賃金規程の作り方|手当・通勤手当・欠勤控除の記載例

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

就業規則をつくるとき、多くの会社がいちばん手間取るのが賃金の部分です。基本給と手当の関係、通勤手当の上限、欠勤したときの控除の計算式――どれも「なんとなく」で運用していると、後から社員に説明できなくなります。この記事では、賃金規程に何をどの順で書くか、手当や控除の記載例とあわせて整理します。

この記事の結論

  • 賃金規程は就業規則の一部で、金額が変わりやすい賃金のルールを本体から切り出して別規程にしておくと、改定のたびに就業規則全体を直さずに済みます。
  • 賃金規程には、適用範囲・賃金の構成・計算期間と支払日・各手当の支給条件・欠勤や遅刻の控除・割増賃金・昇給や賞与の取扱いを、この順に書くのが分かりやすい形です。
  • 手当を設計するときは、まず「割増賃金の基礎に入るか入らないか」を確認し、通勤手当や家族手当など除外できる手当は支給条件を規程で明確にしておきます。

賃金規程とは?就業規則本体と分ける理由

賃金規程は、就業規則のうち賃金に関する部分をまとめた別冊の規程です。労働基準法では、常時一定数以上の労働者を使用する事業場に就業規則の作成・届出が求められ、賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期、昇給に関する事項は、就業規則に必ず記載する事項とされています。賃金規程を別に作る場合も、就業規則の一部として扱われるため、あわせて労働基準監督署に届け出ます。

分ける理由は実務的なものです。手当の金額や支給条件は、事業の成長や人員構成の変化にあわせて見直す機会が多く、そのたびに就業規則の本体を触るのは手間がかかります。賃金の部分を切り出しておけば、改定するのは賃金規程だけで済み、変更点も社員に説明しやすくなります。

就業規則本体には「賃金については別に定める賃金規程による」という一文を入れて、両者のつながりを明示します。この一文がないまま別規程だけが存在すると、どちらが有効なルールなのか分かりにくくなります。

賃金規程に書く項目と並べる順番

構成に決まった型はありませんが、読む人が迷わない順番はだいたい共通しています。おすすめの並びは、①総則(目的・適用範囲)、②賃金の構成、③計算期間と支払日・支払方法、④基本給、⑤各種手当、⑥割増賃金、⑦欠勤・遅刻早退・私傷病欠勤などの控除、⑧休業手当や年次有給休暇取得時の賃金、⑨昇給・降給、⑩賞与、⑪退職金(設ける場合)です。

「賃金の構成」の条文は、後ろの条文の見取り図になります。たとえば「賃金は基本給および次の手当で構成する。役職手当、資格手当、通勤手当、家族手当、時間外割増賃金」のように列挙しておくと、支給していない手当を求められたときに説明しやすくなります。

適用範囲も忘れずに書きます。正社員だけに適用するのか、パート・アルバイトには別規程を作るのかを最初に決め、「この規程はパートタイム労働者には適用せず、別に定めるパートタイム労働者賃金規程による」といった形で整理します。同一労働同一賃金の考え方との関係もあるため、待遇差を設ける場合はその理由を説明できるようにしておくと安心です。

手当の記載例|役職手当・家族手当・資格手当

手当の条文は、①誰に、②どの条件で、③いくら(または別表による)、④いつからいつまで、の4点が読み取れれば十分です。金額を条文本文に直接書き込むと改定のたびに規程を修正することになるため、別表や「賃金決定通知書による」という形にしておく会社もあります。

役職手当の記載例としては、「第◯条(役職手当)会社は、役職に任命された従業員に対し、別表1に定める役職手当を支給する。2 役職手当は、管理監督者としての職責および業務内容に対して支給するものであり、役職を解かれた月の翌月から支給を停止する。」といった書き方が考えられます。役職手当を支給しているだけで労働基準法上の管理監督者に当たるとは限らないため、時間外割増の取扱いは別に整理しておく必要があります。

家族手当や住宅手当(家賃補助)を設ける場合は、支給対象となる家族や住居の条件、届出の義務、事実が変わったときの申告と返還のルールまで書いておきます。たとえば「扶養家族に異動があったときは、速やかに会社へ届け出なければならない。届出を怠り過払いが生じた場合、会社は以後の賃金から調整することがある。」といった条項です。家賃補助は住宅の名義や世帯状況で不公平が出やすいので、「賃貸借契約の名義人が本人であること」など、判定できる基準にするのがコツです。

通勤手当の記載例|公共交通機関とマイカー通勤

通勤手当は、支給基準を数字ではなく「考え方」で書いておくと運用が安定します。公共交通機関の場合の記載例は、「第◯条(通勤手当)会社は、通勤のため交通機関を利用する従業員に対し、最も経済的かつ合理的と認められる経路および方法による定期券相当額を、会社が定める上限の範囲内で支給する。」といった形です。上限額を設ける場合は、別表や社内通知で定める形にしておくと改定しやすくなります。

マイカー通勤の記載例は、距離に応じた支給とすることが一般的です。「自動車または二輪車で通勤する従業員に対しては、会社が別に定める距離区分に応じた通勤手当を支給する。2 マイカー通勤を希望する者は、あらかじめマイカー通勤許可申請書を提出し、会社の許可を受けなければならない。3 許可の要件として、運転免許証の写し、自動車保険(任意保険)の加入を証する書類の提出を求める。」というように、許可制と保険加入の確認をセットで書きます。通勤途中の事故は会社の責任が問われる場面もあるため、許可の条件と取消事由を明記しておくと備えになります。

