労働条件通知書の明示事項|常に明示が必要な項目と制度がある場合の項目の整理

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

はじめて人を雇うとき、最初につまずきやすいのが労働条件通知書です。「何を書けばいいのか」「うちには退職金制度がないけれど、その欄はどうするのか」——この2つが分かれば、書類の形はほぼ決まります。労働基準法が求める明示事項は、大きく「常に明示が必要な事項」と「その制度を設けている場合に明示が必要な事項」に分かれます。この記事では、その区別と書き方の順番を、ひとり社長や小さな会社の担当者が実務で迷わない形に整理します。

この記事の結論

  • 労働条件通知書の明示事項は、雇い入れのたびに常に明示が必要な事項と、その会社に制度がある場合だけ明示が必要な事項の2種類に分かれます。
  • 契約期間、就業場所と業務(変更の範囲を含む)、労働時間、賃金、退職に関する事項は、原則として書面の交付によって明示することが求められます。
  • 退職手当や賞与、休職などは、制度を設けている場合に明示が必要な事項にあたり、制度がなければ記載を省くか「制度なし」と書く扱いが一般的です。

労働条件通知書の明示事項は、なぜ2種類に分かれるのか

労働基準法は、使用者が労働者を雇い入れるときに労働条件を明示するよう求めています。その明示事項は、どの会社のどの雇用でも共通して示すべきものと、会社がその制度を設けている場合にだけ示すべきものに分かれます。前者が一般に「常に明示が必要な事項」、後者が「制度がある場合に明示が必要な事項」と呼ばれるものです。

この区別を先に押さえておくと、テンプレートの空欄で手が止まりません。たとえば退職金の欄は、制度がなければ埋める必要のない欄です。逆に、賃金の締切日や支払日の欄は、どんなに小さな会社でも空欄にしておけない欄です。

さらに、前者のうち一部は「書面を交付して明示する」ことが求められています。口頭の説明だけで足りるとされる項目もありますが、後から言った言わないになりやすい部分でもあるため、実務では書面にまとめて渡すのが分かりやすい進め方です。

常に明示が必要な事項には何が含まれるか

雇い入れのたびに明示が求められるのは、おおむね次の内容です。①労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)、②有期契約の場合は更新の有無と更新の判断基準、③就業の場所と従事すべき業務、④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制で働く場合の就業時転換に関する事項、⑤賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切と支払の時期、昇給に関する事項、⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)です。

このうち昇給に関する事項については、書面交付までは求められていない、という整理がされています。ただし、昇給の有無や時期がはっきりしないと入社後の不満につながりやすいため、「毎年◯月に会社の業績と本人の評価により決定する」といった程度の記載を入れておくと、説明の手間が減ります。

賃金欄でよくある抜けは、割増賃金の計算に関する説明、通勤手当などの諸手当、そして支払方法(口座振込か現金か)です。振込にする場合は本人の同意を得たうえで口座を確認します。金額そのものは各社の賃金規程や個別の条件に沿って書いてください。

2024年4月から追加された明示事項に注意

2024年4月以降、明示事項がいくつか追加されています。すべての労働者に共通するのが「就業場所・業務の変更の範囲」の明示です。雇い入れ直後の就業場所と業務に加えて、将来の配置転換などで変わり得る範囲まで示す必要があるとされています。

有期契約で働く人については、更新上限(通算契約期間や更新回数の上限)の有無と内容の明示、そして無期転換の申込みができるタイミングでの、申込機会と転換後の労働条件の明示が加わりました。有期契約を反復更新している会社は、更新のたびに通知書の内容を見直す運用にしておくと漏れにくくなります。

「変更の範囲」は、テレワークの可否や出向の可能性まで含めてどこまで書くか迷いやすいところです。実態より広く書きすぎても狭く書きすぎても後の運用に影響しますので、判断に迷う場合は厚生労働省が公表しているモデル様式やパンフレットを確認し、必要に応じて社会保険労務士に相談してください。

制度がある場合に明示が必要な事項と、その書き方

会社がその制度を設けている場合に明示が求められるのは、おおむね次の内容です。退職手当に関する事項(対象者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払時期)、臨時に支払われる賃金や賞与、最低賃金額に関する事項、労働者に負担させる食費・作業用品など、安全衛生、職業訓練、災害補償および業務外の傷病扶助、表彰および制裁、休職に関する事項です。

