不動産取引の電子契約|宅建業法上の要件と賃貸・売買での注意点
不動産の契約は「紙と押印が当たり前」という時代が長く続きましたが、宅地建物取引業法の改正により、重要事項説明書や契約書面を相手方の承諾を得て電磁的方法で提供する道が開かれました。とはいえ、電子契約に切り替えれば全部が軽くなるわけではなく、承諾の取り方、説明の進め方、連帯保証人の扱いなど、紙とは違う段取りが必要になります。この記事では、これから仲介や賃貸管理の実務を電子化したい小さな会社の担当者向けに、どこから手を付けるかを順番に整理します。
この記事の結論
- 宅地建物取引業法の改正により、重要事項説明書(35条書面)や契約書面(37条書面)は、相手方の承諾を得たうえで電磁的方法により提供することができるとされています。
- 賃貸・売買のどちらも電子契約での締結は可能とされていますが、承諾の取得方法、本人確認、連帯保証人など契約当事者以外の署名者への対応を事前に設計しておく必要があります。
- 電子契約では課税文書の「作成・交付」が紙と異なる扱いとなる場面があるため、印紙の要否は国税庁の資料を確認し、判断に迷う場合は税理士に相談してください。
不動産の売買・賃貸契約は電子契約で締結できるのか
結論から言えば、不動産の売買契約書や賃貸借契約書そのものは、もともと法律上「紙でなければならない」と定められている種類の契約ではありません。当事者が合意すれば電子的に締結することができ、電子署名法に基づく電子署名やタイムスタンプを付すことで、後から内容の真正性を主張しやすくする運用が一般的です。
問題になっていたのは契約書ではなく、宅地建物取引業者が交付を義務づけられている書面のほうでした。重要事項説明書(35条書面)と契約内容を記載した書面(37条書面)は、長く記名押印した書面の交付が求められてきましたが、法改正により、相手方の承諾を得たうえで電磁的方法によって提供することが認められています。
つまり、仲介や管理を業として行う会社が電子化を検討するときは、「契約書を電子にできるか」ではなく「宅建業法上の書面を電子で提供する手順を満たせるか」から考えるのが順番として自然です。要件の細かい部分は国土交通省が公表しているマニュアルやガイドラインで更新されることがあるため、導入前に最新版を確認してください。
宅建業法上の書面を電子化するとき、最初に整えるべき3つ
まず一つ目は、相手方からの承諾です。電磁的方法での提供は、相手方が承諾していることが前提とされています。承諾はメール本文や専用画面のチェックなど記録に残る形で取り、どのファイル形式で、どの方法(メール添付、ダウンロード、システム上での閲覧など)で送るのかを示したうえで得るのが実務上の基本形です。口頭だけで済ませると、後から「聞いていない」となったときに説明がつきにくくなります。
二つ目は、宅地建物取引士による記名です。電子化しても、35条書面・37条書面に宅建士が関与するという構造自体は変わりません。電子署名など、誰が記名したかを確認できる措置を取ったうえで提供する運用になります。
三つ目は、相手方が受け取った内容をきちんと保存・出力できる状態にすることです。閲覧期限が切れてファイルが見られなくなる、スマートフォンでは開けない、といった事態は避けたいところです。ダウンロード可能なPDFで渡す、必要なら紙の控えも用意する、といった代替手段を最初から案内しておくと、高齢の当事者にも対応しやすくなります。
重要事項説明(IT重説)と電子契約はどう組み合わせるか
重要事項説明そのものをオンラインで行う、いわゆるIT重説と、書面を電子で提供することは別の話です。オンラインで説明しながら書面は紙で郵送する、という組み合わせも、書面は電子で提供するが説明は対面で行う、という組み合わせもあり得ます。自社の体制に合わせて段階的に進めて構いません。
順番としては、(1)書面の電子提供から始める、(2)慣れたらIT重説を加える、という流れが小さな会社には取り組みやすいはずです。IT重説は映像と音声が双方向でやり取りできること、宅建士証を相手が確認できること、書面が事前に相手方の手元にあることなど、当日の段取りに関わる条件があり、いきなり全部を同時に始めると現場が混乱しやすいためです。
当日は、通信が途切れた場合に中断して再開する、相手方の音声や画面が不安定なときは日を改める、といった判断基準をあらかじめ社内で決めておくと迷いません。説明の記録(日時、参加者、使用したツール)も残しておくと、後の確認に役立ちます。
賃貸の電子契約|連帯保証人がいる場合の進め方
賃貸借契約を電子契約にするとき、最もつまずきやすいのが連帯保証人です。借主と貸主の二者であればシステム上の署名フローは単純ですが、そこに連帯保証人が加わると、署名者が三者以上になります。使用するサービスが三者以上の署名に対応しているか、保証人にメールアドレスがあるか、スマートフォンで操作できるかを、契約の前段階で確認してください。
