免税事業者との取引はどうするか|経過措置と価格交渉の進め方

・会計・税務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

外注先や業務委託先が免税事業者だと分かったとき、「取引をやめるべきか」「その分値引きしてもらえないか」と考えたくなります。ただ、ここは進め方を誤ると独占禁止法や下請法の観点で問題になりやすい場面でもあります。この記事では、免税事業者との取引で自社の税負担がどう変わるのか、経過措置をどう見るのか、そして価格の話をどの順番で進めるのかを、実務の判断順に整理します。

この記事の結論

  • 免税事業者からの仕入れはインボイス(適格請求書)が受け取れないため原則として仕入税額控除ができませんが、一定期間は仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置が設けられています。
  • 取引を続けるかどうかは「取引先を切る/切らない」ではなく、経過措置を踏まえた実際のコスト増と、その取引先を替える手間・品質リスクを並べて比べる順で判断します。
  • 消費税相当額の一方的な減額や、登録しないなら取引を打ち切ると一方的に通告する行為は、独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあるとされており、価格は双方の協議で決めることが前提です。

取引先が免税事業者だと、自社の税負担はどう変わるのか

消費税の納税額は、売上で預かった消費税から、仕入れや外注で支払った消費税を差し引いて計算します。この差し引きが仕入税額控除です。インボイス制度では、控除するために原則として登録事業者が発行した適格請求書の保存が必要になります。

免税事業者はこの登録ができないため、その取引先からの支払いについては原則として控除の対象になりません。つまり、同じ金額を払っていても、登録事業者に払った場合と比べて自社の消費税の納税額が増える可能性がある、という構造です。

ただし、自社が消費税の納税義務者でない場合や、簡易課税制度・いわゆる2割特例など売上側の数字で納税額を計算する方法を採っている場合は、仕入先が登録事業者かどうかが納税額に影響しない場面もあります。まずは自社がどの計算方法で申告しているかを確認するところから始めてください。判断に迷う場合は税理士にご確認ください。

経過措置をどう見るか|いきなりゼロにはならない

制度開始にあたっては、免税事業者などからの仕入れについても、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。割合は段階的に引き下げられ、最終的には控除できなくなる設計です。具体的な割合と適用期間、帳簿や請求書の保存要件は、国税庁のインボイス制度に関する資料で最新の内容を確認してください。

実務上のポイントは、経過措置がある間は「控除できない分」が全額ではなく一部にとどまる、ということです。取引先が免税事業者だと分かった瞬間に取引条件を全面的に見直す必要はなく、段階的に影響が大きくなっていく前提で、準備期間として使えます。

経過措置の適用を受けるには、相手が免税事業者であっても一定の記載がある請求書等と帳簿の保存が必要とされています。「インボイスではないから何も要らない」ではないので、受け取った請求書は従来どおり保存し、帳簿には経過措置の適用である旨が分かる記載を残す運用にしておくと安全です。

取引を続けるか見直すか|判断の順番

まず①自社の消費税の計算方法を確認します。簡易課税や2割特例で計算しているなら、仕入先の登録有無は納税額に直結しないため、取引条件を見直す理由は弱くなります。原則課税であれば②に進みます。

②その取引先への年間の支払額を出し、経過措置を踏まえて控除できなくなる金額がおおよそいくらになるかを試算します。ここで初めて「影響が大きい取引先」と「ほとんど影響がない取引先」が分かれます。月に数万円の外注と、年間で大きな比率を占める主要外注先とでは、かける手間が違って当然です。

③影響が大きい取引先について、代わりの発注先を探すコスト、品質や納期のリスク、引き継ぎの手間を並べます。税負担の増加分よりも乗り換えコストのほうが大きいなら、現状の取引を続けて価格を協議するほうが現実的です。逆に、代替が容易で影響も大きいなら、相手と話し合ったうえで条件を見直す選択もあります。いずれにしても、一方的に決めて通告する形は避けてください。

値引き交渉で問題になりやすい点|下請法・独占禁止法の観点

公正取引委員会などは、免税事業者との取引に関して、取引上優越した立場にある側が一方的に価格を引き下げたり、登録しないことを理由に取引を停止したりする行為は、独占禁止法や下請法上問題となるおそれがあるという考え方を示しています。特に、発注側が一方的に「消費税分は払わない」と決めて通知する形は、問題視されやすい類型です。

避けたいのは、協議をしないこと、協議の形だけ取って結論を押し付けること、そして理由を説明しないことです。逆に、双方が実情を出し合い、経過措置による影響額を示したうえで、合意して新しい単価を決めるのであれば、協議に基づく価格改定として整理しやすくなります。

