雇用契約書の電子化サービスの比較|無料で始める方法と選び方
採用のたびに雇用契約書を印刷して、押印してもらって、郵送して、返送を待つ。人数が増えるほど、この往復が採用のボトルネックになります。雇用契約書と労働条件通知書は、一定の条件を満たせば電子で交付・締結できます。この記事では、電子化サービスをどういう順番で比べれば自社に合うものが選べるのか、無料でどこまで始められるのか、導入時に社内で決めておくことは何かを、判断の基準ごとに整理します。
この記事の結論
- 労働条件の明示は、労働者が希望した場合にメールやクラウドサービスなど電子的な方法で行うことが認められており、受け取った側が出力して書面を作成できる形式であることが求められます。
- 電子化サービスは「人事労務システム一体型」と「電子契約単体型」に大きく分かれ、入社手続きや社会保険の届出までまとめたいなら前者、契約書の送受信だけを速くしたいなら後者が検討しやすくなります。
- 多くの電子契約サービスには送信件数などに上限のある無料枠がありますが、内容は変更されることがあるため、各社の公式サイトで最新の条件を確認してください。
雇用契約書・労働条件通知書は電子化できるのか
労働基準法では、労働者を雇い入れるときに労働条件を明示することが求められています。かつては書面の交付が原則でしたが、現在は労働者が希望した場合に、ファクシミリや電子メール、SNSのメッセージ機能など、受信者が出力して書面を作成できる方法で明示することが認められています。つまり「本人が電子での受け取りを希望していること」と「印刷して紙にできる形式であること」が、電子化の土台になります。
注意したいのは、会社が一方的に「今後は全員電子です」と決める形ではなく、本人の希望を確認する手順が必要とされている点です。実務では、内定通知や入社案内の段階で電子交付の可否を選べるようにし、その回答を記録として残す運用が取られることがあります。希望しない人には紙で渡せる体制も残しておくと安心です。
また、労働条件の明示事項は改正されることがあります。就業場所や業務の変更の範囲、有期契約の更新に関する事項など、テンプレートが古いままだと項目が足りないことがあります。最新の明示事項は厚生労働省の資料を確認し、判断に迷う部分は社会保険労務士に相談してください。
電子化システムは2タイプ。まずどちらかを決める
サービス選びで最初に決めるのは、機能の細かい比較ではなく「どのタイプを使うか」です。ひとつは人事労務システム一体型で、入社手続きの情報収集、雇用契約の締結、社会保険や雇用保険の届出、年末調整までを同じ画面でつなげられるタイプです。もうひとつは電子契約単体型で、取引先との業務委託契約なども同じ仕組みで扱える汎用的なタイプです。
判断の順番としては、まず「雇用契約書以外に、入社時に集めたい情報が多いか」を見てください。マイナンバー、扶養情報、通勤経路、口座情報などを毎回メールやチャットで集めているなら、一体型のほうが転記の手間が減ります。逆に、社員数が少なく入社が年に数回で、取引先との契約書のほうが多いなら、電子契約単体型ひとつで雇用契約も回すほうが、ツールが増えずに済みます。
迷ったときは、これから1年で何件の雇用契約を結ぶ見込みかを数えてみてください。件数が少ないうちは単体型で十分なことが多く、採用が続くフェーズに入ってから一体型に移す会社もあります。最初から完璧な体制を作ろうとするより、移行しやすさ(データの書き出しができるか)を確認しておくほうが実用的です。
署名の方式で何が変わるのか
電子契約サービスの署名方式は、大きく「当事者型(本人が電子証明書を使って署名する)」と「立会人型(サービス事業者がメール認証などを通じて署名を付与する)」に分かれます。雇用契約では、従業員側に電子証明書を用意してもらうのは負担が大きいため、立会人型、あるいはサービス上で同意ボタンを押す形の電子サインが使われることが多くなっています。
選ぶときの基準は、後から「本人が確かに同意した」と説明できる記録が残るかどうかです。メールアドレスの認証履歴、閲覧・同意の日時、IPアドレスなどのログが残る仕様か、書類のバージョン管理ができるかを確認してください。アルバイトの入れ替わりが多い職場では、スマートフォンだけで完結するか、アプリのインストールが不要かも実務上の分かれ目になります。
なお、雇用契約書そのものに押印や署名が法律上必須とされているわけではない一方、争いが起きたときの証拠としての意味は残ります。どの方式が自社のリスク許容度に合うかは、扱う雇用形態や契約金額によって変わるため、判断が難しい場合は社会保険労務士や弁護士に確認することをおすすめします。
無料で始めるなら、どこまでできるか
