年末調整で受けられる控除の範囲|住宅ローン・保険料と確定申告に回すもの
年末調整は「その年の給与にかかる所得税を精算する手続き」です。ただし、すべての控除が年末調整で片づくわけではなく、どうしても確定申告に回さなければならないものがあります。ひとり社長でも、従業員を雇った小さな会社でも、この線引きを知らないまま書類を集めると、11月〜12月に何度も社員に確認する羽目になります。この記事では、年末調整でできる控除とできない控除を一覧で整理し、住宅ローン控除やiDeCo、医療費控除・ふるさと納税の扱いを、判断の順番に沿って説明します。
この記事の結論
- 年末調整では、生命保険料控除・地震保険料控除・社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除(iDeCoを含む)・扶養控除・配偶者控除・障害者控除などの所得控除に加え、2年目以降の住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)まで処理できます。
- 医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税をワンストップ特例なしで行った場合)・雑損控除の3つは年末調整では処理できず、本人が確定申告する必要があります。
- 住宅ローン控除は初年度のみ本人の確定申告が必要で、2年目以降は税務署から届く証明書と金融機関の残高証明書を会社に提出すれば年末調整で処理できます。
年末調整でできる控除の一覧と、できない控除の線引き
年末調整で処理できるのは、会社が給与から把握できる情報と、本人が証明書を出せば足りる控除です。具体的には、基礎控除、配偶者控除・配偶者特別控除、扶養控除、障害者控除、寡婦控除・ひとり親控除、勤労学生控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除。ここに、2年目以降の住宅ローン控除(税額控除)が加わります。
一方、年末調整では処理できないのが、医療費控除、寄附金控除、雑損控除の3つです。これらは領収書や支出の実態を税務署が確認する前提の控除で、会社が代わりに計算する仕組みになっていません。該当する人は、年末調整とは別に、本人が翌年に確定申告をすることになります。
判断に迷ったら、まず「会社に証明書を出せば済むか、本人が支出の明細を出す必要があるか」で分けてみてください。保険会社や国民年金基金連合会、税務署から本人あてに控除証明書が届くものは、ほぼ年末調整の対象と考えてよいでしょう。
年末調整の住宅ローン控除は、1年目と2年目以降で手続きが違う
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、住み始めた最初の年だけ、本人が確定申告をする必要があります。会社の年末調整では処理できないため、入社間もない社員が「今年家を買いました」と言ってきたら、まず初年度かどうかを確認してください。初年度は、登記事項証明書や売買契約書の写し、借入先の年末残高証明書などをそろえて、本人が住所地の税務署に申告します。
2年目以降は年末調整で処理できます。初年度の確定申告をすると、税務署から残りの適用年分をまとめた「住宅借入金等特別控除申告書」が本人あてに送られてきます(年によって様式や送付方法が変わることがあるため、届いていない場合は税務署に確認を)。これと、金融機関から秋以降に届く年末残高証明書の2点を、年末調整の書類と一緒に会社へ提出してもらいます。
注意したいのは、住宅ローン控除が「所得控除」ではなく「税額控除」である点です。計算した所得税額から直接差し引くため、控除しきれない分が出ることがあります。その場合、住民税から一部控除される仕組みがありますが、条件があるので、金額が大きいケースは税理士に確認しておくと安心です。
年末調整の保険料控除とiDeCo:必要な証明書と集めるタイミング
生命保険料控除は、一般の生命保険料・介護医療保険料・個人年金保険料の3つに分かれ、さらに契約時期によって新旧の区分があります。社員に「保険料控除証明書を出してください」と伝えるときは、一般・介護医療・個人年金のどれに当たるか書かれている面を含めて提出してもらうと、後戻りが減ります。地震保険料控除も同じく、損害保険会社から届く証明書が必要です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、小規模企業共済等掛金控除として年末調整で処理できます。国民年金基金連合会から「小規模企業共済等掛金払込証明書」が本人あてに届くので、これを提出してもらいます。給与天引きで納付している場合は会社が把握していますが、個人口座からの引き落としにしている社長・社員は、本人が証明書を出さないと控除が漏れます。ここは毎年よく起きる抜けです。
小規模企業共済の掛金も同じ控除区分です。役員が加入しているケースは、独立行政法人中小企業基盤整備機構から届く証明書を使います。証明書は秋頃に届くものが多いので、社内アナウンスは10月中に一度出しておくと、回収がスムーズになります。
医療費控除とふるさと納税は年末調整では処理できない
医療費控除は、本人と生計を一にする家族の医療費をまとめて計算するため、年末調整では処理できません。翌年に本人が確定申告をします。1年分の医療費の明細を作る必要があり、健康保険組合から届く医療費のお知らせを使える場合もあります。セルフメディケーション税制という選択肢もありますが、医療費控除との併用はできない扱いです。どちらが有利かは状況によるため、金額が大きいときは税理士に相談してください。
