入社時の誓約書・身元保証書|必要性と書き方、極度額の決め方
はじめての採用で「雇用契約書だけでいいのか、誓約書や身元保証書も取るべきか」と迷う方は多いです。この3つは役割がまったく違い、法律上の位置づけも別々です。この記事では、それぞれの違いと、実際に書くときの項目、そして身元保証書で見落とされがちな「極度額」の考え方を、入社日までの段取りに沿って整理します。
この記事の結論
- 雇用契約書(労働条件通知書)は労働条件を示すための書類、誓約書は入社者が守る事項を本人が約束する書類、身元保証書は第三者が本人の損害賠償責任を保証する書類で、それぞれ目的が異なります。
- 誓約書は秘密保持・競業避止・会社備品や情報の取り扱い・反社会的勢力との関係がないことなどを本人名義で確認するもので、入社日当日までに受領して人事ファイルで保管するのが実務的です。
- 2020年4月以降に結ぶ個人の根保証契約には極度額(上限額)の定めが求められ、身元保証書に極度額の記載がないと保証としての効力が認められないことがあるため、書式の見直しが必要です。
雇用契約書・誓約書・身元保証書は何が違うのか
この3つは似た時期にまとめて取り交わすため混同されがちですが、役割は別です。雇用契約書(または労働条件通知書)は、賃金・就業場所・業務内容・労働時間・契約期間などの労働条件を会社が明示するためのもので、労働基準法上、一定の事項については書面などで明示することが求められています。つまり「出さない」という選択肢は基本的にありません。
一方、誓約書は入社する本人が「会社のルールを守ります」「知り得た情報を外に出しません」と約束する、本人名義の書類です。法律で作成が義務づけられているものではありませんが、秘密保持や情報管理の意識づけという点で、実務上は多くの会社が取り交わしています。
身元保証書は、本人ではなく親族などの第三者が、本人が会社に損害を与えた場合の賠償を保証する契約です。これは本人と会社の契約ではなく、保証人と会社の契約なので、書式も署名者も別立てで考える必要があります。取るかどうかは会社の判断ですが、取るなら後述する極度額の扱いが要点になります。
どれを取るべきか迷ったら、この順で判断する
まず優先すべきは雇用契約書(労働条件通知書)です。これは義務にあたる部分があるため、他の書類の準備が間に合わなくても、入社日までに用意します。書式は厚生労働省が公開しているモデル様式を土台にすると、必要な明示事項の抜けを防ぎやすくなります。
次に誓約書です。顧客情報・技術情報・個人情報などを扱う職種であれば、職種を問わず取っておくと、後々の「聞いていない」を減らせます。取り扱う情報が限定的なアルバイトであっても、備品やSNS投稿に関する最低限の項目だけを入れた簡易版を用意しておく方法があります。
身元保証書は、扱う金銭や情報の大きさで判断するのが分かりやすい基準です。現金・預金・重要な顧客データに日常的に触れる職種なら検討の価値がありますが、そうでない職種で一律に求めると、応募者や家族の負担になり採用の障壁になることもあります。取る・取らないを職種ごとにあらかじめ決めておくと、運用がぶれません。
誓約書に入れる項目と、書き方の注意点
誓約書によく入るのは、就業規則その他の社内ルールを守ること、業務上知った情報を退職後も含めて第三者に開示しないこと、会社の情報や備品を私的に使わないこと、SNSなどで業務上の情報を発信しないこと、反社会的勢力と関係がないこと、提出書類の内容に偽りがないことなどです。自社に該当しない項目を無理に並べるより、実際に守ってほしいことを具体的に書いたほうが機能します。
気をつけたいのは、競業避止や損害賠償に関する条項です。退職後の競業を広く一律に禁じる内容や、損害が出たら一定額を払うとあらかじめ決めておく内容は、範囲や書き方によって効力が認められないことがあります。とくに「損害額にかかわらず一律いくら」という定め方は、労働基準法が禁じる賠償予定と評価されることがあるため、文言は慎重に検討してください。
形式面では、宛名(代表者名)、日付、本人の署名または記名押印、住所を入れるのが一般的です。入社手続き案内と一緒に事前送付し、入社日当日に回収する流れにすると、初日の事務が詰まりにくくなります。電子で取り交わす場合も、誰がいつ同意したかの記録が残る方法を選んでおくと安心です。
身元保証書の「極度額」をどう決めるか
身元保証書は、保証人が将来発生するかもしれない不特定の債務を保証する「根保証」にあたります。民法の改正により、2020年4月1日以降に締結される個人の根保証契約は、極度額(保証人が負う上限額)を定めなければ効力が生じないとされています。改正前の書式をそのまま使い回していて極度額欄がない場合、その保証は効力が認められないおそれがあるため、書式の確認が必要です。
極度額は「いくらが正解」という決まった水準があるわけではありません。実務では、その職種で現実に起こりうる損害の規模、本人が扱う金銭や情報の範囲、保証人にとって過大な負担にならないか、という3点から検討されます。金額が高すぎると保証人が署名を渋る、あるいは公序良俗との関係で争いになる可能性もあるため、根拠を説明できる水準にとどめるのが無難です。判断に迷う場合は、弁護士や社会保険労務士に自社の職種に即して相談してください。
期間の扱いにも独自のルールがあります。身元保証に関する法律では、期間を定めない場合と定める場合とで有効期間の考え方が異なり、自動更新はできないとされています。長く働いてもらう前提なら、更新のタイミングを人事カレンダーに入れておくか、そもそも更新を求めない運用にするかを最初に決めておきましょう。詳細な要件は法務省など所管官庁の資料で確認することをおすすめします。
「身元保証人」と「連帯保証人」は同じもの?
