電子帳簿保存法のスキャナ保存|要件と紙の原本を破棄できる条件
「領収書をスキャンしたから、紙は捨てていいですよね?」——バックオフィスの相談でいちばん多い質問のひとつです。結論から言えば、スキャナ保存の要件を満たす形で保存できていれば紙の原本を残さない運用も可能ですが、要件を満たさないまま捨ててしまうと、あとから証拠書類が何も残らないという事態になりかねません。この記事では、スキャナ保存の要件を「読み取り」「改ざん防止」「検索」「事務処理のルール」の4つに分けて整理し、原本を破棄してよいと判断できる条件と、その前にやっておく社内の準備をまとめます。
この記事の結論
- 電子帳簿保存法のスキャナ保存は、紙で受け取った領収書や請求書をスキャン・撮影して電子データで保存する制度で、要件を満たせば紙の原本を残さない運用も可能とされています。
- スキャナ保存の主な要件は、一定の解像度・カラーでの読み取り、タイムスタンプや訂正削除履歴が残る仕組みなどの改ざん防止措置、日付・金額・取引先での検索、そして事務処理規程にもとづく運用の4つに整理できます。
- 原本を破棄してよいのは、要件を満たす保存が完了し、読み取り内容と原本が一致していることを確認したあとで、かつ社内の事務処理規程で破棄のタイミングを定めている場合です。
電子帳簿保存法のスキャナ保存とは何か(電子取引との違い)
電子帳簿保存法は、帳簿や書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律で、大きく「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つに分かれます。このうちスキャナ保存は、取引先から紙で受け取った領収書・レシート・請求書・契約書などを、スキャナやスマホで読み取って電子データとして保存する仕組みです。
混同しやすいのが電子取引データの保存です。メールにPDFで届いた請求書やWeb明細のように、最初から電子でやり取りしたものは電子取引にあたり、そのデータを一定の要件で保存することが求められます。一方、紙で受け取ったものを電子化するかどうかは事業者の選択で、紙のまま保存し続ける運用も引き続き認められています。
つまりスキャナ保存は「やらなければならない義務」ではなく、「要件を満たせば紙を電子に置き換えられる選択肢」です。まずここを押さえると、あとの判断がぶれません。なお制度の細かい要件は改正が重なっているため、実際に運用を始める前に国税庁の最新の資料を確認してください。
スキャナ保存の要件を4つに分けて理解する
要件を条文の順に読むと分かりにくいので、実務では4つのかたまりで捉えると整理しやすくなります。①読み取りの品質(解像度・カラー・階調)、②改ざん防止(タイムスタンプ、または訂正削除の履歴が残るシステムでの保存)、③検索できること(取引年月日・取引金額・取引先で探せる)、④運用ルール(入力期間の制限、事務処理規程の整備、関係書類の備付け)です。
読み取りの品質については、一定水準以上の解像度で、書類の種類によってはカラーでの読み取りが求められる、という考え方が基本です。数値の具体的な基準は国税庁の資料で確認し、使っている複合機やアプリの設定がその基準を満たしているかを最初に確かめてください。スマホのカメラで撮影する場合も、読み取りの品質と後述の入力期間などを満たせるかが判断の分かれ目になります。
検索要件は、会計ソフトや経費精算サービスに取り込んでいるならソフト側の機能でまかなえることが多い部分です。ファイル名で管理する場合は「日付_取引先_金額」のように命名規則を決め、索引となる一覧表を別に用意する方法もあります。どちらを選ぶかは、月に扱う枚数と、担当者が何人いるかで決めるとよいでしょう。
スマホ撮影でもいいのか|解像度とカラーの考え方
スマホでの撮影自体は、スキャナ保存の方法として想定されています。ポイントは機器の種類ではなく、求められる品質で読み取れているかどうかです。撮影時は、書類全体が枠に収まり、影や指が写り込まず、文字が判読できることを確認してください。折れた領収書は一度伸ばす、感熱紙のレシートは色が薄くならないうちに撮る、といった地味な運用が結局いちばん効きます。
カラーについては、書類の重要度に応じた扱いが定められており、領収書のように資金や物の流れに直結する書類は原則としてカラーでの読み取りが求められる、という整理がされています。グレースケールで足りるケースもありますが、判断に迷うなら全部カラーで統一したほうが運用は単純です。保存容量よりも、後から作り直せないことのほうがリスクだからです。
解像度は、アプリ側で「高画質」「原稿サイズ自動」などの設定がある場合、既定値のままだと基準を下回ることがあります。導入時に一度テストして、実際に保存されたファイルの解像度を確認しておくと安心です。経費精算サービスを使う場合は、スキャナ保存の要件に対応している旨が示されているか、各社の公式サイトで確認してください。
