本店移転後の源泉所得税と給与支払事務所の届出|納付先と納期の特例はどうなる
本店を移転すると、法人税の異動届出書のことは思い出すのに、源泉所得税の話は後回しになりがちです。ところが源泉所得税は毎月(または半年ごと)の納付がある税目で、納付先の税務署を間違えたまま納めてしまうと、後から整理する手間がかかります。この記事では、本店移転にともなう「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の出し方、納付先の税務署がいつから変わるのか、納期の特例の承認は引き継がれるのか、移転後の納付書はどう書くのかを、実際に手を動かす順番で整理します。
この記事の結論
- 本店移転で給与の支払事務を行う場所も移る場合は、原則として「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を移転前の納税地を所轄する税務署に提出します(提出先の扱いは改正されている場合があるため、国税庁の最新の様式・手引きで確認してください)。
- 源泉所得税の納付先は、移転後は新しい給与支払事務所の所在地を所轄する税務署となるのが原則で、届出の提出と納付書の記載内容の変更をあわせて行います。
- 源泉所得税の納期の特例の承認は、本店移転によって自動的に失われるものではなく、届出によって引き継がれる取扱いが一般的ですが、個別の状況は所轄税務署または税理士に確認してください。
本店移転で源泉所得税に関して必要な手続きは何か
本店移転にともなう税務署への届出は、大きく分けて二つあります。ひとつは法人そのものの納税地の変更を知らせる「異動届出書」、もうひとつが給与の支払事務を行う場所の移転を知らせる「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」です。前者は法人税・消費税など法人全体の納税地に関するもの、後者は源泉所得税に関するものだと整理すると分かりやすくなります。
ひとり社長の会社や小規模な会社では、本店=給与支払事務所であることがほとんどです。その場合、本店が移れば給与支払事務所も移ることになるため、両方の届出が必要になると考えておくのが安全です。逆に、本店だけを登記上移転し、実際に給与計算や支払いを行う事務所は従来どおりという場合は、給与支払事務所は移転していないという整理になることもあります。
どちらに当てはまるか迷ったら、「給与計算をして、源泉徴収をして、実際に支払いの事務をしている場所はどこか」で判断します。登記上の本店所在地ではなく、事務を行っている実態の場所が基準になる点が、法人税の納税地と混同しやすいところです。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書はどこに出すのか
この届出書は、給与支払事務所等を開設したとき、移転したとき、廃止したときに提出するもので、様式は国税庁のサイトからダウンロードできます。提出期限は、その事実があった日から1か月以内とされています。本店移転の場合は、移転した日(実際に事務所が移った日)を起算点として考えます。
提出先は、従来は「移転前の所在地を所轄する税務署」とされてきました。ただし提出先の取扱いや様式は見直されることがあるため、書く前に必ず国税庁の最新の様式と記載要領を確認してください。様式の余白や手引きに提出先が明記されていることが多いので、そこを見るのが確実です。
記載する内容は、法人名・法人番号・代表者名、移転前と移転後の所在地、移転年月日、給与の支払いを受ける人の人数などが中心です。提出方法は、書面のほかe-Taxでも行えます。e-Taxを使っている会社なら、異動届出書とまとめて電子で提出しておくと、控えの保管も楽になります。
源泉所得税の納付先の税務署はいつから変わるのか
源泉所得税は、給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署に納付するのが原則です。したがって本店(=給与支払事務所)を移転した場合、移転後に納付するぶんは新しい所在地を所轄する税務署が納付先になります。
ここで迷いやすいのが「どの時点の給与から新しい税務署か」という点です。実務では、納付をする時点で事務所がどこにあるかを基準に考え、移転後に行う納付は新しい所轄税務署あてとするのが一般的です。ただし、移転日と給与の支払日、納付期限が月をまたいで入り組む場合は判断が分かれることがあるため、移転日と支払日を書き出したうえで、所轄税務署または顧問税理士に確認してから納めると安心です。
なお、金融機関の窓口で納付する場合、納付書に書かれた税務署名に従って処理されます。旧所轄の税務署名のまま納めてしまっても、後から税務署間で整理されることが多いのですが、二度手間になるうえ、納付の記録を照合する際に時間がかかります。納付書の記載を先に直しておくのが結果的に早道です。
本店移転で納期の特例はどうなるのか
源泉所得税の納期の特例は、給与の支払いを受ける人が常時10人未満である源泉徴収義務者が申請し、承認を受けることで、毎月の納付を年2回にまとめられる制度です。この承認は法人(源泉徴収義務者)に対して与えられているもので、本店移転をしたことだけを理由に自動的に取り消されるものではありません。
そのため、移転にあたって「納期の特例の承認に関する申請書」を出し直す必要は、通常はありません。給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を提出することで、新しい所轄税務署にも状況が引き継がれる取扱いが一般的です。ただし、事務所の増設や統合をともなう移転、複数の事業所で別々に給与事務を行っている場合などは扱いが変わることがあるため、個別に確認してください。