求人や入社書類の場面で「連帯保証人を立ててください」という表現を見かけることがありますが、雇用の場面で立てる保証人は、一般に身元保証人を指していることがほとんどです。賃貸借契約の連帯保証人とは、保証する対象も根拠となる法律も異なります。書面のタイトルと中身がずれていると、後で解釈をめぐって揉める原因になります。
もし自社の書式が「連帯保証人」という言葉になっているなら、何を保証してもらう契約なのかを確認したうえで、身元保証としての内容に整えるのが分かりやすい対応です。いずれにしても個人が保証人になる根保証であれば、極度額の定めが必要になる点は共通します。
また、保証人には契約内容を理解してもらう必要があります。保証人本人に届く形で書面を送り、署名・押印してもらう、続柄と連絡先を記載してもらう、といった手順を決めておくと、後から「知らなかった」と言われるリスクを減らせます。
入社日までの段取りと、書類の保管
流れとしては、内定通知を出した時点で提出書類の一覧を案内し、入社日の1〜2週間前までに雇用契約書・誓約書・身元保証書の書式を送ります。保証人の署名が必要な身元保証書は、家族とのやりとりに時間がかかるため、最も早く渡すのがコツです。入社日当日は、本人確認と署名済み書類の回収、マイナンバーなど社会保険手続きに必要な情報の受け取りにとどめると、初日が回ります。
保管については、雇用契約書や誓約書は労働者名簿・賃金台帳などと同様に、人ごとのファイルにまとめておくと、監督署の調査や助成金申請の際に探しやすくなります。紙と電子が混在すると所在不明になりやすいので、どちらかに寄せる方針を決めておきましょう。電子で保存する場合の要件は、対象となる書類の種類によって考え方が異なるため、所管官庁の資料をあわせて確認してください。
退職時の扱いも決めておくと親切です。誓約書の秘密保持は退職後も効力が及ぶ書き方にしていることが多いため、退職時にあらためて秘密保持の確認書を取る会社もあります。身元保証は、退職により対象となる雇用関係が終われば役割を終えると考えられますが、進行中の損害賠償がある場合など個別の事情があれば、弁護士に確認してください。
迷ったら専門家に相談を
誓約書や身元保証書は、テンプレートを入れ替えるだけなら短時間で終わりますが、条項の効力が問題になるのは、実際にトラブルが起きた後です。競業避止・損害賠償・極度額といった論点は、書き方ひとつで結論が変わることがあります。
書式の整備や就業規則との整合は社会保険労務士、条項の効力や損害賠償の設計は弁護士が相談先として考えられます。従業員数が増えるタイミングや、扱う情報の重要度が上がったタイミングで、一度見直しをかけておくと安心です。自社の状況に合わせた判断は、社会保険労務士・弁護士にご確認ください。
よくある質問
雇用契約書があれば誓約書は不要ですか?
法律上、誓約書の作成が一律に義務づけられているわけではないため、雇用契約書だけで運用している会社もあります。ただし、秘密保持や情報の取り扱いを本人に明確に約束してもらう目的では、誓約書を別に取るほうが意図が伝わりやすいです。就業規則に同趣旨の規定がある場合は、内容が矛盾しないように整えておきましょう。
身元保証書に極度額を書いていないと、どうなりますか?
2020年4月1日以降に結ばれた個人の根保証契約は、極度額の定めがないと効力が生じないとされています。古い書式のまま極度額欄がない身元保証書は、保証として機能しないおそれがあります。既存の書式を使い続けている場合は、早めに書式を見直し、必要に応じて弁護士に確認してください。
身元保証人を用意できない応募者には、どう対応すればよいですか?
身元保証書は会社の判断で求めるものなので、用意できないことを理由に一律で不採用とする運用は、トラブルのもとになることがあります。職種ごとに必要性を整理し、代替として誓約書の内容を充実させる、担当する業務の範囲を調整するといった対応が考えられます。方針は採用開始前に決めておくと、現場が迷いません。
誓約書や身元保証書は電子で取り交わしてもよいですか?
電子での取り交わし自体は広く行われていますが、誰がいつ同意したかの記録が残る方法を選ぶことが大切です。保証人が関わる書面は、本人ではなく保証人自身が内容を確認できる形で送ることを意識してください。保存方法の要件は書類の種類によって異なるため、所管官庁の資料や税理士・社会保険労務士に確認することをおすすめします。