変形労働時間制を就業規則で定めるとき|労使協定との関係と手順
「繁忙期だけ労働時間を長くしたい」「フレックスにしたい」と考えたとき、まずぶつかるのが「就業規則に書けばいいのか、労使協定も必要なのか」という疑問です。ここは制度の型によって答えが変わる部分で、同じ変形労働時間制でも1か月単位と1年単位では必要な手続きが違います。この記事では、どの型なら就業規則のみで足りる余地があるのか、どの型は労使協定が前提になるのかを整理したうえで、就業規則に書くべき項目と届出までの順番をまとめます。
この記事の結論
- 1か月単位の変形労働時間制は、労使協定によるほか、就業規則その他これに準ずるもので定める方法も労働基準法上想定されているため、常時10人以上の事業場では就業規則のみで導入できる余地があります。
- 1年単位・1週間単位の変形労働時間制とフレックスタイム制は、就業規則の定めに加えて労使協定が前提となる仕組みで、就業規則だけで完結させることは想定されていません。
- どの型でも、変形の単位期間・起算日・各日各週の所定労働時間などを就業規則に具体的に書き、常時10人以上の事業場は意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る流れになります。
変形労働時間制は就業規則のみで導入できる?まず型を確認する
「変形労働時間制」とひとくくりに呼ばれていますが、労働基準法にはいくつかの型があり、必要な手続きが型ごとに異なります。ざっくり言うと、1か月単位の変形労働時間制だけが「労使協定によるほか、就業規則その他これに準ずるもので定める」という道が用意されていて、それ以外の型は労使協定を結ぶことが前提になっています。
ですから「就業規則のみで導入できますか」という問いへの答えは、「1か月以内の期間で平均して調整する形なら、就業規則のみで定める余地があります。1年単位やフレックスは、就業規則に加えて労使協定が必要です」となります。まずは自社がやりたいことが、どの型に当てはまるかを決めるところから始めてください。
判断の順番はシンプルです。①繁閑の波が月内で完結する(月末が忙しい、週によって稼働が違う)なら1か月単位。②季節で波がある(夏が忙しい、年度末が忙しい)なら1年単位。③始業・終業の時刻を従業員本人に委ねたいならフレックスタイム制。④小売業・旅館・料理店・飲食店で、日ごとの業務量が直前まで読めない小規模事業場なら1週間単位という選択肢もあります。
1か月単位の変形労働時間制:就業規則で定める場合の書き方
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の一定期間を平均して1週あたりの法定労働時間を超えない範囲で、特定の日や週に法定時間を超えて働かせることができる仕組みです。常時10人以上の労働者がいる事業場は就業規則の作成・届出義務があるため、この型を就業規則に規定して運用する形が取りやすくなっています。
就業規則に書くときは、抽象的に「変形労働時間制を採用する」とだけ書いても運用できません。対象となる労働者の範囲、変形期間(例:毎月1日から末日まで)、起算日、変形期間中の各日・各週の所定労働時間、始業・終業時刻と休憩、休日をどう特定するかを盛り込むのが基本です。シフト制なら「勤務割は変形期間開始前までに作成し、各人に周知する」といった、事前に特定する手順まで書いておくと運用が安定します。
常時10人未満の事業場には就業規則の作成義務がありませんが、その場合でも「就業規則に準ずるもの」として労働時間のルールを書面化し、従業員に周知しておく必要があると考えられています。口頭の運用だけで済ませると、後から労働時間の計算や割増賃金をめぐって食い違いが起きやすくなります。
1年単位・1週間単位・フレックス:労使協定が前提になる型
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の期間を平均して調整する仕組みで、労使協定を結ぶことが前提です。協定では対象労働者の範囲、対象期間と起算日、特定期間、労働日と労働日ごとの労働時間、協定の有効期間などを定め、所轄の労働基準監督署に届け出る流れになります。加えて、就業規則にも制度を採用する旨や始業・終業時刻などを書いておく必要があります。つまり「就業規則だけ」でも「労使協定だけ」でもなく、両方そろえるイメージです。
1週間単位の非定型的変形労働時間制は、対象となる業種と事業場の規模が限定された特例的な制度で、こちらも労使協定と届出が前提です。自社が対象に当てはまるかどうかは、厚生労働省や労働局の資料で確認してください。
