年末調整の電子化|web申請・スマホ・QRコード付証明書の進め方

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

毎年11月になると、紙の申告書を配って、記入漏れを指摘して、生命保険料控除証明書の原本を回収して……という作業が発生します。年末調整の電子化は、この「紙のやりとり」をまるごと減らすための仕組みです。この記事では、これから電子化を始める小さな会社が、何を準備して、どの順に進めればよいかを整理します。従業員側のスマホ操作、QRコード付証明書やXMLデータの扱い、電子署名やパスワードでつまずいたときの対処までまとめました。

この記事の結論

  • 年末調整の電子化とは、従業員が申告書をweb上で入力し、控除証明書を電子データ(XML)などで添付して提出し、会社がそのデータを受け取って給与計算に取り込む一連の流れのことです。
  • 会社側の準備は「年末調整をどのソフトで受け取るかを決める」「従業員への案内を10月中に出す」「控除証明書の電子交付をあらかじめ申し込んでもらう」の3点から始めると進めやすくなります。
  • 従業員が電子データを用意できない場合は、紙の証明書やQRコード付証明書での提出も併用できるため、全員が同じ方法である必要はありません。

年末調整の電子化とは何をペーパーレスにすることか

年末調整の電子化というと「申告書を紙でなくす」というイメージが先に来ますが、実際には二つの流れが同時にデジタルになります。一つは、従業員が書く扶養控除等申告書や保険料控除申告書、住宅ローン控除の申告書などの様式。もう一つは、そこに添付する控除証明書です。この二つのうち、片方だけを電子化することもできます。

従来は、保険会社から郵送されたハガキの証明書を申告書に貼って提出していました。電子化すると、保険会社が発行する電子データ(XMLファイル)を従業員がダウンロードし、年末調整のソフトに読み込ませることで、金額が自動で転記されます。転記ミスと検算の手間が減るのが、電子化の一番はっきりした効果です。

会社側では、集めたデータを給与計算ソフトに取り込んで、所得税額の計算と源泉徴収票の作成につなげます。紙の申告書を保管するスペースも不要になりますが、電子データとして保存する場合は電子帳簿保存法の考え方が関わってきます。保存方法の要件は所管官庁の資料で最新の内容を確認してください。

会社側の準備:どの順に決めればいいか

まず決めるのは、年末調整の申告データを「何で受け取るか」です。判断の順番はシンプルで、①すでに使っている給与計算・労務管理システムに年末調整機能があるか、②なければ国税庁が提供する年末調整用のソフトを使うか、の順に見ます。すでにクラウドの労務システムで入退社手続きをしているなら、そこに年末調整機能が含まれていることが多いので、まずは自社の契約内容を確認するのが近道です。機能や料金は各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。

次に、従業員への案内のタイミングです。控除証明書の電子データは、保険会社側であらかじめ電子交付の申し込みをしていないと受け取れないケースがあります。そのため、案内は年末調整の作業が始まる直前ではなく、10月頃には一度出しておくと間に合いやすくなります。「電子データで出したい人は、加入している保険会社のマイページで電子交付を申し込んでください」という一文を添えるだけでも違います。

三つ目は、紙との併用方針です。全員を一斉に電子化しようとすると、スマホ操作に不慣れな方や、電子交付に対応していない証明書を持つ方のところで止まります。電子と紙のどちらでも受け付ける前提で設計しておくと、初年度の負担が軽くなります。

従業員側の流れ:スマホとマイナポータル連携

従業員の作業は、大きく「申告書の入力」と「証明書データの添付」に分かれます。入力は、会社から配られたURLにスマホやPCからアクセスし、氏名・住所・扶養家族などを画面の案内に沿って埋めていく形が一般的です。前年のデータが引き継がれる仕組みであれば、変更点だけを直せばよいので、紙に一から書くより短時間で終わります。

証明書データの集め方には二通りあります。一つは、保険会社や金融機関のマイページから証明書の電子データを個別にダウンロードする方法。もう一つが、マイナポータル連携を使う方法です。マイナポータルと保険会社などを連携させておくと、控除証明書のデータをまとめて取得できるため、複数の保険に加入している方ほど手間が減ります。

マイナポータル連携を使うには、マイナンバーカードと、スマホのICカード読み取り機能(または対応するカードリーダー)が必要です。ログイン時には、マイナンバーカードの受け取り時に設定した利用者証明用電子証明書のパスワード(数字4桁)を使います。この入力を一定回数間違えるとロックされ、市区町村の窓口での再設定が必要になるため、従業員向け案内には「パスワードが分からない場合は無理に試さず、紙の証明書で提出してください」と書き添えておくと安心です。

