業務委託契約書はどちらが作るか|締結のタイミングと後から結ぶ場合

・契約・電子署名・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

業務委託の話がまとまって、いざ契約書となったときに最初につまずくのが「これ、どっちが作るんだろう」という点です。法律で作成者が決まっているわけではないので、実務では慣習と力関係と、単純に「手が空いているほう」で決まっていきます。この記事では、原案をどちらが出すかの判断の順番、締結のベストなタイミング、すでに作業が始まってしまった場合の後追い締結のやり方まで、現場で迷いやすいところを順に整理します。

この記事の結論

  • 業務委託契約書をどちらが作るかに法律上の決まりはなく、実務では発注側が自社ひな形を出し、受注側が修正を返す流れが一般的です。
  • 締結のタイミングは業務開始前が原則で、間に合わない場合は発注書・メールなどで条件を残し、後日あらためて契約書を締結します。
  • 日付をさかのぼらせて署名する対応はトラブルのもとになりやすく、実際の締結日を書いたうえで「適用開始日」を別に定める書き方が無難です。

業務委託契約書はどちらが作るのが一般的か

結論から言うと、法律で「発注側が作る」「受注側が作る」と決まっているわけではありません。契約書は双方の合意内容を書面にしたものなので、どちらが原案(ドラフト)を用意しても成立します。実務では、発注側が自社のひな形を提示し、受注側がそれを読んで修正案を返す、という流れが最も多く見られます。

理由はシンプルで、発注側のほうが同じ形の契約を繰り返し結ぶことが多く、社内で審査済みのひな形を持っているからです。受注側が毎回ゼロから作るより、既存のひな形を土台にしたほうが双方の手間が減ります。逆に、デザイン・執筆・開発などで受注側が定型の業務を提供している場合は、受注側が自社の契約書や利用規約を出すこともよくあります。

覚えておきたいのは、原案を作った側のほうが自分に有利な条件を書きやすい、という点です。ドラフトを出す側は「書かれていないこと」を自然に省けますし、受け取る側は違和感のある条項に気づかないまま署名してしまうことがあります。作る手間を引き受けるか、読む手間を引き受けるか、という選択だと考えるとバランスが取れます。

どちらが作るか迷ったら、この順に考える

判断に迷ったときは、次の順で見ていくと決まりやすくなります。第一に、どちらかが既にひな形を持っているか。持っているほうが出すのが最短です。第二に、その取引で継続的・反復的に発注するのはどちらか。繰り返し発注する側が型を持ったほうが、次回以降が楽になります。

第三に、業務の内容を細かく書けるのはどちらか。成果物の仕様や納品方法、検収の基準は、実際に手を動かす受注側のほうが具体的に書けることが多いものです。契約書の全体は発注側のひな形を使い、業務内容と納品物の定義だけ受注側が文案を出して別紙にする、という分担もよく行われます。

第四に、取引金額と期間です。金額が大きい、期間が長い、知的財産権や機密情報が絡む——こうした案件では、原案を出さない側も自社で内容を確認し、必要なら弁護士に目を通してもらう価値があります。小さな単発案件なら、簡潔な1〜2枚の書面でも、条件が明確なら実務上は機能します。

締結のタイミングはいつがよいか

原則は、業務を開始する前です。契約書は「もめたときに何が合意されていたかを示すもの」なので、作業が進んでから条件を詰めようとすると、すでに費やした時間や納品済みの成果物が交渉の材料になってしまいます。着手前であれば、条件が折り合わなければ受けない・発注しないという選択肢が双方に残ります。

現実的な段取りとしては、①見積・提案で条件をすり合わせる、②業務内容・報酬・期間・支払期日の骨子をメールで確認し合う、③契約書の原案を送る、④修正のやり取りをする、⑤署名または電子署名して締結、⑥業務開始、という流れです。③から⑤に1〜2週間かかることは珍しくないので、開始日から逆算してドラフトを出す日を決めておくと間に合います。

どうしても間に合わないときは、少なくとも発注書と請書、あるいは条件を列挙したメールのやり取りを残してください。書面の形式が整っていなくても、双方が合意した内容の記録があれば、後から契約書を整えるときの土台になります。何も残さないまま走り出すのが、いちばん避けたい状態です。

業務が始まってから、あとから契約書を結ぶ場合

すでに作業が始まっている、あるいは1回目の納品が終わっている——この状態で契約書を結ぶこと自体は、実務でよくあります。大事なのは、開始日をどう扱うかです。おすすめしたいのは、署名日には実際に署名した日を書き、本文の中で「本契約は◯年◯月◯日以降に行われた業務に適用する」といった形で適用開始日を別に定める書き方です。これなら事実と書面が食い違いません。

あわせて、すでに完了した業務の扱いも一文入れておくと安心です。「本契約締結前に当事者間で行われた業務についても、本契約の定めを適用する」といった趣旨の条項を置くと、過去分の報酬や権利の帰属が宙に浮きにくくなります。逆に、過去分は別条件だったのであれば、それが分かるように書き分けます。

