労働条件通知書は毎年必要か|更新時・条件変更時の再交付の考え方

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「労働条件通知書って、毎年出し直すものなんでしょうか」——人を雇い始めて1年が経つころ、多くのひとり社長や小さな会社の担当者がつまずくのがこの疑問です。結論から言うと、年に一度という決まった周期があるわけではなく、「契約の期間」と「条件が変わったか」で考えるのが実務上の基本になります。この記事では、正社員・有期契約・自動更新のそれぞれで、いつ出し直すべきかの判断の順番を整理します。

この記事の結論

  • 労働条件通知書は「毎年◯月に交付する」という周期で決まるものではなく、労働契約を結ぶとき(新規・更新)に明示するのが基本の考え方です。
  • 期間の定めのない正社員は、条件が変わらなければ毎年の再交付は通常求められませんが、有期契約を更新するときは更新のたびに労働条件を明示するのが実務上の原則です。
  • 昇給・部署異動・所定労働時間の変更など労働条件が変わったときは、期間の定めの有無にかかわらず、変更後の内容を書面などで明示しておくと後のトラブルを防ぎやすくなります。

労働条件通知書は毎年必要か|まず「契約のタイミング」で考える

労働条件通知書は、労働基準法にもとづき、労働契約を結ぶ際に賃金や労働時間などの条件を明示するための書面です。ポイントは「契約を結ぶとき」に明示する、という点にあります。つまり、カレンダー上の年度や年に一度の時期を基準にするものではありません。

そのため「毎年4月に全員分を出し直さなければならない」というルールが法律にあるわけではない、と理解しておくとすっきりします。一方で、有期契約の更新は、形式的には新しい労働契約を結ぶ行為にあたると扱われることが多く、更新のたびに条件を明示しておくのが実務上の原則的な対応になります。

判断に迷ったら、次の順番で見てください。①その人の契約に期間の定めがあるか、②今回、契約を更新する場面か、③前回明示した条件から変わった点があるか。この3つのうちどれかに該当すれば、書面を出し直す(または変更内容を書面で渡す)方向で考えるのが安全です。

正社員(期間の定めなし)は毎年交付しなくてよいのか

期間の定めのない正社員の場合、入社時に交付した労働条件通知書の効力が「1年で切れる」といった有効期限の考え方はありません。契約が続いている限り、明示した条件がそのまま続いていると整理されます。したがって、条件に変更がなければ、毎年同じ内容の書面を出し直す法的な義務は通常ありません。

ただし現実には、正社員でも毎年何かしらが変わります。昇給で基本給が変わった、手当が新設された、勤務地や職務内容が変わった、所定労働時間やシフトのルールが変わった——こうした変更があれば、変更後の内容を書面で伝えておくことが望ましい対応です。実務では「賃金改定通知書」「辞令」といった形で、変わった部分だけを書面化している会社も多くあります。

運用としては、昇給や人事異動のタイミングにあわせて、その都度変更点を書面で渡すやり方が管理しやすいでしょう。「毎年必ず全項目を再交付する」必要はありませんが、「変更のたびに記録を残す」ことは、後から言った言わないの争いになったときに会社を守る材料になります。

有期契約・パート・アルバイトの更新時はどうするか

契約期間が決まっている有期契約の場合、更新は新しい契約を結ぶことにあたると扱われるのが一般的です。そのため、更新のたびに契約期間・更新の有無や判断基準・就業場所・業務内容・始業終業時刻・賃金・退職に関する事項といった、明示が求められる事項を改めて書面で渡しておくのが実務上の基本形になります。

タイミングは、更新の意思確認が済んだあと、新しい契約期間が始まる前までに渡すのが原則です。前の契約が切れてから慌てて作るのではなく、契約満了の1か月ほど前には更新の可否を本人に伝え、あわせて新しい通知書を準備しておくと、現場が回りやすくなります。

近年は、有期契約の更新に関する明示事項や、就業場所・業務の変更範囲の明示など、ルールが見直されている領域でもあります。自社の書式が最新の内容に対応しているかは、厚生労働省や都道府県労働局が公開しているモデル様式・パンフレットで確認するか、社会保険労務士に見てもらうことをおすすめします。

「自動更新」の契約でも通知書を出し直すべきか

契約書に「期間満了の1か月前までに双方から申し出がない場合は、同一条件で自動的に更新する」といった自動更新条項を入れているケースがあります。この場合、更新のたびに新しい書面を交わさなくても契約自体は続いていく、という設計になっています。

