就業規則の定年・再雇用の規定|定年なしとする場合の記載例
定年と再雇用は、就業規則のなかでも「後から直すのが一番やっかいな条文」のひとつです。人数が少ないうちは話し合いで決められても、社員が増えて年齢構成が広がると、書き方のあいまいさがそのままトラブルの火種になります。この記事では、定年を定める場合・定めない場合それぞれの考え方と記載例、継続雇用(再雇用)の条文の組み立て方、正社員転換や有期から無期への転換ルールとの関係を、順を追って整理します。
この記事の結論
- 就業規則に定年を定める場合は、年齢・退職日の起算(誕生日か年度末か)・継続雇用の有無の3点をセットで書くと運用がぶれにくくなります。
- 定年を定めないこと自体は可能で、その場合は「定年は定めない」と明記したうえで、退職・解雇・休職などの終了事由を別条文で整えておく形が一般的です。
- 高年齢者の雇用確保措置や有期契約から無期契約への転換ルールは法令に基づく仕組みのため、要件の詳細は厚生労働省の資料を確認し、判断に迷う点は社会保険労務士にご相談ください。
就業規則の定年規定は、まず「3点セット」で考える
定年の条文は、たった数行でも決めるべきことが複数あります。最低限そろえたいのは、①定年年齢、②定年に達したときの退職日の決め方、③その後の継続雇用(再雇用)を行うかどうか、の3点です。このうちどれか1つでも抜けていると、実際に対象者が出たときに「いつまで在籍なのか」「再雇用の申出はどう受けるのか」でもめやすくなります。
②の退職日は、誕生日当日とするか、誕生日の属する月の末日とするか、事業年度末とするかで運用が変わります。給与計算や社会保険の資格喪失日の処理を考えると、月末や年度末でそろえるほうが事務は簡単になることが多い一方、本人にとっては在籍期間が伸びるため人件費への影響もあります。どちらが自社に合うかは、従業員数と給与計算の体制を見て決めてください。
③については、高年齢者の雇用に関する法令で、一定年齢までの雇用確保措置を講じることが事業主に求められています。定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止といった選択肢があり、どれを選ぶかによって就業規則の書き方が変わります。年齢や措置の内容は法改正で変わることがあるため、条文を作る前に厚生労働省の最新資料で確認するのが安全です。
定年を定める場合の記載例と、継続雇用(再雇用)の書き方
定年を置く場合の基本形は、「従業員の定年は満◯歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。」という一文です。そのうえで、継続雇用を行うなら「前項にかかわらず、定年に達した従業員が引き続き就業を希望する場合は、別に定める継続雇用に関する規程により再雇用する。」のように、別規程へつなぐ書き方にしておくと、条件を見直すたびに就業規則本体を作り直さずに済みます。
再雇用の条文でつまずきやすいのは、労働条件が変わる点をどう書くかです。再雇用は、いったん定年で雇用契約が終了し、新たに有期の契約を結び直す形をとることが多く、その場合は職務内容・勤務日数・賃金が従前と変わることがあります。変わり得ることを規程に明記し、個別の契約書で具体的な条件を示す二段構えにすると、説明がしやすくなります。
再雇用後の契約更新の上限をどう扱うかも先に決めておきたいところです。更新の有無と判断基準(健康状態、業務量、勤務成績など)を規程に書き、更新のたびに書面で合意する運用にします。希望者の扱いをどこまで限定できるかは法令の解釈にかかわるため、選別の基準を設けたい場合は社会保険労務士に確認してから条文化してください。
「定年なし」とする場合の記載例と、あわせて整えるべき条文
定年を定めないという選択もできます。ひとり社長の会社や、専門職中心で年齢と職務が結びつかない会社では、あえて定年を置かない設計が合うこともあります。記載例としては、「会社は、従業員の定年を定めない。」または「従業員の定年は定めないものとし、退職および解雇については第◯条から第◯条の定めによる。」といった書き方が考えられます。
定年なしにする場合、雇用関係を終了させる場面の条文が実質的な受け皿になります。具体的には、自己都合退職の申出(申出の時期と手続)、休職と休職期間満了による退職、普通解雇の事由、業務に必要な健康状態を確認する手続などです。これらが薄いまま定年だけを外すと、就労継続が難しくなった場面で打つ手が限られます。
もう一点、定年を廃止すると、退職金制度や役職の任期、健康診断の運用など周辺の仕組みにも影響します。退職金規程に「定年退職の場合」という区分がある場合は、その扱いをどう書き換えるかまでセットで検討してください。年齢を理由に一律の扱いをする規定を残すと、趣旨と食い違うことがあります。
