雇用契約書の賃金・休日の記載例|みなし残業や年間休日の書き方
はじめて人を雇うとき、いちばん手が止まるのが雇用契約書の「賃金」と「休日」の欄です。基本給はいくら、みなし残業はどう書く、年間休日は何と書けばいい——ここを曖昧にしたまま働き始めると、あとから「聞いていた条件と違う」というトラブルの火種になります。この記事では、労働条件通知書と兼ねる形の雇用契約書を前提に、賃金・残業・休日・有給の記載例と、書き方に迷ったときの判断の順番を整理します。
この記事の結論
- 雇用契約書(労働条件通知書)には、賃金の決定・計算・支払方法、締め日と支払日、昇給の有無、労働時間、休日、年次有給休暇などを書く必要があり、特に賃金と労働時間は書面で明示するのが基本です。
- みなし残業(固定残業代)を入れる場合は、基本給と固定残業代を金額で分け、何時間分に相当するか、超えた分は別途支払うことの3点をセットで書きます。
- 年間休日は日数だけでなく「土日、国民の祝日、年末年始(12月30日〜1月3日)」のように休日の決め方を書き、シフト制なら月ごとの勤務表で特定する旨を添えます。
そもそも雇用契約書に何を書けばいいのか
労働者を雇うときは、労働条件を明示することが労働基準法で求められています。実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」として1通にまとめ、会社と本人が署名・記名押印する形が扱いやすく、控えを双方で持ちます。書面のほか、本人が希望した場合に電子メール等で交付する方法も認められています。
明示が求められる主な項目は、契約期間、就業場所と業務内容、始業・終業時刻や休憩・休日・休暇、賃金の決定・計算・支払の方法、締切と支払の時期、昇給に関すること、退職に関すること(解雇事由を含む)です。賞与や退職金、通勤手当などは制度がある場合に明示が必要な項目として扱われます。
2024年4月からは、就業場所・業務の変更の範囲、有期契約の更新上限の有無なども明示事項に加わっています。様式は厚生労働省がモデル労働条件通知書を公開しているので、最新版を所管官庁のサイトで確認して土台にするのが早道です。
賃金の書き方:基本給・手当・締め日と支払日
賃金欄は「いくら払うか」だけでなく「どう計算していつ払うか」まで書きます。記載例としては、〈基本給 月給◯◯◯,◯◯◯円/職務手当 ◯◯,◯◯◯円/通勤手当 実費支給(1か月あたり上限◯◯,◯◯◯円)〉のように、名称・金額・支給条件を1行ずつ分けて並べると読み違いが起きません。
締め日と支払日は「毎月末日締め、翌月25日払い(支払日が金融機関の休業日にあたる場合は前営業日)」のように、休日にあたったときの扱いまで書いておきます。支払方法は「本人名義の金融機関口座へ振込(本人の同意による)」とし、控除は「所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料その他法令に基づくもの」と書くのが一般的です。
通勤手当は、定期代の実費なのか、距離に応じた一律支給なのか、在宅勤務の日はどう扱うのかで金額が変わります。上限を設ける場合は上限額と計算根拠(公共交通機関の最経済経路など)を明記し、通勤手当の課税・非課税の取り扱いは金額や通勤方法で変わるため、給与計算の設計時に税理士に確認しておくと安心です。
みなし残業(固定残業代)の記載例と、入れるかどうかの判断
固定残業代を有効に運用したいなら、記載は3点セットが基本です。①基本給と固定残業代を金額で明確に分ける、②固定残業代が何時間分の時間外労働に相当するか、③その時間を超えた場合は差額を別途支払う。この3つが揃っていないと、あとで「基本給に残業代が含まれていた」という主張が通りにくくなります。
記載例:〈基本給 月給◯◯◯,◯◯◯円/固定残業手当 ◯◯,◯◯◯円(時間外労働◯◯時間分に相当。時間外労働の有無にかかわらず支給する)。ただし、1か月の時間外労働が◯◯時間を超えた場合、深夜労働および法定休日労働を行った場合は、超過分・該当分の割増賃金を別途支給する。〉
入れるかどうかの判断は、残業がほぼ発生しない職種なら固定残業代を置かず実績払いにするほうがシンプルです。繁閑の差が大きく毎月の残業時間がばらつく職種なら固定残業代の検討余地がありますが、設定時間が長すぎると働き方の実態と合わず問題になることがあります。時間数の設定と36協定の内容はセットで考える必要があるため、社会保険労務士に相談して決めることをおすすめします。
時間外労働・割増賃金率・年俸制の書き方
時間外労働については「所定時間外労働の有無:有」と書いたうえで、割増賃金率を明示します。記載例は〈時間外(法定超)◯%増、法定休日労働◯%増、深夜労働(22時〜翌5時)◯%増。月60時間を超える時間外労働については法定の割増率による〉のように、法令で定められた率以上であることを前提に、自社で採用する率を具体的な数字で書きます。率の下限は法令で決まっているので、最新の内容を所管官庁の資料で確認してください。
そもそも法定労働時間を超えて働かせるには、36協定を労働基準監督署に届け出ておく必要があります。契約書に残業ありと書いてあっても、協定がなければ時間外労働をさせられません。人を雇う前に、就業規則(常時10人以上の事業場では作成・届出が必要)と36協定の準備状況を確認しておきましょう。
