電子契約の社内規程とルールづくり|決めておく項目と運用の流れ
電子契約サービスを契約しても、それだけでは運用は回りません。「誰が送信ボタンを押せるのか」「金額がいくらまでなら現場判断でよいのか」「締結後のファイルはどこに置くのか」が決まっていないと、押印していた頃にはあった歯止めが消えてしまいます。この記事では、電子契約の社内規程とルールに何を書き、どういう順番で整えていくかを、ひとり社長や小さな会社でも運用できる粒度でまとめます。
この記事の結論
- 電子契約の社内規程では、対象となる契約の範囲、締結権限と承認ルート、アカウント・権限の管理、締結後の保存場所と保存期間、例外時の取り扱いの5点を最低限決めておくと運用が安定します。
- 既存の押印規程・決裁規程がある場合は、新しい電子契約規程を別に作るより、押印規程の「押印」を「押印または電子署名」と読み替える形で改定するほうが、二重管理を避けやすくなります。
- 規程は方針だけを短く定め、操作手順や送信前チェックリストは別の運用マニュアルに分けておくと、サービスの画面変更のたびに規程を改定せずに済みます。
そもそも電子契約に社内規程が必要なのはなぜか
紙の契約書には、印鑑という物理的な歯止めがありました。実印や社印は金庫にあり、持ち出すには申請が要る。押印台帳に記録が残る。この「手間」そのものが、勝手に契約が結ばれないための仕組みとして機能していました。
電子契約ではその手間が消えます。パソコンとアカウントがあれば、担当者が数分で締結まで進められてしまいます。便利さの裏側で、承認を経ていない契約が外部に出てしまうリスクが生まれるため、印鑑が担っていた歯止めをルールとして書き直す必要があるのです。
もう一つの理由は、締結後の管理です。紙なら契約書はファイルに綴じられ、キャビネットにあります。電子だと、サービス内に残るもの、担当者のパソコンにダウンロードされたもの、メールに添付されたものが散らばりがちです。どこを正本とするかを決めておかないと、数年後に契約内容を確認したいときに探せなくなります。
電子契約の規程に書く項目|最低限決める5つ
まず決めるのは「対象範囲」です。すべての契約を電子にするのか、取引基本契約や業務委託契約など特定の類型から始めるのかを書きます。相手方が紙を希望する場合や、書面による作成が求められる類型もあるため、電子で締結しない契約の例も併せて挙げておくと現場が迷いません。どの契約が電子化になじむかの判断は、契約類型によって異なるため、迷う場合は弁護士に確認してください。
次に「締結権限と承認ルート」です。誰が最終的に締結の意思決定をするのか、金額や契約期間に応じて誰の承認が要るのかを、既存の決裁基準に合わせて書きます。ここは電子契約のために新しく作るというより、今ある決裁ルールを電子の画面上でどう再現するかという話になります。
三つめが「アカウントと権限の管理」、四つめが「締結後の保存」、五つめが「例外時の取り扱い」です。アカウントは誰が発行・停止するか、退職時にどうするか。保存は、どのフォルダを正本とし、何年残すか。例外は、サービス障害時や相手方が電子に応じない場合にどうするか。この5点が書けていれば、規程としてはひとまず形になります。
押印規程が既にある会社は、新設より改定を先に検討する
すでに押印規程や決裁規程がある会社は、電子契約規程をゼロから新設するかどうかで迷いがちです。判断の順番としては、まず既存規程を開いて「押印」「社印」「実印」という言葉がどこに出てくるかを洗い出してください。出現箇所が少なく、決裁基準が明確に書かれているなら、その文言を「押印または電子署名」と読み替える改定で足りることが多いです。
一方、既存規程が古く、決裁基準そのものが曖昧だったり、実態と合っていなかったりする場合は、この機会に契約管理規程として作り直すほうがすっきりします。電子化は規程を見直す良いきっかけで、紙のときから放置されていたルールの矛盾が表に出てきます。
規程がまったくない会社、たとえば設立して間もないひとり社長の会社なら、いきなり立派な規程を作る必要はありません。A4一枚で「金額いくらまでは社長単独、それを超えるものは事前に税理士や弁護士に相談してから締結する」「締結済みファイルはこのフォルダに入れる」程度から始めて、人が増えたタイミングで肉付けしていく進め方で十分に機能します。
電子契約のワークフローをどう設計するか
ワークフローは、契約書のライフサイクルに沿って「作成・審査・承認・送信・締結・保存」の6段階で考えると整理しやすくなります。紙のときの流れを紙に書き出し、どの工程が電子に置き換わり、どの工程が人の判断として残るかを線引きしていきます。