ふるさと納税は寄附金控除にあたり、これも年末調整では処理できません。ただし、確定申告をしない給与所得者で、寄附先の自治体数が一定以下などの条件を満たす場合は、ワンストップ特例を使うと確定申告なしで住民税から控除される仕組みがあります。申請書の提出期限は寄附の翌年初めに設定されているので、社員から質問があったら「会社では処理できないので、ワンストップ特例の申請書を自治体に出すか、確定申告を」と案内します。
ここで見落としがちなのが、医療費控除や住宅ローン控除の初年度で確定申告をすると、ワンストップ特例の申請が無効になる点です。確定申告をするなら、ふるさと納税分も申告書に含める必要があります。年末調整の案内文に一行入れておくだけで、翌年の問い合わせがかなり減ります。
会社側のスケジュールと、集める書類の順番
実務の流れは、10月に案内、11月に回収、12月の給与で精算、というのが一般的な形です。まず10月中に、社員へ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」「保険料控除申告書」の様式を配り、必要な証明書を案内します。様式は国税庁のサイトで毎年公開されるので、その年の最新版を使ってください。
次に、本人が用意する添付書類をそろえてもらいます。生命保険料・地震保険料の控除証明書、iDeCoや小規模企業共済の払込証明書、国民年金保険料を自分で払っている場合はその控除証明書、住宅ローン控除の2年目以降なら税務署の申告書と年末残高証明書。中途入社の社員がいれば、前職の源泉徴収票も必要です。これが届かないと年末調整を完了できないので、早めに催促します。
回収がそろったら12月の給与または賞与で過不足を精算し、年明けに源泉徴収票を本人へ交付、法定調書合計表や給与支払報告書を税務署・市区町村へ提出します。提出期限は年明けの1月に設定されているものが多いので、12月中に下準備をしておくと慌てません。期限や様式の詳細は、国税庁および各市区町村の最新の案内を確認してください。
ひとり社長・小規模会社が迷いやすいケースの判断基準
ひとり社長で、自分に役員報酬を出している場合も、会社として年末調整を行うのが基本です。「自分ひとりだから確定申告でいい」と思いがちですが、給与を支払う以上は源泉徴収と年末調整の対象になります。そのうえで、医療費控除やふるさと納税がある年は、年末調整の後に自分で確定申告を追加する、という二段構えになります。
副業や不動産収入がある社員から「年末調整だけでいいですか」と聞かれたら、給与以外の所得の有無と金額で判断が変わります。会社としては「年末調整では給与分しか精算できないので、他の所得がある場合は確定申告が必要になることがあります」と伝え、個別の判断は本人が税務署や税理士に確認する、という整理にしておくのが無難です。
2か所以上から給与を受けている人は、扶養控除等申告書を出した1社だけが年末調整を行います。掛け持ちの社員がいる場合は、自社が主たる給与の支払先かどうかを確認してから進めてください。判断に自信が持てないときは、早めに税理士に相談すると、12月の駆け込みを避けられます。
迷ったら専門家に確認を
年末調整は毎年のように様式や控除の要件が細かく変わります。住宅ローン控除の適用条件、配偶者控除の所得要件、中途入社者の扱いなど、判断が分かれる場面では、自己流で進めると後から訂正が必要になることがあります。
控除の適用可否や所得税の計算については税理士、従業員の社会保険や給与計算まわりの実務については社会保険労務士が相談先になります。顧問がいない場合も、年末調整の時期だけスポットで相談を受けている事務所があります。制度の詳細は国税庁の最新の資料をあわせて確認してください。
よくある質問
年末調整で医療費控除は受けられますか。
医療費控除は年末調整では処理できず、翌年に本人が確定申告をする必要があります。年末調整で所得税を精算した後、医療費の明細を作って申告する流れになります。金額が大きい場合や、セルフメディケーション税制との選択に迷う場合は、税理士にご確認ください。
住宅ローン控除は年末調整でできますか。
住み始めた最初の年は本人の確定申告が必要で、2年目以降は年末調整で処理できます。2年目以降は、税務署から届く住宅借入金等特別控除申告書と、金融機関の年末残高証明書を会社へ提出します。書類が届かない場合は、税務署や借入先に問い合わせてください。
iDeCoの掛金は年末調整の対象になりますか。
iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除として年末調整で処理できます。国民年金基金連合会から本人あてに届く払込証明書を、保険料控除申告書に添えて会社へ提出します。個人口座から引き落としている場合は会社が把握していないため、提出漏れに注意してください。
ふるさと納税をしたら年末調整で何か出す書類はありますか。
ふるさと納税は寄附金控除にあたるため、年末調整では処理できず、会社に出す書類はありません。確定申告をするか、条件を満たす場合はワンストップ特例の申請書を寄附先の自治体へ提出します。医療費控除などで確定申告をする年は、ふるさと納税分も申告書に含める扱いになります。