制度がないのであれば、その欄は記載しないか、「賞与:制度なし」「退職手当:制度なし」と書く扱いが一般的です。空欄のままにすると、「あるのかないのか分からない」と受け取られ、入社後のトラブルの火種になります。制度をこれから作る予定がある場合も、現時点の状態を書いておくほうが誤解が生じにくくなります。

制裁(減給や懲戒)や休職は、就業規則がある会社なら規程と内容をそろえる必要があります。通知書には「詳細は就業規則第◯条による」と書き、就業規則をいつでも見られる状態にしておく、という組み合わせが実務では扱いやすい形です。

作成から交付までの手順と、書面・メールの使い分け

手順は、①募集・面接時に伝えた条件を書き出す、②就業規則や賃金規程と突き合わせる、③厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書の様式に落とし込む、④雇い入れの日までに本人へ渡す、という順が分かりやすいでしょう。渡すタイミングは入社日当日ではなく、内定後・入社前が望ましいとされています。条件に納得したうえで入社してもらうためです。

明示の方法は書面の交付が原則ですが、労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール、SNSのメッセージ機能など、出力して書面を作成できる方法での明示も認められています。メールで送る場合は、本人が希望した記録(メール返信やチェック欄など)を残し、PDFなど改変されにくい形式で送るのが無難です。

労働条件通知書と雇用契約書は別の書類です。前者は使用者から労働者への一方向の明示、後者は双方が署名・押印して合意を確認するものです。実務では両方の性格を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」を使い、2部作成して各1部ずつ保管する会社も多くあります。どちらの形でも、控えを会社側でも保管しておいてください。

労働条件の明示を怠った場合、罰則の対象となることがあるとされています。また、明示した条件と実際の条件が違っていた場合、労働者は即時に契約を解除できるとされています。書類を整えることは、会社を守ることでもあります。

パート・アルバイト、業務委託との違いをどう扱うか

パートタイム・有期雇用で働く人については、労働基準法の明示事項に加えて、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口の4点を文書などで明示することがパートタイム・有期雇用労働法で求められています。「有無」を書けばよい項目なので、制度がなければ「なし」と記載します。正社員用のひな形をそのまま使うと、この4点が抜けやすいので注意してください。

一方、業務委託(請負・準委任)の相手には、労働条件通知書ではなく業務委託契約書を交わします。ただし、指揮命令の実態や時間的拘束の度合いによっては、契約の名称にかかわらず労働者として扱われることがあります。委託のつもりで始めた関係が実質的に雇用に近い場合は、早い段階で整理しておくほうが安全です。

フリーランスとの取引については、取引条件の明示を求める法律の整備も進んでいます。雇用と委託の線引き、明示すべき事項の具体的な範囲は個別の事情で判断が変わりますので、判断に迷う場合や、有期契約の更新上限・無期転換の設計を含めて整えたい場合は、社会保険労務士に相談することをおすすめします。就業規則や賃金規程の整備とあわせて見てもらうと、通知書との食い違いも同時に解消できます。

よくある質問

労働条件通知書と雇用契約書は両方必要ですか。

法律が求めているのは労働条件の明示であり、雇用契約書の作成そのものは義務とはされていません。ただし、合意の記録を残す意味では契約書の形にする利点があるため、実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」として1通にまとめ、双方が署名して各1部保管する運用がよく使われています。

退職金や賞与の制度がない場合、その欄は空欄でよいですか。

制度がなければ明示義務の対象外とされていますが、空欄のままだと「あるのかないのか分からない」と受け取られがちです。「退職手当:制度なし」「賞与:制度なし」と書いておくほうが、入社後の認識違いを防ぎやすくなります。特にパート・有期雇用の方には、賞与・退職手当・昇給の有無の明示が求められています。

労働条件通知書はメールで送っても構いませんか。

労働者が希望した場合には、電子メールなど出力して書面を作成できる方法での明示も認められています。本人が希望した記録を残し、PDFなど改変されにくい形式で送るとよいでしょう。会社側の都合だけで電子化することはできない点にご注意ください。

アルバイトや短期の契約でも労働条件通知書は要りますか。

雇用期間の長さや働く時間にかかわらず、労働者を雇い入れるときは労働条件の明示が求められます。数日間の短期アルバイトでも同様です。有期契約の場合は、更新の有無と判断基準、更新上限の有無もあわせて明示する必要があるとされています。

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