就業規則の作成・変更で使える助成金と補助金|対象になる条件と申請の流れ
「就業規則をつくるだけでお金がもらえる」という制度は、基本的にありません。ただ、労働時間の短縮や正社員転換、育児と仕事の両立といった“制度をつくって実際に運用する”ことに対する助成金は複数あり、その多くが「就業規則に定めて届け出ること」を要件にしています。つまり就業規則の作成・変更は、助成金のゴールではなく入口です。この記事では、就業規則が関わる助成金の全体像、対象になりやすい会社の条件、申請の順番、そして社会保険労務士に相談すべきタイミングを整理します。
この記事の結論
- 就業規則の作成費用そのものを直接補助する制度は一般的ではなく、労働時間短縮・正社員転換・両立支援などの制度導入を助成する仕組みの中で、就業規則への規定が要件になっているのが基本形です。
- 多くの雇用関係助成金は「取り組みを始める前に計画を出し、就業規則を改定して実際に運用し、その後に支給申請する」という順番のため、先に就業規則を変えてしまうと対象外になることがあります。
- 自社が対象になるかは、雇用保険の適用事業所か、労働保険料を納めているか、過去に重大な法違反や不正受給がないか、といった共通の入口条件から確認するのが近道です。
就業規則の作成に使える助成金・補助金はあるのか
検索で「就業規則 作成 助成金」と調べると、いろいろな制度名が出てきます。ただ、就業規則を作った・見直したという事実だけで支給される制度は、一般的には見当たりません。国の雇用関係助成金は「労働者の処遇や職場環境が実際に良くなったこと」に対して支給される設計になっているためです。
そのうえで、多くの助成金は「その制度を就業規則や labor 協定などに明文化し、労働基準監督署に届け出ていること」を支給要件に置いています。たとえば正社員へ転換する制度、時間単位の年次有給休暇、育児や介護に関する休業制度などです。結果として、助成金を取りに行く過程で就業規則の作成・変更が必要になる、という関係になります。
「補助金」という言葉で探している場合、都道府県や市区町村が独自に、社会保険労務士への委託費用の一部を助成する制度を設けていることもあります。実施の有無や内容は自治体ごとに異なるため、お住まいの自治体や商工会議所の公式サイトで、最新の募集要項を確認してください。
就業規則の整備が要件になりやすい助成金の主なタイプ
代表的なのは、労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進に取り組む会社を支援するタイプです。時間外労働の削減目標を立て、就業規則で所定労働時間や休暇制度を見直し、あわせて設備投資や研修などを行う、という組み立てになっていることが多いです。厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」がこの系統にあたります。
次に、有期雇用の社員を正社員に転換する、または処遇を改善するタイプです。「キャリアアップ助成金」が知られており、転換制度をあらかじめ就業規則に定めておくことが前提になります。制度を作る前に転換してしまうと対象にならない、という点が見落とされがちです。
三つ目が、育児・介護と仕事の両立を支援するタイプで、「両立支援等助成金」などが該当します。育児休業の取得や復帰支援、代替要員の確保といった取り組みを、就業規則の規定と実際の運用の両面で示すことが求められます。いずれも要件や名称は年度によって見直されるため、厚生労働省や都道府県労働局の最新のパンフレットで確認するのが確実です。
自社が対象になるか、この順番で確認する
まず入口の共通条件を見ます。雇用保険の適用事業所であること、労働保険料を適正に納めていること、支給申請の前後一定期間に会社都合の解雇などをしていないこと、過去に不正受給や重大な労働関係法令違反がないこと。ここが満たせないと、個別の制度を調べても先に進みません。ひとり社長で従業員がいない場合、雇用関係助成金の多くは対象外と考えられます。
次に、自社が何をしたいのかを一つ決めます。「残業を減らしたい」「パート社員を正社員にしたい」「育休を取りやすくしたい」。目的が決まれば、見るべき制度はほぼ絞れます。逆に「もらえるものは全部」という探し方をすると、要件を満たさない申請を重ねることになりがちです。
最後に、その制度が求める就業規則の記載内容と、今の自社の規則を突き合わせます。常時10人以上の労働者を使用する事業場には就業規則の作成と届出の義務がありますが、10人未満でも助成金の要件として届出済みの規則を求められることがあります。この場合は任意で作成し、労働基準監督署に届け出ることになります。
申請の流れ|いつ、何を用意して、どこに出すか
