電子契約にできない契約書・認められない場面|書面が必要な類型を確認

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「電子契約に切り替えたいけれど、この契約書は紙でないとダメなのでは」と迷う場面は意外と多いものです。近年の法改正で書面義務が外れた契約は増えましたが、いまも公正証書や書面が前提になる類型、相手の承諾や事前説明が条件になる類型が残っています。この記事では、電子契約にできない・認められにくい場面の見分け方と、迷ったときに確認する順番を整理します。

この記事の結論

  • 日本の契約は原則として口頭でも成立するため、多くの契約書は電子化しても効力に問題はないと考えられますが、公正証書が要件になる契約など一部は電子だけで完結できません。
  • 2022年前後の法改正で不動産の賃貸借・売買や請負、定期借家などの書面交付義務は電磁的方法でも可能になった一方、相手方の承諾を得ることが条件とされる類型が多くあります。
  • 電子契約にできるかを判断するときは、①公正証書などの方式が要るか、②法令上の書面交付義務があるか、③相手の承諾を取れるか、の順に確認するのが実務的です。

なぜ多くの契約書は電子化できるのか|契約書電子化の効力の考え方

日本の民法では、契約は当事者の申込みと承諾の意思表示が合致すれば成立するのが原則で、書面の作成は成立要件ではありません。契約書は「合意の内容と存在を後から証明するための証拠」という役割が中心です。そのため、紙かデータかという形式の違いだけで契約の効力が変わるわけではない、と考えられています。

問題になるのは「効力」より「証明力」です。裁判などで争いになったとき、その電子データが本人の意思で作られ、後から改変されていないことを示せるかが重要になります。電子署名やタイムスタンプ、送信記録の保存といった仕組みは、この証明力を補うためのものです。

逆に言えば、法律が特別に「書面で」「公正証書で」と方式を定めている契約は、原則の例外です。電子契約の可否を考えるときは、この例外に当たるかどうかを最初に見ることになります。

電子契約が認められない契約書の代表例|公正証書や書面が前提になる類型

現在も電子だけで完結しにくい代表例が、公正証書の作成が要件とされる契約です。事業用定期借地権の設定契約や、任意後見契約などは公証人の関与が前提とされており、当事者間で電子署名を交わすだけでは方式を満たさないと扱われることがあります。また、保証に関する契約のうち事業用融資の個人保証など、公正証書による意思確認が求められる場面もあります。

遺言のように厳格な方式が定められているものも、電子データでの作成は想定されていないと考えられています。企業活動では、株主総会や取締役会の書類、登記の添付書面など、提出先ごとに扱いが決まっているものにも注意が必要です。オンライン申請で電子データが使える手続きも増えていますが、求められる電子署名の種類が限定されることがあります。

労働関係では、労働条件の明示について、従業員が希望した場合にメールなどの電磁的方法が認められる形が取られています。「会社が一方的に電子化を決める」形だと要件を満たさないおそれがあるため、社内規程と運用をあわせて確認してください。判断に迷う場合は、弁護士や社会保険労務士に個別の可否を相談することをおすすめします。

金銭消費貸借契約・賃貸借契約書・請負契約書は電子契約にできる?

金銭消費貸借契約は、原則として書面でなければ成立しないという定めはなく、電子契約で締結する例もあります。ただし、金銭の貸し借りは後の紛争リスクが大きく、公正証書にしておけば強制執行の際に手続きが進めやすくなるという実務上の利点があります。将来の回収を重視するなら、あえて公正証書や紙を選ぶ判断も十分にあり得ます。

不動産の賃貸借契約書や売買の媒介に関する書面は、法改正により電磁的方法での交付が可能になった領域です。定期借家契約の事前説明書面も、一定の要件のもとで電磁的方法が認められる形になっています。ただし相手方の承諾や、書面に出力できる状態で提供することなど、条件が細かく定められているため、所管官庁の資料で最新の要件を確認してください。

請負契約書、とくに建設工事の請負契約は、書面交付が義務づけられている一方で、要件を満たす電子的な方法も認められる形になっています。相手が電子契約に不慣れな場合、承諾の取り方や保存方法でつまずきやすいので、最初の1件は紙と電子の並行運用にしておくと安全です。

重要事項説明については、オンラインでの実施や電磁的方法による書面交付が段階的に認められてきました。宅地建物取引業者側の体制整備が前提になるため、自社が当事者として説明を受ける立場なら、相手方の運用に合わせるのが現実的です。

