英文の業務委託契約書|英語のテンプレートと表記の基本
海外のクライアントや海外のフリーランスと仕事をするとき、最初に詰まるのが「業務委託契約書って英語でなんて書くんだろう」という点です。日本語の「業務委託契約」にぴったり一対一で対応する英単語はなく、何を委託するかによって使う言葉が変わります。この記事では、英文業務委託契約書の呼び方の使い分け、テンプレートの探し方と手を入れる場所、英文契約で落としやすい条項、そして和英併記にするかどうかの判断までを、作業の順番どおりに整理します。
この記事の結論
- 日本語の「業務委託契約書」は英語でひとつの決まった訳語がなく、成果物を納品する内容ならService Agreement、継続的な役務ならConsulting AgreementやIndependent Contractor Agreementといった形で、契約の中身に合わせて表題を選ぶのが一般的です。
- 英文テンプレートを使うときは、当事者名・業務範囲(Scope of Work)・報酬と支払条件・知的財産の帰属・準拠法と紛争解決の5か所を必ず自社の条件に書き換え、残りの条項はそのまま使う前提で読み込むと作業が進みます。
- 海外取引では準拠法(Governing Law)と裁判管轄・仲裁(Jurisdiction / Arbitration)、源泉徴収や消費税の負担、知的財産の移転時期が争点になりやすく、署名前に税理士・弁護士に確認しておくと安心です。
「業務委託契約書」は英語でどう書く?表題の使い分け
日本の「業務委託契約」は、民法でいう請負と委任(準委任)をまとめて呼ぶ実務上の言葉です。英語にはこれをそのまま包む単語がないため、契約の中身に寄せて表題を決めます。成果物を納品して完成に責任を持つタイプならServices Agreement(Service Agreement)やWork Agreement、専門的な助言や継続的な役務ならConsulting AgreementやProfessional Services Agreementが使われることが多いです。
相手がフリーランスや個人事業主で、雇用ではないことをはっきりさせたい場合は、Independent Contractor Agreementという表題がよく選ばれます。「雇用ではなく独立した事業者への委託である」という点を表題の段階で示せるため、労務上の取り違えを避けたいときに向いています。発注のたびに個別条件を決める取引なら、基本契約をMaster Services Agreement(MSA)とし、個別案件をStatement of Work(SOW)やWork Orderで足していく形も一般的です。
略称としては、Master Services AgreementをMSA、Statement of WorkをSOW、Non-Disclosure AgreementをNDA、Purchase OrderをPOと書くのが通例です。相手からのメールに「Please review the attached MSA and SOW」とあれば、基本契約と個別の発注明細が来ている、と読み替えられます。どの略称も、本文の初出で正式名称を書いてから(以下「MSA」)にあたる定義を置く形にしておくと誤解が減ります。
英語テンプレート・雛形はどこから探し、どこを直すか
雛形の入手先は、大きく三つに分かれます。日本の公的機関や業界団体が公開している英文契約の解説資料、相手国の弁護士事務所やリーガルテック企業が公開しているサンプル、そして取引先から提示されたドラフトです。自分から出す立場なら、まず日本語で自社の標準契約書を固めてから、その条項構成に合う英文サンプルを探すほうが早く仕上がります。無料で公開されている雛形は内容も前提国もさまざまなので、必ず配布元と想定している法域を確認してください。
テンプレートを開いたら、先に手を入れる場所を決めておきます。(1) 当事者の正式名称・住所・法人形態、(2) Scope of Services(業務範囲と成果物、納期)、(3) Fees and Payment(金額、通貨、支払期日、送金手数料の負担)、(4) Intellectual Property(著作権・特許の帰属と移転時期)、(5) Governing Law and Jurisdiction(準拠法と紛争解決)。この5か所が自社の実態と合っていない契約書は、他がどれだけ整っていても使えません。
残りの条項、たとえばConfidentiality(秘密保持)、Term and Termination(期間と解除)、Limitation of Liability(責任の制限)、Force Majeure(不可抗力)などは、テンプレートの文言をベースにしつつ、自社に不利に振れていないかを読む作業になります。特にLimitation of Liabilityは、賠償の上限が報酬額までなのか無制限なのかで意味がまったく変わるため、訳して理解したうえで判断してください。判断がつかない条項が残ったら、そこだけでも英文契約を扱う弁護士に見てもらうのが現実的です。
英文業務委託契約書に入れておきたい条項と、その順番
英文契約は、おおむね決まった順番で並びます。前文(Parties / Recitals)、定義(Definitions)、業務内容(Scope of Services)、報酬(Fees and Payment)、期間と解除(Term and Termination)、知的財産(Intellectual Property)、秘密保持(Confidentiality)、保証と免責(Warranties / Limitation of Liability)、一般条項(Governing Law, Notices, Entire Agreement, Force Majeureなど)という流れです。テンプレートがこの順になっていれば、抜けを見つけやすくなります。
業務委託で特に詰めておきたいのは、成果物の検収です。納品してから何日以内に相手が確認し、何も言わなければ検収されたものとみなすのか(deemed accepted)、修正依頼は何回まで含むのか。ここが曖昧なまま進むと、報酬の支払時期が相手の都合で後ろ倒しになりがちです。Acceptanceの条項として独立させるか、Scope of Servicesの中に書き込んでおきます。
