電子契約が社内・取引先で進まない理由|反対されたときの進め方

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

電子契約のサービスを契約したのに、気づけば紙の契約書のまま。社内からは「これで本当に有効なのか」と聞かれ、取引先からは「うちは紙でお願いします」と返ってくる。よくある光景です。電子契約が進まない理由の多くは、システムそのものではなく、不安の言語化ができていないことと、決める順番が決まっていないことにあります。この記事では、止まっている原因の切り分け方と、社内・取引先それぞれへの進め方を、実務の順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 電子契約が進まない原因は「制度への不安」「社内の決裁ルールが未整備」「取引先の事情」の3つに分かれ、どれが詰まっているかを先に切り分けると打ち手が決まります。
  • 社内で反対されたときは、法的な説明から入らず、まず「誰が何を承認するのか」という決裁フローの置き換えを示すと話が進みやすくなります。
  • 取引先には全社一斉ではなく、契約件数が多く定型の取引先から個別に打診し、相手が紙を希望する場合は紙と併用する形で運用するのが現実的です。

電子契約が進まない理由は大きく3つに分かれる

「電子契約が進まない」と一言で言っても、詰まっている場所は会社ごとに違います。まず切り分けたいのが、①制度や法的有効性への不安、②社内の決裁・押印ルールが電子に置き換わっていない、③取引先が紙を希望している、の3つです。この3つは打ち手がまったく違うので、混ぜて考えると議論が堂々巡りになります。

切り分け方は簡単です。直近で電子化を見送った契約を3〜5件挙げて、それぞれ「なぜ紙に戻したのか」を一言で書き出します。「上が不安だと言った」なら①、「誰が承認するのか決まっていない」なら②、「先方から紙でと言われた」なら③です。書き出してみると、たいてい2つ目に偏っていることが分かります。

①だと思っていた案件が、実は②だったというケースは多くあります。法的な説明資料を何度作っても進まないのに、決裁フローを一枚の図にした途端に動き出す、ということが起きるのはこのためです。まず原因の分布を見てから、資料を作る順番を決めてください。

社内で反対されたとき、説明する順番

社内説明でやりがちなのが、電子署名法や電子帳簿保存法の話から始めてしまうことです。制度の説明は必要ですが、先頭に置くと「難しそう」「うちには早い」という反応を招きます。順番としては、(1)今の紙の運用でかかっている手間、(2)電子にしたときの決裁フロー、(3)法的な位置づけと社内規程の変更点、(4)例外の扱い、の順が通りやすいです。

(1)では、契約書1件あたりの流れを実際に追ってみせます。印刷して、製本して、押印申請を出して、郵送して、返送を待って、ファイルに綴じる。この一連を口頭ではなく紙に書き出すと、判断する側にも負担の実感が伝わります。所要日数も、実際の案件で何日かかったかを数えて示すと説得力が出ます。

(3)の法的な位置づけは、「電子署名が付された電子文書は、一定の要件を満たす場合に真正に成立したものと推定される扱いがあります」という程度の整理にとどめ、詳細は総務省・法務省・デジタル庁などの公表資料や、顧問の弁護士・司法書士に確認する前提で話すのが安全です。社内向けに断定的な資料を作ってしまうと、後で修正が効かなくなります。

社内説明会と読み合わせをどう設計するか

説明会は、全社一斉に1回やるより、契約に関わる部署だけを集めて短時間でやるほうが機能します。営業、管理部門、そして最終決裁者。この3者が同じ場にいることが重要で、誰か欠けると「あの人に確認してから」で止まります。時間は30〜45分程度、資料は画面共有で十分です。

説明会の後半には「読み合わせ」を入れます。読み合わせとは、実際に1件、テスト用の契約書を画面に映しながら、送信から締結完了までを全員で通して見ることです。ここで「押印欄はどうなるのか」「相手はアカウント登録が必要なのか」「締結後のファイルはどこに保存されるのか」といった質問がまとめて出ます。文書で説明するより早く、不安が具体的な質問に変わります。

出た質問はその場で解決しようとせず、ホワイトボードや共有メモに全部書き出します。後日、回答を一覧にして配ると、それがそのまま社内マニュアルの下地になります。質問が出ないときは、「紙のときと違って不便になりそうなところは?」と聞き方を変えてみてください。

