有限会社の本店移転登記|取締役決定書・議事録の準備と手順
いまも「有限会社」という商号で続いている会社は、会社法上は「特例有限会社」として、株式会社の一種として扱われます。そのため本店移転の手続きも、基本的な流れは株式会社と同じです。ただし、取締役会を置けない・特別決議の要件が違う・商号に「有限会社」が入るといった特例があるため、どの書類をどう作るかで迷いやすいところがあります。この記事では、まず定款を見るところから、取締役決定書と株主総会議事録の使い分け、法務局への申請までを順番に整理します。
この記事の結論
- 特例有限会社の本店移転は、移転先が定款に書かれた市区町村の中なら取締役の決定だけで進められ、市区町村をまたぐ場合は定款変更のための株主総会決議が必要になります。
- 登記の必要書類は、登記申請書・取締役の決定書(取締役が複数なら過半数の一致を証する書面)・定款変更をした場合の株主総会議事録と株主リスト・代理申請なら委任状が基本です。
- 本店移転の登記は移転日から原則として2週間以内に申請し、法務局の管轄が変わる場合は旧本店の管轄法務局に新旧2件分をまとめて提出します。
特例有限会社の本店移転は、株式会社と何が違うのか
2006年の会社法施行以降、それまでの有限会社は「特例有限会社」として、株式会社の規定が適用される会社に切り替わっています。登記簿の会社の種類も株式会社です。したがって本店移転の登記そのものは、株式会社の本店移転登記として扱われます。
違いが出るのは、意思決定の形です。特例有限会社は取締役会を置くことができないため、「取締役会議事録」は作成できません。取締役が複数いる場合は、その過半数の一致で決めた内容を書面(取締役の決定書、過半数の一致を証する書面)に残します。取締役が1人の会社なら、その1人の決定書になります。
もう一つは株主総会の決議要件です。特例有限会社の特別決議は、総株主の半数以上であって、その議決権の4分の3以上の賛成が必要とされています。株式会社の一般的な特別決議より重い要件なので、株主が複数いる会社では、誰が出席し何議決権が賛成したかを議事録に正確に書く必要があります。
最初に見るのは定款|本店の所在地はどこまで書いてあるか
手続きの分かれ道は、定款の「本店の所在地」の書き方ひとつで決まります。多くの会社は「当会社は、本店を◯◯市に置く」のように、市区町村(東京23区なら区)までを定めています。この場合、同じ市区町村内での移転なら定款の記載と矛盾しないので、定款変更は不要です。
一方、定款に番地まで書き込んでいる会社もあります。この書き方だと、同じ市区町村内で隣のビルに移るだけでも定款の記載と合わなくなるため、株主総会での定款変更が必要になります。古い有限会社では番地まで書いてある例も珍しくないので、思い込みで進めず、必ず手元の定款原本を開いて確認してください。
定款が見当たらない、という相談もよくあります。定款は法務局には備え置かれていないため、会社設立時に公証役場で認証を受けた原始定款の謄本を請求できないか、あるいは設立を依頼した事務所や当時の役員が控えを持っていないかを当たることになります。見つからない場合の扱いは会社の事情によって変わるので、司法書士に相談したほうが早いことが多いです。
ケース別|取締役決定書だけで足りるか、株主総会議事録も要るか
判断は次の順番で見ていきます。第一に、定款に番地まで書いてあるか。書いてあるなら、移転距離にかかわらず株主総会(特別決議)で定款変更を行い、あわせて具体的な移転先と移転日を取締役の決定で定めます。
第二に、定款が市区町村までの記載なら、移転先が同じ市区町村内かどうかを見ます。同じ市区町村内であれば、定款変更は不要で、取締役の決定(取締役が複数なら過半数の一致)だけで移転先の住所と移転日を決められます。用意する書類は取締役の決定書だけで足ります。
第三に、市区町村をまたぐ場合。この場合は定款の「◯◯市に置く」という部分を書き換える必要があるため、株主総会の特別決議で定款を変更し、そのうえで取締役の決定で番地レベルの所在場所と移転日を定める、という二段構えになります。株主総会議事録と取締役の決定書の両方を作成し、株主リストも添えることになります。
なお、市区町村をまたぐかどうかと、法務局の管轄が変わるかどうかは別の話です。同じ法務局の管轄でも市区町村が違うことはありますし、その逆もあります。定款変更の要否は市区町村、登記申請の出し方は管轄、と分けて考えると混乱しません。
必要書類と作成のポイント|決定書・議事録に何を書くか
登記で用意する基本的な書類は、登記申請書、取締役の決定書(取締役が複数の場合は過半数の一致を証する書面)、定款変更をしたときは株主総会議事録と株主リスト、司法書士などに依頼する場合は委任状です。管轄外へ移転する場合は、新しい管轄法務局に対する印鑑届書もあわせて提出するのが一般的です。会社の状況によって追加で求められる書面もあるため、申請前に管轄法務局の案内を確認してください。
