雇用契約書の押印・割印・収入印紙|会社側の印鑑はどれを使うか
雇用契約書をつくったものの、「会社の印鑑は実印か角印か」「割印はいるのか」「収入印紙を貼るのか」で手が止まる方は多いです。ここは法律で細かく決まっている部分と、社内ルールで決めてよい部分が混ざっているので、切り分けて考えると一気に楽になります。この記事では、押印の要否から印鑑の種類、割印、印紙、電子化まで、判断する順番で整理します。
この記事の結論
- 雇用契約は当事者の合意で成立するため、契約書への押印は法律上の成立要件ではなく、あとから内容を争われないための証拠として押すのが一般的です。
- 会社側の印鑑は、雇用契約書では代表者印(丸印)か角印のどちらかを社内ルールで決めて統一するのが実務的で、シャチハタ型は避けられる傾向があります。
- 雇用契約書は印紙税法上の課税文書に当たらないものとして扱われるのが一般的ですが、記載内容によって判断が変わることがあるため、国税庁の資料や税理士に確認してください。
雇用契約書と労働条件通知書は別物|まず自分がどちらを作っているか確認する
押印の話に入る前に、手元の書類がどちらなのかをはっきりさせておきます。労働条件通知書は、賃金や労働時間などの労働条件を会社が労働者に明示するために交付する書類で、労働基準法に基づいて会社が一方的に「お知らせする」性質のものです。一方、雇用契約書は、会社と労働者が労働条件に合意したことを示す契約書で、双方が署名または記名押印するのが通常です。
実務では、この二つを1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」という形式もよく使われます。書類の数を減らせますし、明示と合意を同時に済ませられるので、小さな会社では扱いやすい形です。ただし、兼用にすると「通知書として明示すべき項目」をすべて満たす必要があるため、項目の抜けがないかは作成時に確認しておきたいところです。
どちらを作っているかで、印鑑の考え方も変わります。通知書は会社からの一方的な明示なので、労働者の押印を前提としていません。契約書や兼用様式であれば、合意の記録として双方の署名・押印欄を設けるのが一般的です。
雇用契約書に押印は必要か|法律上の要件と、実務で押す理由
結論から言うと、雇用契約は口頭でも成立するとされており、契約書に押印がなければ契約が無効になる、という関係ではありません。押印は、その書類を本人が了解して作成したことを示す証拠としての意味合いが中心です。つまり「押さないと成立しない」ではなく「押しておくと後から揉めにくい」という位置づけで考えると、判断しやすくなります。
では押印を省略してよいかというと、社内ルールとして決めておけば署名のみの運用も考えられます。自筆の署名は筆跡が残るため、本人の意思を示す手段として押印より弱いわけではありません。実務では「署名のみ」「記名+押印」「署名+押印」のいずれかに揃えておき、担当者によってばらつかないようにするのが大事です。
労働条件通知書については、会社が交付する書類なので、労働者の押印欄を設けないケースもあります。一方で「受け取りました」という受領確認のために、控えに労働者の署名や押印をもらう会社も多くあります。受領確認は明示義務そのものではありませんが、交付した事実を残すという意味では有効な運用です。
会社側の印鑑はどれを使う|代表者印・角印・認印の使い分け
会社の印鑑には、法務局に登録した代表者印(丸印・会社実印)、社名が刻まれた角印(社印)、登録していない認印などがあります。雇用契約書でどれを使うかに法律上の決まりはなく、社内ルールで決めてよい領域です。迷ったら、次の順で考えてみてください。まず「会社として重い契約書を締結するときと同じ扱いにしたいか」を考え、そうであれば代表者印。日常の交付書類と同じ扱いでよいなら角印、という切り分けです。
実務では、雇用契約書に角印を使う会社も、代表者印を使う会社も両方あります。角印は請求書や見積書など、社名で出す書類に広く使われるため、印影を目にする機会が多く管理も比較的ゆるやかです。代表者印は登記や重要契約に使うものなので、押す場面を限定し、押印簿で管理している会社もあります。どちらにしても、雇用契約書は同じ印鑑で統一しておくと、後から書類を見返したときに整合が取れます。
シャチハタ型(インク浸透印)は、印面がゴムで変形しやすく、同じ印影が大量に流通していることから、契約書類では避けられる傾向があります。社内の回覧や受領印なら使う場面もありますが、雇用契約書のような残す書類では、朱肉を使う印鑑にしておくほうが無難です。労働者側についても、実印である必要はなく、一般的な認印で足りるとする運用が多くみられます。
割印・契印はどこまで必要か|複数枚・2部作成のときの扱い
まず用語を整理します。契印は、1つの契約書が複数ページにわたるとき、ページのつなぎ目(見開きや製本テープ)に押して、差し替えを防ぐためのものです。割印は、会社控えと本人控えのように同じ書類を2部作ったとき、2部を重ねてまたがるように押し、同一内容であることを示すものです。呼び方が混同されがちなので、どちらの話をしているか確認しておくと会話がスムーズです。
雇用契約書に割印や契印を押さなければならない、という法律上の決まりはありません。判断の順番としては、①契約書が2ページ以上か、②会社と本人で2部作るか、の順に見ます。2ページ以上なら契印(またはページ番号と全ページへの押印)を検討し、2部作るなら割印を検討する、という流れです。1枚もので1部しか作らないなら、どちらも不要という整理になります。
