業務委託契約書を電子契約で締結するには|印紙と進め方の整理
業務委託契約書を紙で印刷して、製本して、印紙を貼って、郵送して、返送を待つ。ひとり社長や小さな会社にとって、この往復は思った以上に時間を食います。電子契約サービスを使えば、PDFをアップロードしてメールで送るだけで締結まで進められますし、印紙の扱いも紙とは違う整理になります。この記事では、業務委託契約書を電子契約で結ぶときの進め方を、契約書の準備から署名依頼、締結後の保存まで順番に整理します。
この記事の結論
- 業務委託契約書を電子契約で締結する流れは、契約書をPDFにする→サービスにアップロードして署名欄を配置する→相手のメールアドレス宛に署名依頼を送る→双方が署名して締結、という順番です。
- 印紙税は紙の文書の作成に対してかかるものとされており、電子ファイルのみでやり取りして紙の原本を作らない場合は課税文書の作成にあたらないという整理が一般に知られていますが、個別の判断は税理士や所轄の税務署にご確認ください。
- 電子契約サービスは、相手の負担が軽い「立会人型(メール認証)」と、本人性をより厳格に確認する「当事者型(電子証明書)」があり、継続的な業務委託ならまず立会人型から検討する進め方が一般的です。
業務委託契約書を電子契約で締結する全体の流れ
まず全体像をつかんでおくと迷いません。電子契約での締結は、①契約書の本文を確定してPDFにする、②電子契約サービスにアップロードする、③署名欄や日付欄を画面上で配置する、④相手方のメールアドレス宛に署名依頼を送る、⑤相手が内容を確認して署名する、⑥自社側も署名して締結完了、という流れになります。締結が完了すると、多くのサービスでは締結済みPDFと、いつ誰が署名したかの記録(監査ログ)が発行されます。
紙との一番の違いは、押印のための往復がなくなることです。紙なら、印刷・製本・押印・郵送・相手の押印・返送で数日から一週間かかるところが、電子契約なら相手がメールを開いた時点で進みます。業務委託は稼働開始日が決まっていることが多いので、この差は実務上かなり効きます。
準備段階で決めておきたいのは、誰が署名者になるかです。法人同士なら代表者名義にするのが基本ですが、実務上は権限を委任された担当者名義で締結することもあります。相手方の署名者が誰になるかは、依頼を送る前にメールで一度確認しておくと、送り直しの手間が減ります。
契約書PDFの準備でつまずかないために
電子契約サービスにアップロードするのはPDFです。WordやGoogleドキュメントで本文を作り、内容を確定してからPDFに書き出します。このとき、日付欄と署名欄(記名押印欄)は空欄のままにしておきます。サービス側で署名欄を配置すると、そこに電子署名の情報が入るためです。
PDF化する前に確認しておきたいのは、業務委託契約書として最低限おさえる項目です。委託する業務の範囲、成果物と納期、報酬の金額と支払期日、費用負担、秘密保持、知的財産権の帰属、契約期間と解除、再委託の可否、といったところが典型です。とくに業務範囲と成果物の定義があいまいだと、後から「これは契約に含まれるのか」でもめやすいので、別紙(仕様書)に切り出して本文から参照する形にすると整理しやすくなります。
なお、業務委託と言っても、成果物の完成に対して報酬を払う請負型と、業務の遂行そのものに報酬を払う準委任型では、契約書に書くべき内容が変わります。どちらの性質に近いか判断しづらい場合や、実態として指揮命令が発生しそうな場合は、労働者性の論点にも触れるため、弁護士や社会保険労務士に一度見てもらうことをおすすめします。
収入印紙は不要になるのか|PDFと印紙の考え方
紙の契約書を作ると、その文書の種類と記載金額に応じて印紙税がかかることがあります。業務委託契約書の場合、請負に関する契約書や継続的取引の基本となる契約書に該当するかどうかで扱いが変わるため、まずは自社の契約書がどの類型にあたるかを確認する必要があります。
印紙税は「課税文書の作成」に対して課されるものとされており、電子ファイルとしてのみ授受し、紙の原本を一切作成しない場合は課税文書の作成にあたらない、という整理が一般に知られています。電子契約が広く使われている理由のひとつがここです。ただし、締結後にPDFを印刷して相手に手渡した場合など、運用次第で判断が変わる可能性もあります。個別の判断は、国税庁の公表資料を確認したうえで、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
実務上の注意点としては、社内で「電子で締結したものは印刷して保管する」という運用が残っていると、その印刷物の位置づけが問題になり得ることです。電子で締結した契約は電子のまま保存する、と最初に運用を決めてしまうほうが、後々シンプルになります。
立会人型と当事者型|どちらを選べばいいか
電子契約サービスの署名方式は、大きく二つに分かれます。立会人型(事業者署名型)は、サービス提供事業者が自社の電子証明書で署名し、署名者本人はメールアドレスへのリンクとアクセスコードなどで本人確認をする方式です。相手方は会員登録も専用ソフトも不要で、メールを開いてボタンを押すだけで署名できます。
