雇用契約書の退職・解雇に関する記載例|退職金や退職手続きの書き方
雇用契約書をつくるとき、多くの人が最後まで手が止まるのが「退職に関する事項」です。退職の申し出は何日前までか、解雇事由はどこまで書くのか、退職金がない場合は何も書かなくていいのか。ここは採用時にはあまり話題にならないのに、いざ人が辞めるときにいちばん揉めやすい場所でもあります。この記事では、ひとり社長や小さな会社が初めて雇用契約書をつくる前提で、退職・解雇まわりの書き方を順番に整理します。
この記事の結論
- 退職に関する事項は、労働条件の明示が求められる項目のひとつで、退職の手続き(申し出の時期など)と解雇の事由をあわせて書くのが一般的です。
- 解雇事由は「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」のような包括条項だけにせず、具体的な事由を列挙したうえで最後に包括条項を置く形が分かりやすい形です。
- 退職金は制度として設けるかどうかを会社が決める性質のもので、設けない場合も「退職金は支給しない」と書いておくと、後の認識のずれを防ぎやすくなります。
労働条件通知書の「退職に関する事項」には何を書くのか
雇用契約書や労働条件通知書では、契約期間、就業の場所と業務、始業・終業の時刻、賃金、そして退職に関する事項などを書面などで明示することが求められています。この「退職に関する事項」には、退職の手続き(自己都合で辞めるときの申し出の時期)と、解雇の事由が含まれると整理されるのが一般的です。
つまり、退職の欄に書くべきことは大きく2つです。ひとつは「働く人から辞めると言うとき、どうするか」。もうひとつは「会社から辞めてもらうとき、どういう場合か」。この2つがそろっていないと、明示すべき内容が欠けている状態になりかねません。
定年や契約更新の有無がある場合は、それもこの欄またはその近くに書きます。有期雇用なら、更新の有無と更新の判断基準もあわせて示しておくと、契約終了のときに説明しやすくなります。
雇用契約書の退職に関する記載例|まずはこの型で書く
書き方に迷ったら、次の順番で並べると読みやすくなります。(1)自己都合退職の申し出、(2)定年、(3)契約期間満了(有期の場合)、(4)解雇、(5)退職時の手続き。この順に条文を置くと、辞めるパターンを網羅しやすくなります。
記載例としては、たとえば「労働者が自己の都合により退職しようとするときは、退職を希望する日の1ヶ月前までに書面により申し出るものとする」「定年は満◯歳に達した日の属する月の末日とし、その翌日を退職日とする」といった形です。年齢や期間の数字は、自社の就業規則や実態に合わせて決めてください。
小さな会社では、雇用契約書に細かく書ききれない部分を就業規則に委ねることもあります。その場合は「詳細は就業規則第◯条による」と参照先を書き、就業規則を実際に見られる状態にしておくことが前提になります。就業規則が整っていない段階なら、雇用契約書側に必要事項を書いておくほうが安全です。
「退職は1ヶ月前まで」と書いていいのか
実務では「退職の申し出は1ヶ月前までに」と書く会社が多くあります。引き継ぎや採用の準備を考えると妥当な期間ですし、こうした定めを置くこと自体は広く行われています。一方で、民法には期間の定めのない雇用について、申し入れから一定期間の経過で契約が終了するという考え方があり、会社の定めが働く人を強く縛る形にはなりにくいとされています。
そのため、1ヶ月前という定めは「お願いと運用の目安」として機能する面が強い、と理解しておくとよいでしょう。申し出が2週間前だったからといって退職を認めない、といった対応はトラブルにつながることがあります。実際の対応で迷ったら、社会保険労務士や弁護士に確認してください。
書き方としては「原則として1ヶ月前までに申し出るものとし、業務の引き継ぎに協力するものとする」といった、引き継ぎ義務とセットにする形が使われます。3ヶ月前、6ヶ月前といった長すぎる期間を設定するのは、運用面でも受け入れられにくくなります。
解雇事由の記載例と、書くときの考え方
解雇事由は、包括的な一文だけで済ませないのがポイントです。「会社が必要と認めたとき」のような書き方は、何が該当するのか分からず、いざというときに説明が立ちにくくなります。具体的な事由を列挙したうえで、最後に受け皿となる条項を置く構成にします。
列挙する内容としては、心身の故障により業務に堪えられないと認められるとき、勤務成績・勤務態度が不良で改善の見込みがないと認められるとき、正当な理由のない無断欠勤が続いたとき、事業の運営上やむを得ない事情があるとき、そして「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」といった形が一般的です。自社の業務に照らして、実際に起こりうる事由を選んで書きます。
