電子契約を無料で使うには|法人向け無料プランの範囲と注意点
紙の契約書を郵送してハンコを押して返送してもらう。この往復が地味に時間を食うことに気づいて、電子契約を調べ始めた方は多いと思います。調べると「無料プランあり」という文字がずらりと並びますが、無料の範囲は各社でかなり違います。この記事では、無料プランでどこまでできるのか、どこから有料になるのか、そして無料のまま使い続けてよい会社とそうでない会社の見分け方を整理します。
この記事の結論
- 法人向け電子契約サービスの多くは無料プランを用意していますが、月あたりの送信通数、登録できるユーザー数、文書の保管期間などに制限が設けられているのが一般的です。
- 無料プランの大半は「立会人型(メール認証で本人確認するタイプ)」で、電子証明書を使う当事者型は有料になっていることが多いため、相手方や契約の種類によって使い分けが必要です。
- 送信件数が月に数件程度で、相手方も電子契約に抵抗がない取引が中心なら無料プランから始め、通数の上限に届くようになった時点で有料プランを検討する、という順番が現実的です。
電子契約の「無料」には何種類かある
電子契約サービスの無料には、大きく分けて三つのパターンがあります。一つ目は、機能を制限したうえで期限なく使える無料プラン(フリープラン)。二つ目は、有料プランを一定期間試せる無料トライアル。三つ目は、受信側・締結される側としての利用が無料、というものです。
三つ目は見落としやすいところです。多くのサービスでは、契約書を送る側がアカウントを持っていれば、受け取って署名する側はアカウント登録なしで、費用もかからずに締結できる設計になっています。つまり、取引先から電子契約で送られてくるだけなら、こちらで何かを契約する必要はないケースがほとんどです。まず自社が「送る側」なのか「受ける側」なのかを確認してください。
自社から送りたい、という場合に検討するのが一つ目の無料プランです。以下はこの無料プランを前提に話を進めます。
無料プランでどこまでできるのか|確認すべき5項目
無料プランを比べるときは、機能の多さではなく制限の中身を見ます。順番としては、①月あたりの送信通数、②登録できるユーザー数、③文書の保管期間と保管件数、④テンプレートや一括送信などの機能、⑤サポートの範囲、の五つを見れば大枠はつかめます。
特に効いてくるのが①と②です。送信通数は「月◯件まで」という形で決まっていることが多く、上限に達すると翌月まで送れません。ユーザー数が1名に限られていると、社長以外が契約書を送れない、あるいは承認フローを組めない、という状況になります。ひとり社長のうちは支障が出にくいものの、人を採用した途端に足りなくなる部分です。
③の保管期間も重要です。無料プランでは、締結済みの文書をサービス上に置いておける期間や件数に制限がある場合があります。契約書は取引の根拠になる書類ですから、サービス側の保管に頼り切らず、締結後にPDFを自社のストレージにも保存しておく運用にしておくと安心です。具体的な制限内容は変更されることがあるため、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。
立会人型と当事者型|無料プランはほぼ立会人型
電子署名の方式は、大きく立会人型(事業者署名型)と当事者型に分かれます。立会人型は、サービス事業者が契約当事者に代わって署名を付与し、本人確認はメールアドレスへの送信やアクセスコードなどで行う方式です。当事者型は、契約する本人が電子証明書を取得して署名する方式で、本人確認の手続きが厳格になります。
無料プランで提供されているのは、ほとんどが立会人型です。当事者型は電子証明書の発行手続きが必要なため、上位の有料プランに含まれる形が一般的です。日常的な業務委託契約、秘密保持契約、注文請書といった取引では立会人型が使われることが多く、無料プランでも実務が回る場面はあります。
一方で、相手方の社内規程で当事者型の署名が求められる場合や、不動産・金融関連など法令上の要件が細かく定められている契約では、立会人型では要件を満たさないと扱われることがあります。また、契約の種類によってはそもそも書面が求められるものもあります。自社が扱う契約書が電子でよいかどうか迷う場合は、弁護士や司法書士に確認してから運用を決めてください。
無料で始めるときの手順|いつ・何を用意して・どう送るか
準備するものは多くありません。法人用のメールアドレス、送りたい契約書のPDF、そして相手方の担当者名とメールアドレスです。会社の代表印の印影データは、必須ではないものの、押印イメージを表示したい場合に使うことがあります。
流れは、サービスに法人アカウントを登録し、契約書PDFをアップロードし、署名欄や日付欄の位置を画面上で指定し、相手方のメールアドレスを入力して送信、という順です。相手方にはメールでリンクが届き、そこで内容を確認して署名すると締結が完了します。完了後は双方に締結済みPDFが通知されるので、これを自社のフォルダに保存します。