QRコード付証明書とXMLデータの違いと使い分け

控除証明書まわりでよく混乱するのが、「QRコード付証明書」と「XMLデータ」の違いです。XMLデータは、保険会社などが発行する電子データそのもので、年末調整ソフトに直接読み込ませると金額が自動入力されます。会社に提出するのもこのデータです。

一方のQRコード付証明書は、電子データを紙に印刷したものです。もともと確定申告での利用を想定した仕組みで、国税庁が提供する読み取り用のソフトを使うと、印刷物のQRコードからデータを復元できます。手元に紙しかない状況でデータ化したいときの選択肢、と捉えておくとよいでしょう。

使い分けの判断は次の順です。①保険会社のマイページで電子データ(XML)を取得できるならそれを使う、②取得できないが手元の証明書にQRコードが付いているならQRコードから読み取る、③どちらも難しければ紙の証明書をそのまま提出する。会社側の案内文も、この三択の形で書くと質問が減ります。なお、住宅ローン控除に関する証明書や、社会保険料の控除証明書など、書類の種類によって電子交付の対応状況は異なります。

電子署名は必要か、つまずいたときの対処

「年末調整の申告書に電子署名が要るのか」という質問はよくあります。従業員が会社に提出する扶養控除等申告書などについては、電子署名の代わりに、会社が従業員を特定できる仕組み(社内システムのIDとパスワードなど)を用いる扱いが認められている場合があります。自社の運用がその条件に当てはまるかは、使用するシステムの仕様と国税庁の資料を照らし合わせて確認してください。判断に迷う場合は税理士にご確認ください。

一方で、マイナポータルにログインして控除証明書を取得する場面では、マイナンバーカードの電子証明書とパスワードが登場します。ここでよくあるつまずきは、(1)パスワードを忘れた、(2)連続で間違えてロックされた、(3)電子証明書の有効期限が切れていた、の三つです。電子証明書には有効期限があり、期限を過ぎると連携ができなくなります。

対処の順番としては、まずカード交付時に受け取った書類で設定したパスワードを確認します。分からない場合は市区町村の窓口で再設定します。ただし年末調整の締切に間に合わないこともあるため、その年は紙の証明書で提出し、翌年に向けて準備する、という切り替えも現実的な選択です。電子化は一年で完成させなくても構いません。

初年度の進め方と、社内案内に書いておくこと

初年度は、対象を絞って始めるのが無難です。判断基準としては、扶養家族の変更がなく、保険料控除も生命保険1件程度というシンプルな従業員から電子申請に切り替えると、問い合わせが集中しにくくなります。住宅ローン控除の初年度にあたる方や、年の途中で入社した方は、確認事項が多いため紙で受け付ける、といった線引きも有効です。

社内案内には、最低限この5点を入れておきます。①提出期限、②アクセス先のURLとログイン方法、③控除証明書の電子データを使いたい人が事前にやること、④電子データが用意できない場合の提出方法、⑤質問の受付窓口。特に③は早めの告知が効きます。

集めたデータの保存についても、初年度のうちに方針を決めておきましょう。電子データで受け取った申告書をそのまま保存する場合、保存期間や保存方法に関する考え方が関わります。要件の詳細は所管官庁の資料で確認し、自社の運用に落とし込めているか不安があれば、税理士や社会保険労務士に相談しておくと、翌年以降の運用が安定します。年末調整は給与計算・社会保険・所得税が交差する手続きなので、最初の設計だけでも専門家に見てもらう価値があります。

よくある質問

年末調整をスマホだけで完結できますか。

申告書の入力と控除証明書データの添付は、対応しているシステムであればスマホだけで行える場合が多くあります。マイナポータル連携を使う場合は、マイナンバーカードを読み取れる機種かどうかを事前に確認してください。会社が利用するシステムの対応状況は、各社の公式サイトで確認するのが確実です。

QRコード付証明書はそのまま会社に提出してよいですか。

紙の控除証明書として提出できる場合が一般的ですが、会社がどの形式で受け付けるかによります。データ化したい場合は、国税庁が提供する読み取り用ソフトでQRコードからデータを復元し、そのデータを年末調整ソフトに取り込む流れになります。まずは勤務先の案内を確認してください。

全員を電子申請にしないと電子化の意味がありませんか。

そのようなことはありません。紙と電子の併用は可能で、電子で提出できる人だけ切り替えても、転記や検算の手間は減ります。初年度は対象を絞り、翌年以降に範囲を広げていく進め方が現実的です。

マイナンバーカードのパスワードを忘れました。年末調整に間に合いますか。

パスワードの再設定は市区町村の窓口で行うため、時期によっては締切に間に合わないことがあります。その年は紙の控除証明書で提出し、翌年に向けて再設定しておく、という切り替えをおすすめします。無理に入力を繰り返すとロックされるため注意してください。

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