年俸制にする場合も、残業代の支払義務がなくなるわけではありません。記載例は〈年俸額 ◯,◯◯◯,◯◯◯円。これを12分割し、毎月◯◯◯,◯◯◯円を支給する〉、賞与を含めるなら〈年俸額を16分割し、うち12を毎月、4を◯月・◯月に分けて支給する〉のように分割方法を明記します。年俸に固定残業代を含める設計にするなら、前のセクションの3点セットを年俸制でも同じように書く必要があります。管理監督者にあたるかどうかの判断は肩書きではなく実態で見られるため、自己判断せず専門家に確認してください。
休日・年間休日・有給休暇の記載例
休日欄は「年間休日◯日」だけで終わらせず、どう決まるかを書きます。記載例は〈休日:土曜日、日曜日、国民の祝日、年末年始(12月30日〜1月3日)、夏季休日(◯日)、その他会社が定める日。年間休日◯◯◯日。法定休日は日曜日とする〉。法定休日を特定しておくと、休日労働の割増率の計算がぶれません。
シフト制なら〈休日:月◯日以上。勤務日および休日は毎月◯日までに翌月分の勤務表により特定する〉のように、いつ・どうやって決まるかを書きます。週の所定労働日数や1日の所定労働時間が人によって違う場合は、有給の付与日数にも影響するので、契約ごとに数字を埋めてください。
年次有給休暇は、法律上の要件を満たせば当然に発生するものですが、契約書にも書くのが通常です。記載例は〈年次有給休暇:雇入れの日から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合に法定の日数を付与する。以後は法定に従い付与する。時間単位年休:無/有〉。パートなど所定労働日数が少ない人には比例付与の考え方があること、年5日の時季指定義務があることも押さえておきましょう。詳しい日数表は厚生労働省の資料で確認してください。
昇給・賞与・退職金は「あり/なし」をどう書くか
昇給は明示が必要な項目です。制度があるなら〈昇給:有(原則として毎年◯月に会社の業績および本人の勤務成績等を勘案して決定する。ただし業績等により実施しないことがある)〉のように、時期と判断要素、実施しない場合があることまで書きます。制度がないなら「無」と書き、曖昧に空欄のままにしないのがポイントです。
賞与は制度がある場合に明示する項目です。記載例は〈賞与:有(原則として◯月・◯月に、会社の業績および本人の勤務成績等を勘案して支給の有無および額を決定する。支給日に在籍していることを要件とする)〉。業績次第で出せない年があり得るなら、その旨を書いておくと期待とのずれを防げます。支給しない方針なら「無」と明記します。
退職金も同様に、制度の有無、支給対象となる勤続年数、計算方法や支払時期を、制度があるなら書きます。これらの条件は就業規則や賃金規程に詳細を置き、契約書では「詳細は就業規則第◯条による」と参照させる形にすると、規程を変えたときの整合が取りやすくなります。
書き終えたあとの確認と、専門家への相談
作成した契約書は、①就業規則・賃金規程と矛盾していないか、②固定残業代の時間数と36協定の上限が整合しているか、③年間休日と所定労働時間の合計が法定の枠に収まるか、この3点を順に突き合わせてください。契約書と規程がずれていると、条件の良いほうが適用されると判断されることがあります。
交付のタイミングは、入社日より前、遅くとも入社日当日までに。2通用意して双方が署名し、それぞれ1通を保管します。電子交付する場合は、本人が希望し、出力して書面にできる形式であることが前提です。労働者名簿や賃金台帳などの整備も同時に進めておきましょう。
賃金の設計、みなし残業の時間設定、管理監督者の扱い、有給の付与ルールは、実態によって判断が分かれやすい領域です。ひな形をそのまま使うのではなく、自社の働き方に合わせて社会保険労務士に一度レビューしてもらうことをおすすめします。給与計算や通勤手当の税務上の取り扱いについては税理士に、契約内容をめぐる紛争リスクが気になる場合は弁護士に相談してください。
よくある質問
雇用契約書に有給休暇のことを書く義務はありますか。
年次有給休暇は明示が必要な項目に含まれるため、契約書(労働条件通知書)に記載するのが通常です。法定どおりに付与するなら「法定の日数を付与する」と書き、詳細は就業規則を参照させる形でも差し支えありません。付与日数の考え方は厚生労働省の資料で確認してください。
みなし残業を書けば、何時間残業させても追加の支払いは不要になりますか。
そうではありません。固定残業代に相当する時間を超えた分や、深夜労働・法定休日労働にあたる分は、別途支払う必要があると扱われます。契約書にも「超過分は別途支給する」と明記しておくことが一般的です。
年間休日は何日と書けばいいですか。
日数は、1日の所定労働時間と週の労働時間の上限から逆算して決めます。日数だけでなく「土日、国民の祝日、年末年始」など休日の決め方も書き、シフト制なら勤務表で特定する旨を添えてください。自社の所定労働時間で問題がないか不安なら社会保険労務士に確認を。
年俸制なら残業代を払わなくてよいのでしょうか。
年俸制であることだけを理由に、割増賃金の支払義務がなくなるわけではありません。年俸に固定残業代を含める場合は、金額・相当時間・超過分の別途支払いを契約書で明確に分けて書く必要があります。設計に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。