業務委託契約書の損害賠償条項|上限の設け方と罰金条項の注意点

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

業務委託契約書のひな形を開いて、最後の方にある「損害賠償」の条文で手が止まる。ここは、トラブルが起きなければ一度も読まない条文ですが、起きたときには契約書のなかで最も影響の大きい条文になります。この記事では、損害賠償条項の基本的な考え方、上限の設け方、そして「罰金」「違約金」と書かれた条項を見たときの注意点を、発注側・受注側それぞれの視点で整理します。

この記事の結論

  • 業務委託契約書の損害賠償条項は、まず「誰が・どんな場合に・どこまで負うか」の3点を明記し、賠償範囲と上限を切り分けて書くのが基本です。
  • 損害賠償の上限は、委託料の額を基準に定めるのが実務上よく使われる形ですが、故意や重過失がある場合には上限の主張が認められないことがあります。
  • 「罰金」という表現は契約書では使わず、違約金として定める場合は損害賠償額の予定と扱われることがあるため、金額の根拠と適用場面を具体的に書いておくことが大切です。

業務委託契約書の損害賠償条項は、そもそも何のために置くのか

契約書に損害賠償条項がなくても、相手が契約に違反して損害が出たときは、法律上の債務不履行として賠償を求める余地があります。つまり損害賠償条項は、ゼロから権利をつくるためというより、法律のルールをそのままにしておくのか、それとも当事者間で範囲や上限を調整するのかを決めるための条文です。何も書かなければ「法律の原則どおり」に近い扱いになり、範囲が読みにくくなります。

業務委託では、成果物の不具合、納期の遅れ、秘密情報の漏えい、第三者の権利侵害など、想定される損害の種類が分かれます。どの場面でいくらまで負うのかが決まっていないと、いざというときに双方の想定が大きくずれ、交渉が長引きます。損害賠償条項は、この「想定のずれ」を契約の時点でつぶしておくためのものだと考えると分かりやすくなります。

発注側は、委託先のミスで自社の顧客に迷惑がかかったときに回収できる範囲を確保したい。受注側は、委託料に見合わない大きな責任を負わされることを避けたい。この二つの利害がぶつかる場所なので、ひな形をそのまま使うのではなく、自分がどちらの立場かを意識して読み直す必要があります。

損害賠償条項に最低限書くべき3つの要素

条文を書くときは、①どんな場合に責任が発生するか(要件)、②どこまでの損害を対象にするか(範囲)、③いくらまで負うか(上限)、の順に考えると整理しやすくなります。この3つが揃っていない条文は、読み手によって解釈が分かれやすくなります。

①の要件では、「本契約に違反し、相手方に損害を与えたとき」といった書き方が一般的です。ここに「自己の責めに帰すべき事由により」という限定を入れるかどうかで、受注側の負担感はかなり変わります。受注側の立場なら、この文言があるかをまず確認してください。

②の範囲では、通常生じる損害に限るのか、逸失利益や機会損失といった間接的な損害まで含めるのかを決めます。実務では「直接かつ現実に生じた通常の損害に限る」といった形で範囲を絞る書き方がよく使われます。③の上限については次の見出しで詳しく触れます。

業務委託契約書の損害賠償の上限は、どう設けるのが現実的か

上限の決め方でよく使われるのは、委託料を基準にする方法です。たとえば「本契約に基づき受託者が受領した委託料の額を上限とする」「損害発生の直前に支払われた一定期間分の委託料相当額を上限とする」といった書き方です。継続的な委託か、単発の成果物制作かで、どちらの基準がなじむかが変わります。

単発の制作や開発なら、その案件の委託料総額を基準にするのが分かりやすい形です。月額で継続する保守や運用なら、総額が青天井に積み上がるため、直近の一定期間分を基準にする形が使われることがあります。どちらにするかは、案件の期間と、想定される損害の大きさを見比べて決めてください。

一方で、上限を書けばどんな場合でもその額で止まる、とは限りません。故意または重大な過失がある場合には、上限の主張が制限されると判断されることがあります。そのため契約書でも「故意または重過失による場合はこの限りでない」と明記しておく例が多く、発注側としてはこの但し書きがあるかを確認しておくと安心です。

また、秘密情報の漏えいや第三者の知的財産権侵害は、損害が大きくなりやすいため上限の対象から外す、という整理をすることもあります。どこを上限の外に置くかは交渉になります。金額の水準そのものは案件ごとに大きく異なるため、同種の取引の相場感を含めて弁護士に相談するのが確実です。

「罰金」「違約金」と書かれた条項を見たときの注意点

まず用語の整理です。「罰金」は本来、刑罰として国に納めるお金を指す言葉で、当事者間の契約で使うのは適切ではありません。契約書で目にする「罰金○○」という表現は、実質的には違約金や損害賠償額の予定を指していることがほとんどです。ひな形にこの語が入っていたら、違約金など適切な言葉に直すことを検討してください。