正社員転換・有期雇用から無期雇用への転換は、定年規定と必ずつなげる
パートやアルバイト、契約社員がいる会社では、就業規則に正社員転換の仕組みを書くことがあります。転換の条件(勤続期間、勤務成績、本人の申出、面談や試験の有無)と、転換後に適用される規則がどれかを明記するのが基本です。転換後は正社員用の就業規則が適用され、定年の条文もそちらが効く、という関係を分かるようにしておきます。
これとは別に、有期労働契約が反復更新されて一定期間を超えた場合に、労働者の申込みによって無期労働契約に転換される仕組みが法令で定められています。いわゆる無期転換のルールで、転換後は期間の定めがなくなるだけで、賃金などの条件は別段の定めがなければ従前のまま引き継がれる、という考え方が一般的です。対象となる期間や適用の例外については、厚生労働省の資料でご確認ください。
実務でとくに抜けやすいのが、無期転換した人の定年です。就業規則の定年条文が「正社員の定年は満◯歳」としか書かれていないと、無期転換した元契約社員に定年が適用されるのかが不明確になります。無期転換者用の区分を設けて定年と労働条件を書くか、全従業員に共通で適用される旨を明記するか、どちらかの形で穴をふさいでおきたいところです。
迷ったときの判断の順番と、就業規則を変更する手順
どう書くか迷ったら、次の順に考えると整理しやすくなります。まず、法令上求められる高年齢者の雇用確保措置を、定年の引上げ・継続雇用制度・定年の定めの廃止のどれで満たすかを決めます。次に、その選択に合わせて定年条文と再雇用規程を書き分けます。最後に、有期契約者の正社員転換・無期転換のルートを書き、それぞれの区分で定年がどう適用されるかを確認します。
判断の目安としては、業務内容が体力や資格更新に左右されにくく、少人数で個別に条件を決めているなら「定年なし」も選択肢になります。一方、人数が増えていて人員計画や退職金制度を持つ会社、職務によって年齢の影響が出やすい会社では、定年を置いて継続雇用でつなぐ設計のほうが運用しやすい傾向があります。
変更の手順は、①改定案を作る、②従業員の過半数代表者(労働組合がある場合は組合)から意見を聴き、意見書を作成する、③改定後の就業規則と意見書を所轄の労働基準監督署へ届け出る、④全従業員に周知する、の流れです。常時使用する労働者が一定人数以上の事業場では届出が求められます。定年の廃止や引下げは労働条件の変更にあたる場面があるため、不利益変更に該当しないかを事前に確認してください。
専門家に相談したほうがよい場面
定年と継続雇用の条文は、法令に基づく要件と、自社の運用の都合が交差する部分です。とくに、継続雇用の対象者に基準を設けたい場合、定年を廃止または引き下げたい場合、無期転換者の労働条件を別に定めたい場合は、書き方次第で後から争いになることがあります。
こうした場面では、就業規則の作成・変更や労務管理を扱う社会保険労務士に、自社の雇用区分と人員構成を示して相談するのが確実です。退職金や賃金の設計が絡むときは税理士にも、契約終了をめぐる個別の争いが見込まれるときは弁護士にも、あわせて確認しておくと判断がぶれにくくなります。
よくある質問
就業規則に定年を書かないと問題になりますか。
定年を定めないという選択自体は可能ですが、その場合も「定年は定めない」と明記し、退職・解雇・休職期間満了などの条文を整えておく形が一般的です。あわせて、高年齢者の雇用確保措置との関係を厚生労働省の資料で確認し、自社の運用に合うか社会保険労務士に見てもらうと安心です。
再雇用のときに労働条件を変えてもよいのでしょうか。
定年後にあらためて契約を結び直す形をとる場合、職務内容や勤務日数に応じて条件が変わることはあります。ただし変更の幅や説明の仕方によっては争いになることがあるため、変わり得る旨を規程に書き、個別の契約書で条件を明示し、判断に迷う点は社会保険労務士にご確認ください。
無期転換した従業員に、正社員と同じ定年を適用できますか。
就業規則で適用範囲を明確にしていれば、区分に応じた定年を定めること自体は行われています。ただし、条文が正社員だけを想定した書き方だと適用関係があいまいになるため、無期転換者を含む区分の整理と定年条文の見直しをセットで行うことをおすすめします。
就業規則を変更したら、どこに届け出ますか。
改定した就業規則に、従業員の過半数代表者の意見書を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。届出が求められる事業場の範囲や様式は労働基準監督署や厚生労働省の案内で確認し、変更後は全従業員への周知まで済ませてください。