最初の一通は、社内の人や気心の知れた取引先に試験的に送ってみるのが無難です。署名欄の位置がずれていないか、相手側の画面でどう見えるかを一度確認しておくと、本番で慌てずに済みます。あわせて、相手方には「電子契約で送ってもよいか」を事前に一言確認しておくと、進行が滞りにくくなります。
無料のままでよい会社、有料に切り替えたほうがよい会社
無料プランのままで進めやすいのは、月の送信件数が数件にとどまり、契約書を送る担当者が実質ひとりで、契約の内容も定型的な会社です。創業直後のひとり社長や、外注先が数社の小規模な会社はここに当てはまりやすいところです。
有料プランを検討する目安は三つあります。一つ目は、月の途中で送信通数の上限に届くようになったとき。二つ目は、契約書を送る担当者が二人以上になり、承認フローや権限の分離が必要になったとき。三つ目は、取引先から当事者型の署名や、より厳格な本人確認を求められたときです。どれか一つでも当てはまったら、無理に無料で運用を続けるより、有料プランや別サービスの比較に移ったほうが結果的に手間が減ります。
なお、電子契約で締結した文書は、電子取引のデータとして保存のルールが関わってきます。保存の方法や検索できる状態の整え方には要件があるため、国税庁など所管官庁の資料を確認し、自社の保存方法で足りるかどうかは税理士にも相談しておくと安心です。「無料だから記録が残らなくてもよい」とはいきません。
無料プランを選ぶときの比較の順番
複数のサービスで迷ったら、次の順に見ていくと決めやすくなります。まず、自社の月の送信件数が無料枠に収まるか。次に、使う人数が無料枠のユーザー数に収まるか。ここで残ったものについて、締結済み文書の保管の扱いと、将来有料に切り替えたときの機能を見ます。
加えて見ておきたいのが、相手方の操作負担です。受け取る側がアカウント登録を求められるかどうか、スマートフォンで署名できるかどうかは、締結までのスピードに直結します。取引先に年配の方が多い、ITに慣れていない業種が中心、という場合はここの比重を上げてください。
そして、将来の乗り換えやすさです。締結済みの文書を一括でダウンロードできるか、フォルダ構成ごと取り出せるか。ここが弱いと、あとで別のサービスに移るときに苦労します。料金やプランの内容は変わることがあるので、最終的な比較は各社の公式サイトで最新の条件を確認したうえで行ってください。
無料プランで気をつけたい落とし穴
一つ目は、無料の範囲を超えた分が自動で課金される設計になっている場合があることです。上限に達したらどうなるのか(送信できなくなるのか、追加課金になるのか)を、使い始める前に確認しておいてください。
二つ目は、社内で複数のサービスが混在してしまうことです。担当者がそれぞれ別の無料アカウントを作ると、契約書の保管場所が分散し、あとで「あの契約書どこ」となります。無料で始める場合も、使うサービスは一つに決め、締結済みPDFの保存先フォルダをあらかじめ決めておくのがおすすめです。
三つ目は、電子でよい契約かどうかの確認を飛ばしてしまうことです。多くの契約は電子で締結できますが、契約の種類によっては書面や特定の方式が求められるものもあります。判断に迷ったまま進めると、あとから効力が争われる余地を残すことになりかねません。自社の主要な契約類型について一度、弁護士に整理してもらっておくと、その後は安心して無料プランを使えます。あわせて、保存方法については税理士に、雇用契約書を電子化する場合は社会保険労務士に確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
電子契約は無料でも法的な効力がありますか
無料プランかどうかと、電子署名としての要件を満たしているかは別の話です。立会人型の署名でも要件を満たす形で運用されていれば効力が認められると扱われることが一般的ですが、契約の種類や相手方の要求によっては当事者型が求められる場合もあります。重要な契約については弁護士にご確認ください。
受け取る側も料金がかかりますか
多くのサービスでは、送信された契約書を受け取って署名する側は、アカウント登録や費用なしで締結できる設計になっています。取引先から電子契約で送られてくるだけであれば、自社で契約を申し込む必要がないケースがほとんどです。詳しい条件は送信元が使っているサービスの公式サイトで確認してください。
無料プランから有料に切り替えるタイミングはいつですか
月の送信通数の上限に届くようになったとき、契約書を送る担当者が二人以上になったとき、取引先から当事者型の署名を求められたとき、のいずれかが目安です。どれか一つでも当てはまったら比較を始めると、業務が止まらずに移行できます。
無料の電子契約でも電子帳簿保存法の対応は必要ですか
電子で授受した契約書は電子取引のデータにあたるため、保存のルールが関わってきます。無料プランであっても、締結済みPDFを適切に保存し、必要なときに探せる状態にしておく必要があります。要件の詳細は国税庁の資料を確認し、自社の運用で足りるかは税理士にご相談ください。