建設業・運送業・農業の就業規則|業種ごとに追加する規定

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

就業規則は、厚生労働省のモデル就業規則をベースにすればおおむね形になります。ただし建設業・運送業・農業のように、働く場所が事業所の外にあったり、季節や天候で仕事量が大きく動いたりする業種では、モデルのままだと現場の実態と合わない条文がいくつも出てきます。この記事では、業種ごとに「モデルに何を足すか」「どの順番で決めるか」を、条文の書き方の方向性まで含めて整理します。

この記事の結論

  • 建設業・運送業・農業の就業規則は、厚生労働省のモデル就業規則をベースに、労働時間の数え方・移動と直行直帰の扱い・賃金の計算方法・安全衛生の3〜4点を業種に合わせて書き足すのが基本の作り方です。
  • 建設業では現場への直行直帰や移動時間、運送業では拘束時間と歩合給、農業では繁閑差に対応する労働時間制度が、それぞれ最初に決めるべき論点になります。
  • 農業(耕種農業・畜産など)は労働基準法上、労働時間・休憩・休日の規定の扱いが他業種と異なると整理されており、自社がどこまで該当するかは就業規則を作る前に社会保険労務士へ確認しておくと安全です。

就業規則は業種ごとに何が違うのか

就業規則の骨格は、どの業種でもそれほど変わりません。始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、賃金の決め方と支払い、退職と解雇、服務規律、安全衛生、表彰と懲戒。この並び自体は厚生労働省のモデル就業規則に沿って作れば、大きく外れることはありません。

業種差が出るのは、そのうち「労働時間をどう数えるか」「賃金をどう計算するか」「どこで働くか」の3か所です。事業所に出社して定時で働く会社を前提に書かれた条文は、現場に直行する建設業や、車内で長時間過ごす運送業、天候で作業量が変わる農業では、そのまま当てはめると解釈が割れます。トラブルは、たいていこの解釈の割れ目から起きます。

作り方の順番としては、まずモデル就業規則を土台に一通り埋める、次に自社の1日・1週間・1年の動きを紙に書き出す、最後にモデルの条文と食い違う箇所だけを業種向けに書き換える、という進め方が現実的です。ゼロから業種専用のひな形を探すより、差分を洗い出すほうが抜けが少なくなります。

建設業の就業規則で追加する規定(直行直帰・移動時間・現場のルール)

建設業でまず決めるのは、直行直帰の扱いです。「始業は現場に到着した時刻、終業は現場を離れた時刻」とするのか、「会社(資材置き場・事務所)に集合した時点から」とするのかで、労働時間の長さが変わります。就業規則には、集合場所を会社が指定する場合と、労働者が自宅から直接現場へ向かう場合を分けて書き、それぞれ始業・終業をどの時点とみなすかを明記しておくと、後から揉めにくくなります。移動時間が労働時間に当たるかどうかは、会社の指揮命令がどこまで及んでいるかで判断が分かれるため、判断に迷う運用がある場合は社会保険労務士に確認してください。

次に、現場ごとの始業時刻の違いです。元請の朝礼時刻に合わせて現場ごとに始業が変わる会社では、「業務の都合により、現場ごとに始業・終業時刻を変更することがある。その場合は前日までに通知する」といった条文を置き、さらに具体的な時刻は現場ごとの通知や勤務表で示す形にしておくと運用しやすくなります。天候で作業が中止になったときの休業の扱い、待機を命じる場合の扱いも、あらかじめ条文にしておきたい項目です。

このほか建設業では、遠隔地の現場に伴う出張・宿泊のルール、旅費や日当の支給基準(金額は賃金規程や旅費規程に分けて記載)、安全衛生に関する規定(保護具の着用、安全教育の受講、健康診断、熱中症やアルコールチェックなどの日々の確認)を厚めに書くのが一般的です。時間外労働の上限規制は建設業にも適用が及んでおり、災害復旧など一部に特例的な取扱いがあるとされています。自社の36協定と就業規則の整合は、最新の厚生労働省資料を確認したうえで整えてください。