フレックスタイム制は、就業規則で「始業・終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定めたうえで、労使協定で対象者、清算期間、清算期間中の総労働時間、標準となる1日の労働時間などを定めるのが基本形です。清算期間が1か月を超える場合には、労使協定の届出が求められるなど扱いが変わります。導入前に最新の要件を所管官庁の資料で確認しておくと安心です。
導入までの順番:いつ・何を用意して・どこに出すか
手順は、①制度の型を決める、②運用イメージ(年間カレンダーやシフトの作り方)を先に固める、③就業規則の条文案を作る、④必要な型なら労使協定を結ぶ、⑤従業員代表の意見を聴いて意見書をもらう、⑥所轄の労働基準監督署に届け出る、⑦従業員に周知する、という流れです。制度開始日から逆算して、余裕をもって着手してください。
労使協定や就業規則の意見書に関わる「労働者の過半数を代表する者」は、管理監督者ではないこと、選出の目的を明らかにしたうえで投票や挙手など民主的な方法で選ばれることが求められます。会社が指名した人にサインだけもらう、という進め方は手続きの有効性が問われやすい部分です。ここは面倒でも記録を残しておきましょう。
届出先は、原則として事業場ごとの所轄労働基準監督署です。用意するものは、就業規則(変更届)と労働者代表の意見書、該当する型なら労使協定の届出用紙です。様式は厚生労働省のサイトで公開されていますので、最新のものを確認してダウンロードしてください。電子申請に対応している手続きもあります。
導入後につまずきやすいポイントと、割増賃金の考え方
変形労働時間制を入れても、残業代がなくなるわけではありません。あらかじめ特定した所定労働時間を超えて働いた時間や、変形期間全体を平均して法定の枠を超えた時間については、割増賃金の支払いが必要になります。「変形制にしたから残業代は不要」と説明してしまうと、後から大きな認識のずれになります。
もう一つ多いのが「事前の特定」が崩れるケースです。変形労働時間制は、期間が始まる前に各日・各週の労働時間を特定しておくことが前提で、会社の都合で後から自由に動かすことは想定されていません。シフトを頻繁に変更する運用が続くと、制度として認められないと判断されることがあります。変更が必要な場面と手続きを、就業規則にあらかじめ書いておくとよいでしょう。
妊産婦や育児・介護を行う従業員については、変形労働時間制の適用に配慮が求められる場面があります。また、年少者には適用が制限されています。対象者の範囲を決める段階で、こうした個別の配慮が必要な人がいないかを確認しておくと、後の調整が楽になります。
迷ったら社会保険労務士に相談を
変形労働時間制は、条文を写せば終わりという制度ではなく、シフトの作り方・賃金計算・勤怠の記録まで一続きで設計しないと運用が崩れます。特に「1か月単位を就業規則のみで入れるか、労使協定も結んでおくか」「フレックスの清算期間をどう取るか」といった判断は、会社の働き方や人数によって答えが変わります。
就業規則の条文案、労使協定の内容、届出のタイミングまで含めて整理したいときは、社会保険労務士に相談することをおすすめします。労働時間の設計は賃金計算に直結するため、給与計算の担当者や顧問税理士とも情報を共有しておくと、運用開始後の手戻りを減らせます。要件の詳細は、厚生労働省や都道府県労働局の最新資料もあわせて確認してください。
よくある質問
変形労働時間制は就業規則のみで導入できますか?
1か月単位の変形労働時間制については、労使協定によるほか、就業規則その他これに準ずるもので定める方法が労働基準法上想定されています。一方、1年単位・1週間単位の変形労働時間制やフレックスタイム制は労使協定が前提となるため、就業規則だけで完結させることはできないとされています。自社がどの型に当てはまるかを先に決めてから手続きを検討してください。
従業員が10人未満でも就業規則は必要ですか?
常時10人未満の事業場には就業規則の作成・届出義務はありませんが、変形労働時間制を運用するには労働時間のルールを「就業規則に準ずるもの」として書面化し、周知しておく必要があると考えられています。書面がないと労働時間の特定や割増賃金の計算根拠があいまいになりやすいため、簡易な形でも整備しておくことをおすすめします。
就業規則を変更するとき、労働基準監督署には何を出しますか?
一般に、就業規則変更届、変更後の就業規則、労働者の過半数代表者の意見書を、事業場を所轄する労働基準監督署に提出します。1年単位など労使協定が必要な型では、協定の届出もあわせて行います。様式は厚生労働省のサイトで最新のものを確認してください。
変形労働時間制にすれば残業代は発生しませんか?
そのようなことはありません。あらかじめ特定した所定労働時間を超えた時間や、変形期間を平均して法定の枠を超えた時間については、割増賃金の支払いが必要になります。計算方法は型によって異なるため、賃金計算の設計は社会保険労務士に確認しながら進めると安心です。