2026年(令和8年)の法改正で見直す労働条件通知書と就業規則
「2026年の改正で、労働条件通知書は書き換えないといけないの?」「就業規則はどこを直せばいい?」——人を雇い始めたばかりの会社ほど、こうした疑問は後回しになりがちです。この記事では、改正の有無をどこで確認するかという調べ方から、通知書と就業規則の突き合わせ方、届出までの手順を、判断の順番に沿って整理します。数字や施行日は年度によって変わるため、最終確認は必ず所管官庁の公式情報で行ってください。
この記事の結論
- 労働条件通知書は、雇い入れ時と契約更新時に、書面(本人が希望すれば電子メール等)で労働条件を明示するための書類で、明示すべき項目が法改正で追加されることがあります。
- 2026年(令和8年)に自社が対応すべき改正があるかどうかは、厚生労働省と都道府県労働局の公式サイトで、施行日・対象事業所・追加される明示事項の3点を確認するのが基本です。
- 労働条件通知書を直したら、同じ内容が就業規則にも書かれているかを突き合わせ、ずれがあれば就業規則を改定し、常時10人以上を使用する事業場では労働基準監督署に届け出ます。
2026年(令和8年)の改正で労働条件通知書は変わる?まず確認する3点
まず押さえておきたいのは、労働条件の明示ルールは一度きりの改正ではなく、数年おきに項目が追加・整理されてきたという点です。近年も、就業場所と業務の「変更の範囲」の明示や、有期契約における更新上限・無期転換に関する明示が加わるなど、通知書の書式そのものに影響する改正が行われてきました。そのため「2026年に何かあるか」を調べるときは、改正の名前を探すより、自社の雇用形態に関係する明示事項が増えていないかという観点で見ていくほうが早く進みます。
確認したいのは次の3点です。1つめは施行日で、いつから新しい書式で交付するのかが決まります。2つめは対象となる事業所や労働者で、有期契約者やパート・アルバイトのみが対象となる改正もあります。3つめは追加・変更される明示事項の中身で、これが通知書のどの欄に入るかを決める材料になります。
情報源は、厚生労働省のサイト、都道府県労働局や労働基準監督署のページ、育児・介護関係であれば同省の特設ページなどです。改正の解説記事は分かりやすい一方で、施行日や対象範囲が簡略化されていることもあります。最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。
労働条件通知書の義務化はいつから?何を明示するのか
労働条件の明示そのものは以前から使用者の義務とされており、「2026年から新しく義務になる」という性質のものではありません。労働基準法では、労働契約を結ぶときに賃金や労働時間などの主要な条件を明示することが求められており、一定の事項は書面の交付が原則とされています。本人が希望する場合には、メールやSNSのメッセージなど、出力して書面にできる方法での明示も認められています。
明示する内容は大きく分けて、必ず明示する事項と、制度がある場合に明示する事項があります。前者には、契約期間、有期契約の更新の基準、就業の場所と従事すべき業務、始業・終業時刻や休憩・休日・休暇、賃金の決定・計算・支払方法と締切・支払時期、退職に関する事項などが含まれます。後者には、退職手当、賞与、安全衛生、職業訓練などが挙げられます。
「義務化はいつから」と検索する方の多くは、実際には追加された項目の適用開始時期を知りたいケースです。項目の追加がある場合、施行日以後に締結・更新する契約から適用されるという形が一般的ですが、扱いは改正ごとに異なります。自社の契約更新日と施行日を並べて、どの契約から新書式にするかを先に決めておくと、現場が迷いません。
労働条件通知書のひな形・様式変更はどう直せばいい?
書式を直すときは、いきなり新しいひな形に乗り換えるのではなく、今使っている書式と、厚生労働省が公表しているモデル様式を横に並べ、項目を一つずつ突き合わせる方法が比較しやすく、記載漏れも見つけやすくなります。モデル様式は、一般労働者用、有期雇用者用、パート・有期雇用労働者用などに分かれているため、自社の雇用形態に近いものを選びます。
突き合わせの順番は、①自社の書式にあってモデルにない項目、②モデルにあって自社の書式にない項目、③文言は似ているが範囲の書き方が違う項目、の3段階で見ると整理しやすくなります。とくに③が落とし穴で、就業場所や業務を「本社」「営業」とだけ書いていると、将来の配置転換の範囲が読み取れません。変更の可能性がある範囲をどう書くかは、実際の運用と合わせて決める必要があります。
ひな形を更新したら、ファイル名に版数と更新日を入れ、古い版は別フォルダに移しておきます。小さな会社ほど、担当者のパソコンに複数の版が残り、うっかり旧様式で交付してしまう事故が起きがちです。交付の記録(いつ、誰に、どの版を渡したか)を一覧で残しておくと、後から確認するときに役立ちます。
就業規則(令和8年改正対応)はどこから見直すか
就業規則の見直しは、「法改正で直さざるを得ない箇所」と「実態とずれているから直したい箇所」を分けることから始めます。前者は、労働時間・休暇・ハラスメント防止・育児介護関係など、法令で定めが求められる領域です。後者は、テレワークの扱い、副業、経費精算のルールなど、運用が先に変わってしまっている領域です。両方をまとめて改定すると手戻りが増えるため、まず前者を優先します。
次に、労働条件通知書との突き合わせです。通知書に書いた労働時間や休日、賃金の締日・支払日が、就業規則や賃金規程の記載と食い違っていないかを確認します。ずれがある場合、どちらが正しいかを決めるのは会社の判断だけではなく、労働契約の解釈の問題になることがあります。判断に迷う箇所は、社会保険労務士に相談したうえで文言を決めるのが安全です。
作成・変更の手順は、①改定案をつくる、②労働者の過半数代表者(過半数組合がある場合はその組合)から意見を聴き意見書をもらう、③常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則(変更)届・意見書を添えて所轄の労働基準監督署に届け出る、④従業員に周知する、という流れです。10人未満の事業場でも、ルールを書面にしておくとトラブルの予防につながります。
ひとり社長・少人数の会社は、どこまでやれば足りる?