取締役の決定書には、決定した日、移転後の本店所在場所(番地・建物名まで正確に)、移転日、決定に加わった取締役の氏名と記名押印を記載します。取締役が複数いる会社では「取締役の過半数の一致により次のとおり決定した」という趣旨を明記します。移転日は、実際に事務所を移す日と合わせておくと後の説明が楽です。
株主総会議事録には、開催日時と場所、出席した株主の数と議決権数、議案(定款第◯条を『本店を◯◯市に置く』に変更する件)、賛成の内容、議長と出席取締役の記名押印を書きます。特例有限会社の特別決議要件を満たしていることが議事録から読み取れるように、頭数と議決権数の両方を書いておくのがポイントです。株主リストは、議決権上位の株主について氏名・住所・議決権数などを記載し、代表者が証明する書面です。
住所の書き方は、住居表示と地番のどちらを使うかで後々トラブルになりがちです。移転先の正確な表記は、賃貸借契約書だけでなく市区町村の窓口や法務局で確認しておくと安心です。ビル名・部屋番号を登記するかどうかも、会社の方針として決めておきます。
登記申請の流れ|管轄が変わる場合の出し方と期限
流れは、(1)定款を確認する、(2)必要なら株主総会を開いて定款変更を決議する、(3)取締役の決定で移転先と移転日を定める、(4)実際に移転する、(5)移転日から原則2週間以内に法務局へ登記を申請する、という順番です。書類は移転日より前に整えておき、移転日が来たらすぐ申請できる状態にしておくとスムーズです。
法務局の管轄が変わらない場合は、これまでどおりの管轄法務局に1件申請すれば完了します。管轄が変わる場合は、旧本店の管轄法務局あてと新本店の管轄法務局あての2通の申請書を作り、旧本店の管轄法務局にまとめて提出します。旧管轄で処理されたあと新管轄へ送られる仕組みなので、完了までに日数がかかる点は見込んでおいてください。登録免許税の額や納付方法は法務局の案内で確認します。
申請は窓口・郵送のほか、オンライン申請にも対応しています。登記が完了したら、登記事項証明書を取得して、その後の各種届出に使います。処理状況や必要書類の細かい取扱いは法務局によって案内が異なることがあるため、迷ったら事前に管轄法務局へ電話で確認するのが確実です。
登記のあとに必要な届出と、組織変更を同時に考えるときの注意
登記が終わっても手続きは終わりではありません。税務署・都道府県税事務所・市区町村への異動届、年金事務所や労働基準監督署・ハローワークへの所在地変更の届出、銀行口座やクレジットカードの住所変更、取引先への通知、許認可を受けている場合は所管窓口への変更届など、やることが続きます。移転前に一覧を作り、期限の短いものから片付けていくと漏れが減ります。
「有限会社」の商号をこの機会に「株式会社」へ変える、いわゆる組織変更(整備法上の商号変更による株式会社への移行)を同時に検討する方もいます。この手続きは定款変更の決議に加え、有限会社の解散登記と株式会社の設立登記を同時に行う形になり、本店移転とは別の準備が必要です。取引先への周知や口座名義の変更なども重なるため、同時に進めるか、時期をずらすかは負担を見て判断してください。
本店移転と商号変更を一度にまとめると、届出先への連絡を一回で済ませられる利点があります。一方で、書類が増えて手戻りも起きやすくなります。どちらが向くかは、株主構成や許認可の有無、決算期との関係でも変わります。登記の具体的な進め方や書類の書き方は司法書士に、移転にともなう税務上の取扱いや届出については税理士に、従業員の労働条件や社会保険の手続きについては社会保険労務士に相談すると、抜けのない形で進められます。
よくある質問
有限会社の本店移転で、株主総会は必ず開く必要がありますか。
定款に本店所在地が市区町村までしか書かれておらず、同じ市区町村内で移転する場合は、取締役の決定だけで進められ、株主総会は不要とされるのが一般的です。定款に番地まで書いてある場合や市区町村をまたぐ場合は、定款変更のための株主総会決議が必要になります。まず定款の記載を確認してください。
取締役が1人しかいない場合、決定書はどう書けばよいですか。
取締役1人の会社では「取締役の決定書」として、決定日・移転後の本店所在場所・移転日を記載し、その取締役が記名押印する形が一般的です。取締役が複数いる会社では過半数の一致を証する書面として、決定に加わった全員の記名押印を揃えます。書式は管轄法務局の記載例も参考になります。
本店移転の登記はいつまでに申請すればよいですか。
本店移転の登記は、移転日から原則として2週間以内に申請することとされています。管轄が変わる場合は旧本店の管轄法務局に新旧2件分をまとめて提出するため、完了までに日数がかかります。期限や取扱いの詳細は管轄法務局に確認しておくと安心です。
本店移転と同時に株式会社へ商号変更できますか。
制度上は検討できますが、有限会社の解散登記と株式会社の設立登記を同時に行う手続きになり、本店移転とは別の書類と決議が必要です。手続きの負担や取引先への周知を考えると、時期を分ける判断もあります。進め方は司法書士にご相談ください。