違約金を定めると、法律上は損害賠償額の予定と推定される扱いになることがあります。つまり、実際の損害額がそれより大きくても小さくても、その金額で精算するという意味になり得ます。発注側が「違約金は取るが、実損がそれ以上なら別途請求したい」と考えるなら、その旨を条文に明記しておかないと意図どおりに機能しないことがあります。

違約金の額が、想定される損害と比べて明らかに大きすぎる場合、その一部または全部について効力が認められないと判断されることもあります。「納期に遅れたら一律で高額を支払う」といった条項は、金額の根拠を説明できるかがポイントです。遅延日数に応じた形にする、上限を設けるなど、合理性が説明できる作りにしておくと安全側に寄ります。

受注側が損害賠償条項で特に気をつけたいこと

ひとりで受託しているフリーランスや小さな会社の場合、委託料に対して責任だけが大きい条項になっていないかを確認してください。見るべき順番は、①「自己の責めに帰すべき事由により」の限定があるか、②間接損害・逸失利益が除外されているか、③上限が定められているか、④責任を追及できる期間の制限があるか、の4点です。

このうち一つも入っていないひな形も珍しくありません。すべてを一度に修正するのが難しければ、まず上限と間接損害の除外の2点に絞って交渉するのが現実的です。「金額の話ではなく、責任の範囲をはっきりさせたい」という伝え方をすると、発注側にも受け入れられやすくなります。

なお、契約書のタイトルが業務委託でも、指揮命令の実態が強い働き方であれば、労働関係の規制が及ぶと判断される場合があります。労働者に対して、あらかじめ違約金や賠償額を定めることは法律で制限されています。自分の働き方がどちらに近いか不安な場合は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。

また、発注者と受注者の関係によっては、下請取引やフリーランスとの取引に関する法律上の配慮が求められる場面があります。一方的に不利な条項を押し付ける形になっていないか、発注側も一度立ち止まって見直しておくとよいでしょう。制度の詳細は所管官庁の資料を確認してください。

ひな形をそのまま使ってよいか、どう判断するか

公的機関や業界団体が公開しているひな形は出発点として有用ですが、そのまま使えるかは案件によります。判断の順番としては、まず①取引金額が自社にとって大きいか、②秘密情報や個人情報を預かるか、③成果物が相手の事業の中核で使われるか、を見てください。一つでも当てはまるなら、ひな形のままではなく個別に調整する価値があります。

調整するときの実務的な進め方は、契約交渉に入る前に、自社として譲れない線(上限の有無、間接損害の扱いなど)を決めておくことです。交渉の場で初めて考えると、その場の勢いで受け入れてしまいがちです。社内で一枚のメモにしておくだけでも、判断がぶれにくくなります。

締結した契約書は、電子で受け取ったものは電子のまま、紙は紙のまま、検索できる形で保管しておきます。電子データの保存方法については電子帳簿保存法に関わる論点もあるため、扱いに迷う場合は国税庁の資料や顧問税理士に確認してください。

損害賠償条項は、金額の大小だけでなく、文言のわずかな違いで結論が変わることがある領域です。取引額が大きい契約や、継続的に使う自社ひな形をつくる場面では、弁護士にレビューを依頼することをおすすめします。一度きちんと整えたひな形は、その後の取引すべてで使えるため、費用対効果の高い相談先になります。

よくある質問

業務委託契約書に損害賠償条項がない場合、賠償請求はできませんか。

条項がなくても、契約違反があれば法律上の債務不履行として賠償を求める余地はあります。ただし範囲や金額の解釈で争いになりやすいため、契約書に明記しておくほうが双方にとって予測しやすくなります。個別のケースについては弁護士にご確認ください。

損害賠償の上限は委託料と同額にしておけば安心ですか。

上限を定めること自体は実務でよく使われる方法ですが、故意や重過失がある場合には上限の主張が認められないことがあります。また、秘密情報の漏えいなど損害が大きくなりやすい場面を上限の対象外とする例もあり、案件ごとの検討が必要です。

契約書に「罰金」と書いてもよいのでしょうか。

罰金は刑罰を指す言葉のため、当事者間の契約では違約金や損害賠償額の予定といった表現に置き換えるのが一般的です。違約金として定める場合も、金額の根拠と適用される場面を具体的に書いておくことが望ましいとされています。

フリーランスとして受注する側です。不利な条項を直してもらえますか。

交渉は可能です。まずは上限の設定と間接損害の除外という2点に絞って提案すると、話が進みやすくなります。自分の働き方が実質的に労働者に近い場合は別の規制が関わることもあるため、判断に迷うときは弁護士や社会保険労務士にご相談ください。

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