紙の原本を破棄してよいのはどの時点か
原本を破棄できるのは、①スキャナ保存の要件を満たす形で保存が完了し、②読み取った画像が原本と同じ内容であることを確認し、③社内の事務処理規程で破棄の手順とタイミングを定めている、この3つがそろったときです。逆に言えば、どれか1つでも欠けている段階でレシートを捨ててしまうと、電子データも紙も証拠として不十分になるおそれがあります。
実務では「スキャン→確認者によるチェック→破棄」という3ステップを規程に書き込み、チェック済みのものだけを破棄ボックスに入れる運用が分かりやすいです。ひとり社長の場合も、自分で撮って自分で確認することになりますが、月末など決まったタイミングでまとめて見直す日を作ると抜けが減ります。
なお、書類によっては税務以外の理由で原本を残す必要があるものもあります。契約書や、印紙を貼った書類、許認可に関する書面などは、税務上の保存とは別の観点から原本を保管しておく判断もありえます。迷う書類があれば、破棄する前に税理士に確認してください。
今日から始めるなら|導入の手順と社内ルールの作り方
最初にやるのは、対象書類の棚卸しです。自社に紙で入ってくる書類(レシート、領収書、請求書、納品書、契約書など)を書き出し、どれをスキャナ保存に回すかを決めます。次に、読み取りに使う機器やアプリを決め、解像度とカラーの設定をテストします。ここまでが準備段階です。
続いて、事務処理規程を作ります。国税庁のサイトにはサンプルが公開されているので、それをもとに自社の担当者名・入力のタイミング・確認の方法・原本破棄の手順を書き換える形が現実的です。規程は作って終わりではなく、担当者が変わったときに更新することまで決めておきます。
運用開始後は、月次の締め作業のなかに「未入力の紙が残っていないか」の確認を組み込みます。入力期限の考え方があるため、机の上に何週間も領収書が積まれている状態が続くと要件を満たしにくくなります。紙を受け取ったらその日のうちに撮る、という個人の習慣づけが、結局いちばん効率のよい対策になります。
よくあるつまずきと、判断に迷ったときの順番
つまずきやすいのは、「会計ソフトに画像を添付しているから大丈夫」と思い込んでいるケースです。添付できることと、スキャナ保存の要件を満たしていることは別の話で、タイムスタンプや訂正削除履歴の扱い、検索の可否をソフトごとに確認する必要があります。機能の対応状況は各社の公式サイトで最新情報を確認してください。
判断に迷ったら、次の順に見ていきます。まず「その書類は紙で受け取ったものか、電子で受け取ったものか」。電子ならスキャナ保存ではなく電子取引の話になります。次に「読み取りの品質と改ざん防止の仕組みを満たせるか」。満たせないなら、無理に電子化せず紙のまま保存する選択が安全です。最後に「規程と確認の手順があるか」。ここまで整って初めて、原本の破棄を検討する段階になります。
電子帳簿保存法は改正が続いている分野で、要件の細部は時期によって変わります。制度の全体像は国税庁の公表資料で確認しつつ、自社の書類の種類や保存方法が要件を満たしているかどうかの最終判断は、顧問の税理士に相談したうえで進めることをおすすめします。導入時に一度見てもらっておくと、あとからの作り直しを避けられます。
よくある質問
スキャンしたら領収書やレシートはすぐ捨ててよいですか。
スキャナ保存の要件を満たす形で保存が終わり、読み取った内容が原本と一致していることを確認したうえでなら、紙を残さない運用も可能とされています。ただし確認の手順や破棄のタイミングを事務処理規程で定めていることが前提です。迷う書類は税理士に確認してから判断してください。
スマホで撮影した写真でもスキャナ保存になりますか。
機器の種類ではなく、求められる読み取り品質やその他の要件を満たしているかで判断されます。スマホ撮影も方法として想定されていますが、解像度やカラーの設定、入力の期限などを満たせているかを確認してください。具体的な基準は国税庁の資料で確認するのが確実です。
スキャナ保存は義務ですか。やらないと問題になりますか。
紙で受け取った書類を電子化するかどうかは選択で、紙のまま保存し続ける運用も認められています。一方、メールやWebで受け取った電子取引データの保存は別のルールになるため、そちらは対応が必要かどうかを確認してください。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。
カラーとグレースケール、どちらで保存すればよいですか。
書類の重要度に応じて扱いが分かれており、資金や物の流れに直結する領収書などは原則カラーでの読み取りが求められる整理になっています。運用を単純にするため、すべてカラーに統一する会社もあります。詳細な区分は国税庁の資料で確認してください。