置き換えで一番つまずくのが、承認と送信の順序です。電子契約サービスの多くは、社内承認を経てから相手方へ送信する流れを組めますが、急ぎの案件で承認を飛ばして送ってしまう運用が常態化すると、規程が形骸化します。対策としては、承認が済んでいない契約は送信できないよう権限側で制御する、あるいは送信できるアカウントを限られた人だけにする、のどちらかを選びます。人数が少ない会社なら後者のほうが管理しやすいでしょう。
送信前のチェック項目も決めておきます。相手方の宛先メールアドレスが正しいか、署名する人が相手方で締結権限を持つ人か、契約書のバージョンが最終版か、添付する別紙が揃っているか。この4点は、送信してしまうと修正に手間がかかる部分なので、チェックリストにして送信担当者の手元に置いておくと事故が減ります。
保存・権限・退職時対応|締結後のルールを具体的に決める
締結が終わった契約書をどう保存するかは、規程の中でもっとも実務に効く部分です。まず「正本はどこか」を一つに決めます。電子契約サービス内に残るファイルを正本とするのか、社内の共有フォルダにダウンロードしたものを正本とするのか。両方に置くなら、どちらが優先かを書いておかないと、更新漏れが起きたときに判断できません。
保存期間は、契約の種類ごとに決めます。法令上の保存期間が定められているものもあり、電子取引のデータ保存については電子帳簿保存法の考え方が関わってきます。要件の詳細は改正もあるため、国税庁の公表資料を確認するか、顧問税理士に確認してください。規程には「法令に定める期間、および契約終了後◯年」といった形で方針を書き、具体的な年数の根拠は別表で管理する方法もあります。
アカウント管理では、退職・異動時の手順を必ず書いておきます。退職者のアカウントを止めるだけでなく、その人が担当していた契約の更新通知が誰にも届かなくなっていないかを確認する。管理者アカウントが一人しかいない状態も、その人が不在のときに何もできなくなるため避けたいところです。小さな会社でも、管理者は二人以上にしておくと安心です。
規程とマニュアルは分ける|作成から運用開始までの流れ
実務でおすすめしたいのは、規程とマニュアルを分けて作ることです。規程には「誰が・何を・どういう基準で決めるか」という方針だけを書き、「どのボタンを押すか」「どの順に入力するか」という操作手順はマニュアルに切り出します。こうしておけば、サービスの画面が変わっても規程を改定せずに済み、社内の合意形成にかかる手間を減らせます。
作成から運用開始までの流れは、次の順で進めるとスムーズです。第一に、現在の契約締結フローと既存の押印規程を洗い出す。第二に、電子化する契約類型の範囲を決める。第三に、決裁基準と承認ルートを規程の形に落とす。第四に、サービス側でアカウントと権限を設定し、規程どおりに動くか数件の契約で試す。第五に、マニュアルとチェックリストを作り、関係者に共有する。
運用を始めたあとは、半年から一年に一度は見直しの機会を設けてください。実際に運用すると「この金額帯の承認が重すぎる」「この類型は電子に向かなかった」といったずれが必ず出てきます。規程は一度作って終わりではなく、実態に合わせて直していくものだと考えると、最初から完璧を目指さずに済みます。
なお、契約の有効性や電子署名の扱い、保存要件の判断は、業種や契約類型によって考え方が変わることがあります。規程の文面を固める前に、契約実務については弁護士に、保存や税務に関わる部分については税理士に、それぞれ一度確認しておくことをおすすめします。
よくある質問
電子契約の規程のサンプルはどこで手に入りますか
業界団体や士業事務所がひな形を公開していることがあり、構成の参考になります。ただし、ひな形は自社の決裁基準や契約類型に合わせて書き換えないと機能しないため、そのまま使うのではなく、金額基準と承認ルートの部分を必ず自社の実態に置き換えてください。
ひとり社長の会社でも電子契約の規程は必要ですか
厳密な規程まではなくても運用できますが、保存場所と保存期間、アカウントの管理方法だけは決めて書き留めておくことをおすすめします。人を雇ったり外部に業務を任せたりする段階になると、誰が締結してよいかの基準が急に必要になります。
押印規程と電子契約規程は分けて作るべきですか
既存の押印規程の決裁基準が明確なら、その文言を「押印または電子署名」と読み替える改定で対応し、規程を一本化するほうが管理しやすくなります。既存規程が実態と合っていない場合は、契約管理規程として作り直すことも検討してください。
電子契約の保存期間は何年にすればよいですか
契約の種類や法令上の要件によって異なり、電子取引データの保存については電子帳簿保存法の考え方も関わってきます。規程には「法令に定める期間および契約終了後一定期間」といった方針を書き、具体的な年数は国税庁の資料を確認するか税理士にご確認ください。