就業規則は何人から必要か|10人未満・事業所ごとの判断
「従業員が増えてきたけれど、就業規則はいつ作ればいいのか」。ひとり社長や小さな会社のバックオフィスで、よく引っかかるのがこの論点です。法律上の目安は「常時10人以上の労働者を使用する事業場」ですが、実務でつまずくのは人数そのものより、誰を数えるか・どの単位で数えるか、の2点です。この記事では、数え方の判断の順番と、10人未満の会社が就業規則を作るかどうかを決める基準を整理します。
この記事の結論
- 労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場について、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが求められています。
- 人数は会社全体ではなく「事業場(本社・営業所・店舗など)ごと」に数えるのが原則で、本社5人・営業所6人なら営業所側が作成義務の対象になり得ます。
- 10人未満で作成義務がない場合でも、労働時間・休日・退職・服務のルールを文書化しておくと、採用時や労務トラブルの場面で判断の拠りどころになります。
就業規則は何人から必要か|「常時10人以上」が基準
労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が求められています。つまり「何人以上から必要か」という問いへの答えは、原則として10人以上です。9人までは作成義務の対象外と整理されるのが一般的です。
ここで重要なのが「常時」という言葉です。たまたま繁忙期に一時的に10人を超えた、という状態は常時とは扱われないことがあります。一方で、通常は10人体制で回していて、たまたま欠員が出て9人になった月がある、という場合は常時10人以上と判断される方向で考えるのが安全です。
つまり判断の順番は、①その事業場の通常の状態で何人働いているかを見る、②一時的な増減かどうかを切り分ける、の2ステップです。判断に迷う水準(9人〜11人あたり)で推移している会社は、早めに作成に着手しておくと慌てずに済みます。
数える人数に誰が入るか|パート・アルバイト・役員の扱い
まず押さえたいのは、数えるのは「労働者」であって「正社員」ではない、という点です。パート、アルバイト、契約社員、嘱託など、雇用契約を結んで働いている人は、労働時間が短くても人数に含めて考えるのが基本です。週2日勤務のアルバイトが3人いれば、その3人はそれぞれ1人として数える、という発想になります。
一方で、代表取締役などの役員は、原則として労働者には当たらないと整理されることが多く、人数に含めない方向で考えます。ただし、役員でありながら実態としては従業員と同じように働いている(いわゆる使用人兼務役員など)ケースでは扱いが分かれることがあり、個別の判断が必要です。
派遣で受け入れているスタッフは、雇用関係が派遣元にあるため、受け入れ側の人数には含めないのが一般的な整理です。業務委託契約のフリーランスも同様に、契約の形だけでなく働き方の実態で判断されることがあります。名目と実態がずれている可能性がある場合は、社会保険労務士に実態を見てもらうことをおすすめします。
事業所ごとに数えるとはどういうことか
就業規則の人数は、会社全体の従業員数ではなく「事業場ごと」に数えるのが原則です。事業場とは、本社、支店、営業所、店舗、工場など、場所的に独立して業務が行われている単位を指します。
たとえば本社に5人、地方の営業所に6人、合計11人という会社の場合、会社全体では11人ですが、事業場単位で見ると本社5人・営業所6人です。この場合、10人以上となる事業場がないため、どちらも作成義務の対象外と整理される可能性があります。逆に、本社に12人、営業所に2人であれば、本社が対象になります。
ただし、規模が非常に小さく、独立した労務管理が行われていない出張所のような場所は、直近の上位組織(本社など)と一体の事業場として扱われることがあります。「場所が別なら必ず別事業場」とは限らない、という点は押さえておいてください。区分に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士に確認するのが確実です。
なお、多店舗展開している会社では、事業場ごとに届け出るのが原則ですが、本社で内容を統一して一括で届け出る方法が認められる場合もあります。該当しそうな場合は、所轄の労働基準監督署に取扱いを確認してください。
10人未満でも就業規則を作ったほうがよい場面
作成義務がないからといって、就業規則が不要というわけではありません。10人未満の会社でも、就業規則を整えておくと助かる場面がいくつかあります。