あわせて、在宅勤務が増えた会社では「出社日数に応じて実費相当額を支給する」形への切替えも検討されています。定期券代から実費精算に変える場合は、不利益変更にあたらないかを含めて慎重に進めます。なお通勤手当には税務上の非課税限度の取扱いがあり、金額や通勤方法によって扱いが変わるため、給与計算の設定は税理士や国税庁の資料で確認してください。

欠勤控除・遅刻早退控除の書き方と計算式

月給制の会社でいちばん問い合わせが多いのが、欠勤したときにいくら引くのかという点です。就業規則や賃金規程に計算式が書かれていないと、控除の根拠があいまいになります。記載例は、「第◯条(欠勤等の控除)欠勤、遅刻、早退および私用外出により所定労働時間の全部または一部を勤務しなかったときは、その勤務しなかった時間に相当する額を、次の計算により控除する。」として、月給を月平均所定労働日数で割った1日あたりの額、さらに1日所定労働時間で割った1時間あたりの額を示す形です。

分母に何を使うかは会社が決めます。年間の月平均所定労働日数を使う方法と、その月の所定労働日数を使う方法があり、前者は毎月同じ単価になるため計算がぶれにくい一方、月によって「働いていないのに引かれる額が多い/少ない」という感覚のずれが生じます。どちらを採るにせよ、規程に書いた方法で一貫して運用することが大切です。

控除の対象に含める賃金項目も書いておきます。基本給だけを対象とするのか、役職手当なども含めるのかで金額が変わるためです。あわせて、控除額が賃金総額を上回るようなケースや、月の途中入退社の日割り計算の扱いも条文化しておくと、担当者が判断に迷いません。なお、控除の方法によっては賃金全額払いの原則との関係が問題になることがあるため、条文案の段階で社会保険労務士に見てもらうと安心です。

割増賃金の基礎と、評価制度・昇給の書き方

手当を設計するときに最初に確認したいのが、その手当が割増賃金(残業代)の計算基礎に入るかどうかです。労働基準法では、家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われる賃金・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金が、基礎から除外できるものとして限定列挙されています。ただし名称が同じでも、全員に一律の定額で支給しているような場合は除外が認められないことがあるため、支給条件の書き方が結果を左右します。

評価制度や昇給については、賃金規程に細かい運用まで書き込むと身動きが取りづらくなります。規程には「毎年◯月に、会社の業績および従業員の勤務成績等を勘案して昇給を行うことがある」といった枠組みを書き、評価シートや評価基準は別途の運用マニュアルに置く会社が多い形です。賞与も同様に、「会社の業績等により支給しないことがある」「支給日に在籍する者に支給する」といった条件を明記しておきます。

なお、いったん規程で定めた賃金を引き下げる変更は、労働条件の不利益変更として慎重な手続が求められます。手当の新設は比較的進めやすい一方、廃止や減額は説明・同意の取り方が難しくなるため、最初の設計で「業績連動にしておく」「支給条件を明確にしておく」ことが後の自由度につながります。

作成から届出までの手順

流れはシンプルです。まず自社の賃金の実態を棚卸しします。現在支払っている手当を全部書き出し、それぞれ「誰に・どんな条件で・いくら」払っているかを一覧にします。ここで、根拠が説明できない手当や、人によって扱いが違う手当が見つかることがよくあります。

次に、条文案を作ります。厚生労働省が公開しているモデル就業規則は、賃金の章の条文構成を確認する出発点として使えます。そのうえで、自社の手当や控除の考え方に合わせて書き換えます。作り終えたら、就業規則本体との矛盾がないか(支払日、休職中の賃金、退職時の取扱いなど)を突き合わせます。

最後に、労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、意見書を添えて、就業規則(変更)届とともに所轄の労働基準監督署へ提出します。届出後は、社内で周知することも必要です。書面の配布、社内共有フォルダへの掲示など、従業員がいつでも見られる状態にしておきます。改定のたびに版数と施行日を残しておくと、後から「この時期はどのルールだったか」を確認できます。

賃金規程は、割増賃金の計算、不利益変更、同一労働同一賃金など、判断が分かれやすい論点が集まる規程です。条文案がひととおりできた段階で、社会保険労務士に内容を確認してもらうことをおすすめします。給与計算の設定や通勤手当の税務上の取扱いについては、あわせて税理士にもご相談ください。

よくある質問

賃金規程のひな形はどこで手に入りますか?

厚生労働省が公開しているモデル就業規則に賃金の章があり、条文構成を確認する出発点として使えます。ただしひな形はあくまで一般的な例なので、自社の手当や勤務形態に合わせた書き換えが必要です。判断に迷う条文は社会保険労務士に相談すると安心です。

通勤手当に上限を設けても構いませんか?

上限を設けている会社は多く、その場合は賃金規程に「会社が定める上限の範囲内で支給する」と明記し、上限額は別表や社内通知で定める形が一般的です。ただし、すでに上限なしで支給している状態から上限を設けるのは労働条件の変更にあたるため、説明と手続が求められます。進め方は社会保険労務士にご確認ください。

欠勤控除の1日あたりの単価は、どの計算方法で出せばよいですか?

月給を年間の月平均所定労働日数で割る方法と、その月の所定労働日数で割る方法があり、どちらを採るかは会社が決めて賃金規程に明記します。大切なのは、決めた方法を毎月一貫して使い、対象となる賃金項目もあわせて規程に書いておくことです。

家賃補助(住宅手当)を出すと、残業代の計算に含まれますか?

住宅手当は割増賃金の基礎から除外できるものとして法令に挙げられていますが、全員に一律の定額で支給している場合などは除外が認められないことがあります。住宅費用に応じて金額が変わる設計にするなど、支給条件の書き方が結果に影響します。判断に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。

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