役員報酬を決めるときの議事録の書き方|変更・賞与の決議と残し方
役員報酬は、社長が「今月からこの金額にしよう」と決めただけでは、会社として決めたことになりません。株主総会や取締役会で決議し、その内容を議事録として残して初めて、税務調査や金融機関、将来の株主に対して「いつ・誰が・いくらで決めたか」を説明できる状態になります。この記事では、役員報酬の決定・変更、役員賞与、そして病気で報酬を止めるときの議事録について、誰が決めるのか・何を書くのか・いつまでに残すのかを順に整理します。
この記事の結論
- 役員報酬は株主総会で総額(枠)を決議し、各役員への配分を取締役会または取締役の決定で定めるのが基本で、その両方を議事録として残します。
- 役員報酬の改定は、原則として事業年度開始の日から一定期間内に行った定期同額給与であることが求められるため、決議日を明記した議事録を決議の都度その場で作成しておくことが大切です。
- 役員賞与は事前に支給時期と金額を確定させ、届出を前提とする取扱いがあるため、議事録には「誰に・いつ・いくら」を一義的に読み取れる形で記載します。
役員報酬の議事録は誰が作る?株主総会と取締役会の役割分担
役員報酬は、定款に定めがない場合、株主総会の決議で定めるのが会社法上の基本的な考え方です。実務では、株主総会で「取締役全員の報酬総額の上限」を決議し、その枠の中で各取締役にいくら払うかを取締役会(取締役会を置かない会社では取締役の過半数の決定、取締役が一人なら社長自身の決定)で定める、という二段構えが一般的です。
つまり、残すべき議事録は原則として二種類あります。ひとつは総額枠を決めた株主総会議事録、もうひとつは個別配分を決めた取締役会議事録(または決定書)です。株主総会で一人ひとりの金額まで決議した場合は、株主総会議事録だけで足りることもあります。
ひとり社長の会社でも、この考え方は変わりません。株主も取締役も自分一人であっても、「株主総会を開いて決議した」「取締役として配分を決定した」という形式を整え、書面に残しておきます。会議の実体がないから作らなくてよい、という整理にはならない点に注意してください。
役員報酬を決める議事録に書くべき項目
株主総会議事録に共通して必要になるのは、開催日時、開催場所(書面決議やオンラインの場合はその旨)、出席した株主の議決権数や出席役員、議長の氏名、議事の経過の要領とその結果、議事録作成者の氏名です。ここに、報酬に関する決議内容を具体的に書き加えていきます。
報酬部分の書き方は、たとえば「取締役の報酬総額を年額◯◯円以内とすることを決議した」「各取締役への配分は取締役会(取締役の決定)に一任する」といった形にします。金額は、実際に決めた数字をそのまま入れてください。記事では例示できませんが、上限額・支給方法(毎月同額を支給する等)・支給開始月の三点が読み取れることが重要です。
取締役会議事録側では、「取締役◯◯の報酬を月額◯◯円とする」「◯年◯月支給分から適用する」というように、対象者・金額・適用開始時期を書きます。役員が複数いる場合は一覧の形にすると、あとから見返したときに誤解が生じにくくなります。
役員報酬を変更するときの議事録|タイミングと決議日の考え方
役員報酬の変更で最も注意したいのが、いつ決議したかです。法人税の取扱いでは、毎月同額を支給する定期同額給与について、原則として事業年度開始の日から一定期間内に行われた改定であることが前提とされています。この期間を過ぎた増額・減額は、増減部分が損金として扱われないことがあります。
そのため、変更の議事録には決議日を明確に書き、あわせて「◯年◯月支給分から改定後の金額を支給する」と適用開始時期を記載します。決議日と適用開始月がずれている場合、あとから「いつの決議だったのか」が争点になりやすいため、両方を書き分けておくと安心です。
業績が著しく悪化して減額する場合や、役職が変わって改定する場合など、期の途中の変更が認められる場面もありますが、要件の判断は個別事情によります。議事録には「◯◯という事情により」と理由を具体的に残し、扱いについては国税庁の資料を確認したうえで、税理士に相談しながら進めてください。
作成のタイミングは「決議の直後」が原則です。決算のときにまとめて作ろうとすると、日付の整合が取れなくなったり、押印や保管が後回しになったりします。定時株主総会の日にその場で作り、その日のうちにファイルする運用にしておくのが現実的です。
役員賞与(事前確定届出給与)の議事録の書き方
役員に賞与を出す場合、毎月の定期同額給与とは別の枠組みになります。あらかじめ支給時期と支給額を定め、所定の届出を前提として損金算入の可否が判断される取扱い(事前確定届出給与)があるため、決議の内容と届出の内容が食い違わないことが何より重要です。
議事録には、支給対象となる役員の氏名、支給する金額、支給する日付を、一義的に読み取れる形で書きます。「業績に応じて」「◯◯円程度」といった幅のある書き方は避け、確定した数字と日付を記載してください。複数回に分けて支給する場合は、回ごとに日付と金額を並べます。
