業務委託契約を変更するときの覚書|書き方と変更契約の進め方

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

業務委託の報酬を上げたい、業務範囲が増えた、契約期間を延ばしたい。取引が続いていれば、最初に結んだ契約書のままでいられないことは普通に起きます。このとき「新しく契約書を結び直すのか」「覚書1枚で足りるのか」で迷う人は多いはずです。この記事では、業務委託契約書を変更するときの覚書の書き方と、変更契約の進め方を、判断の順番にそって整理します。

この記事の結論

  • 業務委託契約の一部だけを変える場合は、元の契約書を残したまま「変更覚書」を結ぶのが実務では一般的で、変更する条項と新しい内容、適用開始日を書きます。
  • 覚書と契約書は名称が違うだけで、当事者が合意した内容を書面にしたものという点では同じ扱いをされることが多く、タイトルより中身が重要です。
  • 報酬額の変更、業務範囲の追加、期間の延長はいずれも覚書で対応できますが、変更が広範囲に及ぶときは契約書自体を結び直したほうが後から読みやすくなります。

覚書と変更契約書は何が違うのか

「覚書」「変更契約書」「変更合意書」——どれも名前が違うだけで、当事者が合意した内容を書面に残したものです。日本の契約は原則として当事者の合意で成立するため、書面のタイトルが「覚書」であっても、契約内容を変更する合意として扱われるのが一般的です。逆に「契約書」と書いてあっても、中身が曖昧なら争いのもとになります。

実務では、使い分けの目安があります。元の契約書の一部(報酬、業務範囲、期間など)だけを変えるなら「覚書」または「変更契約書」。条項の大半を作り直す、あるいは前の契約を終わらせて新しい関係を始めるなら、新しい業務委託契約書を締結し直す。この二択で考えると迷いにくくなります。

なお、社内で「覚書は簡易なもの」という感覚を持っている人がいますが、法的な重さが自動的に軽くなるわけではありません。覚書だからと内容を詰めずに署名すると、その内容で拘束されることがあります。名称ではなく中身を確認してください。

覚書で対応するか、契約書を結び直すかの判断

迷ったら、次の順に見ていきます。第一に「変更する条項はいくつか」。1〜3か所程度で、他の条項はそのまま使えるなら覚書で十分です。第二に「変更が過去にさかのぼるか」。将来分だけの変更なら覚書で扱いやすく、過去分の精算も絡むなら、いつからいつまでにどう適用するかを丁寧に書く必要があります。

第三に「契約の性質そのものが変わるか」。たとえば、成果物を納品する請負型の契約を、稼働時間に応じた準委任型に変えるようなケースは、報酬の考え方も検収の条件も責任範囲も変わります。この場合は覚書を重ねるより、新しい契約書を作ったほうが安全です。

第四に「これまで何回変更しているか」。覚書が3通、4通と積み重なると、最新の条件が何なのか誰も即答できなくなります。変更が重なってきたら、その時点で現行条件をまとめた契約書を結び直し、過去の覚書は失効させる、という整理をおすすめします。

変更覚書に書く項目と書き方

変更覚書に最低限入れたいのは、次の要素です。①当事者(甲乙の表記は元契約と揃える)、②元の契約の特定(契約名・締結日)、③変更する条項の番号と、変更前・変更後の内容、④変更の適用開始日、⑤変更しない部分は元の契約のとおりとする旨、⑥作成日と記名押印(または電子署名)欄。この6つが揃っていれば、形としては成立します。

変更前・変更後は、条文をそのまま置き換える形で書くと読みやすくなります。たとえば「第5条(委託料)を次のとおり変更する。(変更後)第5条 委託料は月額◯◯円(消費税別)とし……」というように、新しい条文の全文を書き切る方法です。「金額を改定する」とだけ書くと、いくらになったのかが本文から読み取れません。

⑤の「その他の条項は原契約のとおりとする」という一文は、忘れられがちですが重要です。これがないと、覚書で触れなかった部分がどうなるのか解釈の余地が生まれます。定型句として必ず入れる、と決めておくとよいでしょう。

報酬額を変更するときの注意点

金額変更で最初に決めるのは「いつ分から新しい金額にするか」です。月額の業務委託なら「2026年◯月分の業務から」と、対象となる業務の期間で書くのが分かりやすい方法です。請求書の発行月で書くと、締め日と支払日の関係でずれが起きることがあります。

次に、消費税の扱いを明記します。新しい金額が税抜なのか税込なのかを書き分けないと、請求のたびに確認が必要になります。あわせて、委託先が適格請求書発行事業者かどうかによって、こちらの消費税の取扱いが変わる場面があります。インボイス制度に関わる処理は要件が細かいため、国税庁の資料を確認するか、顧問の税理士にご確認ください。