典型的な流れは、①制度の要項を確認する、②取り組みを始める前に計画届(または計画書)を労働局に提出し認定を受ける、③認定後に就業規則を改定し、労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出る、④定めた制度を実際に運用する、⑤一定期間の実績ができたら支給申請書を労働局またはハローワークへ提出する、という順番です。
ここで最も多いつまずきが、②より先に③や④をやってしまうことです。就業規則をすでに変えた、もう正社員に転換した、という状態からは遡って申請できない制度が少なくありません。「やる前に相談・提出」を原則として動いてください。
用意する書類は制度ごとに異なりますが、就業規則(改定前後)、労働基準監督署の受付印がある届出、労働条件通知書や雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、登記事項証明書などが求められるのが一般的です。日々の勤怠と賃金の記録が整っていないと、後から揃えるのは大変です。助成金を考え始めた時点で、勤怠管理と給与計算の記録の残し方を見直しておくと、申請時の負担が軽くなります。
助成金を抜きにしても、就業規則を作るメリットはある
就業規則は、労働時間、休日、賃金の締め日と支払日、退職や解雇の手続きといった「揉めやすい論点」をあらかじめ文章にしておくものです。人数が少ないうちは口頭の合意で回りますが、採用が増えたり、はじめての退職者が出たりしたときに、基準がないと判断のたびに個別交渉になります。
採用面でも意味があります。育児休業や慶弔休暇、試用期間の扱いなどが書面で示せると、応募者に説明しやすくなります。金融機関や取引先から労務管理の体制を聞かれる場面でも、整備済みであることは説明材料になります。
一方で、ひな形をそのまま使うと、自社では運用できない制度が紛れ込むことがあります。書いてあるのに実施していない状態は、後々トラブルの原因になりかねません。作るときは「自社が実際に守れる内容か」を一条ずつ確認し、迷う部分は専門家に見てもらうのが安全です。
社会保険労務士に相談する判断基準と、費用の考え方
次のいずれかに当てはまるなら、早めに社会保険労務士への相談をおすすめします。従業員が10人に近づいている、はじめて就業規則を作る、助成金の計画届を出す予定がある、固定残業代や変形労働時間制など設計が難しい制度を入れたい、すでに労務トラブルの兆しがある。いずれも、後から直すより最初に設計したほうが手間が少ない領域です。
費用は事務所や依頼範囲(新規作成か一部変更か、届出まで含むか、助成金申請を含むか)によって大きく変わります。金額は各事務所の公式サイトや見積もりで確認し、複数に聞いて比較してください。助成金の申請代行を業として行えるのは社会保険労務士に限られる点も、依頼先を選ぶときの目安になります。
なお、助成金の支給額が課税所得としてどう扱われるかは、状況によって取り扱いが異なることがあります。会計処理や申告の方法については税理士に、就業規則の内容と手続きについては社会保険労務士に、労働契約をめぐる紛争が生じている場合は弁護士に、それぞれご相談ください。制度の詳細な要件は、厚生労働省や都道府県労働局の最新資料でご確認ください。
よくある質問
従業員が10人未満でも、就業規則を作れば助成金の対象になりますか
就業規則を作ったこと自体で支給される制度は一般的ではなく、正社員転換や労働時間短縮といった取り組みを実施することが前提になります。10人未満でも任意で作成し労働基準監督署に届け出れば、要件を満たせる制度はありますが、雇用保険の適用事業所であることなど別の条件もあります。詳細は社会保険労務士や管轄の労働局にご確認ください。
もう就業規則を変更してしまいました。後から申請できますか
多くの雇用関係助成金は、取り組みを始める前に計画届を提出して認定を受けることを求めており、その場合は遡っての申請が認められないことがあります。ただし制度によって扱いが異なるため、自己判断で諦めず、管轄の労働局に現状を伝えて確認してみてください。
就業規則の作成費用そのものを補助する制度はありますか
国の制度としては一般的ではありませんが、自治体や商工団体が専門家への依頼費用の一部を支援する事業を設けている場合があります。実施の有無や募集時期は地域ごとに異なるので、自治体や商工会議所の公式サイトで最新情報を確認してください。
助成金の申請は自分でできますか、専門家に頼むべきですか
要項を読み込み、計画届から支給申請まで期限どおりに進められるなら自社対応も可能です。ただし就業規則の設計と申請書類の整合性が問われる場面が多いため、はじめての場合や制度設計が複雑な場合は社会保険労務士に相談すると進めやすくなります。