雇用契約書と内定承諾書を電子化するには|法律上の要件と進め方

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

採用が増えてくると、入社のたびに紙の雇用契約書を印刷して、郵送して、返送を待って、という手間が積み上がります。「雇用契約書は電子でもいいのか」「内定承諾書をクラウドサインで送っても差し支えないのか」は、小さな会社のバックオフィスでよく出る疑問です。この記事では、法律上どこに気をつければよいのか、社内でどんな順番で進めればよいのかを整理します。

この記事の結論

  • 雇用契約書は法律上、書面での作成が一律に義務づけられているわけではないため、電子ファイルや電子契約サービスでの締結も一般に行われています。
  • 一方で労働条件の明示は使用者の義務で、電子メールなどの方法で行う場合は労働者本人が希望したことを確認する運用が求められます。
  • 内定承諾書は法律上の様式が定められた書類ではないため、電子署名や合意の記録が残る形であれば電子化しやすい書類です。

雇用契約書は電子化してよいのか

結論から言うと、雇用契約そのものは書面がなければ成立しない契約ではありません。口頭でも成立すると考えられており、雇用契約書はあくまで「合意した内容を証拠として残す」ための書類です。そのため、電子ファイルで作成し、電子署名や電子契約サービスで締結する運用も広く行われています。

ただし、ここで混同しやすいのが「労働条件の明示」です。労働基準法では、使用者が労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示する義務が定められており、一定の事項については書面の交付が原則とされています。雇用契約書を電子化する場合、この明示義務をどう満たすかを合わせて考える必要があります。

実務では、雇用契約書と労働条件通知書を1つの書面(労働条件通知書兼雇用契約書)にまとめている会社が多く、これを電子化するときに明示義務の話が絡んできます。電子契約サービスを入れる前に、この2つの性質の違いを押さえておくと迷いません。

労働条件の明示を電子で行うときの条件

労働条件の明示を書面の交付以外の方法で行う場合、労働者が希望したときに限り、ファクシミリや電子メールなど、出力して書面を作成できる方法によることができる、という枠組みになっています。つまり「会社が一方的に電子だけにする」のではなく、「本人が電子での受け取りを希望した」という事実を残すことがポイントです。

そのため実務では、内定通知や入社案内の段階で「労働条件の明示を電子(メールまたは電子契約サービス)で受け取ることを希望しますか」と確認し、その回答をメールやフォームの記録として保存しておく運用がとられます。希望しない人には紙を郵送する、という選択肢も用意しておくと安心です。

また、送り先は本人が確認できるものであること、受信した側が印刷して保存できる形式であることも意識されます。SNSのメッセージ機能のように出力が前提でない手段は避け、PDFの添付や、ダウンロードできる電子契約サービスを使うのが一般的です。細かい要件は改正されることがあるため、厚生労働省の資料や最新の通達を確認し、判断に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。

内定承諾書・誓約書はどこまで電子にできるか

内定承諾書や入社誓約書は、法律で様式や交付方法が定められた書類ではありません。会社が内定を出し、本人が承諾したという事実を残すための書類なので、メールでの返信でも、電子契約サービスでの合意でも、記録が残る形であれば実務上は機能します。

電子契約サービスを使うメリットは、誰がいつ合意したかのログが残ること、押印や郵送の往復が不要になること、そして書類が一箇所にまとまることです。特に新卒採用のように同じ書類を複数人に送る場面では、テンプレート化して一斉送信できる点が効いてきます。

注意したいのは、内定承諾書だけを電子にしても入社手続き全体は楽にならない点です。雇用契約書、誓約書、身元保証書、各種届出書といった一式のうち、どこまで電子にするかを先に決めてから、サービスの選定に進むと手戻りが減ります。

電子契約サービスの選び方|見る順番

クラウドサインをはじめ、人事書類に対応した電子契約サービスは複数あります。比較するときは、次の順に見ると判断しやすくなります。第一に「署名の方式」。メール認証で合意を確認する方式(立会人型)と、本人の電子証明書を使う方式(当事者型)があり、雇用契約書では前者を選ぶ会社が多い一方、より厳格な本人確認を求める場合は後者が検討されます。

第二に「受け取る側の負担」。内定者や入社予定者はそのサービスのアカウントを持っていないのが普通なので、アカウント登録なしでスマートフォンから署名できるかどうかは実務上大きな差になります。第三に「一斉送信とテンプレート」。毎年まとまった人数を採用するなら、この機能の有無で作業時間が変わります。

