雇用契約書を渡すタイミング|入社前・入社日当日の取り交わしの流れ
はじめて人を雇うとき、意外と迷うのが「雇用契約書をいつ渡すのか」です。入社日当日にまとめて署名してもらう会社もあれば、内定承諾の前に条件書を送る会社もあります。どちらが正解かというより、労働条件の明示は「働き始めるまでに」という考え方が土台にあり、そこから逆算して段取りを組むのが実務です。この記事では、募集から入社日までのどの時点で何を渡すか、契約日や日付はどう入れるか、電子で渡す場合に気をつけることまで、順を追って整理します。
この記事の結論
- 労働条件の明示は労働契約の締結時、つまり働き始める前までに行うのが原則とされているため、雇用契約書・労働条件通知書は入社日当日ではなく入社前に渡すのが安全な運用です。
- 実務では「内定通知と同時か内定承諾前に条件を示し、入社日の数日前までに署名・返送を終える」流れにすると、条件の認識違いや入社直前の辞退を防ぎやすくなります。
- 契約書の日付は、署名した日を作成日、働き始める日を契約期間の開始日として分けて書くと、入社前に取り交わしても矛盾が生じにくくなります。
雇用契約書はいつ渡す? 基本は「働き始める前」
労働基準法では、労働契約を結ぶ際に、賃金や労働時間などの労働条件を書面などで明示することが使用者に求められています。ポイントは「契約を結ぶとき」であって「働き始めた後」ではない、という点です。つまり入社日当日の朝に渡すのはぎりぎり間に合っている運用で、前日までに手元に届いている状態が望ましい形になります。
よくある誤解が「雇入れ直後でよい」というものです。実際には、入社してから条件を知らされると、本人が条件を確認したうえで働くかどうか判断する機会がなくなってしまいます。条件に納得できないまま働き始めてしまい、後から揉めるケースも起こり得ます。
もうひとつ整理しておきたいのが、雇用契約書と労働条件通知書の違いです。労働条件通知書は会社から一方的に交付する書面、雇用契約書は双方が署名して取り交わす契約書です。法令上求められているのは条件の明示なので通知書でも足りますが、実務では合意の証跡が残る「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を一枚で作る会社が多くなっています。
募集から入社日までのタイムライン:どの時点で何を渡すか
流れを時系列で並べると迷いにくくなります。①求人票・面接の段階では、給与レンジや勤務地、勤務時間などの募集条件を伝えます。ここで伝えた内容と最終的な契約条件が食い違うと不信感につながるため、変わる可能性がある項目は「選考を経て確定します」と添えておくと丁寧です。
②内定を出す段階では、内定通知書とあわせて労働条件の概要を示します。本人が他社と比較して判断するタイミングなので、内定承諾前に給与・勤務時間・勤務地・試用期間の有無が分かる形になっていると、承諾後のトラブルを減らせます。③内定承諾後、入社日の1〜2週間前をめどに雇用契約書を送付し、入社日の数日前までに署名・返送してもらいます。
④入社日当日は、原本の受け渡しと控えの交付、必要書類(マイナンバー、扶養控除等申告書、通勤経路の届出など)の回収に充てます。当日に契約内容を読み込んでもらう時間を取らずに済むので、オリエンテーションや業務説明に時間を使えます。急な採用で日程が詰まっているときでも、「入社日当日の業務開始前に渡し、その場で内容を説明する」ところまでは確保したいところです。
契約日・日付はいつにする? 入社前に取り交わすときの書き方
入社前に署名してもらうと、「日付は署名日か、入社日か」で迷います。実務では、書面の作成日(署名日)と、契約期間の開始日(入社日)を分けて記載するのが分かりやすい方法です。たとえば作成日欄は実際に署名した日、本文の労働契約期間欄には「2026年◯月◯日から」と入社日を書きます。
会社側の押印・署名も、本人の返送を待ってから同じ時期に入れます。日付を空欄のまま渡して後から書き入れる運用は、いつ合意したのかが曖昧になりやすいため避けたほうが無難です。郵送でやり取りする場合は、返送期限を明記しておくと入社日直前に慌てずに済みます。
有期雇用の場合は、契約期間の開始日と終了日、更新の有無と判断基準まで書きます。更新のたびに新しい契約書を取り交わす必要があるので、更新日の前に社内で通知するスケジュールを決めておくと、うっかり期間が過ぎてしまう事故を防げます。
アルバイト・パート・入社前の短期雇用でも同じか
