業務委託契約書の秘密保持条項と禁止事項|安全管理と貸与品の定め方
業務委託契約書のひな形を見ていると、報酬や納期のあたりまでは書けても、秘密保持条項や禁止事項、貸与品の扱いで手が止まる方が多いようです。ここは「とりあえずひな形のまま」にしてしまいがちな場所ですが、トラブルが起きたときに最初に読まれるのもこの部分です。この記事では、秘密保持・禁止事項・安全管理・貸与品・特記事項の5つについて、どういう順番で何を決めればよいかを整理します。
この記事の結論
- 業務委託契約書の秘密保持条項は、秘密情報の範囲・例外・目的外利用の禁止・契約終了後の返還消去・存続期間の5点をそろえて書くのが基本の形です。
- 禁止事項は「再委託」「競業・類似業務」「反社会的勢力」「名義貸し・成果物の流用」のように、自社が困る場面を具体的に挙げて限定列挙と包括条項を組み合わせます。
- 貸与品や預けるデータがある場合は、何を貸すか・何に使ってよいか・いつどう返すかを契約書か特記事項に書き、安全管理の方法まで定めておくと回収がスムーズです。
業務委託契約書で秘密保持条項を書くとき、何から決めるか
まず決めるのは「何が秘密情報か」の範囲です。実務では、書面・電子データ・口頭を問わず開示した情報のうち、秘密である旨を示したものと、業務の性質上秘密と分かるものをまとめて秘密情報とする書き方がよく使われます。あまりに広く「本契約に関連して知り得た一切の情報」とだけ書くと、受託者側から修正を求められることもあります。
次に例外です。すでに公知だった情報、受託者が独自に得ていた情報、正当な権限のある第三者から守秘義務なく受け取った情報、法令や裁判所・行政機関の求めにより開示する場合は、秘密情報から外すか義務の対象外とするのが一般的です。ここを書いておくと、受託者も安心して署名しやすくなります。
三つめが使い方の制限で、秘密情報を本件業務の目的以外に使わないこと、第三者に開示しないことを書きます。そのうえで、受託者の従業員や、後述する再委託先に開示する必要がある場合の扱い(同等の義務を負わせる、など)を定めておくと、現実の運用と条文がずれにくくなります。
秘密保持は契約書の条項とNDA、どちらにする?
判断の順番はシンプルです。業務の話を始める前から情報を渡すなら、先に秘密保持契約(NDA)を単独で結び、業務委託契約を結ぶ段階でその内容を取り込むか、改めて契約書の中に秘密保持条項を置きます。見積りや提案の段階で社内資料を見せるケースは、ここに当てはまります。
逆に、契約と同時に情報を渡し始めるなら、業務委託契約書の中の一条として書けば足りることが多いです。書類が増えないぶん管理も楽になります。どちらの場合も、NDAと業務委託契約書の両方に秘密保持の定めがあると内容が食い違うことがあるので、「本契約とNDAの内容が異なる場合はどちらが優先するか」を一文入れておくと迷いません。
存続期間も忘れやすい論点です。契約が終わっても秘密保持義務は一定期間続く、という書き方が一般的で、期間を区切るか、情報の性質によっては期限を設けない形にするかを決めます。顧客名簿や設計情報など、長く守りたい情報があるかどうかで考えると決めやすいはずです。
業務委託契約書の禁止事項は、何を書けばいいか
禁止事項は、思いつく限り並べるのではなく、「これをされると自社が困る」という場面から逆算します。多くの会社で共通して挙がるのは、①発注者の承諾なく第三者へ業務を再委託すること、②秘密情報や貸与データを目的外に使うこと、③成果物を他社向けに流用すること、④契約上の地位や債権を無断で譲渡すること、の4つです。
業種によっては、競業に関する定めや、発注者の顧客へ直接営業することの禁止を入れる場合もあります。ただし受託者の職業選択や営業の自由に関わるため、範囲や期間を限定せずに広く縛る条項は、後から効力が争われることがあります。どこまで書くか迷う場合は、弁護士に文言を確認してもらうのが安全です。
最後に、個別に挙げた禁止事項のあとへ「その他、本契約の趣旨に反する行為」といった包括的な一文を添えると、書き漏らしを補えます。あわせて、禁止事項に違反したときの効果(是正の請求、契約の解除、損害賠償)を別条で受けておくと、条文としてつながります。
安全管理の定めは、どこまで書くか
個人情報や顧客データを渡す業務では、秘密保持とは別に「安全管理」の条項を置くことがあります。考え方としては、受託者に対して、アクセスできる人を業務上必要な範囲に限ること、私物端末や共有クラウドの利用ルール、持ち出しや複製の扱い、そして漏えいのおそれが生じたときの連絡をどうするかを定めます。
個人情報を含むデータを外部に預ける場合、委託元には委託先を適切に監督することが求められる、という整理がされています。具体的な要件は制度の資料で更新されることがあるため、個人情報保護委員会など所管官庁の公表資料で最新の内容を確認してください。実務上は、年に一度の状況報告や、必要に応じた調査への協力を条文に入れておく会社が多いです。
また、事故が起きたときの連絡先と時間感覚を書いておくと実際に役立ちます。「発見後ただちに発注者へ通知し、原因と対応方針を書面で報告する」といった形です。細かい技術要件まで契約書本文に書き込むと改定が大変なので、別紙や特記事項にまとめて、そちらを更新できるようにしておく方法もあります。