決議のタイミングは、支給日よりも十分前である必要があります。届出には期限があり、決議日を起点に計算される部分もあるため、定時株主総会で翌期の賞与をまとめて決議しておく会社が多い印象です。実際の期限や届出書の様式は国税庁の案内を確認し、提出前に税理士にチェックしてもらうことをおすすめします。
なお、決議したとおりに支給しなかった場合(金額が違う、支給日がずれた、そもそも払わなかった)には、取扱いが変わることがあります。資金繰りに不安があるなら、無理のない金額で決議しておくほうが安全です。
傷病手当金を申請する役員の議事録|報酬を止めた事実をどう残すか
役員が病気やけがで働けなくなり、健康保険の傷病手当金を申請する場面があります。傷病手当金は、労務に服することができず、その期間について報酬を受けていないことなどが支給の前提とされています。役員報酬は欠勤しても自動的に止まるものではないため、「報酬を支給しない(または減額する)」という会社の決議が必要になります。
このときの議事録には、休業の開始日(または報酬を止める期間)、対象となる役員の氏名、その期間の報酬をどう扱うか(無支給とするのか、一部減額とするのか)、そして理由として「疾病により職務執行が困難なため」といった事情を書きます。決議日は、できるだけ休業開始の前後の早い時期にしてください。
健康保険の保険者から、報酬を支給していないことの確認として議事録の提出を求められることがあります。あとから作った書面では説明がつきにくいため、休業が決まった段階で速やかに決議し、書面化しておくことが実務上の備えになります。
また、休業に伴う減額が定期同額給与の取扱いにどう影響するかは、事情によって判断が分かれます。復帰後に元の金額へ戻すときの決議も含めて、社会保険労務士と税理士の双方に確認しながら進めるとよいでしょう。
作った議事録はどう保管する?押印・電子化・保存期間の考え方
株主総会議事録は本店に、取締役会議事録も本店に備え置くこととされています。保存期間は会社法で定められており、取締役会議事録については出席取締役等の署名または記名押印が求められます。株主総会議事録は押印が法律上の要件とされていない場面もありますが、実務では議長と出席役員が押印しておくほうが、対外的な説明がしやすくなります。
登記が必要な事項(役員変更など)とは異なり、役員報酬の議事録は提出先が決まっているわけではありません。それでも、税務調査、金融機関への融資申込、株式の譲渡や事業承継の場面で「見せてください」と言われる書類です。決議日順にファイルし、どの期のものかすぐ取り出せる状態にしておいてください。
電子データで作る場合は、電子署名やタイムスタンプなど、作成時点を示す仕組みをどう担保するかを決めておきます。電子帳簿保存法の対象となる書類の範囲や保存要件は制度の内容が細かいため、国税庁の資料を確認し、自社の運用が要件を満たすか税理士に見てもらうと安心です。
最後に、議事録は「あとで整える書類」ではなく「決めたその日に残す書類」です。テンプレートを一度つくって共有ドライブに置き、毎年の定時株主総会でそれを開くところから始める——この運用が定着すると、あとの手間が大きく減ります。役員報酬の金額設計や賞与の届出、休業中の社会保険の取扱いは判断が分かれやすい領域ですので、決議の前に税理士・社会保険労務士に、会社法上の手続に不安があれば司法書士や弁護士にご相談ください。
よくある質問
ひとり社長でも役員報酬の議事録は必要ですか。
株主も取締役も自分一人であっても、会社としての意思決定である以上、決議と書面化はしておくべきものです。株主総会議事録(必要に応じて取締役の決定書)を作り、決議日と金額、適用開始月を残しておいてください。税務調査や融資の場面で説明の根拠になります。
役員報酬を期の途中で変更した場合、議事録があれば損金に算入できますか。
議事録があることと、税務上損金として扱われるかどうかは別の問題です。定期同額給与には改定時期の原則があり、期中の改定は業績の著しい悪化や役職変更など限られた事情でのみ認められる場合があります。判断は個別事情によりますので、変更前に税理士にご確認ください。
役員賞与の議事録は、支給日より後に作っても大丈夫ですか。
事前確定届出給与の枠組みでは、支給前に時期と金額を確定させ、届出を行うことが前提とされています。支給後に作った書面では要件を満たさないと判断されることがあります。決議は支給日より十分前に行い、届出期限は国税庁の案内で確認してください。
傷病手当金の申請で、議事録のほかに必要になるものはありますか。
一般には申請書に医師の証明や事業主の証明が必要になり、報酬を支給していない期間を示す資料として議事録や賃金台帳の提出を求められることがあります。必要書類は加入している健康保険の保険者によって案内が異なるため、申請前に保険者または社会保険労務士に確認すると確実です。