電子契約の事前承諾書と同意書|取引先に依頼する進め方とひな形の要点
電子契約サービスを導入したものの、いざ取引先に送ろうとすると「これ、先方に一言いらないのかな」と手が止まる。よくある場面です。法律上、書面でなければならないと定められた契約を除けば、契約は当事者が合意した方法で結べると一般に考えられています。とはいえ実務では、いきなり署名依頼メールが届くと戸惑われますし、先方の社内規程で紙の原本が必要なこともあります。そこで使われるのが事前承諾書・同意書です。この記事では、どの取引先に何を、どの順番で依頼するかを整理します。
この記事の結論
- 電子契約の事前承諾書とは、今後の契約を電子的な方法で締結することについて、取引先とあらかじめ合意しておくための書面です。
- 法律上は事前承諾がなければ電子契約ができないわけではありませんが、相手の社内手続きや後日のトラブル防止のために取り交わす実務が広く行われています。
- 取引先への依頼は、対象となる契約の範囲・使用するサービス・署名者のメールアドレス・切替時期の4点を伝えるところから始めると進めやすくなります。
電子契約に事前承諾は必要なのか
まず前提を整理します。契約は原則として、当事者が合意すればどのような方法でも成立すると一般に考えられています。つまり、電子契約に切り替えるために、法律上つねに事前承諾書が求められるわけではありません。署名依頼メールを送り、相手が同意して電子署名を行えば、それ自体が電子的方法への合意の表れと評価される場面もあります。
それでも事前承諾を取る実務が定着しているのは、理由が別のところにあるからです。ひとつは相手の社内事情です。稟議や押印規程が紙を前提にしている会社では、担当者が独断で電子署名を押せません。もうひとつは後日の争いへの備えで、「電子でよいと聞いていない」という主張を避けるためです。
なお、一部の契約類型では書面の交付や相手方の承諾の取得について法令で手続きが定められている場合があります。定期借地・定期建物賃貸借、下請取引に関する書面、宅地建物取引に関する書面などは個別の定めを確認する必要があります。自社の主要な契約がこれに当たるかどうかは、所管官庁の資料や弁護士への確認をおすすめします。
事前承諾書・同意書・利用承諾書の違いと使い分け
呼び名は会社によってまちまちで、事前承諾書、同意書、電子契約利用承諾書、覚書などが使われます。名称による法的な差というより、「誰が誰に対して、どこまでの範囲で合意するか」の設計の違いだと考えると整理しやすくなります。
一方向の「承諾書」は、自社が用意した文面に取引先が署名して返すタイプです。作成が早く、数の多い取引先にまとめて依頼するときに向きます。双方向の「覚書」は、両社が対等に電子契約の利用を取り決める形で、継続的な基本契約がある主要取引先や、先方の法務が内容を精査する相手に向きます。
迷ったら次の順で判断してください。①継続的な基本契約をすでに結んでいる相手なら、その変更覚書として電子契約条項を追加する。②基本契約がなく単発発注が続く相手なら、一方向の承諾書で足りることが多い。③先方の法務から文面の修正要望が来たら、素直に覚書型へ切り替える。この順で考えると、やり直しが減ります。
事前承諾書ひな形に入れておきたい項目
ひな形を自作する場合、最低限おさえたいのは次の項目です。まず対象範囲です。「今後当社と貴社の間で締結するすべての契約」とするのか、「業務委託基本契約に基づく個別契約に限る」とするのか。広く取るほど後が楽ですが、先方の社内承認は通りにくくなります。
次に方法の特定です。使用する電子契約サービス名、電子署名または電子サインのどちらの方式か、署名の記録(監査ログ)をもって締結の証跡とすることを書いておきます。あわせて、双方の署名権限者の氏名・所属・メールアドレスを記載しておくと、送信先の間違いが防げます。
さらに、原本の取扱いと保存についても一文入れておくと安心です。電子データを原本とし、双方がそれぞれ保存すること、必要に応じて印刷した書面は写しであることを確認する趣旨です。最後に、例外の扱い(法令上書面が必要な契約や、相手が個別に書面締結を求めた場合は書面によるものとする)と、承諾の効力開始日を書きます。ひな形をそのまま使う前に、自社の契約実態に合っているかを弁護士に確認しておくと安全です。
取引先に依頼するメールの例文と進め方
依頼は、社内で切替時期を決めてから動きます。準備するものは、承諾書または覚書のひな形、サービスの説明資料(署名側の操作手順が分かるもの)、問い合わせ先の3点です。多くの電子契約サービスは受信側の登録を不要としているタイプがありますが、仕様は各社で異なるため、公式サイトの最新情報を確認してください。
