労働条件通知書の手当・賞与・昇給の記載例|通勤手当や賃金締切日の書き方

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

はじめて人を雇うとき、いちばん手が止まるのが労働条件通知書の「賃金」の欄です。基本給だけならまだしも、通勤手当・昇給・賞与・退職金・賃金締切日と項目が並び、どこまで書けばいいのか分からなくなります。この記事では、賃金まわりの各項目について、書き方の型と判断の順番を具体的に整理します。制度がない場合の書き方も含めて、そのまま自社の様式に落とし込める形にしました。

この記事の結論

  • 労働条件通知書の賃金欄は、基本給・手当・割増賃金の計算方法・締切日と支払日・支払方法の順に埋めていくと抜けが出にくくなります。
  • 通勤手当は「実費支給(上限月額あり)」のように支給基準と上限を明記し、定期代相当か日額かも書き分けると後のトラブルを防げます。
  • 昇給・賞与・退職金は制度がなければ「なし」と書けばよく、あいまいにせず有無をはっきり示すことが求められます。

労働条件通知書の賃金欄には何を書く? 埋める順番

労働条件通知書のうち、賃金に関する事項は書面で明示することが求められる中心的な部分です。埋める順番を決めておくと迷いません。まず①基本給、②手当の種類と金額(または計算方法)、③所定時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金率、④賃金締切日と支払日、⑤支払方法と控除、の順に書きます。最後に⑥昇給、⑦賞与、⑧退職金を並べれば、賃金欄はひととおり完成します。

この順番には理由があります。①〜③は「いくら発生するか」、④〜⑤は「いつどうやって渡すか」、⑥〜⑧は「将来どうなるか」です。カテゴリごとにまとめて考えると、書き漏れに気づきやすくなります。

金額が確定しないものは、金額ではなく計算方法を書くのが基本の型です。たとえば通勤手当なら「実費支給(1か月あたり◯◯円を上限)」のように、基準を示せば足ります。上限額を入れる場合は自社で決めた数字を記載してください(この記事では具体額は示しません)。

通勤手当の記載例|実費支給・上限あり・支給なしの書き分け

通勤手当は法律上の支給義務がある手当ではないため、まず「支給するかどうか」を決めます。支給しない方針なら「通勤手当 なし」と書けば構いません。曖昧にせず、なしと書き切るほうが後の認識ずれを防げます。

支給する場合は、次の3点をセットで書きます。(1)何に対して払うか(定期代相当か、実際にかかった交通費か、距離に応じた額か)、(2)上限を設けるか、(3)支給のタイミング(毎月か、3か月定期をまとめてか)。記載例としては「通勤手当 実費支給(公共交通機関の最も経済的かつ合理的な経路による1か月定期代相当額。ただし1か月あたり◯◯円を上限とする)」といった形です。

マイカーや自転車通勤を認める場合は、距離区分に応じた月額を定めるやり方が一般的です。「通勤手当 自動車通勤の場合は片道の通勤距離に応じ、賃金規程別表の定めによる」のように、規程に委ねる書き方もできます。なお通勤手当には税務上の非課税の取り扱いがありますが、限度額や条件は制度の詳細に関わるため、給与計算に反映する前に税理士や国税庁の資料でご確認ください。

在宅勤務と出社が混在する場合は、定期代を払い続けるのか、出社日ごとの実費にするのかで金額が大きく変わります。出社頻度が月に数日程度なら日額実費型、ほぼ毎日出社なら定期代型、というように運用実態から選ぶと計算がシンプルになります。

昇給・賞与・退職金の記載例|「なし」と書いてよい

昇給・賞与・退職金は、いずれも制度として設けること自体が法律で義務づけられているものではありません。そのため「制度なし」であれば、そう書けば足ります。むしろ書かずに空欄にしておくほうが、「あるのかないのか」で揉める原因になります。

昇給の記載例は、制度がある場合は「昇給 あり(原則として毎年◯月に、会社の業績および本人の勤務成績を勘案して決定する。ただし業績等により行わないことがある)」という形が使いやすいです。金額や率を書き込むと毎年拘束されるため、時期と判断要素を示すにとどめるのが実務的です。制度がなければ「昇給 なし(ただし会社の状況により見直すことがある)」と書けます。

賞与も同じ考え方です。「賞与 あり(原則として◯月・◯月に、会社の業績および本人の勤務成績等を勘案して支給する。業績等により支給しないことがある)」。支給しない可能性を明記しておかないと、毎回の支給が当然の権利と受け取られることがあります。制度がなければ「賞与 なし」です。

退職金は「退職手当 なし」と書くか、制度がある場合は「勤続◯年以上の者に対し、退職金規程の定めにより支給する」と規程に委ねます。退職金は長期の負担になるため、設けるかどうかは資金繰りも含めて慎重に判断し、制度設計は社会保険労務士に相談することをおすすめします。

賃金締切日・支払日・支払方法の書き方

賃金締切日は「いつまでの労働分を、その月の給与として計算するか」の区切りです。記載例は「賃金締切日 毎月末日」「毎月20日」など。支払日は「賃金支払日 翌月◯日(当日が休日の場合は直前の営業日)」のように、休日にあたったときの扱いまで書いておくと運用で迷いません。

