赤字の法人も申告は必要か|欠損金の繰越と還付の扱い
「今期は赤字だったから、申告しなくてもいいのでは」。設立して間もない会社ほど、この疑問にぶつかります。結論から言えば、赤字でも法人の確定申告は必要です。むしろ赤字の年こそ、きちんと申告しておくことが翌期以降の税負担に効いてきます。この記事では、赤字決算のときの申告義務、欠損金の繰越と還付の考え方、青色と白色の違い、そして赤字でも発生する税金について、判断の順番に沿って整理します。
この記事の結論
- 赤字決算であっても法人税の確定申告義務はあり、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内に税務署へ申告書を提出します。
- 青色申告の承認を受けている法人は、赤字(欠損金)を一定期間繰り越して、将来の黒字と相殺できる扱いがあります。
- 赤字でも法人住民税の均等割は課されるのが一般的で、「税金がゼロだから申告不要」とはなりません。
赤字でも法人税の申告義務はあるのか
法人は、所得があるかどうかにかかわらず、各事業年度について確定申告書を提出することとされています。赤字で法人税額がゼロになる場合でも、「税額ゼロの申告書」を出す必要がある、という整理です。売上がまったく立たなかった、活動を休止していた、という場合も、法人が存続している限り申告の対象になります。
提出期限は、原則として事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。3月決算なら5月末、12月決算なら翌年2月末が目安になります。税務署に出す法人税・地方法人税の申告書のほかに、都道府県税事務所と市区町村にも法人住民税・事業税の申告が必要です(東京23区内は都税事務所にまとめて提出する扱いです)。
「利益が出ていないから来年まとめて出そう」と考えるのは避けたほうが安全です。後述のとおり、申告をしないまま放置すると、青色申告の承認に影響が出ることがあり、せっかくの赤字を将来に活かせなくなる可能性があります。
赤字=欠損金。繰越控除の基本的な考え方
税務上、赤字は「欠損金」と呼ばれます。青色申告の承認を受けている法人は、この欠損金を一定の期間にわたって繰り越し、翌期以降に生じた所得(黒字)と相殺できる制度があります。たとえば設立初年度に大きな赤字が出て、3期目から黒字になった会社が、過去の赤字を使って課税所得を圧縮する、という形です。
繰り越せる期間や、大法人か中小法人かによる控除限度の違いは、税制改正で見直されることがあります。自社がどの区分に当たるのか、何年分まで使えるのかは、国税庁の資料や顧問税理士に確認してください。ここでは「青色申告なら赤字を将来に持ち越せる可能性がある」という点を押さえておけば十分です。
重要なのは、繰越控除を受けるには、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も継続して申告書を提出していることが前提になる、という点です。赤字の年に申告を飛ばしてしまうと、この前提が崩れます。「赤字の年こそ申告する」のは、このためです。
法人税が還付されるのはどんなときか
赤字なのに税金が戻ってくるケースは、大きく2つに分かれます。ひとつは、預金利息などから源泉徴収された所得税がある場合です。これは法人税の前払いのような性格があり、確定申告で精算することで、税額から引ききれない分が還付されることがあります。金額は小さいことが多いものの、申告しなければ戻ってきません。
もうひとつが、欠損金の繰戻しによる還付です。前期が黒字で法人税を納めていて、当期に赤字が出た場合に、その赤字を前期に繰り戻して、すでに納めた法人税の一部の還付を請求できる制度があります。適用できる法人の範囲や手続きには条件があり、青色申告であることなどが求められます。
繰越と繰戻し、どちらを選ぶかで迷ったら、次の順で考えます。まず前期に法人税を納めているかを確認し、納めていなければ繰戻しの余地はないため繰越一択です。納めている場合は、翌期以降に十分な黒字が見込めるなら繰越、資金繰りを優先して今すぐ現金がほしいなら繰戻しの検討、という整理になります。どちらが有利かは将来の業績見込みによるため、税理士に試算してもらうのが現実的です。
白色申告のままだとどうなるか
法人にも青色申告と白色申告の区別があります。青色申告は、所定の帳簿を備え付けて記帳し、承認申請を出して認められた法人が使える制度です。承認を受けていない法人は、いわゆる白色申告の扱いになります。白色でも申告義務があることに変わりはありませんが、欠損金の繰越控除や繰戻し還付といった、赤字を活かす仕組みが使えないのが大きな違いです。
青色申告の承認申請書は、原則として適用を受けようとする事業年度開始の日の前日まで、設立初年度であれば設立後一定期間内に税務署へ提出します。期限を過ぎるとその事業年度は青色になりません。設立直後は赤字になりやすいため、設立時の届出とあわせて早めに出しておくのが安全です。