実務としては、(1)保証人の連絡先(メールアドレス・携帯番号)を申込時に取得する、(2)保証人にも電子契約で行う旨の承諾を取る、(3)署名の順序を借主→保証人→貸主のように決めておく、という順で進めると滞りにくくなります。保証人が高齢でメール操作が難しい場合は、その契約だけ紙に戻す、という判断も現実的です。
なお、個人が保証人となる根保証契約では極度額の定めが求められるなど、民法上の要件があります。電子か紙かにかかわらず必要な事項なので、契約書のひな形が改正民法に対応しているかを、この機会に弁護士や司法書士に確認しておくとよいでしょう。家賃保証会社を利用する場合は、その会社の契約方式が電子に対応しているかも別途確認が必要です。
売買契約書の電子化で気をつけること|印紙とクーリング・オフ
売買契約書は課税文書にあたるため、紙で作成すると収入印紙が必要になります。電子的に作成・交付した場合の取扱いについては国税庁が見解を示していますので、自社のケースがどう扱われるかは公表資料を確認し、判断が難しいときは税理士にご相談ください。金額の大きい取引ほど影響が出るため、「電子にすれば当然に不要」と社内で思い込まないことが大切です。
クーリング・オフについては、宅地建物取引業者が売主となる一定の取引で、事務所等以外の場所で買受けの申込みをした買主に認められる制度です。告知書面の交付が起算点に関わるため、電子で提供する場合は、いつ・どの方法で相手方に届いたかを記録できる形にしておく必要があります。送信履歴、開封やダウンロードの記録が残るサービスを選ぶと説明しやすくなります。
また、売買では住宅ローンの金融機関、登記を担当する司法書士、買主側の仲介会社など、関係者が多数登場します。片方の当事者だけが電子でもう一方が紙、という「ねじれ」が起きると、原本の確認で手戻りが発生します。案件の初期段階で、関係者全員が電子に対応できるかを一度確認してから進めるのが安全です。
電子契約サービスの選び方と、社内の運用ルール
サービスを比較するときは、まず自社の取引に必要な機能から絞り込みます。判断の順番としては、(1)三者以上の署名に対応しているか、(2)宅建業法上の書面提供に使える形(ダウンロード可・保存可)か、(3)本人確認の水準(メール認証のみか、電子証明書を使う方式にも対応しているか)、(4)他社や金融機関から送られた契約への対応、の順に見ると絞りやすくなります。
不動産は金額も期間も大きい取引なので、本人確認の水準は慎重に決めたいところです。賃貸の更新のように定型的で金額が限られる契約はメール認証中心、売買のように高額な契約はより厳格な本人確認、というように、契約の種類ごとに方式を分けて運用する会社もあります。料金や機能は改定されることがあるため、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。
あわせて、社内ルールも文書にしておきます。誰が送信権限を持つか、送信前に誰が内容を確認するか、締結済みファイルをどこに保存するか、保存期間はどうするか。電子取引データの保存については電子帳簿保存法の考え方が関わるため、要件の詳細は国税庁の資料を確認し、自社の保存方法で足りるかを税理士に相談しておくと安心です。
迷ったら専門家に相談を
不動産の電子契約は、宅建業法(国土交通省)、印紙税や電子帳簿保存法(国税庁)、民法上の保証の要件と、複数の分野がまたがります。一般的な考え方はこの記事の範囲で整理できますが、個別の案件が要件を満たすかどうかは、契約の内容や当事者の属性によって変わります。
印紙や保存方法については税理士に、契約書のひな形や保証の条項、クーリング・オフの告知文面については弁護士に、登記が絡む売買の段取りについては司法書士に確認しておくと、導入後の手戻りを減らせます。最初の1件を進める前に相談しておくほうが、結果として早く軌道に乗ります。
よくある質問
賃貸借契約は電子契約だけで完結できますか。
借主・貸主・連帯保証人など関係者全員が電子での締結に承諾し、使用するサービスが複数署名者に対応していれば、電子のみで進める運用は可能とされています。ただし保証会社や貸主側の管理会社が紙を求めることもあるため、事前に全員の対応可否を確認してください。
重要事項説明書を電子で渡す場合、相手の承諾はどう取ればよいですか。
提供するファイル形式や受け取り方法を示したうえで、メールや申込フォームなど記録に残る形で承諾を得るのが一般的な運用です。承諾を得た日時と方法を保存しておくと、後の確認に役立ちます。具体的な様式は国土交通省の公表資料をご確認ください。
電子契約にすれば売買契約書の印紙は不要になりますか。
電子的に作成・交付した場合の取扱いについては国税庁が見解を示していますが、案件ごとの事情によって判断が分かれることもあります。自社のケースについては公表資料を確認のうえ、税理士にご相談ください。
クーリング・オフの告知を電子で行っても起算点は同じですか。
告知書面がいつ相手方に提供されたかが起算に関わるため、送信・開封・ダウンロードの記録が残る方法を選ぶことが重要です。運用の妥当性に不安がある場合は、弁護士に文面と手順を確認してもらうことをおすすめします。