業務委託契約書と源泉徴収|記載例と対象になる報酬の考え方

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

業務委託で人に仕事をお願いするとき、「報酬から源泉徴収をするのか、しないのか」で最初につまずく方はとても多いです。判断を間違えると、支払額がずれたり、あとから納付漏れを指摘されたりします。この記事では、源泉徴収の対象になりやすい報酬の考え方と、契約書にどう書けば揉めないかを、判断の順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 業務委託の報酬で源泉徴収が必要かは、まず「支払う側が源泉徴収義務者か」、次に「その報酬が所得税法で源泉徴収の対象とされている種類か」の順で確認します。
  • 契約書には、報酬額が税込か税抜か、源泉徴収税額を差し引いて支払うのか、振込手数料はどちらの負担か、の3点を明記しておくと支払時のトラブルを防ぎやすくなります。
  • 源泉徴収の対象かどうかの最終判断や税率・納付期限は国税庁の資料で確認し、迷う場合は税理士に相談するのが安全です。

業務委託契約書に源泉徴収を書く前に、まず確認する2つのこと

源泉徴収が必要かどうかは、契約書の書き方で決まるものではありません。法律上の要件に当てはまるかどうかで決まります。ですから、契約書に書く前に、事実関係を2段階で確認する順番が大切です。

1つ目は「支払う側が源泉徴収義務者かどうか」です。法人は原則として源泉徴収義務者にあたると整理されており、個人事業主でも従業員を雇って給与を支払っている場合などは義務者になることがあります。逆に、従業員を雇っていない個人事業主が外注先に報酬を払う場合は、源泉徴収の対象外として扱われるケースがあります。自社がどちらにあたるかを先に押さえてください。

2つ目は「その報酬が、所得税法で源泉徴収の対象と定められた種類にあたるか」です。業務委託という契約の名前ではなく、支払う内容で判断します。個人への支払いか法人への支払いかでも扱いが変わり、原則として法人への報酬は源泉徴収の対象外と整理されることが多い点も、実務では見落としがちです。

源泉徴収の対象になりやすい報酬・なりにくい報酬の考え方

対象になりやすいのは、個人に対して支払う、いわゆる「専門的な役務」や「創作・実演」に関する報酬です。原稿料、デザイン料、講演料、写真やイラストの報酬、翻訳・通訳の報酬、弁護士・税理士・司法書士などの士業への報酬などが典型例として挙げられます。ここに当てはまりそうな仕事を個人に発注するなら、源泉徴収の要否を必ず一度確認してください。

一方で、同じ業務委託でも、清掃や配送、一般的な事務代行、物品の製作・販売、システムの保守運用などは、対象として列挙されていない場合があります。「ホームページ制作」のように、デザインの要素と開発の要素が混ざる仕事は特に判断が割れやすい領域です。契約内容を分けて記載し、どの部分が何の報酬なのかを明確にしておくと整理しやすくなります。

対象となる報酬の範囲や税率、納付の期限は国税庁のパンフレット・タックスアンサーで公開されています。個別の案件がどれに当たるかは、実際の業務内容によって結論が変わることがありますので、判断に迷う支払いは税理士に確認することをおすすめします。

業務委託契約書への源泉徴収の記載例と、書き分けのポイント

契約書では「源泉徴収をするかどうか」だけでなく、「報酬額は税込か税抜か」「差し引くのは誰か」「手数料は誰の負担か」までをセットで書きます。ここが曖昧だと、請求書の金額と振込額が合わず、毎月のように確認のやり取りが発生します。

記載例(源泉徴収の対象となる場合):「第◯条(報酬)1. 甲は乙に対し、本件業務の対価として、月額◯◯円(消費税及び地方消費税を別途とする)を支払う。2. 甲は、前項の報酬のうち所得税法の規定により源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税に相当する額を控除したうえで、乙の指定する口座に振り込む方法により支払う。3. 振込手数料は甲の負担とする。」

記載例(対象かどうかを固定したくない場合):「本報酬について所得税法上の源泉徴収義務が生じる場合、甲は当該税額を控除して支払うものとし、控除の要否及び金額については関係法令に従う。」と書いておくと、業務内容が変わったときに契約書を作り直さずに済みます。金額そのものを契約書に書き込むより、根拠を書いて計算方法を示すほうが実務では扱いやすいことが多いです。

なお、契約書に「源泉徴収しない」と書いたとしても、法律上の義務があれば義務はなくなりません。契約書の文言で税務上の扱いを変えられるわけではない、という点は押さえておいてください。

