電子帳簿保存法に対応していないとどうなるか|ペナルティと立て直し方
「電子帳簿保存法、正直まだ何もやっていない」。創業まもない会社や、ひとりで経理まで抱えている社長から、いちばんよく聞く言葉です。メールで届いた請求書、ネット通販の領収書、クレジットカードの利用明細。紙に印刷してファイルに綴じているけれど、それでいいのか分からない――そんな状態のまま決算を迎えている会社は少なくありません。この記事では、未対応のままだと何が起こりうるのかを整理したうえで、今日から手をつけられる順番を具体的に書きます。全部を一度に完璧にする必要はありません。順番さえ間違えなければ、小さな会社でも整えられます。
この記事の結論
- 電子帳簿保存法のうち、メールやWebで受け取った請求書・領収書などの「電子取引データ」の保存は、法人・個人を問わず対応が求められる部分で、紙に印刷するだけの運用では要件を満たさないと判断されることがあります。
- 未対応がただちに罰則につながるわけではありませんが、税務調査の場面で保存書類として認められず、青色申告の承認取消しや重加算税の加重といった不利な取扱いにつながる可能性があります。
- 立て直すときは「①電子で受け取っているものの棚卸し → ②保存場所を一か所に決める → ③ファイル名と検索のルール化 → ④社内周知」の順で進めると、小さな会社でも現実的に運用できます。
電子帳簿保存法に対応していないと、何が起こりうるのか
まず押さえたいのは、電子帳簿保存法に「未対応だと即座に罰金」という直接の罰則条文があるわけではない、という点です。実務上のリスクは、税務調査の場面で顕在化します。保存が求められている電子取引データが適切に残っていないと、その書類の保存義務を果たしていないと判断されることがあります。
そこから派生しうるのが、青色申告の承認取消しです。帳簿書類の保存が適切でない場合に承認が取り消される可能性がある、という枠組みがあり、取り消されると欠損金の繰越しなど青色申告に伴う取扱いが受けられなくなることがあります。ただし、軽微な不備でただちに取消しになるという運用ではないとされており、国税庁も一問一答でその趣旨を示しています。過度に怯える必要はありませんが、放置してよい話でもありません。
もうひとつは、隠蔽・仮装があったと認められる場合の重加算税の加重です。データを改ざんした、意図的に消したといったケースが対象で、単に保存を忘れていたという状況とは性質が異なります。とはいえ、記録が残っていないこと自体が、説明を難しくする要因になるのは確かです。
「電子帳簿保存法 やってない」で、まずどこを見るべきか
電子帳簿保存法は、大きく三つの区分で語られます。会計ソフトで作った帳簿をデータのまま保存する「電子帳簿等保存」、紙の領収書をスキャンして保存する「スキャナ保存」、そしてメールやWebで受け取った請求書・領収書を保存する「電子取引データ保存」です。
このうち、前の二つは希望する会社が選んで使う制度という位置づけです。やっていなくても、紙で保存していれば従来どおりの運用として説明がつきます。一方、三つ目の電子取引データ保存は、電子で授受した取引情報について、データでの保存が求められる部分です。まずここだけを見てください。
つまり「やってない」と焦っている会社の多くにとって、優先すべきは電子取引の一点です。スキャナ保存を導入していないことや、帳簿を紙で出力していること自体を心配する前に、メール添付のPDF請求書やネット通販の領収書がどう保存されているかを確認しましょう。
未対応から立て直す4つのステップ
最初にやるのは棚卸しです。直近1〜2か月分でかまわないので、電子で受け取っている書類を書き出します。取引先からのメール添付PDF、クラウド請求サービスからのダウンロード、ネット通販やチケット予約サイトの領収書、クレジットカードや決済サービスの利用明細、チャットツールで送られてきた見積書。意外と多い、というのが多くの会社の感想です。
次に、保存場所を一か所に決めます。クラウドストレージのフォルダでも、会計ソフトの証憑保存機能でも構いません。大事なのは「迷わず放り込める場所が一つある」ことです。複数の担当者がいる会社は、誰がどこに入れるかを最初に決めておくと後の混乱が減ります。
三つ目が検索できる状態にすることです。取引年月日・取引金額・取引先が検索できることが基本的な考え方とされており、専用システムがなくても、ファイル名を「20260921_110000_株式会社◯◯.pdf」のように統一し、あわせて一覧の索引簿を表計算ソフトで持つ方法が案内されています。売上規模などの条件によって求められる対応が緩和される場合もあるため、自社がどれに当たるかは国税庁の資料や税理士に確認してください。
最後が周知です。経費精算のときに「紙に印刷して提出」ではなく「PDFのまま指定フォルダへ」と伝えるだけでも、ルールは動き始めます。社内規程やマニュアルとしてまとめる場合、国税庁が事務処理規程のサンプルを公開しているので、そこを出発点にすると早いです。
過去の分の「保存 忘れ」はどうするか