雇用形態にかかわらず、労働条件の明示は必要とされています。アルバイトやパートでも、口約束だけで働き始めてしまうと、シフトや時給、交通費の扱いをめぐって認識がずれやすくなります。短時間勤務の方に対しては、昇給・賞与・退職手当の有無や相談窓口についても明示が求められる場面があるため、様式を分けて用意しておくと運用が楽です。
採用決定から初出勤までが数日しかない場合は、電子メールなどで条件書を先に送り、初出勤日に署名を取り交わす二段構えにすると間に合いやすくなります。この場合も、初出勤の業務開始前に内容を説明する時間を取ってください。
記載項目に漏れがないかは、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書の様式と照らし合わせて確認しておくと安心です。自社の雛形を一度作ってしまえば、以降は入社ごとの差分を書き換えるだけで済みます。
メールやクラウドで渡してもよい? 電子交付のときの注意
労働条件の明示は、本人が希望した場合には、メールやSNSのメッセージ機能など、出力して書面を作成できる方法での電子交付も認められる取り扱いになっています。ポイントは「本人の希望があること」と「印刷して保存できる形式であること」です。希望の有無は、内定承諾のやり取りの中で確認し、記録を残しておくとよいでしょう。
電子契約サービスを使う場合は、署名の証跡が残ること、本人と会社の双方が後から同じ内容を取り出せることを確認します。サービスによって対応機能や料金体系は異なるため、各社の公式サイトで最新の内容を確認してください。入社手続き全体(保険手続きや書類回収)まで一括で扱いたいのか、契約書の締結だけできればよいのかで、選ぶ方向性が変わります。
紙・電子のどちらでも、会社側の控えは必ず保管します。労働者名簿や賃金台帳とあわせて、一定期間の保存が求められる書類にあたるため、入社ごとにフォルダを分けて保管ルールを決めておくと、後から探す手間がなくなります。
渡した後に条件が変わったら? よくあるつまずきどころ
入社前に配属や勤務地が変わることはあります。署名済みの契約書の内容を変えるときは、変更点を明示した新しい契約書、または変更に関する覚書を取り交わし、本人の同意を得たうえで差し替えます。会社側の都合で不利益な方向に変えるときはとくに慎重な対応が求められるので、進め方に迷う場合は社会保険労務士に相談してください。
もうひとつ多いのが、試用期間の扱いです。試用期間があること、その期間と条件(賃金が本採用後と異なる場合はその内容)を契約書に書いていないと、後から説明しても受け入れられにくくなります。試用期間中でも労働契約は成立しているため、社会保険や雇用保険の手続きは入社日を起点に進める必要があります。
内定を出した後に採用を取りやめる場合、すでに労働契約が成立していると評価されることがあり、簡単には解消できない取り扱いになる場面があります。判断が必要な局面では、早い段階で社会保険労務士や弁護士に確認したうえで進めるのが安全です。
雇用契約書の様式づくり、就業規則との整合、入社時の社会保険・雇用保険手続きまでを一度に整えたいときは、社会保険労務士に相談すると自社の運用に合わせた形に落とし込めます。契約内容の解釈や内定取消しなど法的な判断が絡む場面では、弁護士への相談もあわせて検討してください。
よくある質問
雇用契約書は入社日当日に渡してもよいですか?
労働条件の明示は労働契約を結ぶ時点で行うものとされているため、入社日当日に渡すのは望ましい形とはいえません。やむを得ず当日になる場合でも、業務開始前に交付して内容を説明してください。通常は入社日の数日前までに署名・返送を終える段取りが安心です。
労働条件通知書は内定承諾前に渡すべきですか?
法令上は労働契約の締結時までに明示すればよい扱いですが、実務では内定通知とあわせて条件の概要を示す会社が多いです。本人が他社と比較して判断する材料になるため、承諾後の「聞いていた条件と違う」を防ぎやすくなります。
雇用契約書の日付は署名日と入社日のどちらを書きますか?
作成日(署名日)と契約期間の開始日(入社日)を分けて書くのが分かりやすい方法です。署名欄の日付は実際に署名した日、契約期間欄には入社日を記載すれば、入社前に取り交わしても内容が矛盾しません。
雇用契約書を作らず労働条件通知書だけでもよいですか?
法令上求められているのは労働条件の明示なので、通知書の交付で対応している会社もあります。ただし双方の合意を残す意味では契約書形式が有利なため、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」として一枚にまとめる運用が広く使われています。