取引先に断られたときの進め方

取引先への打診は、全社一斉に案内を出すより、優先順位をつけて個別に進めるほうが結果的に早く進みます。優先度が高いのは、契約件数が多い先、契約内容が定型の先、担当者と日常的にやり取りがある先です。逆に、単発の取引や、相手の決裁ラインが見えない先は後回しで構いません。

断られる理由も分けて聞きます。「社内ルールで紙と決まっている」のか、「担当者が操作に不安がある」のか、「押印権限者が電子に対応していない」のか。担当者レベルの不安であれば、締結の流れを説明した1枚の案内を添えるだけで解決することがあります。社内ルールが理由の場合は、相手側の見直しを待つしかないので、無理に押さないほうが関係は保てます。

打診の文面は、「電子契約に切り替えたい」より「今回の契約は電子でも紙でも対応できます。ご希望をお聞かせください」という形のほうが返事をもらいやすいです。選択肢を示すと、相手は断る負担が減り、結果として電子を選ぶ先も出てきます。

紙と併用しながら移行する具体的な手順

現実的な移行は、全部を一度に切り替えるのではなく、契約の種類ごとに段階を分ける方法です。第1段階は、社内で完結する書類や、定型で金額の小さい契約。第2段階は、継続取引の基本契約や注文書。第3段階は、金額が大きい契約や、不動産・許認可に関わるものなど、書面での作成が求められる場合があるもの。第3段階は専門家への確認を前提にしてください。

並行して整えるのが、社内規程です。押印規程や決裁規程に「電子署名による締結」を位置づけ、誰が承認し、誰が送信するのかを明文化します。ここが曖昧なままだと、担当者が毎回上長に確認することになり、紙より遅くなって「やっぱり紙のほうが早い」となってしまいます。

保存の扱いも最初に決めておきます。締結済みファイルの保存場所、ファイル名の付け方、検索できる状態にしておくこと。電子取引のデータ保存については電子帳簿保存法の考え方が関わるため、要件の詳細は国税庁の公表資料を確認し、自社の運用で足りるかどうかは税理士に相談しておくと安心です。

サービスを選び直すべきか、運用を変えるべきか

「進まないのはツールが合っていないからでは」と考える前に、上で切り分けた3つの原因のうちどれが効いているかをもう一度見てください。原因が②の決裁フローや③の取引先事情であれば、サービスを替えても状況は変わりません。替えるべきかを判断する材料は、相手側の操作負担、他システムとの連携の必要性、社内の利用人数と権限の分け方あたりです。

選び直しを検討する場合の見方としては、「取引先にアカウント登録を求める方式かどうか」「自社の契約書の種類に対応できるか」「保存と検索の仕組みが自社の運用に合うか」を先に見ます。機能の多さより、いちばん件数が多い契約の流れがそのまま乗るかどうかが実務では効きます。料金体系や契約形態は変更されることがあるため、各社の公式サイトで最新の内容を確認してください。

なお、電子署名の方式や本人確認のレベルは、契約の重要度によって求められるものが変わることがあります。重要な契約や、後で争いになりうる契約については、どの方式で締結するかを弁護士や司法書士に確認したうえで、社内の基準として決めておくことをおすすめします。制度面の判断が絡む部分は、自社だけで結論を出さず、税理士・弁護士など適切な専門家に相談しながら進めてください。

よくある質問

電子契約は取引先の同意がなくても使えますか

契約の締結方法は当事者間の合意によるため、相手が紙を希望する場合は紙で締結するのが一般的です。まずは電子と紙の両方に対応できる旨を伝え、相手に選んでもらう形が進めやすいです。

社内の役員が電子署名に反対しています。どう説明すればよいですか

法的な説明より先に、今の押印・郵送にかかっている日数と手間を具体的な案件で示すほうが伝わりやすいです。そのうえで、誰が承認し誰が送信するのかという決裁フローを一枚の図にして提示すると、判断しやすくなります。

電子契約の説明会は何を話せばよいですか

現状の手間、新しい決裁フロー、法的な位置づけ、例外の扱いの順で構成し、最後にテスト契約の読み合わせを入れるのが基本形です。読み合わせで出た質問をまとめると、そのまま社内マニュアルになります。

すべての契約を電子にしないと意味がないですか

そのようなことはありません。契約の種類ごとに段階を分け、定型で件数の多いものから移すのが現実的です。書面での作成が求められる場合があるものについては、弁護士や司法書士に確認したうえで進めてください。

あわせて読みたい

「契約・電子署名」の記事をすべて見る →

次に決めること

記事をすべて見る(1087本)→

この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。