつくるときは、まず「日本語版を正本とし、英語版は参考訳とする」といった優先関係を社内で決め、その旨を両方の文書に明記しておくと、解釈の食い違いを防ぎやすくなります。
  • 全文訳が難しい場合は、労働時間・休暇・賃金・服務規律・退職と解雇・ハラスメント相談窓口など、社員の権利義務に直結する条文から優先して訳す方法があります。

そもそも就業規則とは?読み方と、英語ではどう呼ぶか

就業規則は「しゅうぎょうきそく」と読みます。労働時間や休日、賃金の決まり、服務規律、退職や解雇の手続きなど、その会社で働くうえでのルールをまとめた文書です。常時一定数以上の労働者を使用する事業場では作成と労働基準監督署への届出が必要とされており、詳しい要件は厚生労働省の資料でご確認ください。

英語では Work Rules、Employment Regulations、Rules of Employment などと訳されることが多く、決まった一つの呼び方があるわけではありません。社内で呼称がばらつくと、雇用契約書(Employment Agreement)との関係も分かりにくくなります。最初に「自社では Work Rules と呼ぶ」と決めて、採用資料や入社案内でも統一しておくと混乱が減ります。

外国人社員にとって紛らわしいのは、雇用契約書と就業規則の役割の違いです。契約書は個人ごとの条件、就業規則は全社共通のルール、という関係を一言添えるだけでも、問い合わせはかなり減ります。

英語版の就業規則は作らなければいけないのか

法律は「英語版を作ること」そのものを求めているわけではありません。一方で、就業規則は労働者に周知することが前提の文書であり、日本語が十分に読めない社員に日本語版だけを渡しても、実質的に内容が伝わったとは言いにくい状況になり得ます。トラブルが起きた場面で「説明したか」「理解できる形だったか」が問われることがあるため、英語版を用意しておく意味は大きいと考えられます。

判断の順番としては、まず①日本語以外を母語とする社員が在籍または採用予定か、②その社員が日常業務で日本語の長文を読めるか、③今後も外国人採用を続ける方針か、の3点を見ます。①と②で「日本語の長文は難しい」となるなら、英語版の準備を検討する段階です。③が「続ける」なら、場当たりの翻訳ではなく、改定のたびに更新できる体制まで含めて考えたほうが結局は楽になります。

英語以外の母語の社員が多い職場では、英語版が万能ではない点にも注意が必要です。その場合は、やさしい日本語版や図解の社内ガイドを併用する方法もあります。

全文を訳すか、抜粋か——翻訳範囲の決め方

理想は全文訳ですが、就業規則は賃金規程や育児・介護休業規程などの別規程を含めると相当な分量になります。費用と時間の制約があるときは、優先順位をつけて段階的に進める方法が現実的です。

優先度が高いのは、社員の権利義務に直結し、守らないと不利益が生じる条文です。具体的には、労働時間・休憩・休日・時間外労働の取り扱い、年次有給休暇の付与と申請方法、賃金の締め日と支払日、欠勤や遅刻の連絡ルール、服務規律と懲戒、退職の申し出期限と手続き、ハラスメントの相談窓口あたりが挙げられます。この範囲だけでも訳しておくと、日常の問い合わせの多くはカバーできます。

逆に後回しにしやすいのは、会社の組織や決裁に関する条文、ごく一部の職種にしか適用されない規定などです。ただし「訳していない条文も効力はある」ことを英語版の冒頭に明記しておかないと、「書いてなかった」という誤解につながります。抜粋訳にする場合ほど、この但し書きは丁寧に入れてください。

日本語版と英語版、どちらが優先するかを先に決める

英語版を作るとき、最初に社内で決めておきたいのが正本の扱いです。実務では「日本語版を正本とし、英語版は理解を助けるための参考訳。相違がある場合は日本語版による」と定める例がよく見られます。この一文を日本語版・英語版の双方に入れておくと、訳語のニュアンス差で争いになる場面を減らせます。

ただし、正本を日本語と決めれば説明責任がなくなるわけではありません。社員が英語版しか読めない状態で、英語版に誤訳があった場合、会社側の説明が不十分だったと評価される可能性も否定できません。翻訳の品質管理は、優先関係を決めたうえでなお必要だと考えてください。