電子契約にできるか迷ったときの判断手順

判断は次の順番で進めると整理しやすくなります。第一に、その契約に「公正証書」「公証人の認証」といった方式が求められていないかを確認します。ここに当たる場合は、電子署名だけで代替することは難しいと考え、公証役場や専門家に手続きを確認してください。

第二に、法令で書面の作成・交付が義務づけられている契約かどうかを見ます。義務がある場合でも、電磁的方法が認められているケースが多いので、次に「認められる方法の条件」を確認します。多くは相手方の承諾、書面に出力できる形での提供、改変防止の措置などがセットになっています。

第三に、相手方が電子契約に応じられるかを確認します。取引先の社内規程で紙の押印が必須とされていることもあり、法律上は可能でも実務上は紙になる場面があります。第四に、社内の保存ルールと整合するかを見ます。電子で受け取った契約書は電子のまま保存する扱いが基本とされているため、電子帳簿保存法の考え方も併せて確認しておくと安心です。

電子署名は手書きじゃないとダメ?押印との関係を整理する

「電子署名では弱いのではないか」という不安の背景には、押印や手書き署名があると裁判で有利になるという実務感覚があります。実際には、押印がなくても契約の成立は否定されませんし、電子署名法の要件を満たす電子署名には、本人が作成したものと推定される効果が定められています。重要なのは、紙か電子かではなく、本人性と非改変性をどう示せるかです。

電子署名には、当事者がメール認証などで合意する立会人型と、電子証明書を用いて本人を特定する当事者型があります。金額が大きい契約や長期にわたる契約、争いになる可能性が高い相手との契約では、本人性の証明が強い方式を選ぶ、という使い分けが現実的です。方式ごとの機能や条件は各サービスの公式サイトで最新の情報を確認してください。

なお、実印と印鑑証明書が求められる登記関係の手続きなどは、電子署名の種類も含めて指定があります。手書きの署名や実印が必要かどうかは、契約の相手ではなく「提出先」が決めていることが多い、と覚えておくと整理しやすくなります。

社内ルールの作り方と、専門家に相談すべきタイミング

電子契約を導入するときは、まず「電子で締結してよい契約類型」と「紙で行う類型」を一覧にしておきます。取引基本契約や業務委託契約、秘密保持契約などは電子で統一しやすく、不動産や金銭の貸し借り、保証が絡むものは個別判断とする、という切り分けが実務ではよく使われます。一覧があれば、担当者が毎回迷わずに済みます。

次に、締結の権限と保存のルールを決めます。誰が最終承認をするのか、締結済みデータをどこに保管し、いつまで残すのか、検索できる形にするのかを決めておくと、後の税務調査や紛争時に慌てません。電子で受け取った契約書の保存方法は、電子帳簿保存法の要件に関わるため、国税庁の資料や税理士への確認をおすすめします。

判断が難しいのは、公正証書が要る契約、保証や担保が絡む契約、業法上の書面交付義務がある契約です。これらは可否を誤ると契約の効力や行政上の対応に影響する可能性があります。自社の取り扱う契約類型について、導入前に一度、弁護士に契約書の方式と条項を確認してもらい、保存や経理処理は税理士、労務関係の書面は社会保険労務士に相談しておくと、その後の運用が安定します。

よくある質問

電子契約にすると契約書の効力は弱くなりますか?

契約は原則として書面がなくても成立するため、電子化したこと自体で効力が弱くなるとは考えられていません。争点になるのは本人性と改変の有無で、要件を満たす電子署名やタイムスタンプ、送信記録の保存で補うのが一般的です。個別の契約について不安があれば弁護士にご確認ください。

金銭消費貸借契約は電子契約でもよいのでしょうか。

法律上、書面でなければ成立しないという定めは置かれていないため、電子契約で締結する例もあります。ただし回収時の手続きを考えて公正証書を選ぶ実務もあり、貸付額や相手との関係で判断が変わります。担保や保証が絡む場合は、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

契約書の電子化は義務なのですか?

契約書そのものを電子化する義務はありません。一方で、電子データで受け取った契約書や請求書は電子のまま保存する扱いが基本とされており、保存方法の要件は電子帳簿保存法に関わります。要件の詳細は国税庁の資料や税理士への確認をおすすめします。

取引先が電子契約に対応していない場合はどうすればよいですか。

法令で電磁的方法が認められている契約でも、相手方の承諾が条件になっていることが多いため、無理に進めない方が安全です。相手が紙を希望する場合は紙で締結し、社内では電子とのハイブリッド運用を前提にしたルールを作っておくと混乱を防げます。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。