貸与品・支給品の条項は、貸す前に3つ決める
パソコン、入館カード、サンプル品、アカウント、原稿データ――外部パートナーに何かを渡すなら、貸す前に三つを決めます。第一に「何を貸すか」をリスト化すること。本文には「別紙記載の物品」と書き、別紙で品名・数量・管理番号を管理する形が扱いやすいです。
第二に「何に使ってよいか」。本件業務の遂行以外に使わない、第三者に貸したり持ち出したりしない、改造や複製をしない、といった範囲を書きます。第三に「いつどう返すか」。契約終了時または発注者の求めがあったときに、指定の方法で返還し、データであれば消去して報告する、という流れまで書いておくと回収で揉めにくくなります。
あわせて、貸与品が壊れたり失われたりした場合の負担をどう扱うかも一文入れておきます。受託者の責めによる場合に限って賠償の対象とするのか、通常の使用による損耗は対象外とするのか、という線引きです。高額な機材を貸すときほど、ここを曖昧にしないほうがよいでしょう。
特記事項には何を書き、契約書とどう使い分けるか
特記事項は、本文に書くほど一般化できないけれど、この取引では決めておきたいことを置く場所です。たとえば、作業場所と出社の有無、連絡手段と対応時間帯、成果物の納品形式、検収の期間、再委託を例外的に認める相手の名前、貸与品の一覧などが入ります。案件ごとに変わる内容ほど、本文ではなく特記事項や別紙に寄せると改定が楽になります。
使い分けの基準は「次の契約でも同じ文言を使うか」です。毎回同じなら本文、案件ごとに変わるなら特記事項。そのうえで、「本文と特記事項の内容が異なる場合は特記事項を優先する」のように優先順位を一文で決めておくと、読む人が迷いません。
なお、業務委託の形をとっていても、作業時間や進め方を細かく指示し、場所や時間を拘束する実態があると、契約の名称にかかわらず雇用に近いものとして扱われることがあります。発注の仕方によっては下請法やフリーランスに関する法律の対象になる場合もあるため、条文を固める前に実際の働き方とあわせて確認しておくと安心です。
作る順番と、見直しのタイミング
ゼロから作るなら、①業務の範囲と成果物、②報酬と支払い、③知的財産権の帰属、④秘密保持、⑤禁止事項(再委託を含む)、⑥安全管理、⑦貸与品、⑧契約期間と解除、⑨損害賠償、⑩反社会的勢力の排除、⑪協議と管轄、の順に並べると抜けが見えやすくなります。④〜⑦が、この記事で扱ってきた部分です。
進め方としては、先に自社で草案を用意し、相手に送って修正点を出してもらう形が一般的です。署名は、記名押印でも電子契約でも構いませんが、別紙や特記事項を含めて一式で保存し、どこに保管するかを社内で決めておきます。契約書の保存については電子帳簿保存法の考え方が関わる場面もあるので、保存方法は国税庁の資料で確認しておくとよいでしょう。
見直しのタイミングは、業務の範囲が変わったとき、渡す情報や貸与品が増えたとき、再委託を認めることにしたとき、関連する法令が変わったときの4つです。該当したら、覚書で追加するか、契約を結び直すかを判断します。
迷ったら専門家に確認を
秘密保持の存続期間、競業の制限、損害賠償の上限、再委託を認める範囲――このあたりは、書き方ひとつで実際の効力や交渉の通りやすさが変わります。ひな形をそのまま使うと、自社の業務に合わない条項が残ったままになることもあります。
契約書の文言や、業務委託と雇用の線引き、下請法やフリーランス取引に関する法律の適用については、弁護士に相談して自社の取引に合わせた形に整えてもらうのが確実です。報酬の源泉徴収やインボイスの扱いなど税務が絡む点は税理士に、働き方の実態が労務に近いと感じる場合は社会保険労務士にも相談してみてください。
よくある質問
業務委託契約書に秘密保持条項を入れていれば、NDAは別に結ばなくても大丈夫ですか。
契約締結後に情報を渡すだけなら、契約書の中の秘密保持条項で足りることが多いです。ただし、見積りや提案の段階で先に情報を見せるなら、その時点を守れるようNDAを先に結ぶ形が一般的です。両方ある場合は、どちらを優先するかを一文書いておくと混乱しません。
再委託は禁止と書くべきですか、それとも認めるべきですか。
原則禁止としたうえで、発注者が書面で承諾した場合に限り認める、という書き方がよく使われます。認める場合は、再委託先にも同等の秘密保持や安全管理の義務を負わせ、再委託先の行為について受託者が責任を負うことを明記しておくと安心です。
貸与品が返ってこない場合に備えて、どんな条文を入れておけばよいですか。
契約終了時または発注者の求めがあったときに返還すること、データは消去して報告すること、返還の方法と期限を書いておきます。あわせて、紛失や毀損があった場合の負担の範囲を定めておくと、話し合いの基準になります。
特記事項と契約書本文の内容が食い違ったら、どちらが優先しますか。
契約書に優先順位の定めがあれば、それに従うのが基本です。定めがないと解釈で争いになりやすいため、「本文と特記事項の内容が異なる場合は特記事項を優先する」といった一文をあらかじめ入れておくことをおすすめします。