また、個人への業務委託では源泉徴収の要否が問題になることがあります。業務の内容によって扱いが変わりますので、金額変更のタイミングで「これまでどおりの処理でよいか」を経理側と確認しておくと、後からの訂正を避けやすくなります。

業務範囲を追加・変更するときの書き方

追加業務は、金額変更よりもトラブルになりやすい部分です。ポイントは「何を追加するか」だけでなく「追加した分の報酬をどう払うか」「いつまでにやるか」「成果物の検収はどうするか」をセットで書くことです。作業だけ増えて報酬の取り決めが曖昧、という状態が一番こじれます。

追加が一時的(スポット)なのか、継続的なのかでも書き方が変わります。一時的なら「◯年◯月◯日までの単発業務として、別途◯◯円を支払う」と期限を切った覚書に。継続的なら、業務内容を定めた別紙(業務仕様書)を差し替える形にすると、次回以降の変更も別紙の差し替えだけで済みます。

業務範囲を広げると、著作権などの権利の帰属や、再委託の可否、秘密保持の対象も広がることがあります。元の契約書でこれらがどう定められているかを読み返し、追加業務にもそのまま当てはまるかを確認してください。当てはまらない部分があれば、覚書の中で補っておきます。

作成から締結までの進め方と保存

進め方は、①変更したい内容を箇条書きにして相手と口頭・メールで合意する、②元の契約書を開き、変更する条項の番号を特定する、③覚書のドラフトを作る、④相手に送って内容を確認してもらう、⑤記名押印または電子署名で締結する、⑥双方で保管する、という順です。③より先に④をやろうとすると、話が戻りやすくなります。

締結の方法は、紙に押印しても、電子契約サービスで電子署名してもかまいません。ただし、元の契約書が紙で、覚書だけ電子という組み合わせでも問題は生じにくい一方、原本の保管場所が分かれると探しにくくなります。どちらかに寄せるか、少なくとも台帳で対応関係を管理しておくとよいでしょう。

保存については、電子で受け取った契約書や覚書の保存方法に関するルールがあります。電子帳簿保存法の要件は改正が重なっているため、詳細は国税庁の資料を確認するか、税理士に相談してください。社内的には「契約名・締結日・変更覚書の有無・最新条件」を一覧にしたシートを1枚持っておくと、次の更新時に迷いません。

書式で迷ったとき、専門家に相談する基準

報酬や期間の単純な変更であれば、自社で覚書を作成して進めている会社も多くあります。一方で、①契約の性質そのものを変える、②責任範囲・損害賠償・知的財産の帰属に触れる、③過去にさかのぼる精算がある、④相手との間ですでに認識のずれが生じている、のいずれかに当てはまるときは、書面にする前に一度専門家の目を通したほうが安全です。

契約条項の設計や、トラブルが起きたときの対応は弁護士の領域です。報酬変更にともなう源泉徴収やインボイスの処理は税理士に、業務委託と雇用の線引きが気になる場合は社会保険労務士に相談すると、論点が整理しやすくなります。

「この覚書1枚でいいのか」と少しでも引っかかったら、その感覚は大事にしてください。締結前の相談は短時間で済むことが多く、締結後の火消しよりずっと負担が軽く済みます。

よくある質問

業務委託契約書の変更は、覚書だけで有効ですか。

当事者が合意し、変更内容が明確に書かれていれば、書面のタイトルが覚書でも変更の合意として扱われるのが一般的です。ただし、元の契約書に「変更は書面による」といった条項がある場合は、その方法に沿って作成してください。個別の有効性が気になるときは弁護士にご確認ください。

金額だけを変えたいのですが、契約書を作り直す必要はありますか。

変更が報酬条項だけで、他の条項をそのまま使えるなら、変更覚書で対応するのが一般的です。覚書には変更後の金額、消費税の扱い、いつ分の業務から適用するかを明記します。覚書が何通も積み重なってきたら、その時点で契約書を結び直して整理するとよいでしょう。

追加業務をお願いしたいとき、口頭やメールの合意では足りませんか。

合意そのものは口頭やメールでも成立し得ますが、作業量と報酬の食い違いはこじれやすい部分です。追加する業務の内容、報酬、期限、検収の方法をまとめた覚書を1枚残しておくと、双方の認識を揃えやすくなります。

覚書を作ったら、元の契約書はどうすればいいですか。

一部変更の覚書であれば、元の契約書は引き続き有効なので、覚書とセットで保管します。「その他の条項は原契約のとおりとする」という一文を覚書に入れておくと、関係がはっきりします。保管方法や電子保存の要件については、国税庁の資料を確認するか税理士にご相談ください。

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