締切日と支払日の間隔は、給与計算にかかる日数から逆算します。勤怠の集計、残業代の計算、社会保険・税の控除確認まで考えると、ある程度の日数を取ったほうが安全です。末日締めの翌月払いにしておくと、計算期間と暦月が一致するため管理がしやすくなります。

支払方法は「通貨払い」が原則で、口座振込にする場合は本人の同意を得たうえで「本人が指定する金融機関の口座へ振込」と記載します。控除については「法令に定めるもの(所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料)のほか、労使協定に基づくもの」と書くのが一般的です。法令以外のものを天引きするには手続きが必要になるため、社宅費や積立金などを想定しているなら事前に確認してください。

割増賃金率の欄も忘れがちです。所定時間外、法定時間外、休日労働、深夜労働それぞれの率を書く欄が様式にありますので、法令に定められた率を下回らない範囲で自社の率を記載します。詳しい率は厚生労働省の資料でご確認ください。

福利厚生・社会保険・その他の欄はどこまで書く?

社会保険の適用や雇用保険の適用の有無は、労働条件通知書の定型様式に欄が設けられていることが多い項目です。「健康保険・厚生年金保険・雇用保険 加入」のように、加入する制度名にチェックまたは記載します。加入の要否は労働時間や日数などの条件で変わるため、判断に迷う場合は年金事務所やハローワーク、社会保険労務士に確認してください。

福利厚生は法律上の明示事項として必ず書かなければならないものではありませんが、採用時の説明と実態をそろえる意味で書いておくと役立ちます。健康診断、慶弔見舞金、社内貸与のPCや携帯、資格取得支援などがあれば「別途、就業規則および各規程の定めによる」とまとめて記載する方法が簡潔です。

注意したいのは、労働条件通知書に書いた内容は労働条件の一部として扱われることがある、という点です。まだ制度として固まっていないものを「あり」と書くと、後から取りやめにくくなります。検討段階のものは書かない、または「導入を検討中であり、実施内容は別途通知する」といった書き方にとどめるほうが無難です。

作成後にやること|交付方法と記録の残し方

書き上げたら、入社日までに本人へ交付します。交付は書面が基本ですが、本人が希望した場合には電子メールなど電磁的方法による明示も認められる取り扱いがあります。電子で送る場合は、本人が出力して保存できる形式にし、送付した記録を残しておきましょう。

自社控えは、本人に渡したものと同じ内容で保管します。受け取った旨の署名や、メールの送信記録をセットで保存しておくと、後から「聞いていない」となったときに確認できます。契約更新や条件変更があったときは、そのつど新しい通知書を出し、古いものと差し替えずに時系列で残すのが基本です。

賃金の記載は、労働条件通知書・雇用契約書・就業規則(賃金規程)の3つで食い違わないようにそろえてください。通知書では「規程による」と書き、規程側に具体的な内容を置く形にすると、条件変更のたびに全員分の通知書を作り直す手間が減ります。

なお、記載内容が自社の実態に合っているか、割増賃金率や社会保険の適用の判断が適切かは、個別の事情で変わります。はじめて雇用契約を結ぶとき、あるいは手当の新設や賞与制度の導入を考えているときは、社会保険労務士に一度確認しておくと安心です。税務上の取り扱い(通勤手当の非課税枠や賞与にかかる源泉徴収など)については、顧問の税理士にあわせてご相談ください。

よくある質問

通勤手当を実費支給にする場合、労働条件通知書にはどう書けばいいですか。

「実費支給(最も経済的かつ合理的な経路による1か月定期代相当額。1か月あたり◯◯円を上限とする)」のように、何を基準に、いくらまで払うかを書くのが基本です。上限額や支給の単位は自社で決めて記載してください。マイカー通勤を認める場合は距離区分に応じた額を規程で定め、通知書では規程に委ねる書き方もできます。

賞与や退職金の制度がない場合、労働条件通知書は空欄でよいですか。

空欄にせず「賞与 なし」「退職手当 なし」と書き切るほうが安全です。空欄だと有無が不明確になり、後から認識のずれが生じることがあります。将来導入する可能性があるなら「なし(ただし会社の状況により見直すことがある)」と添えておく方法もあります。

昇給の欄に金額や率を書く必要はありますか。

金額や率まで書く必要は一般にありません。「毎年◯月に会社の業績および本人の勤務成績を勘案して決定する。業績等により行わないことがある」のように、時期と判断要素を示す書き方が実務ではよく使われます。具体的な金額を書くと毎年その水準に縛られる可能性があるため、慎重に検討してください。

賃金締切日と支払日は自由に決められますか。

締切日と支払日の設定自体は会社で決められますが、賃金の支払いには一定の原則(毎月1回以上、一定の期日に支払うなど)が法令で定められています。給与計算にかかる日数を考え、末日締め翌月払いなど余裕のある設定にする会社が多く見られます。詳しい要件は厚生労働省の資料を確認するか、社会保険労務士にご相談ください。

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