小さな会社であれば、ページ数を1〜2枚に収めて契印を不要にする、あるいは全ページの欄外に押す形に統一しておくと運用が軽くなります。大事なのは「会社として決めた形があること」で、書類ごとに扱いが違うと、あとで差し替えを疑われたときに説明しづらくなります。
雇用契約書に収入印紙は必要か|貼付の考え方と確認先
印紙税は、印紙税法で定められた課税文書に該当する場合に納める税金です。雇用契約書については、一般に課税文書には当たらないものとして、収入印紙を貼らずに運用されています。ただし、書類のタイトルではなく記載内容で判断されるため、雇用以外の内容(たとえば請負に近い業務委託の条項など)が混ざると、判断が変わることがあります。
実務上の確認の順番としては、①その書類が雇用(労働契約)の内容に収まっているか、②業務委託・請負や金銭の受領を示す内容が含まれていないか、を見ます。②に当てはまりそうなら、自己判断で処理せず、国税庁が公開している印紙税の資料を確認するか、税理士に相談してください。貼り忘れや貼りすぎは、あとから手続きが必要になることがあります。
なお、電子契約サービスで締結し、紙を作成しない場合の印紙税の扱いについても、取り扱いを整理した資料が公開されています。紙と電子で結論が変わり得る論点なので、社内で電子化を進める前に、所管の資料を一度確認しておくと安心です。
電子化・押印省略を進めるときの手順|いつ、何を用意して、どこに出すか
労働条件の明示は、書面の交付が原則とされつつ、労働者が希望した場合にメールなどの電磁的方法で行える、という枠組みになっています。電子で出す場合は、労働者本人が希望していること、出力して書面を作成できる方法であることといった条件があるため、要件の詳細は厚生労働省の資料を確認してください。
進め方としては、内定を出した後、入社日までに次の順で準備します。①労働条件通知書兼雇用契約書のひな形を作り、明示すべき項目が入っているか確認する、②電子で送るなら、本人に希望の有無を確認して記録に残す、③電子契約サービスや社内メールなど、送付経路と保存場所を決める、④入社日までに送付し、本人の同意(署名・電子署名・返信など)を受け取って保存する、という流れです。
押印を省略する場合は、「誰が」「いつ」合意したかを別の形で残しておくことが要になります。メールの送受信履歴、電子契約サービスのログ、本人の返信文面などが該当します。紙と電子が混在すると保管場所が散らばりやすいので、入社書類一式の保存先をあらかじめ決めておくと、後の労務手続きでも探しやすくなります。
甲乙の書き方と署名欄|細かいけれど毎回迷うところ
契約書で「甲」「乙」を使う場合、どちらを会社にするかに決まりはありません。慣行として、先に登場する側や主たる立場の側を甲とすることが多く、雇用契約書では会社を甲、労働者を乙とする例が一般的です。大事なのは、冒頭で「株式会社◯◯(以下「甲」という。)」ときちんと定義し、本文で入れ替わらないようにすることです。
署名欄には、会社側は所在地・商号・代表者の役職と氏名、労働者側は住所と氏名を記載する形が一般的です。会社側を記名(印字)にする場合は押印を添える、署名(自筆)にする場合は押印を省略する、といった形で社内の型を決めておくと、担当者が変わってもぶれません。
なお、労働条件通知書には本来「合意」の欄は必須ではありませんが、受領確認欄を設けるなら「上記の労働条件を確認し、受領しました」といった文言にしておくと、通知と合意の性質が混ざりにくくなります。兼用様式にする場合は、合意する旨の文言を入れたうえで双方の欄を設けるのが分かりやすい形です。
よくある質問
雇用契約書の押印を省略して、署名のみでもよいですか。
雇用契約は合意により成立するとされており、押印は法律上の成立要件ではないため、署名のみの運用も考えられます。ただし本人の意思を確認した記録は残しておきたいので、署名のみにするか記名押印にするかを社内ルールで決め、全員同じ形に統一しておくことをおすすめします。
労働条件通知書に会社の印鑑は必要ですか。角印でもよいですか。
労働条件通知書は会社が労働条件を明示する書類で、押印の有無について細かな決まりがあるわけではありません。実務では会社名と代表者名を記載し、角印または代表者印を押す例が多くみられます。どちらを使うかは社内で決めて統一しておくと管理しやすくなります。
雇用契約書を2部作るとき、割印は押さないといけませんか。
割印は同じ内容の2部であることを示すための慣行で、押さなければ契約が無効になるというものではありません。会社控えと本人控えの内容が同一であることを明確にしたい場合に押す、という整理で問題なく、社内ルールとして押す・押さないを決めておくとよいでしょう。
雇用契約書に収入印紙は必要ですか。
雇用契約書は印紙税法上の課税文書に当たらないものとして扱われるのが一般的で、収入印紙を貼らない運用が多くみられます。ただし業務委託に近い条項が混ざるなど記載内容によって判断が変わることがあるため、迷う場合は国税庁の資料を確認するか、税理士にご確認ください。
シャチハタ(インク浸透印)を雇用契約書に使ってもよいですか。
法律で禁止されているわけではありませんが、印面が変形しやすく同じ印影が多く出回っていることから、契約書類では避けられる傾向があります。会社側・労働者側とも、朱肉を使う印鑑を用いる運用にしておくほうが無難です。