ひとつは、遅刻・欠勤・副業・情報の持ち出しなど、判断に迷う事柄が出てきたときです。ルールが文書化されていないと、その都度の口頭のやり取りで決めることになり、社員ごとに扱いが変わってしまいます。もうひとつは採用の場面で、休日、試用期間、退職の申し出期限などが明文化されていると、入社後の認識違いを減らせます。さらに、助成金の申請などで就業規則の提出を求められることもあります。
逆に、当面ひとり社長で雇用予定がない、あるいは家族だけで運営している段階なら、優先順位は高くありません。その場合はまず労働条件通知書(雇用契約書)を整えることを先に考え、はじめての従業員を採用するタイミングで就業規則の骨子を作る、という順番で十分です。
目安としては、従業員が3〜5人を超えたあたり、または勤務形態が複数になった時点が、作成を検討し始めるひとつのタイミングです。10人になってから慌てて作るより、運用しながら育てるほうが実態に合ったものになります。
作成から届出までの流れと、必要なもの
流れは大きく4段階です。①原案を作る、②従業員代表の意見を聴く、③意見書を添えて届け出る、④従業員に周知する、の順です。この順番が入れ替わらないようにしてください。
①では、労働時間、休憩、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法、昇給、退職・解雇に関する事項など、記載が求められる項目を押さえます。厚生労働省がモデル就業規則を公開しているので、それをベースに自社の実態へ書き換える方法が現実的です。実態と違う条文をそのまま残すと、あとで自社を縛ることになるため、ここは丁寧に見直します。
②では、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者から意見を聴き、意見書をもらいます。代表者は、管理監督者ではない人を、投票や挙手など民主的な方法で選ぶ必要があります。社長が指名する形は避けてください。
③は、就業規則本体と意見書を、その事業場を管轄する労働基準監督署に届け出ます。電子申請に対応している場合もあるので、提出方法は事前に確認しておくと手戻りがありません。④の周知は、見やすい場所への備え付け、書面の交付、社内で誰でも見られるデータの保存などで行います。作って届け出ても、周知していないと効力が争われることがあるため、ここまでをワンセットで考えてください。変更したときも、同じ流れ(意見聴取→届出→周知)が必要です。
迷ったときの判断の順番と、専門家への相談
整理すると、確認する順番は次のとおりです。第一に、事業場をどう区切るか。第二に、その事業場で常時何人の労働者がいるか(パート・アルバイトを含める)。第三に、10人以上なら作成・届出へ、10人未満なら作成義務の有無とは別に、自社に必要かどうかを判断する。この順に見ていけば、多くのケースは整理できます。
ただし、事業場の区分、使用人兼務役員の扱い、業務委託と雇用の線引きなどは、実態に踏み込んだ判断が必要な領域です。判断を誤ると、届出漏れや、いざというときに規則が使えないという事態につながることがあります。
就業規則の作成や事業場単位の判断について迷いがある場合は、社会保険労務士に相談してください。自社の勤務実態や今後の採用計画を伝えたうえで組み立てたほうが、後から何度も直す手間が減ります。制度の詳細な要件は、厚生労働省や所轄の労働基準監督署の最新の資料もあわせてご確認ください。
よくある質問
従業員が10人未満なら就業規則はなくてもよいのですか。
労働基準法上の作成・届出義務は、常時10人以上の労働者を使用する事業場が対象とされているため、10人未満の事業場は義務の対象外と整理されるのが一般的です。ただし義務がないことと、不要であることは別です。労働条件の認識違いを防ぐ目的で、10人未満でも作成しておく会社は多くあります。
パートやアルバイトも10人の中に数えますか。
雇用契約を結んで働いている人は、労働時間が短くても人数に含めて考えるのが基本です。週に数日だけ勤務するアルバイトも、それぞれ1人として数える方向で判断します。派遣スタッフは雇用関係が派遣元にあるため、受け入れ側では含めない整理が一般的です。
本社と営業所がある場合、人数は合算しますか。
原則は事業場ごとに数えるため、本社5人・営業所6人であれば合算せず、それぞれで判断します。ただし、独立した労務管理が行われていない小規模な出張所などは、本社と一体の事業場として扱われることがあります。区分に迷う場合は所轄の労働基準監督署か社会保険労務士に確認してください。
就業規則を作ったら、届出だけしておけばよいですか。
届出に加えて、従業員代表からの意見聴取と、従業員への周知までが一連の流れです。周知されていないと、内容の効力が争われることがあります。備え付け、書面の交付、社内で閲覧できるデータの保存など、実際に見られる状態にしておいてください。