すでに白色で何期か過ごしてしまった場合も、これから青色の承認を受けることは検討できます。ただし過去の赤字が遡って繰り越せるわけではないため、切り替えの時期については税理士に相談してください。また、申告書を期限内に提出しない状態が続くと、青色申告の承認が取り消されることがある点にも注意が必要です。
赤字でも発生する税金・忘れやすい手続き
赤字で法人税がゼロでも、法人住民税の均等割は資本金や従業員数などに応じて課されるのが一般的です。金額は自治体によって異なるため、所在地の都道府県・市区町村の公式サイトで確認してください。「赤字なら支払いゼロ」と思い込んで資金を用意していないと、納期限に慌てることになります。
消費税は法人税とは別の税目です。課税事業者であれば、赤字かどうかにかかわらず消費税の申告が必要になります。設備投資が大きかった年などは、消費税が還付される場合もありますが、これは選択している課税方式や事業者区分によって扱いが変わります。インボイス制度に関連して課税事業者になった会社は、自社の状況を一度整理しておきましょう。
源泉所得税の納付、年末調整、給与支払報告書の提出といった労務まわりの手続きも、業績とは関係なく発生します。役員報酬しか出していないひとり社長の会社でも同じです。決算とあわせて、年間の提出物をカレンダーにしておくと抜けが減ります。
申告しないまま放置するとどうなるか
期限内に申告書を提出しないと、無申告加算税や延滞税といった負担が生じることがあります。さらに、申告書を連続して提出しない状態が続くと、青色申告の承認が取り消される扱いになり得ます。取り消されれば、それまで積み上げた欠損金を将来の黒字と相殺できなくなる可能性があります。
実務上の影響も無視できません。金融機関との取引や補助金の申請、取引先の与信審査では、直近の決算書や申告書の控えを求められる場面があります。「赤字だから」ではなく「申告していないから」書類が出せない、という状況は避けたいところです。
期限に間に合いそうにないと分かった時点で、早めに動くのが得策です。会計データが揃っていない、前期から手つかずになっている、という場合でも、現状を正直に伝えて相談できる先を確保しておきましょう。
まずこの順に確認する(実務の進め方)
赤字決算が見えてきたら、次の順で確認します。第一に、自社が青色申告の承認を受けているかどうか。第二に、前期に法人税を納めているかどうか。第三に、翌期以降に黒字化の見込みがあるかどうか。この3点で、繰越を使うのか、繰戻し還付を検討するのかの方向性がおおむね決まります。
そのうえで、決算日から2か月以内に申告できるよう、証憑と帳簿を整理します。通帳、請求書、領収書、契約書、在庫や固定資産の情報を揃え、会計ソフトに入力したうえで残高を確認する、という流れです。電子帳簿保存法に関連する電子取引データの保存も、あわせて確認しておくとよいでしょう。要件の詳細は国税庁の資料をご確認ください。
赤字の年の申告は、単に「税額ゼロの紙を出す」作業ではなく、将来の税負担を左右する手続きです。欠損金の繰越や繰戻し還付の適用可否、青色申告の承認状況、消費税の取り扱いは、会社ごとの事情で判断が変わります。自社の数字を見てもらったうえで進めたい場合は、税理士にご相談ください。登記事項に変更がある場合は司法書士、従業員の社会保険や労働保険に関する手続きは社会保険労務士が窓口になります。
よくある質問
売上がゼロで活動していない法人も申告が必要ですか。
法人が存続している限り、原則として確定申告書の提出が必要です。活動実態がない休眠状態でも、法人住民税の均等割の取り扱いを含めて自治体への届出が関係してくることがあります。休眠の手続きや均等割の減免の可否は、所在地の自治体と税理士にご確認ください。
赤字なら税金はまったくかからないのですか。
法人税は所得がなければ生じませんが、法人住民税の均等割は赤字でも課されるのが一般的です。また、課税事業者であれば消費税の申告・納付も業績とは別に発生します。赤字でも一定の資金が必要になる前提で、納期限を確認しておきましょう。
欠損金の繰戻し還付と繰越控除は、どちらを選ぶべきですか。
前期に法人税を納めていなければ繰戻しは使えないため、繰越控除が前提になります。納めている場合は、今すぐ現金化したいか、翌期以降の黒字で使ったほうが効果が大きいかで判断が分かれます。適用条件や有利不利の試算は税理士に相談するのが確実です。
設立初年度に青色申告の申請を忘れました。今からでも間に合いますか。
その事業年度について遡って青色にすることは難しいとされています。ただし、次の事業年度からの承認申請は検討できます。初年度の赤字を繰り越せるかどうかに関わるため、早めに税理士へ相談してください。