知的財産の扱いも、日本語の契約以上にはっきり書く必要があります。成果物の権利を相手に渡すのか、ライセンスを与えるだけなのか、渡す場合は報酬の全額支払い時点で移るのか納品時なのか。制作物に自社の既存の素材やツール(background IPと呼ばれることがあります)が含まれるなら、それは移転対象から外す一文を入れておくと、後の取引がしやすくなります。独立性の確認として、相手が従業員ではないこと、社会保険や税の負担は各自が負うことを明記する条項を置く例も多く見られます。
準拠法・裁判管轄・支払いまわりの決め方
海外取引で最後までもめやすいのが、Governing Law(どの国・州の法律で解釈するか)とJurisdiction(どこで争うか)です。自社が日本にあり、相手に特別な事情がないなら、日本法・日本の裁判所を提案するところから始めます。相手が譲らない場合の落としどころとして、仲裁(Arbitration)を使い、仲裁地を第三国や相手国の主要都市にするという進め方もあります。どちらの案が自社にとって現実的かは、紛争時に動ける体力と相手の規模で変わるので、金額の大きい契約ほど弁護士に相談してから出す価値があります。
支払条件では、通貨、支払期日の起算点(invoice dateかreceipt dateか)、送金手数料と中継銀行手数料をどちらが負担するか、遅延時の扱いを決めます。海外送金は着金額が目減りすることがあるため、「bank charges are borne by the Client」のように負担者を書いておくと請求時の確認が減ります。為替レートの基準日も、トラブルを避けたいなら一文入れておきます。
税金の扱いは自己判断しないほうが安全な領域です。相手国の制度によっては報酬から源泉徴収されることがあり、租税条約の届出で扱いが変わる場合もあります。また、海外事業者への支払いや海外からの入金は、消費税の課税関係が国内取引と異なる扱いになることがあります。契約書にwithholding taxの負担者を書く前に、顧問税理士に取引の形を伝えて確認してください。
和英併記にするか、英語だけにするか
日本側と海外側の双方が内容を確認したい場合、左右二段組みや上下併記の和英併記にする方法があります。社内の決裁や経理処理で日本語が必要な会社には便利ですが、二つの言語で意味がずれたときにどちらを優先するかを決めておかないと、かえって争点が増えます。併記にするなら、「In the event of any discrepancy between the Japanese and English versions, the ◯◯ version shall prevail.」にあたる優先言語の条項を置いてください。
判断の順番としては、まず相手が日本語を読めるかを確認します。読めないなら英語のみ、または英語を優先版とした併記。社内に英語を読む人がいないなら、英語を正とする代わりに参考訳を別ファイルで用意し、契約書そのものは英語一本にする、という整理もできます。どちらも「正文はひとつ」にそろえるのが基本です。
電子署名で締結する場合は、相手が使うサービスの署名形式と、自社の文書保存のやり方をあわせて確認しておきます。電子でやり取りした契約書や請求書の保存には電子帳簿保存法の考え方が関わるため、保存方法の要件は国税庁の資料で最新の内容を確認するか、税理士に相談してください。ファイル名に契約日と相手先名を入れて保管場所を決めておくだけでも、後の照会が楽になります。
初めて英文契約を作るときの進め方(手順)
進め方はシンプルです。(1) 日本語で、自社がこの取引で譲れない条件を箇条書きにする(業務範囲、納期、金額と支払時期、権利の帰属、解除できる場面)。(2) その条件に合う英文テンプレートを探し、前節の5か所を書き換える。(3) 残りの条項を訳しながら読み、不利な箇所と意味の取れない箇所に印をつける。(4) 印のついた箇所だけを弁護士に相談する。(5) 相手に送り、修正版(redline)のやり取りをして確定する。
相手からドラフトが来た場合も、順番は同じです。先に自社の譲れない条件を書き出してから読むと、どこを修正要求すべきかが明確になります。修正はWordの変更履歴で返すのが英文契約の慣行で、コメント機能で理由を一言添えると交渉が早く進みます。
署名後は、契約書の原本(PDF)、発注ごとのSOWや発注書、請求書と入金記録をひとつのフォルダにまとめ、契約期間と自動更新日をカレンダーに入れておきます。英文契約は自動更新(automatic renewal)の条項が入っていることが多く、解約通知の期限を過ぎると翌期間に入ってしまうためです。
準拠法、知的財産の移転、源泉徴収や消費税の扱いは、同じ文面でも取引の形によって結論が変わることがあります。金額の大きい契約や継続取引に入る前に、英文契約を扱う弁護士と、国際取引に詳しい税理士に一度内容を見てもらうことをおすすめします。
よくある質問
業務委託契約書は英語で何と言いますか?
決まった一語の訳はなく、内容に応じてServices Agreement、Consulting Agreement、Independent Contractor Agreementなどが使われます。基本契約と個別発注に分ける場合は、Master Services Agreement(MSA)とStatement of Work(SOW)という組み合わせが一般的です。
英語のテンプレートをそのまま使っても大丈夫ですか?
テンプレートは想定している国の法律や商慣習を前提に作られているため、そのままでは自社の取引に合わないことがあります。当事者、業務範囲、報酬、知的財産、準拠法の5か所は必ず自社の条件に書き換え、判断がつかない条項は弁護士に確認してください。
和英併記にしたほうがいいですか?
社内の確認や決裁で日本語が必要なら併記が便利ですが、どちらの言語を優先するかの条項を入れておくことが前提です。相手が日本語を読めない場合は、英語を正文とし、日本語は参考訳として別に用意する整理もよく使われます。
海外の取引先への報酬から税金が引かれていました。どうすればいいですか?
相手国の制度により源泉徴収される場合があり、租税条約の届出で扱いが変わることもあります。契約書にwithholding taxの負担者を書く前に、取引の内容を顧問税理士に伝えて確認するのが安全です。