多くの電子契約サービスには、送信件数や保管件数、利用できるユーザー数に上限のある無料の枠が用意されています。年に数件しか契約を結ばない設立直後の会社であれば、まず無料枠で運用してみて、上限に近づいたら有料に切り替えるという進め方が現実的です。ただし無料枠の範囲は変更されることがあるため、各社の公式サイトで最新の条件を確認してください。
サービスを使わない方法もあります。労働条件通知書をPDFで作成し、本人が希望していることを確認したうえでメールに添付して送り、受領と内容確認の返信をもらう運用です。この場合も、本人が印刷して書面にできる形式であること、送受信の記録を残すことが前提になります。件数が少ないうちはこの形から始め、採用が増えた段階でシステムに移す会社もあります。
無料で始めるときに見落としやすいのが保管です。契約書の原本がメールボックスの中だけにあると、担当者が退職したときに追えなくなります。無料枠でも、共有ドライブに年度・雇用形態でフォルダを分けて保存する、ファイル名のつけ方を決めておく、といった最低限のルールは最初に決めておくと後が楽です。
アルバイト・パートが多い会社のチェックポイント
アルバイトやパートの採用が多い会社では、比較の軸が変わります。見るべきは、応募から入社までの日数を縮められるかどうかです。店舗や現場に紙を送って、店長が説明して、署名をもらって本社に返す——この往復がなくなるだけで、初出勤までのリードタイムが短くなります。
確認したいのは、テンプレートを複数登録して雇用形態ごとに使い分けられるか、時給や勤務地といった項目だけを差し替えて一括で送れるか、未署名の契約をリマインドできるか、店舗の責任者に権限を限定して渡せるかという点です。短期・単発の契約更新が頻繁にあるなら、更新時に前回の内容を複製できる機能があるかも効いてきます。
一方で、電子に不慣れな方が一定数いる職場では、紙の選択肢を残す前提で設計してください。全員を電子に寄せようとすると、現場で「本人の希望」の確認があいまいになりがちです。電子と紙の両方を扱うルールを短い手順書にまとめ、店舗にも共有しておくと運用が安定します。
導入の手順と、社内で決めておくこと
導入は次の順で進めると迷いません。まず現在使っている労働条件通知書・雇用契約書のひな形を洗い出し、明示事項が最新のルールに合っているかを点検します。次に、社員・アルバイトなど雇用形態ごとの年間件数を数え、一体型か単体型かを決めます。そのうえで無料枠のあるサービスを2つほど試し、スマートフォンでの受け取りやすさを実際の端末で確かめてから本番に移します。
社内で決めておくのは、電子交付の希望をいつどうやって確認するか、署名の依頼を出す担当者は誰か、締結済みの書類をどこに保管するか、退職者分をいつまで残すかの4点です。労働関係の書類には保存期間の定めがあるものがあり、期間や対象は法令で定められているため、所管官庁の資料を確認するか社会保険労務士に確認してください。
なお、電子帳簿保存法は国税関係の帳簿書類を対象とする制度で、雇用契約書の扱いは書類の性質によって整理が分かれます。同じサービスで取引先との請求書や契約書も扱う場合は、保存要件の考え方が異なる点に注意し、税務上の取り扱いについては税理士にご確認ください。
よくある質問
雇用契約書の電子化に、本人の同意は必要ですか
労働条件の明示を電子的な方法で行う場合は、労働者が希望していることが前提とされています。入社案内の段階で電子と紙のどちらで受け取るかを選べるようにし、その回答を記録に残す運用が取られることが多いです。確認方法に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。
無料の電子契約サービスだけで雇用契約書を運用できますか
送信件数などに上限のある無料枠で運用している会社もありますが、上限や機能の範囲はサービスごとに異なり、変更されることもあります。年間の契約件数を見積もったうえで、各社の公式サイトで最新の条件を確認してください。
電子署名と、同意ボタンだけの電子サインでは何が違いますか
当事者型の電子署名は本人の電子証明書を使う方式で、立会人型や同意ボタン方式はメール認証などの記録で本人性を担保する方式です。雇用契約では従業員の負担を考えて後者が使われることが多いですが、どの記録が残るかは事前に確認しておくと安心です。
アルバイトの雇用契約も電子化できますか
雇用形態にかかわらず、本人が希望し、出力して書面を作成できる形式であれば電子での明示が認められています。入れ替わりの多い職場では、スマートフォンだけで完結するか、テンプレートを雇用形態ごとに使い分けられるかを比較の軸にすると選びやすくなります。