電子契約で使う契約書のひな形|テンプレートの選び方と直すべき条項
電子契約サービスを導入したものの、「そこに載せる契約書そのものは、どのひな形を使えばいいのか」で止まってしまう方は少なくありません。実は、紙用のひな形をそのままアップロードすると、押印や原本の受け渡しを前提とした条項が残ったままになり、あとで読み返したときにちぐはぐな契約書になってしまいます。この記事では、ひな形の探し方、電子契約に合わせて直すべき条項、社内で使い回せる型の作り方を、判断の順番に沿って整理します。
この記事の結論
- 電子契約のひな形は、電子契約サービスが公開しているテンプレートや公的機関のモデル契約書をたたき台にし、押印・原本・収入印紙に関する条項を電子前提に書き換えるのが基本の流れです。
- 紙のひな形を流用する場合は、末尾の「本書2通を作成し、各自1通を保有する」といった文言と署名欄の体裁を、電子ファイル1通を各当事者が保存する形に直します。
- ひな形はあくまで出発点なので、金額が大きい取引や継続的な取引、知的財産や個人情報が関わる契約は、締結前に弁護士へ内容を確認してもらうと安心です。
電子契約のひな形はどこで探せばいいか
まず探す場所は大きく3つあります。1つ目は、利用している電子契約サービスが公開しているテンプレート集です。クラウドサインをはじめ主要なサービスは、業務委託契約書や秘密保持契約書などの見本を自社サイトで配布していることがあり、電子契約での送信を前提にした体裁になっているため手直しが少なくて済みます。提供状況や内容は変わるので、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。
2つ目は、官公庁や業界団体が公開しているモデル契約書です。中小企業向けのモデル契約書やガイドラインが公開されている分野もあり、条項の考え方まで解説が付いていることが多いので、自社の取引に近いものがあれば理解の助けになります。3つ目は、書籍や士業事務所が公開している記載例です。
探す順番としては、「自社の取引類型に一番近いものがあるか」を最優先にしてください。電子契約対応かどうかは後から直せますが、契約類型が違うひな形を無理に流用すると、必要な条項が丸ごと抜け落ちます。業務委託なのか売買なのか、単発なのか継続取引なのかを先に決めてから探すと迷いません。
紙のひな形をそのまま使うと、どこがちぐはぐになるか
紙の契約書には、紙であることを前提にした文言がいくつも入っています。代表的なのが末尾の「本契約の成立を証するため本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ各自1通を保有する」という一文です。電子ファイルを1つ作って各当事者が同じデータを保存する電子契約では、この文言は実態と合わなくなります。
署名欄も同じです。「印」の丸枠が入ったままだと、電子署名しかされていないのに押印欄が空白の契約書になり、見た目として落ち着きません。会社名・住所・代表者名を記載する欄だけを残し、押印を求める表記を外すのが一般的な直し方です。
そのほか、「原本を郵送する」「契約書の原本は甲が保管する」といった受け渡しに関する条項も見直し対象です。紙のひな形を使うこと自体に問題があるわけではなく、これらの文言を残したまま運用すると、後から読んだ人が実際の締結方法を誤解する点が問題になります。
電子契約に合わせて直すべき条項は、この順に見る
直す順番は、①末尾の作成通数・保有の文言、②署名欄、③原本・保管に関する条項、④締結方法を定める条項、の4つです。まず①は、「本契約の成立を証するため、本電磁的記録を作成し、甲乙が電子署名を行う」といった形に書き換えます。表現は複数ありますので、社内で一つに統一しておくと管理が楽になります。
次に②の署名欄から押印欄を外し、③で「原本の郵送」「正本・副本」といった紙前提の記載を削るか、電子ファイルを各自が保存する旨に置き換えます。④は、契約書の中に「本契約は電子契約サービスを利用して締結する」という趣旨の条項を入れておくやり方です。必須ではありませんが、後から締結方法を巡ってやり取りになるのを避けやすくなります。
もう一つ意識したいのが、契約日と効力発生日の書き分けです。電子契約では相手方が署名した日時が記録として残るため、書面上の日付と実際の署名日がずれることがあります。「本契約は◯年◯月◯日から効力を生じる」と効力発生日を本文に書いておくと、運用が安定します。細かい書きぶりに迷う場合は、弁護士に確認してもらうとよいでしょう。
収入印紙や電子帳簿保存法まわりで、ひな形に書くこと・書かないこと