建設業の一人親方やフリーランスへの発注など、発注側の立場が強くなりやすい取引では特に注意が必要です。自社の取引が下請法の対象になるかどうか(資本金と取引内容の組み合わせで決まります)は、公正取引委員会・中小企業庁の資料を確認し、判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

実際の進め方と伝え方の例文

進め方は、①取引先に登録状況を確認する、②自社側の影響を整理する、③協議の場を設ける、④合意内容を書面(メールでも可)に残す、の順です。①の確認は、契約更新や年度替わりのタイミングでまとめて行うと相手にも負担が少なくなります。登録番号を伝えてもらったら、国税庁の公表サイトで確認できます。

確認の文面は、たとえば次のような形です。「いつもお世話になっております。請求書の処理方法を整理するため、適格請求書発行事業者の登録状況を教えていただけますでしょうか。登録済みの場合は登録番号を、未登録の場合はその旨をご返信いただけますと助かります。登録の有無によって取引を見直す趣旨ではございませんので、ご安心ください。」

価格の協議を申し入れる場合は、結論を先に置かず、事情の説明と協議の依頼にとどめます。「インボイス制度の経過措置により、当社側で控除できない消費税相当額が生じております。つきましては、次期以降の単価について一度ご相談させていただけないでしょうか。御社のご事情も伺ったうえで、双方が納得できる条件を決めたいと考えております。」といった書き方であれば、一方的な通告にはなりにくくなります。合意した内容は、適用開始時期を含めて必ず記録に残してください。

自社が免税事業者の側だったら

受注側の立場で「登録しないと取引が減るのでは」と不安になる場合も、判断の順番は同じです。まず、主要な取引先が原則課税で申告しているかどうか、自分への支払いが相手の納税額にどの程度影響するかを考えます。取引先が消費者中心であったり、簡易課税を採用している事業者中心であれば、登録の必要性は相対的に低くなります。

登録すると課税事業者となり、消費税の申告と納税、請求書の様式変更、帳簿の整備といった事務が発生します。売上規模によっては負担が小さくない一方、取引先からの求めに応える形にはなります。小規模事業者向けの負担軽減の仕組みもあるため、自分のケースでどちらが現実的かは税理士に試算してもらうのが早道です。

取引先から一方的に減額を通告された場合は、その場で承諾せず、根拠の説明を求めてください。納得できない場合の相談先として、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口が設けられています。契約打ち切りをほのめかされるなど対応に困るときは、弁護士への相談も検討してください。

経理の運用でやっておくこと

会計ソフトでは、仕入先ごとに登録事業者かどうかを登録し、仕訳の際に経過措置の税区分を選べるようになっているものが一般的です。取引先マスタに登録番号の欄を作り、確認できた分から埋めていく運用にしておくと、決算期に慌てずに済みます。機能や対応状況は各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。

受け取った請求書は、インボイスかどうかにかかわらず保存が必要です。電子データで受け取ったものの保存方法については電子帳簿保存法の考え方が関わるため、要件の詳細は国税庁の資料を確認し、社内のルールを一度決めて文書化しておくことをおすすめします。

最後に、免税事業者との取引の扱いは、自社の消費税の計算方法、取引の性質、下請法の適用有無といった複数の要素が絡みます。試算や税区分の設定は税理士に、価格交渉や契約条件の見直しは弁護士に、それぞれ早めに相談しておくと、後から遡って直す手間を避けられます。

よくある質問

免税事業者との取引は、やめたほうがいいのでしょうか。

一律にやめる必要はありません。自社が簡易課税や2割特例で申告している場合は納税額に影響しないこともあり、原則課税でも経過措置により影響は段階的です。支払額と乗り換えコストを並べて、取引先ごとに判断してください。

免税事業者への支払いから消費税分を差し引いても問題ないですか。

一方的に消費税相当額を減額する行為は、独占禁止法や下請法上問題となるおそれがあるとされています。価格を変えるなら、事情を説明したうえで協議し、合意内容を書面に残す形が前提です。具体的な可否は弁護士にご確認ください。

一人親方に発注していますが、登録の有無をどう確認すればいいですか。

契約更新など区切りのタイミングで、登録状況と登録番号をメールで照会するのが実務的です。番号を受け取ったら国税庁の公表サイトで確認できます。確認の連絡は、取引見直しの趣旨ではないと一言添えると誤解を避けられます。

経過措置を使うために、何か特別な書類は必要ですか。

免税事業者からの仕入れであっても、一定の記載がある請求書等の保存と、経過措置の適用である旨が分かる帳簿の記載が求められています。要件の詳細と適用期間は国税庁のインボイス制度の資料で確認し、運用に不安があれば税理士にご相談ください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。