メールの例文です。件名は「【ご連絡】契約書の電子契約への切替について」。本文は――いつもお世話になっております。株式会社○○の△△です。当社では、契約書類の作成・保管を効率化するため、◯年◯月より電子契約サービスを利用した契約締結へ順次切り替える予定です。つきましては、貴社との今後の契約について電子的方法で締結することにご承諾いただきたく、承諾書(案)を添付いたします。ご署名者のお名前・ご所属・メールアドレスをあわせてご教示いただけますと幸いです。ご不明な点やご要望がございましたら、遠慮なくお知らせください――という構成です。
ポイントは、強制の色を出さないことと、相手の作業負担を先に示すことです。「署名はメールのリンクから数分で完了します」「アカウント登録の要否はサービスの仕様に応じてご案内します」といった一文があると、返信率が変わります。件数が多い場合は、取引額や契約頻度の大きい先から順に個別連絡し、少額・単発の先は定型メールでまとめて案内する、という二段構えが現実的です。
相手が難色を示したときの対応
よくあるのは「社内規程で押印が必要」「電子署名の法的効力が分からない」「システム部門の承認が要る」の3つです。いずれも否定ではなく確認の段階なので、まず理由を聞き取ります。規程の問題であれば、先方の改定時期に合わせて切替日を後ろ倒しにするだけで解決することがあります。
法的効力への不安には、電子署名に関する法律の考え方や、サービスが提供する証跡の仕組みを説明した資料を渡すのが一般的な対応です。ただし自社で法的な保証をする説明は避け、「一般にこのように整理されています」「詳細は所管官庁の資料をご確認ください」という伝え方にとどめます。必要なら弁護士に説明文面を確認してもらってください。
それでも合意に至らない相手とは、無理に統一しない判断も現実的です。紙と電子が混在すると管理が面倒になりますが、契約管理台帳を一本にしておけば運用は回ります。台帳には、契約名・相手先・締結方法(電子/書面)・締結日・保存場所・更新日を並べておくと、後から探す手間が減ります。
社内側で整えておくこと
取引先に依頼する前に、自社の足元を固めます。誰が署名依頼を送れるのか、誰が署名権限者なのか、金額によって承認者が変わるのか。ここが曖昧なまま運用を始めると、後から締結済みの契約の権限を検証する羽目になります。電子契約サービスの権限設定と、社内の職務権限規程をそろえておきましょう。
保存の面では、電子取引のデータ保存に関する一般的な考え方をおさえておく必要があります。電子で授受した契約データは電子のまま保存する取扱いが求められる場面があり、検索できる状態での保管や改ざん防止の措置が論点になります。要件の詳細は国税庁の資料を確認し、自社の保存方法で足りるかは税理士にご相談ください。
あわせて、印紙の扱いについても社内で誤解が生じやすい点です。電子的に締結した場合の課税文書の考え方は個別の判断になりますので、税理士に確認したうえで社内ルールを文書化しておくと、担当者が迷いません。
電子契約への切替は、契約書の形式だけでなく、権限・保存・税務の整理まで含めた業務設計です。契約条項や承諾書の文面については弁護士、保存や印紙の扱いについては税理士に、導入前の段階で一度ご相談ください。自社の取引実態に合わせた形にしておくほど、後の運用が楽になります。
よくある質問
事前承諾書がないまま電子契約を送ってしまいました。契約は有効ですか。
法律上、書面によることが定められた契約を除けば、当事者が合意した方法で契約を締結できると一般に考えられており、署名依頼に応じて相手が電子署名した事実自体が合意の表れと評価される場面もあります。ただし個別の有効性は契約内容や状況によって判断が分かれますので、重要な契約については弁護士にご確認ください。
事前承諾書そのものを電子契約で取り交わしてもよいですか。
承諾書を電子的に取り交わす運用は実務で行われています。ただし、相手が電子での締結に慣れていない段階で承諾書まで電子で送ると戸惑わせることがあるため、最初の1通はメール添付とPDF返送、あるいは書面で交わすという進め方もあります。相手の状況に合わせて選んでください。
承諾書のひな形はどこで入手できますか。
電子契約サービスの提供会社が、利用者向けに文例を公開していることがあります。入手した文例をそのまま使うのではなく、対象範囲・使用サービス・署名権限者・例外の扱いを自社の実態に合わせて修正し、必要に応じて弁護士に確認したうえで使用することをおすすめします。
取引先が多い場合、全社から承諾を取るべきでしょうか。
一律に取る必要はなく、継続的な取引がある先や契約金額の大きい先から優先するのが現実的です。単発・少額の相手は、署名依頼メールに「電子契約で締結させていただきます」という案内文を添える運用にとどめ、異議があれば書面に切り替える、という形にしている会社もあります。