ただし、契約書に事由を書いたからといって、その通りに解雇できるとは限りません。解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められると整理されており、書面上の記載はその出発点にすぎません。また、解雇予告や予告手当の扱いなど、手続き面のルールもあります。実際に解雇を検討する場面では、進める前に社会保険労務士や弁護士に相談してください。
退職金の有無はどう書く|記載例と注意点
退職金は、法律で支給が義務づけられている性質のものではなく、会社が制度として設けるかどうかを決めるものと理解されています。制度を設ける場合は、適用される人の範囲、支給の条件(勤続年数など)、計算方法、支払時期を書きます。逆に設けない場合は、「退職金は支給しない」と一文入れておくと、後から「あると思っていた」という行き違いを防ぎやすくなります。
制度を設けるときの記載例は「勤続◯年以上の正社員に対し、退職金規程に定めるところにより退職金を支給する」といった形で、詳細は別規程に委ねるのが一般的です。金額の決め方を契約書本文に書き込むと、後から見直しにくくなります。規程側で整理しておくほうが運用しやすいでしょう。
注意したいのは、いったん制度として定めた退職金は労働条件の一部になり、会社の都合だけで下げたりなくしたりするのが難しくなる点です。創業まもない時期に勢いで手厚い制度をつくると、あとで身動きが取りにくくなります。まずは制度なしで始め、体制が整ってから検討する、という判断も現実的です。判断に迷う場合は社会保険労務士に相談してください。
退職手続きの流れ|辞めると言われたら何をするか
退職の申し出を受けたら、まず退職日を確認し、退職届などの書面で意思を残してもらいます。口頭だけで進めると、後から「言った・言わない」になりがちです。次に、最終出社日、有給休暇の残日数の扱い、引き継ぎの範囲、貸与物(パソコン、鍵、名刺、健康保険証など)の返却日を決めます。
退職日が決まったら、社会保険と雇用保険の資格喪失の手続きが発生します。健康保険・厚生年金は年金事務所(加入先によっては健康保険組合)、雇用保険はハローワークが窓口です。期限が短い手続きもあるので、退職日が決まった時点で担当を決めて動くようにします。
本人に渡すものとしては、離職票(本人が希望する場合など)、雇用保険被保険者証、年金手帳や基礎年金番号が分かる書類、源泉徴収票などがあります。源泉徴収票は退職後に発行するため、送付先の住所を聞いておくとスムーズです。手続きの詳細や最新の様式は、日本年金機構やハローワークの公式サイトで確認してください。
作成でつまずいたら|専門家に相談する
退職・解雇まわりの条文は、文章としては短いのに、実際に使う場面では会社の判断が問われる部分です。特に解雇事由や退職金制度は、あとから直しにくい性質があります。ひな形をそのまま使うのではなく、自社の働き方に合っているかを一度確認しておきたいところです。
雇用契約書や就業規則の作成、社会保険・雇用保険の手続きについては社会保険労務士、実際の解雇や退職をめぐるトラブルの対応については弁護士が相談先になります。退職金の税務上の扱いについては税理士に確認してください。最初の一人を雇う前に相談しておくと、後の負担が軽くなります。
よくある質問
雇用契約書に退職金について何も書かないとどうなりますか。
退職金の有無は明示すべき事項に含まれるとされており、制度がある場合は条件や計算方法、支払時期を示すことが求められます。制度を設けない場合も「退職金は支給しない」と書いておくと、入社後の認識のずれを防ぎやすくなります。書き方に迷う場合は社会保険労務士にご確認ください。
解雇事由は「その他会社が必要と認めたとき」だけでもよいですか。
包括的な一文だけでは、どのような場合に該当するのかが伝わらず、説明が立ちにくくなります。具体的な事由を複数列挙したうえで、最後に受け皿となる条項を置く構成が分かりやすい形です。実際に解雇を検討する場面では、進める前に弁護士や社会保険労務士に相談してください。
「退職は1ヶ月前に申し出ること」と書けば、それより短い申し出は断れますか。
民法には期間の定めのない雇用について、申し入れから一定期間の経過で契約が終了するという考え方があり、会社の定めだけで退職を止めるのは難しいと整理されています。1ヶ月前という定めは運用上の目安として置き、引き継ぎへの協力とセットで書くのが現実的です。
労働条件通知書と雇用契約書は、どちらに退職のことを書けばよいですか。
両方を兼ねた「労働条件通知書兼雇用契約書」として1通にまとめ、そこに退職に関する事項を書く方法がよく使われます。就業規則がある会社は、詳細を規則に委ねて参照条文を書く形も可能ですが、その場合は従業員が就業規則を実際に見られる状態にしておくことが前提です。