なお、契約日をさかのぼって記載する、いわゆるバックデートは避けたほうが無難です。当事者間で悪意がなくても、税務上の期間の区切りや、第三者から見たときの書面の信頼性に影響することがあります。日付の扱いに迷う取引がある場合は、税理士や弁護士に確認してください。

契約の「まき直し」をするときの進め方

まき直しとは、すでにある契約をいったん整理して、あらためて契約書を締結し直すことを指す実務上の言い方です。口約束やメールだけで続けてきた取引を書面化するとき、条件が実態と合わなくなったとき、法改正や社内ルールの変更でひな形を更新したときなどに行います。

進め方は、①現在の実態を洗い出す(業務範囲・報酬・支払サイクル・実際に守られているルール)、②古い書面や合意の記録を集める、③新しい契約書の原案を作る、④旧契約の扱いを決める、の順です。④では、旧契約を終了させて新契約に切り替えるのか、旧契約は残したうえで変更覚書を交わすのかを選びます。変更点が数か所なら覚書、全体を作り直すならまき直し、というのが一つの目安です。

相手に切り出すときは、「条件を見直したい」ではなく「実態と書面を合わせたい」という伝え方のほうが進みやすい傾向があります。値上げや範囲の縮小を同時に提案すると交渉が複雑になるので、まずは現状の書面化だけを済ませ、条件変更は別のタイミングで話す、という分け方も検討してみてください。

契約書のひな形はどこでもらえるか

ゼロから書く必要はありません。公的機関が業務委託や下請取引に関する契約書の考え方やモデル条項を公開していることがあり、所管官庁のサイトで確認できます。また、業界団体がその業界向けの標準契約書を公開している場合もあります。まずは自分の業種に近いものを探すのが早道です。

民間の契約書作成サービスや電子契約サービスでも、ひな形が用意されていることがあります。利用できる範囲や費用は提供元によって異なるので、各社の公式サイトで最新の内容を確認してください。選ぶときは、ひな形の豊富さより、自社の業務内容を書き込める柔軟さと、締結後の保管のしやすさを見るとよいでしょう。

ひな形を使うときの注意は、そのまま使わないことです。業務内容、成果物、検収の方法、報酬と支払期日、知的財産権の帰属、秘密保持、契約期間と解除——この7項目は、自社の取引に合わせて必ず読み直してください。特に成果物の権利がどちらに帰属するかは、後から大きな争点になりやすいところです。

また、契約書や関連する取引書類を電子データでやり取りする場合、保存の方法について電子帳簿保存法など制度上のルールが関係することがあります。要件の詳細は所管官庁の資料を確認し、判断に迷う場合は税理士に相談してください。

作成・締結で迷ったら専門家に確認を

業務委託契約書は、テンプレートを埋めれば形にはなります。ただ、その契約が実態として業務委託として扱われるか、成果物の権利がどちらに残るか、報酬の支払いに源泉徴収が関わるかといった論点は、取引ごとに判断が変わります。断定的な自己判断は避けたほうが安全です。

契約書の条項の書き方や、まき直し・過去分の扱いについては弁護士に、報酬の処理や書類の保存、インボイス制度への対応については税理士に相談するのが基本的な切り分けです。継続的に人に働いてもらう形が雇用に近くなってきた場合は、社会保険労務士にも確認しておくと安心できます。

最初の1本をきちんと作っておけば、次からはそれが自社のひな形になります。時間と費用がかかるのは最初だけです。取引が増える前に、一度専門家の目を通した契約書を用意しておくことをおすすめします。

よくある質問

業務委託契約書は発注側と受注側のどちらが作成すべきですか。

法律上の決まりはなく、どちらが作っても契約は成立します。実務では自社ひな形を持っている側、繰り返し取引する側が原案を出すことが多いです。原案を出さない側も、業務内容・報酬・権利の帰属などは自分で読み直してください。

業務が始まってから契約書を結んでも大丈夫ですか。

後から締結すること自体は実務でよくあります。その場合は署名日に実際の日付を書き、本文で適用開始日や締結前に行った業務の扱いを定めておくと、事実と書面のずれを防ぎやすくなります。

契約日をさかのぼって書く、いわゆるバックデートは問題になりますか。

当事者に悪意がなくても、書面の信頼性や税務上の期間の区切りに影響することがあり、避けたほうが無難です。実際の締結日を書き、適用開始日を別に定める書き方を検討してください。判断に迷う場合は税理士や弁護士にご確認ください。

業務委託契約書のひな形はどこでもらえますか。

所管官庁や業界団体が契約書の考え方やモデル条項を公開していることがあり、まずはそこから探すとよいでしょう。民間の契約書作成・電子契約サービスでもひな形が用意されている場合があるので、利用条件や費用は各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。