労働基準監督署へ届け出るのは日本語版が基本です。英語版は社内周知用の位置づけとして扱い、改定したときは日本語版と英語版の版数・改定日をそろえて管理すると、どちらが最新か分からなくなる事態を防げます。

翻訳で誤解が生まれやすい条文と、その書き方

まず注意したいのが休暇関連です。年次有給休暇(annual paid leave)と、会社が独自に定める特別休暇、そして法定の育児・介護休業は、英語にすると同じ leave でひとくくりになりがちです。有給か無給か、申請の期限、残日数の繰越の扱いを、条文ごとに明示すると誤解が減ります。

次に賃金と労働時間です。基本給・手当・割増賃金の区別、固定的な手当に時間外相当分が含まれる仕組みを採用している場合のその説明、締め日と支払日、控除される項目——このあたりは国によって常識が大きく違う部分です。直訳ではなく、計算の考え方が伝わる注記を添えるほうが実務上は役立ちます。

三つめは退職と解雇です。自己都合退職の申し出期限、退職時の引き継ぎや貸与品返却、懲戒の種類と手続きは、感情的なトラブルになりやすい領域です。英語圏の at-will employment(随意雇用)の感覚と日本の実務は前提が異なるため、「日本の労働関係法令に基づく」旨を明記したうえで、手続きの流れを順に書くと伝わりやすくなります。なお個別の条文表現が法令に沿っているかどうかは、社会保険労務士や弁護士にご確認ください。

進め方の手順と、翻訳の依頼先の選び方

手順はおおむね次の順です。①日本語版の就業規則と各規程を最新版に整える、②英語化する範囲と優先順位を決める、③正本の扱いと但し書きの文案を決める、④翻訳を依頼する、⑤社内でレビューする、⑥社員へ周知し、いつでも閲覧できる場所に置く。日本語版が古いまま翻訳に進むと、二重に直す手間が発生します。③までを先に固めるのが結果的に早道です。

依頼先は、一般の翻訳会社、労務分野に強い翻訳サービス、英語対応ができる社会保険労務士事務所などが考えられます。選ぶときは、法令用語の訳例を持っているか、日本語版の改定に合わせて差分だけ更新できるか、納品形式が社内で編集できる形かの3点を確認してください。費用や対応範囲は依頼先ごとに異なるため、各社の公式サイトや見積もりで最新の条件をご確認ください。

最後は周知です。入社時に英語版のファイルを渡して終わりにせず、社内の共有ドライブやイントラに常設し、改定時は日本語・英語の両方で変更点を通知します。入社オリエンテーションで、休暇申請・残業の扱い・困ったときの相談先の3点だけでも口頭で説明しておくと、文書の読み込み負担がぐっと下がります。

英語版の作成と並行して、在留資格との関係や社会保険の加入手続きなど、外国人雇用特有の論点も出てきます。自社のケースで判断に迷うときは、社会保険労務士に相談しながら進めることをおすすめします。

よくある質問

就業規則の読み方は?英語では何と言いますか。

「しゅうぎょうきそく」と読みます。英語では Work Rules や Employment Regulations などと訳されることが多く、決まった呼び方は一つではありません。社内の資料で呼称を統一しておくと、雇用契約書との違いも説明しやすくなります。

英語版の就業規則も労働基準監督署に届け出る必要がありますか。

届出は日本語版で行うのが基本で、英語版は社内周知用の参考訳として扱う例が一般的です。届出の要否や添付書類は事業場の状況によって異なるため、所管の労働基準監督署または社会保険労務士にご確認ください。

日本語版と英語版で内容が食い違ったらどうなりますか。

あらかじめ「日本語版を正本とし、相違がある場合は日本語版による」と両方の文書に明記しておく方法がよくとられます。ただし、社員が英語版しか読めない状況での誤訳は会社側の説明不足と評価されることもあり得るため、翻訳の確認は丁寧に行ってください。

全文を訳す予算がありません。どこから訳すべきですか。

労働時間、休日・休暇、賃金の支払い、服務規律と懲戒、退職の手続き、相談窓口といった、社員の権利義務に直結する条文から優先するとよいでしょう。抜粋訳にする場合は、訳していない条文にも効力がある旨を英語版の冒頭に明記しておくことをおすすめします。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。