ただし、自動更新だから何も渡さなくてよい、と割り切るのは少し危険です。自動更新であっても、更新後の契約期間がいつからいつまでなのか、賃金や勤務条件はどうなるのかが本人に伝わっていないと、後々の認識のずれにつながります。実務では、自動更新の場合でも「更新後の期間と条件を記した通知」を簡潔に渡しておく会社が少なくありません。

判断の順番としては、①自動更新条項があるか、②条件に変更があるか、の2段階で見ます。条件に変更があるなら、自動更新かどうかにかかわらず、変更後の条件を明示した書面を新たに交わす形にするのが無難です。自社の条項の書き方が実態に合っているか不安な場合は、社会保険労務士や弁護士に確認してください。

再交付が必要になる「条件変更」の具体例と手順

出し直しの引き金になりやすいのは、次のような変更です。基本給・手当・賃金の計算方法や締め日支払日の変更、所定労働時間や休日・シフトパターンの変更、就業場所や担当業務の変更、契約期間や更新ルールの変更、正社員への転換やパートへの切り替えといった雇用区分の変更。どれも、本人の働き方やお金に直結する項目です。

手順は、①変更が決まった時点で変更内容と適用開始日を確定する、②新しい労働条件通知書または変更部分を記した書面を作成する、③適用開始日より前に本人に渡して内容を説明する、④会社側にも控えを残す、という流れです。労働条件の不利益な変更にあたる可能性がある場合は、一方的に通知するのではなく、本人の同意を書面で得ておく形が望ましく、進め方について事前に専門家に相談しておくと安心です。

交付方法は、書面の手渡しが基本ですが、本人が希望した場合に電子メールなどで送る方法が認められる場面もあります。送信方法や記録の残し方に条件があるため、電子で運用したい場合は所管官庁の資料を確認するか、社会保険労務士に相談してから仕組みを整えるとよいでしょう。

小さな会社の運用のコツと、専門家に相談すべきタイミング

ひとり社長や少人数の会社では、契約管理が属人的になりがちです。おすすめしたいのは、従業員ごとに「契約期間の満了日」「次回の更新予定日」「直近の条件変更日」を一覧で持っておくことです。表計算ソフト1枚でも十分で、更新の1か月前にリマインドが立つようにしておけば、渡し忘れはかなり減ります。

書式は、厚生労働省が公開しているモデル労働条件通知書をベースにすると、明示事項の漏れを防ぎやすくなります。労務管理クラウドを使う場合は、テンプレートが最新の明示事項に対応しているか、電子交付の記録が残せるかを比較の軸にするとよいでしょう。料金や機能は変わるため、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。

なお、更新を繰り返した有期契約の扱い、契約を更新しないと決めた場合の進め方、労働条件を引き下げる変更などは、個別の事情によって判断が分かれる領域です。自社のケースが当てはまるか迷ったら、就業規則や契約書一式を持って、社会保険労務士に相談してください。契約終了や不利益変更をめぐって争いになりそうな段階であれば、弁護士に早めに相談することも検討しましょう。

よくある質問

労働条件通知書に有効期限はありますか。

書面そのものに「◯年で切れる」といった有効期限は定められていません。期間の定めのない契約なら、条件が変わらない限り明示した内容が続いていると整理されます。有期契約の場合は、記載された契約期間の満了にあわせて更新時に改めて明示するのが実務上の基本です。

毎年4月に全社員へ出し直したほうがよいですか。

法律上、年度ごとの一斉再交付が求められているわけではありません。ただ、昇給や異動が4月に集中する会社では、変更点をまとめて書面化するタイミングとして運用上わかりやすい面があります。全項目を作り直すか変更部分だけにするかは、自社の管理のしやすさで決めて差し支えありません。

雇用契約書を毎回交わしていれば、労働条件通知書は不要ですか。

雇用契約書に明示が求められる事項がすべて盛り込まれていれば、兼ねる形で運用している会社もあります。ただし記載漏れがあると明示義務を満たさないと扱われることがあるため、モデル様式と突き合わせて項目を確認しておくと安心です。自社書式で兼ねられるかは社会保険労務士にご確認ください。

更新のたびに渡すのを忘れていました。今からどうすればよいですか。

まずは現在の契約期間と条件を整理し、現時点の内容を記した書面を速やかに本人に渡すところから始めるのが現実的です。あわせて、契約満了日を一覧化し、次回以降の交付タイミングを仕組みにしておきましょう。過去分の扱いに不安がある場合は、社会保険労務士に状況を説明して対応方針を相談してください。

あわせて読みたい

「採用・労務」の記事をすべて見る →

次に決めること

記事をすべて見る(1087本)→

この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。