収入印紙について、ひな形の中に「印紙代は甲乙折半とする」といった条項が入っていることがあります。電子契約で締結する場合の印紙の要否は、契約の内容や締結方法によって扱いが変わりますので、ひな形の文言をそのまま残すか削るかは、自社の取引に即して判断してください。判断に迷う場合は、税理士や所轄の税務署に確認するのが確実です。
保存についても、電子でやり取りした契約書は電子帳簿保存法の電子取引のルールに沿って保存することが求められる場面があります。保存方法や検索の要件は所管官庁の資料で最新の内容を確認し、利用中の電子契約サービスがどこまで対応しているかも合わせて確認してください。これらは契約書の条項ではなく、社内の運用ルールとして決めておく領域です。
逆に、ひな形に書いておくと役立つのが、契約書データの保管と再発行に関する取り決めです。「各当事者は、締結された電磁的記録をそれぞれ保存する」といった一文があると、相手方から後日コピーを求められたときの前提がそろいます。
社内で使い回せるひな形の型をつくる手順
まず、自社で年に何度も締結する契約類型を3つほど洗い出します。多くの小さな会社では、秘密保持契約書、業務委託契約書(自社が受注する側・発注する側)、利用規約や注文請書あたりが上位に来ます。この3つだけ先に整備すれば、日々の締結の大半はカバーできます。
次に、類型ごとに「固定する部分」と「案件ごとに変える部分」を分けます。契約期間、報酬、成果物、支払期日、知的財産の帰属などは案件ごとに変わる部分なので、ひな形の中で目立つように角括弧などで囲んでおくと、記入漏れを防げます。固定部分は原則さわらないと決めておくと、レビューの負担が下がります。
最後に、完成したひな形を電子契約サービス側にテンプレートとして登録し、送信時の宛先や入力項目の設定まで含めて手順書にまとめます。ここまでやって初めて「使い回せる状態」です。ひな形を更新したときは、サービス側に登録した版も差し替えるルールにしておくと、古い版が残り続ける事故を防げます。
ひな形で足りるケースと、専門家に見てもらうべきケース
ひな形のままでも進めやすいのは、取引金額が小さく、期間が短く、相手方も同じような取引を繰り返している定型的な契約です。秘密保持契約書のように内容が比較的標準化されているものも、ひな形をベースに進めやすい部類に入ります。
一方で、①取引金額や期間が自社にとって大きい、②成果物の権利帰属やライセンスが論点になる、③個人情報や機微な情報を扱う、④相手方から提示された契約書に修正を入れたい、⑤損害賠償や解除の条件が自社に不利に見える、のいずれかに当てはまるなら、締結前に確認を受けたほうが安心です。
契約書の内容そのものについては弁護士、印紙や税務の取り扱いについては税理士、業務委託と雇用の線引きが気になる場合は社会保険労務士というように、論点ごとに相談先が分かれます。ひな形は出発点であって答えではありません。迷う条項が一つでも残っているなら、締結ボタンを押す前に専門家へご相談ください。
よくある質問
クラウドサインなどの電子契約サービスに、契約書のひな形は用意されていますか。
主要な電子契約サービスは、業務委託契約書や秘密保持契約書などのテンプレートや記載例を自社サイトで公開していることがあります。提供の有無や内容は時期によって変わるため、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。ダウンロードしたひな形も、自社の取引内容に合わせて条項を調整する前提で使うのが安全です。
紙用のひな形をPDFにして電子契約に使ってもよいですか。
形式上は可能ですが、末尾の「本書2通を作成し各自1通を保有する」といった文言や、押印欄が残ったままだと実態と合わなくなります。作成通数・署名欄・原本の保管に関する記載を電子前提に書き換えてから使うことをおすすめします。書きぶりに迷う場合は弁護士に確認してもらうと安心です。
電子契約にすると収入印紙はどうなりますか。
電子契約における印紙の要否は、契約の内容や締結の方法によって扱いが変わることがあります。ひな形に印紙負担の条項が入っている場合、そのまま残すかどうかも含めて個別の確認が必要です。判断に迷うときは、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
ひな形はどのくらいの頻度で見直せばよいですか。
法改正や自社の取引内容が変わったタイミングのほか、年に一度など時期を決めて見直すと管理しやすくなります。見直したら、電子契約サービスに登録したテンプレート側も同時に差し替え、古い版が使われないようにしてください。改正の影響が大きそうな条項は、弁護士に確認したうえで更新すると確実です。