電子帳簿保存法の改ざん防止措置|訂正削除履歴の残し方と具体例
請求書や領収書をメールやWebでやり取りしたら、そのデータは電子のまま保存することが求められます。そのときに必ずセットで出てくるのが「改ざん防止措置」という言葉です。何か高価なシステムを入れないといけないのか、と身構えてしまう方も多いのですが、実際には小さな会社でも取れる選択肢が用意されています。この記事では、改ざん防止措置として何を選べばよいか、訂正削除履歴とは具体的にどういう状態を指すのか、データを差し替えたいときにどう考えるかを、判断の順番に沿って整理します。
この記事の結論
- 電子取引データの改ざん防止措置は、タイムスタンプの付与、訂正削除の履歴が残る(または訂正削除ができない)システムでの授受・保存、事務処理規程の備付けと運用、といった方法から自社に合うものを選ぶ形が一般的です。
- 訂正削除履歴の確保とは、いつ・誰が・どのデータをどう直したかが後から追える状態のことで、会計ソフトやクラウドストレージの更新履歴、ファイル名での版管理、規程に沿った訂正記録簿などが具体例になります。
- システム投資をせずに始めるなら、国税庁が公開している事務処理規程のサンプルを自社用に整えて備え付け、ファイルを上書きせず記録を残す運用から始める方法が現実的です。
電子帳簿保存法の改ざん防止措置とは何を指すのか
電子帳簿保存法では、電子でやり取りした請求書・領収書・注文書などのデータを保存する際に、後から内容を書き換えられない仕組み、あるいは書き換えたことが分かる仕組みを求めています。これがいわゆる改ざん防止措置(真実性の確保)です。紙の領収書なら書き直せば筆跡や修正の跡が残りますが、PDFやデータは痕跡なく差し替えられてしまうため、その代わりの担保が必要だと考えられています。
改ざん防止措置と並んで、検索できる状態にしておくこと(可視性の確保)も求められます。この二つはセットで語られることが多いのですが、目的が違います。改ざん防止は「後から直していないと言えるか」、検索性は「税務調査などで求められたときに取り出せるか」です。まずはこの二つを分けて考えると、自社に足りないものが見えやすくなります。
なお、電子帳簿保存法には大きく「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の区分があり、求められる措置の内容は区分によって異なります。この記事は主に電子取引データ保存を中心に説明しますが、詳細な要件は国税庁が公開している一問一答やパンフレットで最新版をご確認ください。
改ざん防止措置は何から選ぶ?判断の順番
選択肢は大きく分けて、①送り手側でタイムスタンプが付されたデータを受け取る、②受け取った後に自社でタイムスタンプを付す、③訂正や削除の履歴が残る、または訂正削除ができないシステムで授受・保存する、④改ざん防止のための事務処理規程を定めて運用する、という形で整理されています。どれか一つを満たせばよい、という考え方が一般的です。
迷ったら、次の順に見てください。まず、すでに使っている会計ソフトや請求書サービスに、受領データを保存する機能と更新履歴の機能があるかを確認します。あるならそれを使うのが一番手間が少なく、③に近い運用になります。次に、取引先の多くがタイムスタンプ付きのデータを送ってくるなら①も選べますが、取引先任せになるため自社の運用としては安定しにくい面があります。
システムを新たに入れる予定がない、取引件数もそれほど多くない、という段階なら④の事務処理規程から始めるのが現実的です。国税庁のサイトに規程のサンプルが公開されており、会社名や運用の実態に合わせて整えて備え付ければ、費用をかけずに体制を整えられます。ただし規程は「作って終わり」ではなく、そのとおりに運用していることが前提になります。
訂正削除履歴の確保とは?具体例で見る
訂正削除履歴の確保とは、保存したデータを直したり消したりしたときに、いつ・誰が・どのファイルを・どう変えたかが後から追える状態にしておくことです。逆に、そもそも訂正も削除もできないシステムに保存する、という形でも同じ目的が果たせると考えられています。
具体例を挙げます。クラウド会計ソフトや文書管理サービスで、アップロードしたファイルの更新履歴・操作ログが自動で残るなら、それが履歴の確保にあたります。共有ストレージを使う場合は、バージョン履歴の機能をオンにしておく、あるいは上書き保存を禁止して「20260921_A商事_請求書_v1.pdf」「_v2.pdf」のように版を分けて残す運用も、履歴を残す方法の一つです。
事務処理規程を採用している場合は、訂正削除を行う際に申請・承認の記録を残し、訂正削除記録簿のような一覧に残す運用が典型です。エクセル一枚でも構いませんが、対象の取引年月日・取引先・金額・訂正した内容・理由・日付・担当者が分かるようにしておくと、後から説明しやすくなります。
なお、電子帳簿等保存のうち「優良な電子帳簿」に該当させたい場合は、訂正削除の履歴が残ることに加えて、より詳しい要件が定められています。優良な電子帳簿を目指すかどうかで求められる水準が変わるため、該当を検討する場合は税理士や国税庁の資料で要件を確認してください。
相互関連性とは?帳簿と証憑をどうつなぐか
相互関連性とは、帳簿の記録と、その根拠になった請求書などの書類・データが、相互に確認できる状態になっていることを指します。仕訳を見たときに、どの証憑にもとづく処理なのかがたどれ、逆に証憑を見たときに、どの仕訳になったのかが分かる、という関係です。
実務では、伝票番号や取引番号を共通のキーにするのが一般的です。会計ソフトの仕訳に証憑ファイルを添付できるなら、それだけで関連性が保てます。添付機能がない場合は、仕訳の摘要欄にファイル名や管理番号を入れ、保存フォルダ側のファイル名も同じ番号を含む形にそろえておくと、双方から追えるようになります。
ファイル名のルールは、最初に決めて社内で共有しておくことが大切です。「取引日_取引先名_書類種別_金額」のように順番を固定しておくと、検索要件(取引年月日・取引金額・取引先で検索できること)への対応にもつながります。担当者が一人しかいない会社ほど、後から自分が困らないようにルールを紙に残しておく価値があります。
データを差し替えたいときはどうする?