税込・税抜と消費税の扱いをどう書くか

源泉徴収の計算を報酬の総額(消費税込み)で行うか、消費税を除いた本体価格で行うかは、請求書の書き方によって扱いが変わることがあります。一般には、請求書等で報酬額と消費税額が明確に区分されている場合には、本体価格を基礎として計算して差し支えないという考え方が示されています。

そのため、契約書では「月額◯◯円(消費税別)」のように、本体価格と消費税を分けて書いておくほうが計算がぶれません。受注側にも、請求書で報酬額・消費税額・源泉徴収税額・差引支払額の4つを分けて記載してもらうと、経理の照合がぐっと楽になります。

インボイス制度の下では、登録番号の有無によって発注側の仕入税額控除の扱いが変わることがあります。源泉徴収とは別の話ですが、契約書や発注時のやり取りで、登録の有無と請求書の様式をあらかじめ確認しておくと後の処理がスムーズです。制度の詳細な要件は国税庁の資料をご確認ください。

支払うときの実務の流れ|納付・支払調書・受注側の確定申告

発注側の流れは、①契約時に報酬の決め方と源泉徴収の取扱いを契約書に書く、②請求書を受け取り、源泉徴収税額と差引支払額を確認する、③報酬から税額を差し引いて振り込む、④差し引いた税額を所定の期限までに納付する、という順です。納期の特例の対象になる源泉所得税の範囲や期限は、税務署の案内で確認してください。

年明けには、支払った報酬について支払調書を作成し、法定調書合計表とあわせて税務署に提出する実務が発生することがあります。提出の要否は報酬の種類や金額によって異なるため、年末までに支払先ごとの集計ができる状態にしておくと慌てずに済みます。受注側から「支払額と源泉徴収税額を教えてほしい」と依頼されることも多いので、支払通知の形で共有できると親切です。

受注側は、差し引かれた源泉徴収税額を確定申告で精算します。年間の所得によっては、差し引かれた分が戻ってくることもあれば、追加で納める場合もあります。差し引かれた金額がわかる書類は、支払ごとに保存しておいてください。電子で受け取った請求書や支払通知の保存方法は、電子帳簿保存法の考え方に沿った運用が求められる場合がありますので、所管官庁の資料もあわせて確認しましょう。

よくあるつまずきと、迷ったときの相談先

よくあるのは、契約書に「月額◯◯円をお支払いします」とだけ書き、源泉徴収のことに触れていないケースです。受注側は満額が振り込まれると思い、発注側は差し引いて振り込む。ここで必ず確認のやり取りが発生します。金額の条項に一文足すだけで防げますので、ひな形を作る段階で入れておいてください。

もう一つは、相手が個人事業主か法人かを確認しないまま処理してしまうケースです。屋号だけで取引していると、法人なのか個人なのか判断できません。契約時に正式名称と事業者としての形態を確認し、契約書の当事者欄に正確に書いておきましょう。

源泉徴収の要否は、業務の中身によって結論が分かれる場面が少なくありません。継続的な発注を始める前や、新しい種類の業務を委託するときは、顧問税理士に契約書案と業務内容を見てもらうのが確実です。契約条項そのものの作り方や、業務委託と雇用の線引きに不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士にも相談できます。判断に迷ったまま処理を続けるより、最初に一度確認しておくほうが、結果的に手間もリスクも小さくなります。

よくある質問

業務委託契約書に「源泉徴収しない」と書けば、源泉徴収しなくてよいのですか。

契約書の文言で税務上の取扱いが変わるわけではありません。法律上の要件に当てはまる支払いであれば、源泉徴収の義務は契約書の記載にかかわらず生じると考えられます。要否の判断は国税庁の資料を確認し、迷う場合は税理士にご相談ください。

法人に業務を委託する場合も源泉徴収は必要ですか。

個人への報酬と法人への報酬では扱いが異なり、法人への支払いは原則として源泉徴収の対象外と整理されることが多いです。ただし例外的な取扱いもあるため、相手が法人か個人事業主かを契約時に確認したうえで、支払いの種類ごとに確認するのが安全です。

源泉徴収税額は消費税を含めた金額から計算するのですか。

請求書などで報酬額と消費税額が明確に区分されている場合には、消費税を除いた本体価格を基礎に計算して差し支えないという考え方が示されています。区分がないと総額で計算することになる場合があるため、契約書と請求書の両方で本体価格と消費税を分けて記載しておくとよいでしょう。

源泉徴収の対象になる報酬かどうか、自分で判断できないときはどうすればよいですか。

まず国税庁の源泉徴収に関する案内で、支払う報酬の種類が列挙されているかを確認してください。制作物やコンサルティングなど内容が複合する業務は判断が分かれやすいため、契約書案と業務内容を添えて税理士に確認することをおすすめします。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。