当事者型は、署名者本人が認証局から発行された電子証明書を使って署名する方式です。本人性の確認がより厳格になる一方、相手方にも証明書の取得が必要になるため、準備の手間がかかります。
選び分けの順番はこうです。まず、相手方が個人事業主やフリーランス、あるいは電子契約に慣れていない小規模事業者なら、立会人型を第一候補にします。相手の負担が軽く、締結までが早いからです。次に、契約金額が大きい、争いになったときの立証を重く見たい、相手方の社内規程で当事者型が求められている、といった事情があれば当事者型を検討します。多くのサービスは両方に対応しているか、上位のプランで当事者型を扱っているので、どの方式に対応しているかは各社の公式サイトで確認してください。
サービスの選び方|クラウドサイン・freee・マネーフォワードをどう比べるか
電子契約サービスは、契約専業のもの(クラウドサインなど)と、会計・人事のクラウドサービスに付属するもの(freeeサイン、マネーフォワード クラウド契約など)があります。どれが向くかは、機能の優劣ではなく、自社の既存環境と契約の量で決まります。
判断の順番としては、まず①すでに会計ソフトや人事労務ソフトを使っているかを見ます。同じシリーズで揃えると、取引先マスタの共有やアカウント管理がひとまとめになり、管理者がひとりの会社では運用が楽になります。次に②相手方が指定してくる可能性を考えます。取引先が特定のサービスを使っている場合、受信側はアカウント不要で署名できることが多いので、自社が同じサービスを契約する必要は必ずしもありません。最後に③月あたりの締結件数と、テンプレート管理・承認フロー・他システム連携といった機能が必要かを見ます。
料金体系は送信件数に応じた課金や、ユーザー数による課金など各社で考え方が異なり、変更されることもあります。具体的な金額やプラン内容は、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。多くのサービスで無料で試せる期間が用意されているので、実際に自分宛てに一件送ってみて、受信側の画面がどう見えるかを確かめてから決めると失敗が少なくなります。
相手が電子契約に応じてくれないときの進め方
取引先によっては、社内規程で紙と押印が定められていたり、単に電子契約に不慣れだったりします。この場合、無理に押し通すより段取りを分けたほうが早いです。まず、署名依頼を送る前に「電子契約で締結してよいか」をメールで確認します。そのとき、相手側はアカウント登録が不要であること、届いたメールのリンクから署名できることを一言添えると、ハードルが下がります。
それでも紙を希望される場合は、紙で締結します。紙に切り替えたときは印紙の要否があらためて論点になるので、契約書の類型と記載金額を確認してください。片方が電子、片方が紙という二重の締結は混乱のもとなので、どちらか一方に揃えます。
社内の準備としては、契約書のテンプレートを一つ整えておくこと、締結済みPDFの保存場所と命名ルール(取引先名+契約名+締結日など)を決めておくことの二つで十分です。電子取引のデータ保存については電子帳簿保存法の考え方が関わるため、検索できる形で保存しておく、改ざん防止の運用を決めておくといった点は、国税庁の資料を確認したうえで、税理士に自社の運用が要件に沿っているかを見てもらうと安心です。契約内容そのものに不安がある場合は弁護士に、業務委託と雇用の線引きが気になる場合は社会保険労務士に、あわせてご相談ください。
よくある質問
業務委託契約書を電子契約にすれば収入印紙は不要になりますか。
電子ファイルのみで授受し紙の原本を作成しない場合は、課税文書の作成にあたらないという整理が一般に知られており、印紙を貼らない運用をしている会社が多くあります。ただし契約書の類型や運用によって判断が変わることがあるため、国税庁の資料を確認のうえ、税理士や所轄の税務署にご確認ください。
PDFに署名画像を貼り付けてメールで送る方法でも契約は成立しますか。
当事者双方が合意していれば契約自体は成立し得ますが、後から「本人が署名したのか」「内容が改ざんされていないか」を示す材料が乏しくなります。電子契約サービスを使うと、署名時刻やアクセス記録が監査ログとして残るため、争いになったときの説明がしやすくなります。
相手にもクラウドサインやfreeeサインのアカウントが必要ですか。
立会人型の方式では、受信側はアカウント登録をせずに、届いたメールのリンクから署名できるのが一般的です。ただし対応範囲はサービスや契約プランによって異なるため、送信前に各社の公式サイトで受信側の手順を確認しておくと安心です。
締結した電子契約書は印刷して紙で保管してもよいですか。
電子取引でやり取りしたデータは電子のまま保存することが求められる場面があり、印刷物だけを保管する運用は避けたほうが無難です。保存方法の要件は電子帳簿保存法に関わるため、国税庁の資料を確認し、自社の運用が沿っているか税理士にご相談ください。