第四に「保存と検索」。入社年度や氏名で後から探せるか、労務システムや人事システムと連携できるかを確認します。最後に費用です。送信件数の考え方やプランは各社で異なり変更もあるため、各社の公式サイトで最新の料金と機能を確認してください。無料で試せる期間が用意されていることも多いので、実際に自社の雇用契約書を1通流してみるのが一番わかりやすい判断材料になります。

社内導入の進め方|いつ・何を用意して・どこに出すか

最初にやることは、現在使っている入社書類の棚卸しです。雇用契約書、労働条件通知書、内定承諾書、誓約書、通勤経路届、扶養控除等申告書などを一覧にし、それぞれ「電子化する/紙のまま」を決めます。ここで法定の様式や提出先があるもの(税務・社会保険関係)は分けて考えます。

次に、雇用契約書のひな形を見直します。電子化を機に、労働条件の明示事項が漏れていないか、就業場所や業務の変更の範囲といった記載が最新のルールに沿っているかを確認します。ひな形の内容に不安がある場合は、社会保険労務士に一度チェックしてもらうと後が楽です。

そのうえで、採用フローのどこで電子化の希望を確認するかを決めます。一般的には内定通知のタイミングで希望を確認し、承諾を得たうえで内定承諾書を送信、入社日が近づいたら雇用契約書を送信、という流れです。送信元のメールアドレス、担当者、締結後の保存場所(サービス内+社内共有フォルダなど)まで決めて、簡単な手順書にしておくと、担当者が変わっても運用が崩れません。最後に、既存の従業員へ切り替える場合は、次回の契約更新時から適用するなど、区切りのよいタイミングを設定します。

電子化でつまずきやすいところと保存のルール

よくあるつまずきは3つです。1つ目は、本人の希望確認の記録を残していないこと。口頭で「電子でいいですよね」と確認しただけでは後から説明できないので、メールやフォームの回答として残します。2つ目は、外国籍の方や、メール環境が整っていない方への配慮が抜けること。紙での交付も選べるようにしておきます。

3つ目は、保存のルールが決まっていないことです。電子契約サービス内に置きっぱなしだと、サービスを解約したときに困ります。締結済みのPDFを社内の共有ストレージにも保存し、命名ルール(入社年月日+氏名など)を決めておくと検索が楽になります。労働者名簿などの法定帳簿との対応も意識しておきたいところです。

なお、契約書を電子で保存する場合、電子帳簿保存法や労務関係の保存ルールとの関係が出てくることがあります。どの書類をどれだけの期間、どの形式で保存するかは書類の種類によって扱いが異なるため、所管官庁の資料を確認したうえで、税務面は税理士、労務面は社会保険労務士に確認する流れが安全です。

雇用契約書や内定承諾書の電子化は、進め方さえ決まれば難しい話ではありません。ただし、労働条件の明示や記載事項は法改正の影響を受けやすい領域です。ひな形の内容や運用ルールを固める段階で、一度社会保険労務士に確認しておくと、後から作り直す手間を減らせます。契約条項そのものに踏み込んだ相談は弁護士が適任です。

よくある質問

クラウドサインなどの電子契約サービスで雇用契約書を締結してもよいですか

雇用契約書は法律上、書面での作成が一律に義務づけられているわけではないため、電子契約サービスでの締結は実務上広く行われています。ただし労働条件の明示については、電子で行う場合に本人の希望確認が求められる点に注意が必要です。自社の運用が要件を満たしているか不安な場合は、社会保険労務士にご確認ください。

内定承諾書をメールの返信だけで済ませてもよいですか

内定承諾書は法定の様式がある書類ではないため、メールの返信でも承諾の事実を記録として残すことはできます。ただし、誰がいつ何に同意したかを明確にしたい場合は、電子契約サービスで署名の記録を残すほうが後から説明しやすくなります。

既存の従業員の雇用契約書も電子に切り替えられますか

切り替え自体は可能ですが、過去に紙で締結したものを遡って電子に置き換える必要はありません。次回の契約更新や労働条件の変更のタイミングで電子に切り替える方法が、運用としては無理がありません。

労働条件の明示を電子で行うとき、何を残しておけばよいですか

本人が電子での受け取りを希望した記録と、実際に送信した日時・宛先、送信した書類そのものを保存しておきます。受け取った側が印刷して保存できる形式であることも意識してください。要件の詳細は厚生労働省の資料を確認し、判断に迷う場合は社会保険労務士にご相談ください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。