まだ従業員がいない、あるいは家族だけという段階であれば、就業規則の作成義務がかからない場合もあります。ただし、初めて人を雇う日が決まった時点で、労働条件通知書の準備、雇用保険・社会保険の手続き、労働者名簿と賃金台帳の整備は同時に動き出します。採用を決めてから初出勤日までの間に、通知書の交付を済ませておくのが基本です。
優先順位に迷ったら、次の順で見てください。まず、今いる(これから雇う)人の労働条件通知書が最新の明示事項を満たしているか。次に、就業規則の作成・届出義務が自社にかかる規模かどうか。最後に、育児・介護や短時間労働者に関する制度で、自社の従業員構成に関係するものがあるか。関係のない改正まで追いかけると、時間ばかりかかります。
年に一度、決算や年度替わりのタイミングで見直し日を決めておくと、改正の取りこぼしが減ります。カレンダーに「通知書ひな形の点検」「就業規則の点検」と入れ、前回の版数と比べるだけでも十分な出発点になります。
見直しから届出までのスケジュールの組み方
スケジュールは、施行日から逆算して組みます。目安として、施行日の2〜3か月前に改正内容の確認と自社への影響の切り分け、1〜2か月前に通知書ひな形と就業規則の改定案作成、施行日の前月までに意見聴取と届出、施行日までに従業員への周知、という順です。契約更新が集中する時期がある会社は、その手前に前倒ししておくと余裕が生まれます。
用意するものは、現行の労働条件通知書のひな形、就業規則と各規程、労働者名簿、直近の雇用契約書、そして厚生労働省のモデル様式です。これらを1つのフォルダにまとめておくと、社会保険労務士に相談するときも話が早く進みます。提出先は、就業規則の届出が所轄の労働基準監督署、雇用保険・社会保険の手続きはそれぞれハローワークと年金事務所(または健康保険組合)です。
改定後は、従業員が見られる場所に置く、社内システムに掲示する、といった周知まで行って一区切りです。周知されていない規則は効力が争われることがあるため、配布や掲示の記録も残しておきましょう。
判断に迷ったら社会保険労務士へ
労働条件の明示や就業規則の文言は、法令の要件を満たしているかどうかだけでなく、自社の働き方の実態と合っているかまで含めて判断する必要があります。とくに、就業場所・業務の変更の範囲の書き方、有期契約の更新や無期転換に関する記載、育児・介護に関する制度の設計は、書き方ひとつで後の運用が変わることがあります。
改正の適用時期や対象範囲は、公表資料の読み方によって解釈が分かれる場面もあります。自社にどこまで対応が必要か判断がつかない場合や、初めて就業規則を作る場合は、社会保険労務士に相談し、必要に応じて労働基準監督署の窓口も活用してください。賃金に関する税務の取り扱いが絡む場合は、税理士にもあわせてご確認ください。
よくある質問
労働条件通知書と雇用契約書は、どちらを用意すればいいですか?
労働条件通知書は使用者が労働条件を明示するための書類、雇用契約書は双方が合意した内容を確認する書類で、目的が異なります。実務では、明示事項を盛り込んだ「労働条件通知書兼雇用契約書」を1通にまとめ、双方が署名・記名押印する形も広く使われています。どの形式にするかは、自社の運用と保管方法に合わせて決めてください。
労働条件通知書はメールで送っても大丈夫ですか?
労働者本人が希望した場合には、出力して書面を作成できる方法であれば、電子メール等による明示も認められています。送信後は、到達を確認し、送信記録と本人の希望があったことの記録を残しておくと安心です。詳細な要件は厚生労働省の資料でご確認ください。
従業員が10人未満でも就業規則は必要ですか?
常時10人以上の労働者を使用する事業場には作成・届出の義務がありますが、10人未満の場合は法律上の義務としては求められません。ただし、休暇や服務のルールを文書にしておくと、判断のばらつきやトラブルの予防につながります。将来の採用を見据えて、早めに骨組みだけ作っておく会社もあります。
就業規則を変更したら、いつから効力が生じますか?
一般に、変更内容を従業員に周知したうえで、規則に定めた施行日から適用されると考えられています。労働条件を不利益に変更する場合は、変更の合理性など別の論点が加わり、慎重な検討が必要です。個別の事情によって扱いが変わることがあるため、社会保険労務士や弁護士にご確認ください。