受領したPDFに誤りがあり、取引先から正しいものを送り直してもらった、というケースはよくあります。このとき、元のファイルを削除して新しいファイルで上書きしてしまうと、改ざん防止の観点で説明が難しくなることがあります。原則は、元のデータも残したうえで、新しいデータを別ファイルとして保存し、どちらが有効かが分かるようにしておく考え方です。
具体的には、元ファイルに「訂正前」「無効」といった識別を加える、または訂正削除記録簿に「〇月〇日、A商事の請求書を先方の再発行により差し替え。理由:金額誤記」と記録する、といった対応が挙げられます。システムのバージョン管理機能を使っているなら、新しい版をアップロードすれば履歴が自動で残ります。
自社が発行した請求書を訂正する場合は、取引先との合意や、消費税の処理(返品・値引き・訂正の扱い)にも関わってきます。金額や税率に関わる訂正は、記録の残し方だけでなく税務上の処理も変わることがありますので、判断に迷うときは税理士に確認するのが安全です。
ひとり社長・小さな会社が最初にやる3つのこと
一つ目は、電子でやり取りしている書類の棚卸しです。メール添付のPDF請求書、取引先のWeb明細、ネット通販の領収書、クレジットカードの利用明細など、どこから何が届いているかを一覧にします。これをやらないと、保存漏れの穴がどこにあるか分かりません。
二つ目は、保存場所とファイル名ルールを一つに決めることです。会計ソフトに添付するのか、クラウドストレージに年度別フォルダを作るのか、どちらかに寄せます。複数の場所に散らばっているのが、後から一番困るパターンです。
三つ目は、改ざん防止措置の選択です。使っているソフトに履歴機能があるならそれを使い、なければ国税庁のサンプルをもとに事務処理規程を整えて備え付けます。規程を採用したら、訂正削除記録簿のひな形も同時に用意し、実際に訂正が起きたときに書く場所を先に作っておくと運用が続きます。
なお、税務調査で何をどこまで求められるか、自社の書類が電子取引に当たるかどうかは、業種や取引の形によって判断が分かれることがあります。制度の要件は改正されることもありますので、最新の内容は国税庁の資料で確認しつつ、自社の運用が要件を満たしているかどうかは顧問税理士に一度見てもらうことをおすすめします。税理士がいない段階であれば、税務署の相談窓口や、地域の税理士会が案内している相談の仕組みを利用する方法もあります。
よくある質問
改ざん防止措置は、タイムスタンプがないと対応できませんか。
タイムスタンプは選択肢の一つで、それ以外に、訂正削除の履歴が残る(または訂正削除ができない)システムで保存する方法や、事務処理規程を定めて運用する方法も示されています。費用をかけずに始めるなら、国税庁が公開している規程のサンプルを自社用に整えて備え付ける方法が現実的です。詳細な要件は国税庁の資料でご確認ください。
訂正削除履歴は、エクセルの記録簿でも足りますか。
事務処理規程による対応を選んでいる場合、訂正や削除の内容を記録して残す運用が想定されており、記録の様式自体が細かく決まっているわけではありません。取引年月日・取引先・金額・訂正内容・理由・日付・担当者が分かる形であれば、エクセルの一覧でも運用できると考えられます。自社の記録の粒度で十分かは、税理士に確認すると安心です。
受け取ったPDFを、見やすいように加工して保存してもよいですか。
受領したデータそのものを保存するのが基本の考え方ですので、元データを残さずに加工版だけを保存するのは避けたほうがよいでしょう。どうしても注釈などを加えたい場合は、元ファイルをそのまま保存したうえで、加工版を別ファイルとして扱う方法が考えられます。
紙で届いた請求書も、この改ざん防止措置の対象ですか。
紙で受け取った書類は、そのまま紙で保存する方法と、スキャナ保存の要件を満たしてデータ化する方法があり、電子取引データ保存とは求められる要件が異なります。メールやWebで受け取ったものが電子取引データ保存の対象になりますので、まず受け取り方で分類するところから始めてください。