すでに過ぎた期間について、電子データを保存していなかった、あるいは紙に印刷して原本のデータを消してしまった、というケースはよくあります。まず、メールボックスや各サービスのマイページに元データが残っていないかを探してください。通販サイトやクラウドサービスは、一定期間さかのぼって領収書を再発行・再ダウンロードできる場合があります。
それでも復元できない分については、紙の出力や他の資料で取引の事実を説明できる状態にしておくことが現実的な対応です。そのうえで、いつから正しい運用に切り替えたかを記録しておくと、調査の場で経緯を説明しやすくなります。この場合の扱いは個別事情によるため、判断は税理士に相談してください。
なお、対応が遅れていること自体を隠す方向に動くのは避けたいところです。データを作り直す、日付を変えるといった行為は、隠蔽・仮装と受け取られる余地があります。復元できないものは復元できないものとして整理し、今後の運用を固めるほうが結果的に安全です。
「めんどくさい」を減らす、小さな会社の現実的な運用
負担が大きく感じられる原因は、たいてい「受け取り口がバラバラ」であることです。請求書の受け取り用メールアドレスを一つに決める、経費の支払いは法人カードに寄せる、といった入口の統一をすると、あとの保存がぐっと楽になります。制度対応というより業務整理の話で、ここを先にやるほど効きます。
ツールを検討する場合の判断軸は、規模と担当者の人数です。社長ひとりで月の取引件数も限られるなら、クラウドストレージと索引簿の組み合わせで足りることがあります。経費精算をする従業員が複数いる、請求書の枚数が多い、という段階になったら、証憑の保存と検索を会計ソフト側でまとめて扱えるかを見るとよいでしょう。
サービスを比べるときは、①電子取引データの保存要件に沿った機能があるか、②今使っている会計ソフトと連携するか、③従業員がスマホから投げ込めるか、の三点をこの順で確認します。料金やプラン内容は各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。機能が豊富でも、現場が使わないルールは続きません。
インボイス制度との関係を混同しない
電子帳簿保存法とインボイス制度は、同じ「請求書」を扱うため混ざりがちですが、目的が違います。インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する話で、電子帳簿保存法は帳簿書類をどう保存するかの話です。電子で受け取った適格請求書は、両方の観点から扱いを考えることになります。
実務では「電子で受け取ったインボイスを、要件に沿ってデータで保存する」という一本の流れに落とし込めれば、二重管理になりません。逆に、インボイス対応だけを意識して紙に出力して綴じる運用にすると、電子取引の保存の観点で足りない状態になることがあります。
どちらの制度も細かい要件や経過的な取扱いがあり、条文や通達の改正も行われています。自社が該当するかどうか、どこまでやれば足りるかは、国税庁の公表資料を確認したうえで、顧問税理士に個別に確認することをおすすめします。
最後に:どこから専門家に相談するか
自社だけで進めてよいのは、棚卸しと保存場所の統一までです。ここは業務整理の範囲なので、社内で決めてしまって差し支えないでしょう。一方、過去分の不足をどう扱うか、青色申告への影響をどう見るか、自社の規模でどの範囲の対応が求められるか、といった判断は、顧問税理士に確認するのが確実です。
顧問税理士がいない場合、決算を依頼するタイミングで「電子取引の保存、今の運用で足りていますか」と聞くのが自然な切り出し方です。会計ソフトの選定や証憑の保存方法まで含めて、実務に合わせた提案をもらえることがあります。
制度は改正が続いている分野です。この記事の内容も一般的な考え方の整理にとどまるため、最終的な判断は国税庁の最新資料と、税理士への相談で固めてください。
よくある質問
電子帳簿保存法を守らないと、いきなり罰金がありますか。
電子帳簿保存法そのものに、未対応に対する罰金の定めがあるわけではありません。ただし税務調査で保存義務を果たしていないと判断された場合、青色申告の承認取消しなどの不利な取扱いにつながる可能性があります。具体的な影響は状況によるため、税理士にご確認ください。
紙に印刷して保存していれば足りますか。
メールやWebで受け取った請求書・領収書などの電子取引データについては、紙に印刷するだけではデータ保存の要件を満たさないと判断されることがあります。元のデータも残す運用に切り替えるのが基本的な考え方です。自社に求められる範囲は国税庁の資料や税理士に確認してください。
数か月分、保存を忘れていました。どうすればよいですか。
まずメールボックスや各サービスのマイページから元データを再取得できないか探してください。復元できない分は紙の出力などで取引の事実を説明できるよう整理し、いつから正しい運用に切り替えたかを記録しておきます。データを作り直すような対応は避け、取扱いは税理士に相談しましょう。
ひとり社長でも専用システムが要りますか。
取引件数が少なければ、クラウドストレージのフォルダとファイル名のルール、表計算ソフトの索引簿で運用している会社もあります。従業員の経費精算が増えたり請求書の枚数が多くなったりした段階で、会計ソフト側の証憑保存機能を検討するとよいでしょう。機能や料金は各社の公式サイトで最新の情報をご確認ください。