運送業の就業規則で追加する規定(拘束時間・荷待ち・歩合給)

運送業では、労働時間に加えて「拘束時間」「休息期間」という考え方が出てきます。自動車運転者については、いわゆる改善基準告示で拘束時間や休息期間の取扱いが定められており、就業規則や賃金規程はこれと矛盾しない形にしておく必要があります。具体的な上限や運用の詳細は改定されることがあるため、厚生労働省・国土交通省の最新資料を確認しながら作ってください。

労働時間の数え方では、荷待ち時間・荷役作業・点呼・日常点検・洗車の扱いをはっきりさせておくことが要になります。「乗務前後の点呼、日常点検、指示された荷役作業に要する時間は労働時間として取り扱う」といった形で、どこからどこまでが労働時間かを列挙しておくと、日報の記録方法も揃います。仮眠や休憩についても、待機を命じている状態なのか、完全に自由なのかで扱いが変わるため、就業規則上の定義と実態を一致させておきます。

賃金面では、歩合給・運行手当・無事故手当などを組み合わせる会社が多く、その場合の割増賃金の計算方法を賃金規程に明記しておくことが重要です。歩合給部分がある場合の割増賃金の計算は固定給のみの場合と異なる考え方をとるとされており、計算式を誤ると未払いと指摘されることがあります。金額そのものではなく「どの手当が割増賃金の基礎に入り、どれが入らないか」「歩合給部分の割増はどう計算するか」を条文で示し、計算方法は社会保険労務士に一度点検してもらうと安心です。

農業法人の就業規則で追加する規定(労働時間の特例・繁閑差)

農業法人の就業規則で最初に確認すべきなのは、労働基準法上、農業(耕種農業や畜産・養蚕・水産の事業など)については労働時間・休憩・休日に関する規定の適用が他業種と異なる扱いになると整理されている点です。ただし、深夜割増賃金や年次有給休暇、最低賃金、安全衛生などは別の取扱いになります。また、農産物の加工・販売・飲食など、農作業以外の事業を行っている場合、その部分は一般の事業として扱われることがあります。自社のどの業務がどう整理されるかは、就業規則を作る前に社会保険労務士に確認してください。

この特例があるからといって、労働時間のルールを書かないのは得策ではありません。採用や定着を考えると、始業・終業時刻、休憩、休日、繁忙期の勤務の考え方を就業規則に明記しておいたほうが、求職者にも従業員にも伝わりやすくなります。特例の範囲は「法律上どう扱われるか」の問題であり、社内ルールとして時間を定めることは妨げられません。

繁閑差への対応としては、農繁期と農閑期で所定労働時間の配分を変える方法(1年単位の変形労働時間制など)を検討する会社があります。導入には労使協定や周知など所定の手続きが必要で、期間中の労働日や時間をあらかじめ特定する必要があるとされています。作物や畜種によって向き不向きがあるため、天候で日々の作業が動く場合は、変形労働時間制ではなく休日の振替や年間カレンダーの運用で対応するほうが合うこともあります。どちらが自社に合うかは、過去2〜3年の作業日誌を並べて、繁忙のピークが事前に読めるかどうかで判断すると決めやすくなります。

農業法人では、技能実習生や特定技能の外国人、季節雇用のパート、家族従業員など、雇用形態が混在しやすい点にも注意が必要です。正社員向けの就業規則とは別に、パートタイマー就業規則を用意し、適用範囲を冒頭で明確に書き分けておくと、休暇や手当の適用関係で迷わずに済みます。

ひな形・モデル就業規則はどこまで使えるか

「農業 就業規則 ひな形」「建設業 就業規則 モデル」といった形で探す方が多いのですが、公的機関や業界団体が公開しているひな形は、あくまで一般的な例です。そのまま社名だけ入れて届け出ると、自社にない手当が書いてあったり、実際には運用していない制度が残っていたりして、かえって不利に働くことがあります。就業規則は会社と従業員の約束事なので、書いてある以上は守る前提で読まれます。