不安な場合は、移転後最初の納付時期の前に、新しい所轄税務署の源泉所得税担当に電話で確認しておくとよいでしょう。「本店を移転し、給与支払事務所等の移転届出書を提出済みです。納期の特例はそのまま継続という理解でよいか」と伝えれば、状況を確認してもらえます。
移転後の納付書はどう書けばよいか
源泉所得税の納付書(所得税徴収高計算書)には、税務署名・整理番号・住所(所在地)・名称があらかじめ印字されているものを使っている会社が多いと思います。移転後は、これらの記載が実態と合わなくなります。手元の用紙を使う場合は、旧所在地を二重線で消して新しい所在地を書き、税務署名も新しい所轄税務署に書き直すのが実務上の一般的な対応です。
届出を提出すると、新しい所轄税務署から新しい納付書が送られてくることがあります。移転から日が浅く手元に届いていない場合は、新しい所轄税務署の窓口で用紙をもらう、または国税庁のサイトの様式を利用する方法があります。整理番号が分からないときは空欄のままにせず、税務署に確認して記載します。
e-Taxで納付している会社は、利用者情報の住所・所轄税務署の登録内容を更新する必要があります。ここを直さないまま送信すると、旧所轄あてのデータになってしまうことがあります。会計ソフトや給与ソフトに登録している税務署名・所在地も、同じタイミングでまとめて直しておくと、次の納付から迷いません。
移転のときにまとめてやっておきたいこと
源泉所得税まわりを整理するついでに、移転にともなう届出を一度に棚卸ししておくと抜けが減ります。税務関係では、法人税・消費税の異動届出書、都道府県税事務所と市区町村への異動届、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書が基本のセットです。労務関係では、健康保険・厚生年金の事業所所在地変更、労働保険・雇用保険の事業所の所在地変更の届出が関係してきます。
順番としては、まず法務局での本店移転登記を済ませ、登記事項証明書が取得できる状態にしてから、各届出に着手すると手戻りがありません。届出によっては登記事項証明書の添付を求められることがあるためです。そのうえで、税務署→都道府県・市区町村→年金事務所・労働基準監督署・ハローワーク、という流れで進めると整理しやすくなります。
あわせて、取引先への住所変更の連絡、請求書や領収書の住所表記、適格請求書発行事業者として登録している場合の登録情報、銀行口座やクレジットカードの届出住所も確認しておきましょう。請求書の住所表記については、インボイス制度上の記載事項との関係もあるため、国税庁の資料を確認するか、税理士に相談すると確実です。
判断に迷ったら専門家に相談を
本店移転にともなう源泉所得税の手続きは、届出自体はシンプルでも、「移転日と給与支払日と納付期限が前後する」「支店と本店で給与事務を分けている」「移転と同時に従業員数が10人前後で変動する」といった事情が重なると、途端に判断が難しくなります。こうしたケースでは、自己判断で納付先を決めるより、確認してから動いたほうが結果的に早く済みます。
届出書の提出先や記載方法、納期の特例の継続については所轄税務署または税理士に、社会保険・労働保険の所在地変更については社会保険労務士に、本店移転登記そのものについては司法書士に相談するのが一般的です。顧問税理士がいる会社であれば、移転日が決まった段階で早めに伝えておくと、届出の期限管理まで含めて段取りしてもらえます。
制度の細かな要件や様式は改正されることがあります。この記事は一般的な考え方を整理したものですので、実際の手続きの前に国税庁など所管官庁の最新の資料を確認し、判断に迷う点は税理士にご確認ください。
よくある質問
本店移転後、源泉所得税はどこの税務署に納めればよいですか。
原則として、移転後の給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署が納付先になります。納付書の税務署名と所在地の記載も新しいものに直してから納付してください。移転日と給与支払日の関係で判断に迷う場合は、所轄税務署または税理士に確認すると安心です。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、移転前と移転後のどちらの税務署に出しますか。
従来は移転前の所在地を所轄する税務署に提出する取扱いとされてきました。提出先や様式は見直されることがあるため、提出前に国税庁の最新の様式と記載要領を確認してください。提出期限は、移転の事実があった日から1か月以内とされています。
本店移転をすると、源泉所得税の納期の特例は申請し直しが必要ですか。
納期の特例の承認は源泉徴収義務者である法人に対して与えられているため、移転を理由に自動的に失われるものではなく、通常は申請し直しを求められません。ただし事業所の統廃合をともなう場合など、状況によって扱いが変わることがあります。移転後最初の納付前に、新しい所轄税務署に確認しておくとよいでしょう。
移転前に印字された古い納付書が手元にあります。そのまま使えますか。
旧所在地や旧税務署名の部分を二重線で消し、新しい所在地と所轄税務署名を記載して使うのが実務上の一般的な対応です。新しい納付書は所轄税務署で受け取れるほか、国税庁の様式を利用することもできます。整理番号が分からない場合は空欄にせず、税務署に確認して記載してください。