使い方としては、①厚生労働省のモデル就業規則で全体の骨格を作る、②業種向けのひな形や解説資料を見て、自社に足りない論点(直行直帰、拘束時間、繁閑差など)を洗い出す、③自社の実態に合わせて条文を書き換える、という三段階が現実的です。手当や制度の有無は、実際に運用しているものだけを残します。

作成・変更の手順は、従業員を一定数以上使用する事業場では、労働者の過半数代表者などの意見を聴き、意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る流れになります。届出の対象にならない規模でも、書面で定めて全員に周知しておくと、トラブル時の拠り所になります。周知は、配布・掲示・社内システムでの閲覧など、従業員がいつでも見られる状態にしておくことが求められます。

作るときの進め方と、専門家に相談するタイミング

進め方としては、まず自社の1日の流れ(集合・移動・作業・片付け・帰社)と1年の流れ(繁忙期・閑散期)を書き出します。次に、そこで発生する「時間の数え方が曖昧な場面」をすべて挙げます。建設業なら移動と待機、運送業なら荷待ちと点呼、農業なら早朝・夜間の管理作業や天候待ちが典型です。曖昧な場面を条文で一つずつ潰していけば、業種向けの就業規則はほぼ形になります。

そのうえで、賃金規程との整合を確認します。就業規則本体で「詳細は賃金規程による」と受けておき、手当の種類や割増賃金の計算方法は賃金規程に分けて書くと、金額改定のたびに本体を直さずに済みます。あわせて、36協定、変形労働時間制の労使協定、安全衛生の体制も、就業規則と矛盾がないか並べて点検します。

就業規則は一度作ると簡単には不利益に変更できないため、初回の設計でつまずくと後から効いてきます。特に、労働時間の特例が関わる農業、改善基準告示が関わる運送業、上限規制の特例が関わる建設業は、条文の一文で扱いが変わる場面があります。自社の実態を整理した段階で、一度は社会保険労務士に内容を点検してもらい、労務トラブルの法的な論点が絡む場合は弁護士にも相談することをおすすめします。

よくある質問

建設業の就業規則で、直行直帰の移動時間は労働時間に含めるべきですか。

移動時間が労働時間に当たるかは、会社の指揮命令がどこまで及んでいるかによって判断が分かれるとされています。会社に集合して社用車で現場へ向かう場合と、自宅から現場へ直接向かう場合では扱いが異なることがあるため、就業規則では両方のパターンを分けて書いておくのが安全です。自社の運用がどちらに近いか迷う場合は、社会保険労務士に確認してください。

農業法人には就業規則の労働時間の規定は不要ですか。

労働基準法上、農業の事業については労働時間・休憩・休日に関する規定の扱いが他業種と異なると整理されていますが、深夜割増賃金や年次有給休暇、安全衛生などは別の取扱いになります。また、加工や直売など農作業以外の事業を行っている場合、その部分の扱いが変わることがあります。適用関係は個別性が高いため、就業規則を作る前に社会保険労務士へ確認することをおすすめします。

運送業の歩合給は、就業規則にどこまで書けばよいですか。

就業規則本体では賃金の項目と「詳細は賃金規程による」旨を定め、賃金規程に歩合給の算定方法、割増賃金の基礎に含める手当と含めない手当、歩合給部分の割増賃金の計算方法を書くのが一般的です。歩合給がある場合の割増賃金の計算は固定給のみの場合と考え方が異なるとされているため、計算式は専門家に点検してもらうと安心です。

業種向けのひな形をそのまま使って届け出てもよいですか。

形式上は可能ですが、自社にない手当や運用していない制度がそのまま残ると、書いてある内容を守る前提で読まれるため注意が必要です。厚生労働省のモデル就業規則で骨格を作り、業種特有の論点だけを自社の実態に合わせて書き換える進め方をおすすめします。

あわせて読みたい

「採用・労務」の記事をすべて見る →

次に決めること

記事をすべて見る(1087本)→

この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。